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図書室1

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 それから幾日か過ぎた頃。
ヴィオラが図書室の掃除をしていると、またしても好機が訪れる。

 「王太子殿下が御利用です!」

 そう、急ぎの調べ物に来たサイフォスと、再び鉢合わせたのだ。

ーーうそ、どうしよう!
どうしようっ……
当然ヴィオラの胸は、大騒ぎを起こし。

 さらには、下女たちと一斉に頭を下げるも。

「清掃中にすまない、そのまま続けてくれ」
皆にそう声かけられ。

 久しぶりに耳にする、その愛しい声に……
ヴィオラの胸は壊れそうなほど締め付けられる。

 それどころか、面を上げていいとなると。
掃除の最中、覗き見る事も可能な訳で……

 チラリと視線を向けたヴィオラは、その凛々しく麗しい姿に、心臓を思いっきり射抜かれたのだった。

ーー待って、落ち着いてっ……
落ち着いて!
とりあえず、顔色は悪くなさそうだったけど……
倒れるまで表に出さない人だから、気は抜けないわ。
かといって、他に判断のしようがないし。
仕事中に、この身分で何度も覗き見るわけにはいかないし……

 そう困惑して、ヴィオラは現実を思い知らされていた。

 かつては夫だったその人と。
身体を重ねて、一晩中愛し合ったその人と。
あんなにも、深くひたむきに愛してくれたその人と。
今は知らない他人として、同じ場にいることに……
途轍もない遣る瀬なさに襲われて。

 悪妃にならなければよかったと、事の発端を改めて痛切に後悔したのだった。

 挙句、そうやって感傷に浸ってしまったせいで……

「ちょっとファラ!手が止まってるわよっ?
ただでさえノロいんだから、しっかり働いてちょうだい!」
そう注意されてしまう。

「っ、すみませんっ」

ーーああ!サイフォス様の前で何やってるのっ。
猛烈に自己嫌悪して、慌てて作業に集中するヴィオラ。

 一方。
注意の声に反応して、何か問題か?と視線を向けたサイフォスは……
思わず、ファラに目を奪われてしまう。

 しかしすぐに、ハッと我に返り。
小さく首を振り、疲れ目をほぐすように目頭を押さえた。

 にもかかわらず、無性に気になり……
気付けば、視線で追ってしまい。
ついには、じっと見つめてしまう。

 それにはさすがにヴィオラも、いくら掃除に集中していても視線を感じ……
条件反射的に顔を向けると。
バチリ!とサイフォスと目が合い。
ズキュン!と心臓が再び射抜かれる。

ーーえっ、ええっ!?
なんでこっちを見てるのっ?
私、何か変だった?
まさか、魔法が解けてる!?
咄嗟に俯きながら、そう動転するヴィオラ。

 だが魔法が解けていれば、廃妃の潜入で大騒ぎになるはずで……
周りやサイフォスの反応からして、それはありえなかった。

ーーだったらどうして?
しかも、見られてたら働きにくい!
ただでさえ、相変わらず素敵すぎてどうにかなりそうなのにっ……
と、またしても仕事に支障が出てしまう。

ーーああダメ!
こんな調子じゃまた怒られてしまうわっ。
ちゃんと集中しなきゃ。

 そこでヴィオラはハッとする。

ーーもしかして、さっき怒られたから……
私がノロマで、王太子の前でもちゃんと働かないような下女だったから……
王宮に相応しくないと思って、解雇すべきか見極めてるんじゃ?
そうよ、私の侍女たちを突然解雇したように、そういう事には容赦ない人だもの!

 だとしたら、何の力にもなれないまま、解雇されるわけにはいかないと。
ヴィオラは気を張り詰めて、いつも以上に必死に掃除に打ち込んだのだった。


 そのため終業時には、肉体的にも精神的にもグッタリで……

「……どしたの?
今日はヤケに疲れてる感じだね」
ニケにそう突っ込まれてしまう。

「うん、実はね……」
と、ヴィオラが図書室での一件を話すと……

「……ふぅん、でもちょっと引っかかるな」
と食いつくニケ。

「引っかかるって、何が?」

「だって清掃中に来るほど、急ぎの調べ物があったって事だろ?
なのにそれを疎かにしてまで、下女なんかをそこまで気にかけるかな。
もしかしてあんた、無意識に身バレするよう事したんじゃない?」

「ええっ!
そんなはずは……」
と、慌ててその時の事を振り返るヴィオラ。

「まぁ何にしろ、向こうも確証はないはずだから、しばらく様子を見るしかないけど。
とにかく言動には今まで以上に気をつけてよ」

「わかったわ」

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