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再会3
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「そのっ、私どもは、この新人の教育をしておりました」
「このような場所で?
それも、寄ってたかって?」
「それはっ……
この者が恥をかかぬよう、配慮したのです」
「その配慮が、突き飛ばす事なのかしら?」
「それはっ……」
言い逃れ出来ない状況と、的を得た追及に、返す言葉を失くす下女たち。
「少し、行き過ぎた指導だったようね。
王宮で働く者として、品に欠ける行いは謹むように」
「はいっ!申し訳ございませんでしたっ」
下女たちが非を認めて謝ると、今度はヴィオラに声かけて……
「では、もしまた同じ事が起きた際は、私に報告するように」
そう再犯を防ぐモエ。
ーー流石だわ。
そして相変わらず優しくて、なんて素晴らしい魔術士なの。
そう感動するヴィオラ。
「はいっ、ありがとうございます」
そしてモエがにこりと頷いて、その場を後にすると。
「お待ちくださいっ。
気にかけてくださったお礼に、何かお手伝いさせてくださいっ」
そう言ってヴィオラは、すぐさま後を追いかけた。
何度も助けてくれたモエに、少しでも助力したかったからだが……
紹介の話を打ち切るためや、ニケのために繋がりを作るためでもあった。
一方モエも、その場から逃げたいのだろうと判断し。
「じゃあお願いするわ」と了承したのだった。
「ではまず、何をしたらいいですか?」
「まずって、そんなに手伝う気でいるの?」
「はい。
今日はもう仕事が終わったので、何なりとおっしゃってください」
「仕事が終わったのなら、ゆっくり身体を休めればいいのに、働き者なのね。
でも生憎、そんなに手伝ってもらう事はないの。
だから、この壺を運んでくれるだけでいいわ」
「それだけですかっ!?」
そこでヴィオラは、助力するつもりが逆に助け舟を出されたのだと気付き。
「……ありがとうございます。
ではお運びいたします」
改めて深々と感謝を告げて、モエが抱えていた20センチ余りの壺を受け取った。
「ですが今日に限らず、お力になれる事があれば、何なりとお申し付けください」
「ふふ、義理堅いのね。
でもそんなに気にしなくていいのよ?」
「いえ、私がお手伝いしたいんですっ」
「……そう。
じゃあ名前だけ聞いておくわね」
「はいっ、ファラと申します」
◇
ニケの仕事が終わると……
さっそくヴィオラは、その出来事を報告した。
「へぇ、まさかこの顔が役に立つとはね」
「そうね。
でもその美貌のせいで、こっちは大変だったのよ?」
「ハハっ、災難だったね」
「他人事ね……
でももしまた紹介してって言われたら、どうすればいいの?」
「そうだなぁ、想い人がいるって断っといてよ。
そんで魔術士には今度会ったら、僕が憧れてるって伝えといて」
「そん事言って大丈夫なのっ?」
「うん、ちょっと確かめたい事があるからね」
「わかったわ」
ところが、モエとはなかなか会えず……
そんなある日。
ついに、待ち望んだ日がやってきた。
いつものように、ヴィオラが回廊の掃除をしていると……
「王太子殿下のお通りです!」
と、侍従の声が響き渡った。
ーーえ……
うそ、サイフォス様がっ?
うそ、ほんとに!?
そう、本来なら通行時間外だったが、急用が発生したため、偶さか通る事となったのだ。
しかし、他の下女たちと同様に。
即座に手を止め、深く頭を下げなければならないため。
ヴィオラはその、愛しくて堪らない姿を……
ずっと会いたくて堪らなかった姿を……
一目見る事すら叶わないのだった。
とはいえ、愛してやまないその人が目前に迫るとなると。
ヴィオラの心臓は、今にも張り裂けそうなほど高鳴って……
近付くにつれ、息をするのもままならなくなり……
すれ違った瞬間。
切なさと申し訳なさと、どうしようもない愛しさで、胸がぎゅううと締め付けられる。
そして去って行く足音に、例えようもない虚しさと恋しさが込み上げていた。
それでも、ほんの一瞬近付けただけでも、今のヴィオラには十分で……
少しでも早く、一人前の下女になろうと。
誰よりも仕事が出来る下女になって、サイフォスの身の回りの掃除を任されるようになろうと。
いっそう努力して、仕事に奮闘したのだった。
「このような場所で?
それも、寄ってたかって?」
「それはっ……
この者が恥をかかぬよう、配慮したのです」
「その配慮が、突き飛ばす事なのかしら?」
「それはっ……」
言い逃れ出来ない状況と、的を得た追及に、返す言葉を失くす下女たち。
「少し、行き過ぎた指導だったようね。
王宮で働く者として、品に欠ける行いは謹むように」
「はいっ!申し訳ございませんでしたっ」
下女たちが非を認めて謝ると、今度はヴィオラに声かけて……
「では、もしまた同じ事が起きた際は、私に報告するように」
そう再犯を防ぐモエ。
ーー流石だわ。
そして相変わらず優しくて、なんて素晴らしい魔術士なの。
そう感動するヴィオラ。
「はいっ、ありがとうございます」
そしてモエがにこりと頷いて、その場を後にすると。
「お待ちくださいっ。
気にかけてくださったお礼に、何かお手伝いさせてくださいっ」
そう言ってヴィオラは、すぐさま後を追いかけた。
何度も助けてくれたモエに、少しでも助力したかったからだが……
紹介の話を打ち切るためや、ニケのために繋がりを作るためでもあった。
一方モエも、その場から逃げたいのだろうと判断し。
「じゃあお願いするわ」と了承したのだった。
「ではまず、何をしたらいいですか?」
「まずって、そんなに手伝う気でいるの?」
「はい。
今日はもう仕事が終わったので、何なりとおっしゃってください」
「仕事が終わったのなら、ゆっくり身体を休めればいいのに、働き者なのね。
でも生憎、そんなに手伝ってもらう事はないの。
だから、この壺を運んでくれるだけでいいわ」
「それだけですかっ!?」
そこでヴィオラは、助力するつもりが逆に助け舟を出されたのだと気付き。
「……ありがとうございます。
ではお運びいたします」
改めて深々と感謝を告げて、モエが抱えていた20センチ余りの壺を受け取った。
「ですが今日に限らず、お力になれる事があれば、何なりとお申し付けください」
「ふふ、義理堅いのね。
でもそんなに気にしなくていいのよ?」
「いえ、私がお手伝いしたいんですっ」
「……そう。
じゃあ名前だけ聞いておくわね」
「はいっ、ファラと申します」
◇
ニケの仕事が終わると……
さっそくヴィオラは、その出来事を報告した。
「へぇ、まさかこの顔が役に立つとはね」
「そうね。
でもその美貌のせいで、こっちは大変だったのよ?」
「ハハっ、災難だったね」
「他人事ね……
でももしまた紹介してって言われたら、どうすればいいの?」
「そうだなぁ、想い人がいるって断っといてよ。
そんで魔術士には今度会ったら、僕が憧れてるって伝えといて」
「そん事言って大丈夫なのっ?」
「うん、ちょっと確かめたい事があるからね」
「わかったわ」
ところが、モエとはなかなか会えず……
そんなある日。
ついに、待ち望んだ日がやってきた。
いつものように、ヴィオラが回廊の掃除をしていると……
「王太子殿下のお通りです!」
と、侍従の声が響き渡った。
ーーえ……
うそ、サイフォス様がっ?
うそ、ほんとに!?
そう、本来なら通行時間外だったが、急用が発生したため、偶さか通る事となったのだ。
しかし、他の下女たちと同様に。
即座に手を止め、深く頭を下げなければならないため。
ヴィオラはその、愛しくて堪らない姿を……
ずっと会いたくて堪らなかった姿を……
一目見る事すら叶わないのだった。
とはいえ、愛してやまないその人が目前に迫るとなると。
ヴィオラの心臓は、今にも張り裂けそうなほど高鳴って……
近付くにつれ、息をするのもままならなくなり……
すれ違った瞬間。
切なさと申し訳なさと、どうしようもない愛しさで、胸がぎゅううと締め付けられる。
そして去って行く足音に、例えようもない虚しさと恋しさが込み上げていた。
それでも、ほんの一瞬近付けただけでも、今のヴィオラには十分で……
少しでも早く、一人前の下女になろうと。
誰よりも仕事が出来る下女になって、サイフォスの身の回りの掃除を任されるようになろうと。
いっそう努力して、仕事に奮闘したのだった。
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