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仕返し1

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 その日ヴィオラが、モエの部屋付近を通りかかると。

「いいから教えなさいよっ」

「申し訳ございませんが、理由も分からずにお教えする事は出来ません」

「はあっ?
魔術士の分際で、この私に楯突く気!?」

 その聞き覚えのある声を耳にして、すぐさまモエの助勢に割り込んだ。

「魔術士様っ、どうされたのですか?」

 ところがモエはファラを見るなり、はぁと困った素ぶりを覗かせた。
その理由は聞き覚えのある声の主、フラワベルの言及で判明する。

「ちょっとあなた!
勝手に割り込んで来るなんて、無礼が過ぎるんじゃなくてっ?」

「申し訳ございません。
ですが私にも、お手伝い出来る事があるのではないかと思いまして」

「……だったら訊くけど。
サイフォス様の専属侍女が誰なのか、教えてちょうだい」

ーーええっ、私を探してたの!?
という事は、モエは私を守ろうとしてくれてて……
それを台無しにしちゃったから、困ってたのねっ?
と、申し訳なくなるヴィオラ。

 そう、フラワベルは、王妃に許可を得て王宮に身を置いていたため。
その崩御により、王宮を去らざるを得なかったのだが……
まだサイフォスの事を諦めておらず。
専属侍女が出来たと耳にして、牽制に来たのだった。

「……それでしたら、私でございます」

「あなたがっ?
ふぅん、大した事ないわね。
いったいどうやって、専属侍女に漕ぎ着けたわけ?」

「いえ私は、運良くこの仕事を任せていただけたにすぎません」

「そう。
それなら今からでも辞退した方が身のためよ?
そのうち王宮中の女性に妬まれて、酷い目に遭うかもしれないし。
この私に疎まれて、追放されるかもしれないから」

 それは、そうすると脅してるようなものだったが……
すかさずモエが口挟む。

「僭越ながら、フラワベル様に追放の権限はないかと存じます」

「っ、あるわよ!
私は次期王太子妃候補なのよっ?
もうすぐその権限を授かるんだから、あるも同然なの!」

 そう、サイフォスの意思はどうであれ。
王太子としての立場や王妃の遺言、上層部の半強制的斡旋により。
フラワベルがその候補である事は、紛れもない事実だったのだ。

 しかしヴィオラから見れば……
ーーやっぱり心変わりの相手はフラワベルだったのね。
と決定打を食らったも同然で。
分かっていながらも、胸を激しく抉られていた。

 しかも、その相手に疎まれているとなると……
愛し合う2人の邪魔をしているに他ならず。
専属侍女を続ければ、ラピズと同じく独りよがりな感情で、愛する人を苦しめる事になるため。
辞めざるを得ないだろうと、苦渋の判断をするヴィオラ。

「……わかりました。
では殿下に辞退を掛け合ってみます」

「ファラ!
早まらないでっ?」
従う必要はないと、慌ててモエが引き止めると。

 フラワベルは、それがバレては困ると焦り。
さらには、再三楯突かれた事への苛立ちも募り。

「部外者が口を挟まないでちょうだい!」
と、思わず突き飛ばしてしまう。

「ああっ!」
まさかの不意打ちに、よろけたモエが倒れそうになった時。

「大丈夫ですか!?魔術士様っ」
いきなり現れた美青年に抱き止められる。

「あなたはっ……」
「ニケ!」
モエとヴィオラがそう驚くと。

 フラワベルも、そのあまりの美貌に目を大きくした。

 そして、「もしかしてあなたが噂の……」
そう言いかけたところで。
突然窓からカラスが飛び込んで来て、フラワベルが身に付けている宝石を襲い始めた。
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