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王太子の心情4

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 だがその結果、こんな事態を招いてしまい……
サイフォスは自身の愚かさを、激しく後悔するとともに。
その自戒としても、けじめを付けるためにも、離婚するしかないと思ったのだった。



 しかし、その話の最中でも。
ひいては、悪役に扮して厳しく糾弾しながらも。
サイフォスは、まだ希望を捨て切れず……

 ヴィオラが必死に弁明しているのは、処罰を免れるためか、俺を気遣っての事だと。
なにより、ラピズを守るためだと思いながらも。
心の片隅で、別れたくないからだと。
そう言って欲しいと、その言葉を願っていた。

 にもかかわらず、そんな願いとは裏腹に……
ヴィオラの幸せを願うなら、悪役に徹するしかなく。
かといって、これ以上そうするのは耐え難く。
離婚を急かす形となったのだった。

 そのうえ、悲痛なほど願っていた微かな希望は……
ラピズにも慰謝料と伯爵位を与えると言ったのを機に。
さらには、ラピズのために離婚に応じてくれと言った途端に。
離婚を受け入れられたため、無惨にも打ち砕かれたのだった。


 そうして。
離婚してからのサイフォスは、一心不乱に公務に打ち込む事で……
離婚のショックを紛らわし、ヴィオラの事を思い出さないようにしていた。
そのため、ヴィオラの公務も他の王族に振り分けず、再び1人で背負い込んでいた。

 ところが、それで無理をし過ぎるたびに。
「無理をしないでください!」と怒っていたヴィオラが、不意に脳裏を過ぎり……
その都度胸を、深く激しく抉られていた。

 そればかりか。
どんなに思い出さないようにしても、考えないようにしていても……
心に蔓延っている、会いたさや愛しさはどうしようもなく。
サイフォスはヴィオラのいない現実に、今にも打ちのめされてしまいそうだった。

 それでも。
ーー俺の所為で引き裂かれた2人は、もっとずっと苦しかっただろうっ……
そう思って、ぐっと踏ん張っていた。

 また、ヴィオラの話を御法度としていたのは、思い出さないようにするためでもあったが。
真の目的は……
離婚やこれまでの事で、ヴィオラに悪い噂が立つのを防ぐためだった。

 だからこそ、反した者を処刑すると厳しく取り締まっていたのだ。


 そして、そんなある日。

「殿下、以前慰問した施療院から、礼状が届いております」

 それに目を通した事で、またしてもヴィオラを思い出す羽目になる。

「……再びご援助くださり?」
その言葉に疑問を持つサイフォス。

 その礼状は、ヴィオラに断られて単独で慰問した施療院からで。
その際に援助はしたが、再びそれをした覚えはないからだ。

 すぐに調査を入れると、援助と同額の寄付がされており……
 そこで、まさかヴィオラが!と思い当たったのだった。

 というのも……
いくら善行とはいえ、王太子の名を勝手に語るなど、家族以外の者に出来るはずもなく。
そもそも何のメリットにもならないのに、そんな恐れ多い事をする意味もあるはずがなく。
同額の寄付となると……
それが記された公務の資料に、携わる者の仕業である事が窺えたからだ。

 さらには、そういった活動に熱心なヴィオラなら、自腹でもやりかねないうえに。
慰謝料を遠慮していた事や、離婚のタイミングで行われている事から、ヴィオラに違いないと踏んでいた。

 そしてその推測は、概ね合っていたが……
実際は慰謝料の一部をあてがっただけではなく。
浪費を企てて大量に購入した金銀細工を、当時の計画通り換金して、実行に至ったという訳だった。

 サイフォスの援助と同額の寄付をしたのは、その人の行為に見せかけるためで……
まさか「再び」というほんの2文字によって、自分に辿り着くとは思ってもいなかったのだ。

ーー自分の名義ですればいいものを、どうして俺の名でっ……

 寄付金の出所が何であれ、寄付をしたのはヴィオラなのに。
人知れず、サイフォスの手柄にしていたヴィオラに。
そして出会った時と同じく、福祉活動に熱心なヴィオラらしい行動に。
サイフォスは狂おしいほど、ヴィオラが愛しくて恋しくて堪らなくなる。

ーー駄目だもう限界だ!!

 心に蔓延っていた、愛しさや会いたさまでもが触発されて……
サイフォスは、今にも心が破裂してしまいそうだった。


 しかも、そんなサイフォスに追い討ちをかけるように……

「大変です!殿下っ。
王妃陛下の容態が急変して、一刻を争う状態ですっ!」

「っ、何だと!?」



 それから程なくして、王妃は永眠したのだった。



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