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侍女2
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「わかんないけどさ……
どっちにしろ、断った方がいいんじゃない?」
「今さらっ?
それに、ようやく力になれる機会を得たのに。
そのために潜入したのに、断るなんて……」
「……あっそ、じゃあ勝手にすれば?」
と不貞腐れるニケ。
「どうして怒るのっ?」
「別に怒ってないよ」
しかし実際ニケは、ヴィオラとサイフォスが近付く事を、なぜか面白くないと感じていた。
「そうは見えないけど……
それにね、ニケの力にもなれるんじゃないかと思ってるのよ?」
「は?
あんた如きが僕の力に?」
「もうっ、今日はいつも以上に容赦ないのね。
まぁでも、力になれるかわからないし。
なれても大した事じゃないんだけど……
実はね、侍女の業務でサイフォス様のルーティンを把握する事になったの。
私の働き次第では、もっと任せてもらえるらしいから。
いずれはサイフォス様のスケジュールも、把握させてもらえるようになって……
そしたら大魔導師様と関わる日も分かるでしょう?」
そう、ヴィオラは……
大魔導師が国王の治療目的で、定期的訪れている事を知っていたため。
その日が分かれば、会えるチャンスがあるのではないかと踏んでいたのだ。
「……確かにそれは、使えるね」
「ほんとにっ?
良かったぁ。
じゃあ私、頑張るわねっ」
ニケの役に立てるかもしれないと、喜ぶヴィオラ。
そんな姿を見て……
不貞腐れていた気持ちも、嬉しい気持ちに変わるニケ。
「わかったよ。
けど、バレたら僕まで巻き添えくうから。
報告会は毎日欠かさずやってもらうよ?」
と言いながらも……
サイフォスとの接近で頭がいっぱいのヴィオラに、忘れ去られてしまいそうな気がしたからでもあった。
「もちろんよ。
でも、ニケを巻き添えになんてしないわ。
それだけは、何としてでも阻止してみせるから」
「別にいいよ。
そうなったらなったで対処するし……
面倒見るって言ったよね?」
「ニケ……
ありがとう。頼りにしてるわ」
そんなニケのためにも……
なにより、サイフォスのために。
ヴィオラはやる気をみなぎらせながら、初仕事を迎えた。
ーーそれにしてもこの仕事……
サイフォス様の普段の姿を見れるなんて、なんて役得なの!
そのため、更なるやる気が引き起こされ……
ひいては数日間、じっくりサイフォスを観察したのだった。
というのも、それには目的があり。
準備した物を、使う順番や使いやすいように並べたり。
わずかな所作からタイミングを見極め、スムーズに手渡したり。
顔色や動作などに、異変がないかを確認したりと。
完璧にサポートするためだった。
それにより……
「僭越ながら、お顔に疲れが出ているようですが、お身体は大丈夫でしょうか?」
「っっ……
ああ問題ない、最近少し寝つきが悪いだけだ。
それと、そういった事は気にしなくていい」
ーー相変わらずこの人は!
そうやって一人で無理を重ねるんだから……
「お言葉ですが、体調管理も侍女の責務だと思っております。
それに、気にするなと言われても気になってしまいますっ。
なので私が侍女を勤める限りは、今後もお声かけさせていただきます」
するとサイフォスは、「まったく、お前はっ……」と、片手で頭を抱えた。
ーーしまった!
新任の分際でこんな楯突くような事言ったら、解雇されてしまうかもっ。
だとしても……
元々はサイフォスの健康や環境を守るために、偽装潜入を企て。
そうやって力になろうとしている身としては、それが出来なければ意味がなく。
どうしよう!と困り焦る。
けれど、そんな困惑とは逆に。
「……わかった、好きにしていい。
その代わり、応じるとは限らないと覚えておけ」
「承知しました!
ありがとうございますっ」
ひとまず、了承を得るに至ったのだった。
そこでヴィオラは、まず寝付きを良くする物を調べ。
すぐさまその材料を集め、試行錯誤を重ねて手作りした。
「……うん、美味しい!
これなら飲んでくれそうっ」
そして次に、モエのもとを訪れた。
そう、王太子専属の侍女になった事で、それが許される身分となったからだ。
といっても、サイフォスは対価治療を嫌う上に、ファラの立場で自分を代価にするのは不自然なため、魔法治療の依頼ではないのだが……
「えっ!?
殿下の専属侍女にっ?」
当然モエは仰天する。
その異例すぎる出世に対してもそうだが、ファラがサイフォスとも関わっていた事も驚きで……
なりより、サイフォスがそんな抜擢をするとは思えなかったからだ。
どっちにしろ、断った方がいいんじゃない?」
「今さらっ?
それに、ようやく力になれる機会を得たのに。
そのために潜入したのに、断るなんて……」
「……あっそ、じゃあ勝手にすれば?」
と不貞腐れるニケ。
「どうして怒るのっ?」
「別に怒ってないよ」
しかし実際ニケは、ヴィオラとサイフォスが近付く事を、なぜか面白くないと感じていた。
「そうは見えないけど……
それにね、ニケの力にもなれるんじゃないかと思ってるのよ?」
「は?
あんた如きが僕の力に?」
「もうっ、今日はいつも以上に容赦ないのね。
まぁでも、力になれるかわからないし。
なれても大した事じゃないんだけど……
実はね、侍女の業務でサイフォス様のルーティンを把握する事になったの。
私の働き次第では、もっと任せてもらえるらしいから。
いずれはサイフォス様のスケジュールも、把握させてもらえるようになって……
そしたら大魔導師様と関わる日も分かるでしょう?」
そう、ヴィオラは……
大魔導師が国王の治療目的で、定期的訪れている事を知っていたため。
その日が分かれば、会えるチャンスがあるのではないかと踏んでいたのだ。
「……確かにそれは、使えるね」
「ほんとにっ?
良かったぁ。
じゃあ私、頑張るわねっ」
ニケの役に立てるかもしれないと、喜ぶヴィオラ。
そんな姿を見て……
不貞腐れていた気持ちも、嬉しい気持ちに変わるニケ。
「わかったよ。
けど、バレたら僕まで巻き添えくうから。
報告会は毎日欠かさずやってもらうよ?」
と言いながらも……
サイフォスとの接近で頭がいっぱいのヴィオラに、忘れ去られてしまいそうな気がしたからでもあった。
「もちろんよ。
でも、ニケを巻き添えになんてしないわ。
それだけは、何としてでも阻止してみせるから」
「別にいいよ。
そうなったらなったで対処するし……
面倒見るって言ったよね?」
「ニケ……
ありがとう。頼りにしてるわ」
そんなニケのためにも……
なにより、サイフォスのために。
ヴィオラはやる気をみなぎらせながら、初仕事を迎えた。
ーーそれにしてもこの仕事……
サイフォス様の普段の姿を見れるなんて、なんて役得なの!
そのため、更なるやる気が引き起こされ……
ひいては数日間、じっくりサイフォスを観察したのだった。
というのも、それには目的があり。
準備した物を、使う順番や使いやすいように並べたり。
わずかな所作からタイミングを見極め、スムーズに手渡したり。
顔色や動作などに、異変がないかを確認したりと。
完璧にサポートするためだった。
それにより……
「僭越ながら、お顔に疲れが出ているようですが、お身体は大丈夫でしょうか?」
「っっ……
ああ問題ない、最近少し寝つきが悪いだけだ。
それと、そういった事は気にしなくていい」
ーー相変わらずこの人は!
そうやって一人で無理を重ねるんだから……
「お言葉ですが、体調管理も侍女の責務だと思っております。
それに、気にするなと言われても気になってしまいますっ。
なので私が侍女を勤める限りは、今後もお声かけさせていただきます」
するとサイフォスは、「まったく、お前はっ……」と、片手で頭を抱えた。
ーーしまった!
新任の分際でこんな楯突くような事言ったら、解雇されてしまうかもっ。
だとしても……
元々はサイフォスの健康や環境を守るために、偽装潜入を企て。
そうやって力になろうとしている身としては、それが出来なければ意味がなく。
どうしよう!と困り焦る。
けれど、そんな困惑とは逆に。
「……わかった、好きにしていい。
その代わり、応じるとは限らないと覚えておけ」
「承知しました!
ありがとうございますっ」
ひとまず、了承を得るに至ったのだった。
そこでヴィオラは、まず寝付きを良くする物を調べ。
すぐさまその材料を集め、試行錯誤を重ねて手作りした。
「……うん、美味しい!
これなら飲んでくれそうっ」
そして次に、モエのもとを訪れた。
そう、王太子専属の侍女になった事で、それが許される身分となったからだ。
といっても、サイフォスは対価治療を嫌う上に、ファラの立場で自分を代価にするのは不自然なため、魔法治療の依頼ではないのだが……
「えっ!?
殿下の専属侍女にっ?」
当然モエは仰天する。
その異例すぎる出世に対してもそうだが、ファラがサイフォスとも関わっていた事も驚きで……
なりより、サイフォスがそんな抜擢をするとは思えなかったからだ。
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