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決定打3

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「馬鹿な!
そんな事のために伝説魔法まで使って、下女にまでなっていたと言うのかっ?」

「"そんな事"ではありません!
むしろ、償っても償い切れない事だと思っています。
本当に、申し訳ございませんでした。
ですがなぜっ……
伝説魔法を使っているのに、私だと気付いたのですかっ?」
その話題が出た事で、今さらのように肝心の疑問が浮上する。

「それはっ……
いや、話をすり替えないでくれ!
本当に、そのためにここまでしたのか?
他に理由があるんじゃないのかっ?」

「っ……」

 他の理由といえば……
好きだから側に居たいという事や、今度は自分が守りたいといった当初の目的に加え。
王妃の崩御で、辛く大変な状況に身を置いているサイフォスが、心配でたまらなかったという事や。
愛する人の力になれる可能性があるのなら、命すら惜しくはないからだといった事になるが……
見限られた立場で、そんな独りよがりな気持ちを言えるはずもなく。

「では殿下は、どのような理由だとお考えなのですかっ?
はっきり指摘してくださった方が答えやすいです!」
と切り返す。

「……指摘通りなら、正直に自白してくれるのか?」

「……私自身の事のみであれば、正直にお答えするとお約束します」
そう、ラピズやニケにとって都合が悪い事は言えないからだ。

「わかった。
ならばはっきり言おう。
お前は俺に、復讐するために戻って来たのではないのか?」

「っ、はいっ?」
思わぬ指摘に、固唾を飲んでいた気持ちが吹き飛ばされる。

「なぜそのようなお考えにっ?
私が殿下に復讐する理由など、微塵もないではありませんかっ」

「充分あるだろう!
俺はお前とラピズの仲を引き裂き、その責任も全うせずにお前を切り捨て、心変わりを正当化して慰謝料等でカタをつけた。
挙句……
俺との事で、ラピズともやり直せなかったのだろう?」

「ご存知だったのですかっ!?」

 そう、サイフォスは……
例えバレなくても、ヴィオラを不快にさせる行為はしたくないため。
さらには、ヴィオラを思い出さないようにしていたため。
離婚後の動向を調べはしなかったが……
ラピズが伝説魔法でランド・スピアーズに成りすましていた可能性が高い事から。
その魔法をかけた魔術士を探るため、ラピズの動向は調べていたのだ。

 というのも、魔法の効果は魔力の強さに比例する事を、当然サイフォスも知っており。
無効化魔法をかけたモエより、ラピズに伝説魔法かけた魔術士の方が強いのでは?と仮説したため。
国家の脅威となるその存在を突き止める必要があったからだ。

 そしてラピズを調べた結果。
ヴィオラとやり直している気配すらないどころか、ある時からやさぐれた日々を送っているといった報告を受けたため。
他の男と関係を持ったヴィオラが許せず、破局してしまったのだろうと考えたのだった。

 つまりサイフォスが言う「俺との事」とは、身体の関係の事で。
俺が寝取ってしまったせいで、といった意味だったが……
ヴィオラは、サイフォスに関する事といった意味で捉えてしまい。

ーー待ってじゃあ、私の気持ちも知ってるって事!?
と一瞬焦るも。

「ああだから、恨まれて当然だと思っている」

 その言葉で、サイフォスへの想いはバレていないと判明する。
それを知っているのなら、恨まれていると思うわけがないからだ。

「いえっ……
ラピズとの事は、殿下のせいではございませんし。
その他の事も、殿下は全く悪くありません。
先程申し上げたように、私が償うべき悪行を重ねて来たのですし。
並々ならぬ恩情をかけ続けてくださった殿下には、むしろ感謝してもしきれない思いです」

「……本当にそう思ってるのか?
復讐したいのなら、俺は受け入れる覚悟が出来ている。
どんな復讐でも応じると約束する、だから正直に言ってくれっ」

「ちょっと待ってください!
本当に復讐など考えておりませんしっ。
王太子ともあろう方が、軽率にそんな危険な発言をしてはいけませんっ」

「軽率に言っているわけじゃない!
お前を侍女に迎えた時から……
毒を盛られる覚悟も、寝首を掻かれる覚悟も、様々な覚悟を既にしていた」

ーーえええっ、嘘でしょう!?
そう仰天してすぐ。

 ハーブティーを口にする前に、少しためらっていた事や。
添い寝を決定する前に、少し考える素ぶりを見せていた事を思い出し……
胸をぐわりと抉られる。
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