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図書室2
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そして振り返った事で、魔法が解けてる?と焦った事を思い出し、かねてからの疑問が浮上する。
「ところでニケ、王宮には魔法を無効化させる部屋があるって聞いたんだけど。
どうしてあなたの魔法は無効化されないの?」
「あぁ、単純な理由だよ。
その無効化魔法をかけた魔術士より、僕の魔力の方が強いってだけさ」
「そうなのっ!?」
そこでヴィオラはふと気づく。
「でも無効化魔法をかけたのは、モエでしょう?」
そう、ニケの原理なら……
王族への陰謀を防ぐため、最強レベルの魔術士が施術するのが当然であり。
国宝魔術士という実力からも、王宮を任されているという立場からも、王宮魔術士が最適任だからだ。
「多分ね、だから興味があるんだ。
だとしたら僕は、王宮魔術士より強いって事だからね」
「なるほどね……
でもどうやって、施術者より強いってわかったの?」
「簡単な事だよ。
王宮に納められたいくつかの物に魔法をかけてるんだけど、それがバレてないからだよ」
「っ、それって犯罪に当たるんじゃないのっ?」
「悪用はしてないよ。
ま、バレたら罰せられるだろうけどね」
「だったら少しでも早く、その魔法を解いた方がいいんじゃないの?」
と、ニケの身を案じるヴィオラ。
「逆に大事になって、犯人探しされるって」
「じゃあどうにかして、それを回収出来ないの?」
「出来なくはないけど、それもそれで大変だし、するつもりもないかな」
「もうっ、それで罰せられたらどうするのよっ」
「なにそれ、心配してくれてんの?」
「当たり前でしょうっ?」
その即答に、思わず戸惑い。
それを誤魔化すように、悪態をつくニケ。
「……いやむしろ、あんたには関係ないと思うけど」
「そうかもしれないけど、心配くらいしたっていいでしょう?」
「そんな余裕があったら自分の心配しなよ。
あんたの方がよっぽど、その鈍臭さで身を滅ぼしかねないんだから」
「ひどいっ」
しかし言葉とは裏腹に。
ニケはそんなヴィオラに対して、ハハっと嬉しそうに笑ったのだった。
それから数日後、再び図書室の掃除をしていると……
「王太子殿下が御利用です!」
その侍従の声に、ええ!またっ?と驚くヴィオラ。
連続で掃除の日時に鉢合わせるなど、偶然すぎると思ったからだ。
しかし冷静に考えれば……
ちょうどこの時間に体が空くため、毎日通い始めたのだろうと。
つまりはただのルーティンなのだと、合点がいく。
ところが、またしても視線を感じ……
ーーああ!働きにくいっ。
サイフォス様と会えるのは嬉しいけど。
仕事中だし無礼になるから、実際はちゃんと見る事すら出来ないし。
いくら気を張り詰めたって、気にしないなんて到底無理だものっ。
そればかりか今回は……
「……そこの者、専用書庫も掃除してくれないか?」
何と指定で用命されてしまう。
そこは王太子専用の書庫で、サイフォスが所持している鍵がなければ何人たりとも入れないため。
このように用命された時しか、掃除出来ないわけだが……
「わっ、私で、よろしいのですか?」
半人前の新人でしかない自分が抜擢された事に、戸惑うヴィオラ。
しかも先日から度々視線を向けられたり、見つめられたりしているとなれば、その抜擢に何らかの理由があるのは明白だからだ。
「構わない」
「っ、かしこまりました」
ーーもしかしてこれは、解雇するかどうかの見極めテストなんじゃ?
そう思って、一気にプレッシャーに襲われる。
さらには。
狭い空間で、想い焦がれている相手から、ずっと見られているとなると……
ドキドキと緊張して、胸が今にも破裂しそうだった。
とはいえ、微かでもようやくサイフォスの力になれる絶好の機会でもあり。
ヴィオラは精いっぱい頑張ろう!と、誠心誠意心を込めて作業に打ち込んだのだった。
埃を丁寧に取り除きながら、少しでもサイフォスが探しやすいようにと。
ジャンルとはぐれている本を整えたり、サイズを合わせて並べたり。
少しでもサイフォスが気持ち良く過ごせるように、磨けるところはピカピカにしたり。
そして最後に床掃除を始めると。
「っ、そこまではしなくていい」
本を読みながら盗み見ていたサイフォスが、咄嗟に制止の声をかけた。
「えっ、ですが床掃除は通常の業務となりますが……」
「……あぁ、そうだな。
だが今回は別に、しなくてもいい」
ーーどういう事?
もう見極めテストは終わったって事?
だとしても……
「大変恐れ入りますが、こちらはしばらく清掃が行われていないため、最後までさせていただけないでしょうか?」
「……わかった、好きにしていい。
終わったら、鍵は侍従に預けてくれ」
「かしこまりました。
ありがとうございますっ」
そうしてヴィオラは、隅々まで徹底的に磨き上げ……
清々しい気持ちで掃除を終えたのだった。
しかも先程までは掃除に夢中で、深く意識してなかったが……
ーー待って私、嘘でしょうっ?
サイフォス様と会話出来るなんて!
と、今頃になって感激するヴィオラ。
そこまで望む資格はないと、身の程を弁えていたからでもあるが……
今となっては会う事すら、目を合わせる事すら、至極難しい存在であるため。
喜びもひとしおだったのだ。
しかしその出来事が原因で、今度は逆の思いをする羽目になる。
「ところでニケ、王宮には魔法を無効化させる部屋があるって聞いたんだけど。
どうしてあなたの魔法は無効化されないの?」
「あぁ、単純な理由だよ。
その無効化魔法をかけた魔術士より、僕の魔力の方が強いってだけさ」
「そうなのっ!?」
そこでヴィオラはふと気づく。
「でも無効化魔法をかけたのは、モエでしょう?」
そう、ニケの原理なら……
王族への陰謀を防ぐため、最強レベルの魔術士が施術するのが当然であり。
国宝魔術士という実力からも、王宮を任されているという立場からも、王宮魔術士が最適任だからだ。
「多分ね、だから興味があるんだ。
だとしたら僕は、王宮魔術士より強いって事だからね」
「なるほどね……
でもどうやって、施術者より強いってわかったの?」
「簡単な事だよ。
王宮に納められたいくつかの物に魔法をかけてるんだけど、それがバレてないからだよ」
「っ、それって犯罪に当たるんじゃないのっ?」
「悪用はしてないよ。
ま、バレたら罰せられるだろうけどね」
「だったら少しでも早く、その魔法を解いた方がいいんじゃないの?」
と、ニケの身を案じるヴィオラ。
「逆に大事になって、犯人探しされるって」
「じゃあどうにかして、それを回収出来ないの?」
「出来なくはないけど、それもそれで大変だし、するつもりもないかな」
「もうっ、それで罰せられたらどうするのよっ」
「なにそれ、心配してくれてんの?」
「当たり前でしょうっ?」
その即答に、思わず戸惑い。
それを誤魔化すように、悪態をつくニケ。
「……いやむしろ、あんたには関係ないと思うけど」
「そうかもしれないけど、心配くらいしたっていいでしょう?」
「そんな余裕があったら自分の心配しなよ。
あんたの方がよっぽど、その鈍臭さで身を滅ぼしかねないんだから」
「ひどいっ」
しかし言葉とは裏腹に。
ニケはそんなヴィオラに対して、ハハっと嬉しそうに笑ったのだった。
それから数日後、再び図書室の掃除をしていると……
「王太子殿下が御利用です!」
その侍従の声に、ええ!またっ?と驚くヴィオラ。
連続で掃除の日時に鉢合わせるなど、偶然すぎると思ったからだ。
しかし冷静に考えれば……
ちょうどこの時間に体が空くため、毎日通い始めたのだろうと。
つまりはただのルーティンなのだと、合点がいく。
ところが、またしても視線を感じ……
ーーああ!働きにくいっ。
サイフォス様と会えるのは嬉しいけど。
仕事中だし無礼になるから、実際はちゃんと見る事すら出来ないし。
いくら気を張り詰めたって、気にしないなんて到底無理だものっ。
そればかりか今回は……
「……そこの者、専用書庫も掃除してくれないか?」
何と指定で用命されてしまう。
そこは王太子専用の書庫で、サイフォスが所持している鍵がなければ何人たりとも入れないため。
このように用命された時しか、掃除出来ないわけだが……
「わっ、私で、よろしいのですか?」
半人前の新人でしかない自分が抜擢された事に、戸惑うヴィオラ。
しかも先日から度々視線を向けられたり、見つめられたりしているとなれば、その抜擢に何らかの理由があるのは明白だからだ。
「構わない」
「っ、かしこまりました」
ーーもしかしてこれは、解雇するかどうかの見極めテストなんじゃ?
そう思って、一気にプレッシャーに襲われる。
さらには。
狭い空間で、想い焦がれている相手から、ずっと見られているとなると……
ドキドキと緊張して、胸が今にも破裂しそうだった。
とはいえ、微かでもようやくサイフォスの力になれる絶好の機会でもあり。
ヴィオラは精いっぱい頑張ろう!と、誠心誠意心を込めて作業に打ち込んだのだった。
埃を丁寧に取り除きながら、少しでもサイフォスが探しやすいようにと。
ジャンルとはぐれている本を整えたり、サイズを合わせて並べたり。
少しでもサイフォスが気持ち良く過ごせるように、磨けるところはピカピカにしたり。
そして最後に床掃除を始めると。
「っ、そこまではしなくていい」
本を読みながら盗み見ていたサイフォスが、咄嗟に制止の声をかけた。
「えっ、ですが床掃除は通常の業務となりますが……」
「……あぁ、そうだな。
だが今回は別に、しなくてもいい」
ーーどういう事?
もう見極めテストは終わったって事?
だとしても……
「大変恐れ入りますが、こちらはしばらく清掃が行われていないため、最後までさせていただけないでしょうか?」
「……わかった、好きにしていい。
終わったら、鍵は侍従に預けてくれ」
「かしこまりました。
ありがとうございますっ」
そうしてヴィオラは、隅々まで徹底的に磨き上げ……
清々しい気持ちで掃除を終えたのだった。
しかも先程までは掃除に夢中で、深く意識してなかったが……
ーー待って私、嘘でしょうっ?
サイフォス様と会話出来るなんて!
と、今頃になって感激するヴィオラ。
そこまで望む資格はないと、身の程を弁えていたからでもあるが……
今となっては会う事すら、目を合わせる事すら、至極難しい存在であるため。
喜びもひとしおだったのだ。
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