78 / 123
王太子の心情4
しおりを挟む
だがその結果、こんな事態を招いてしまい……
サイフォスは自身の愚かさを、激しく後悔するとともに。
その自戒としても、けじめを付けるためにも、離婚するしかないと思ったのだった。
しかし、その話の最中でも。
ひいては、悪役に扮して厳しく糾弾しながらも。
サイフォスは、まだ希望を捨て切れず……
ヴィオラが必死に弁明しているのは、処罰を免れるためか、俺を気遣っての事だと。
なにより、ラピズを守るためだと思いながらも。
心の片隅で、別れたくないからだと。
そう言って欲しいと、その言葉を願っていた。
にもかかわらず、そんな願いとは裏腹に……
ヴィオラの幸せを願うなら、悪役に徹するしかなく。
かといって、これ以上そうするのは耐え難く。
離婚を急かす形となったのだった。
そのうえ、悲痛なほど願っていた微かな希望は……
ラピズにも慰謝料と伯爵位を与えると言ったのを機に。
さらには、ラピズのために離婚に応じてくれと言った途端に。
離婚を受け入れられたため、無惨にも打ち砕かれたのだった。
そうして。
離婚してからのサイフォスは、一心不乱に公務に打ち込む事で……
離婚のショックを紛らわし、ヴィオラの事を思い出さないようにしていた。
そのため、ヴィオラの公務も他の王族に振り分けず、再び1人で背負い込んでいた。
ところが、それで無理をし過ぎるたびに。
「無理をしないでください!」と怒っていたヴィオラが、不意に脳裏を過ぎり……
その都度胸を、深く激しく抉られていた。
そればかりか。
どんなに思い出さないようにしても、考えないようにしていても……
心に蔓延っている、会いたさや愛しさはどうしようもなく。
サイフォスはヴィオラのいない現実に、今にも打ちのめされてしまいそうだった。
それでも。
ーー俺の所為で引き裂かれた2人は、もっとずっと苦しかっただろうっ……
そう思って、ぐっと踏ん張っていた。
また、ヴィオラの話を御法度としていたのは、思い出さないようにするためでもあったが。
真の目的は……
離婚やこれまでの事で、ヴィオラに悪い噂が立つのを防ぐためだった。
だからこそ、反した者を処刑すると厳しく取り締まっていたのだ。
そして、そんなある日。
「殿下、以前慰問した施療院から、礼状が届いております」
それに目を通した事で、またしてもヴィオラを思い出す羽目になる。
「……再びご援助くださり?」
その言葉に疑問を持つサイフォス。
その礼状は、ヴィオラに断られて単独で慰問した施療院からで。
その際に援助はしたが、再びそれをした覚えはないからだ。
すぐに調査を入れると、援助と同額の寄付がされており……
そこで、まさかヴィオラが!と思い当たったのだった。
というのも……
いくら善行とはいえ、王太子の名を勝手に語るなど、家族以外の者に出来るはずもなく。
そもそも何のメリットにもならないのに、そんな恐れ多い事をする意味もあるはずがなく。
同額の寄付となると……
それが記された公務の資料に、携わる者の仕業である事が窺えたからだ。
さらには、そういった活動に熱心なヴィオラなら、自腹でもやりかねないうえに。
慰謝料を遠慮していた事や、離婚のタイミングで行われている事から、ヴィオラに違いないと踏んでいた。
そしてその推測は、概ね合っていたが……
実際は慰謝料の一部をあてがっただけではなく。
浪費を企てて大量に購入した金銀細工を、当時の計画通り換金して、実行に至ったという訳だった。
サイフォスの援助と同額の寄付をしたのは、その人の行為に見せかけるためで……
まさか「再び」というほんの2文字によって、自分に辿り着くとは思ってもいなかったのだ。
ーー自分の名義ですればいいものを、どうして俺の名でっ……
寄付金の出所が何であれ、寄付をしたのはヴィオラなのに。
人知れず、サイフォスの手柄にしていたヴィオラに。
そして出会った時と同じく、福祉活動に熱心なヴィオラらしい行動に。
サイフォスは狂おしいほど、ヴィオラが愛しくて恋しくて堪らなくなる。
ーー駄目だもう限界だ!!
心に蔓延っていた、愛しさや会いたさまでもが触発されて……
サイフォスは、今にも心が破裂してしまいそうだった。
しかも、そんなサイフォスに追い討ちをかけるように……
「大変です!殿下っ。
王妃陛下の容態が急変して、一刻を争う状態ですっ!」
「っ、何だと!?」
それから程なくして、王妃は永眠したのだった。
サイフォスは自身の愚かさを、激しく後悔するとともに。
その自戒としても、けじめを付けるためにも、離婚するしかないと思ったのだった。
しかし、その話の最中でも。
ひいては、悪役に扮して厳しく糾弾しながらも。
サイフォスは、まだ希望を捨て切れず……
ヴィオラが必死に弁明しているのは、処罰を免れるためか、俺を気遣っての事だと。
なにより、ラピズを守るためだと思いながらも。
心の片隅で、別れたくないからだと。
そう言って欲しいと、その言葉を願っていた。
にもかかわらず、そんな願いとは裏腹に……
ヴィオラの幸せを願うなら、悪役に徹するしかなく。
かといって、これ以上そうするのは耐え難く。
離婚を急かす形となったのだった。
そのうえ、悲痛なほど願っていた微かな希望は……
ラピズにも慰謝料と伯爵位を与えると言ったのを機に。
さらには、ラピズのために離婚に応じてくれと言った途端に。
離婚を受け入れられたため、無惨にも打ち砕かれたのだった。
そうして。
離婚してからのサイフォスは、一心不乱に公務に打ち込む事で……
離婚のショックを紛らわし、ヴィオラの事を思い出さないようにしていた。
そのため、ヴィオラの公務も他の王族に振り分けず、再び1人で背負い込んでいた。
ところが、それで無理をし過ぎるたびに。
「無理をしないでください!」と怒っていたヴィオラが、不意に脳裏を過ぎり……
その都度胸を、深く激しく抉られていた。
そればかりか。
どんなに思い出さないようにしても、考えないようにしていても……
心に蔓延っている、会いたさや愛しさはどうしようもなく。
サイフォスはヴィオラのいない現実に、今にも打ちのめされてしまいそうだった。
それでも。
ーー俺の所為で引き裂かれた2人は、もっとずっと苦しかっただろうっ……
そう思って、ぐっと踏ん張っていた。
また、ヴィオラの話を御法度としていたのは、思い出さないようにするためでもあったが。
真の目的は……
離婚やこれまでの事で、ヴィオラに悪い噂が立つのを防ぐためだった。
だからこそ、反した者を処刑すると厳しく取り締まっていたのだ。
そして、そんなある日。
「殿下、以前慰問した施療院から、礼状が届いております」
それに目を通した事で、またしてもヴィオラを思い出す羽目になる。
「……再びご援助くださり?」
その言葉に疑問を持つサイフォス。
その礼状は、ヴィオラに断られて単独で慰問した施療院からで。
その際に援助はしたが、再びそれをした覚えはないからだ。
すぐに調査を入れると、援助と同額の寄付がされており……
そこで、まさかヴィオラが!と思い当たったのだった。
というのも……
いくら善行とはいえ、王太子の名を勝手に語るなど、家族以外の者に出来るはずもなく。
そもそも何のメリットにもならないのに、そんな恐れ多い事をする意味もあるはずがなく。
同額の寄付となると……
それが記された公務の資料に、携わる者の仕業である事が窺えたからだ。
さらには、そういった活動に熱心なヴィオラなら、自腹でもやりかねないうえに。
慰謝料を遠慮していた事や、離婚のタイミングで行われている事から、ヴィオラに違いないと踏んでいた。
そしてその推測は、概ね合っていたが……
実際は慰謝料の一部をあてがっただけではなく。
浪費を企てて大量に購入した金銀細工を、当時の計画通り換金して、実行に至ったという訳だった。
サイフォスの援助と同額の寄付をしたのは、その人の行為に見せかけるためで……
まさか「再び」というほんの2文字によって、自分に辿り着くとは思ってもいなかったのだ。
ーー自分の名義ですればいいものを、どうして俺の名でっ……
寄付金の出所が何であれ、寄付をしたのはヴィオラなのに。
人知れず、サイフォスの手柄にしていたヴィオラに。
そして出会った時と同じく、福祉活動に熱心なヴィオラらしい行動に。
サイフォスは狂おしいほど、ヴィオラが愛しくて恋しくて堪らなくなる。
ーー駄目だもう限界だ!!
心に蔓延っていた、愛しさや会いたさまでもが触発されて……
サイフォスは、今にも心が破裂してしまいそうだった。
しかも、そんなサイフォスに追い討ちをかけるように……
「大変です!殿下っ。
王妃陛下の容態が急変して、一刻を争う状態ですっ!」
「っ、何だと!?」
それから程なくして、王妃は永眠したのだった。
11
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる