上 下
92 / 118

侍女2

しおりを挟む
「わかんないけどさ……
どっちにしろ、断った方がいいんじゃない?」

「今さらっ?
それに、ようやく力になれる機会を得たのに。
そのために潜入したのに、断るなんて……」

「……あっそ、じゃあ勝手にすれば?」
と不貞腐れるニケ。

「どうして怒るのっ?」

「別に怒ってないよ」

 しかし実際ニケは、ヴィオラとサイフォスが近付く事を、なぜか面白くないと感じていた。

「そうは見えないけど……
それにね、ニケの力にもなれるんじゃないかと思ってるのよ?」

「は?
あんた如きが僕の力に?」

「もうっ、今日はいつも以上に容赦ないのね。
まぁでも、力になれるかわからないし。
なれても大した事じゃないんだけど……
実はね、侍女の業務でサイフォス様のルーティンを把握する事になったの。
私の働き次第では、もっと任せてもらえるらしいから。
いずれはサイフォス様のスケジュールも、把握させてもらえるようになって……
そしたら大魔導師様と関わる日も分かるでしょう?」

 そう、ヴィオラは……
大魔導師が国王の治療目的で、定期的訪れている事を知っていたため。
その日が分かれば、会えるチャンスがあるのではないかと踏んでいたのだ。

「……確かにそれは、使えるね」

「ほんとにっ?
良かったぁ。
じゃあ私、頑張るわねっ」
ニケの役に立てるかもしれないと、喜ぶヴィオラ。

 そんな姿を見て……
不貞腐れていた気持ちも、嬉しい気持ちに変わるニケ。

 「わかったよ。
けど、バレたら僕まで巻き添えくうから。
報告会は毎日欠かさずやってもらうよ?」

 と言いながらも……
サイフォスとの接近で頭がいっぱいのヴィオラに、忘れ去られてしまいそうな気がしたからでもあった。

「もちろんよ。
でも、ニケを巻き添えになんてしないわ。
それだけは、何としてでも阻止してみせるから」

「別にいいよ。
そうなったらなったで対処するし……
面倒見るって言ったよね?」

「ニケ……
ありがとう。頼りにしてるわ」



 そんなニケのためにも……
なにより、サイフォスのために。
ヴィオラはやる気をみなぎらせながら、初仕事を迎えた。

ーーそれにしてもこの仕事……
サイフォス様の普段の姿を見れるなんて、なんて役得なの!

 そのため、更なるやる気が引き起こされ……
ひいては数日間、じっくりサイフォスを観察したのだった。

 というのも、それには目的があり。
準備した物を、使う順番や使いやすいように並べたり。
わずかな所作からタイミングを見極め、スムーズに手渡したり。
顔色や動作などに、異変がないかを確認したりと。
完璧にサポートするためだった。


 それにより……

「僭越ながら、お顔に疲れが出ているようですが、お身体は大丈夫でしょうか?」

「っっ……
ああ問題ない、最近少し寝つきが悪いだけだ。
それと、そういった事は気にしなくていい」

ーー相変わらずこの人は!
そうやって一人で無理を重ねるんだから……

 「お言葉ですが、体調管理も侍女の責務だと思っております。
それに、気にするなと言われても気になってしまいますっ。
なので私が侍女を勤める限りは、今後もお声かけさせていただきます」

 するとサイフォスは、「まったく、お前はっ……」と、片手で頭を抱えた。

ーーしまった!
新任の分際でこんな楯突くような事言ったら、解雇されてしまうかもっ。

 だとしても……
元々はサイフォスの健康や環境を守るために、偽装潜入を企て。
そうやって力になろうとしている身としては、それが出来なければ意味がなく。
どうしよう!と困り焦る。

 けれど、そんな困惑とは逆に。

「……わかった、好きにしていい。
その代わり、応じるとは限らないと覚えておけ」

「承知しました!
ありがとうございますっ」

 ひとまず、了承を得るに至ったのだった。


 そこでヴィオラは、まず寝付きを良くする物を調べ。
すぐさまその材料を集め、試行錯誤を重ねて手作りした。

 「……うん、美味しい!
これなら飲んでくれそうっ」

 そして次に、モエのもとを訪れた。
そう、王太子専属の侍女になった事で、それが許される身分となったからだ。
といっても、サイフォスは対価治療を嫌う上に、ファラの立場で自分を代価にするのは不自然なため、魔法治療の依頼ではないのだが……

「えっ!?
殿下の専属侍女にっ?」
当然モエは仰天する。

 その異例すぎる出世に対してもそうだが、ファラがサイフォスとも関わっていた事も驚きで……
なりより、サイフォスがそんな抜擢をするとは思えなかったからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

アリアドネが見た長い夢

桃井すもも
恋愛
ある夏の夕暮れ、侯爵令嬢アリアドネは長い夢から目が覚めた。 二日ほど高熱で臥せっている間に夢を見ていたらしい。 まるで、現実の中にいるような体感を伴った夢に、それが夢であるのか現実であるのか迷う程であった。 アリアドネは夢の世界を思い出す。 そこは王太子殿下の通う学園で、アリアドネの婚約者ハデスもいた。 それから、噂のふわ髪令嬢。ふわふわのミルクティーブラウンの髪を揺らして大きな翠色の瞳を潤ませながら男子生徒の心を虜にする子爵令嬢ファニーも...。 ❇王道の学園あるある不思議令嬢パターンを書いてみました。不思議な感性をお持ちの方って案外実在するものですよね。あるある〜と思われる方々にお楽しみ頂けますと嬉しいです。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

処理中です...