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後悔2
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なにせ……
世継ぎを産んでシュトラント家の立場を挽回するために、好きでもない人に抱かれるしかなかったなどと言ったのだから。
かといって、それは本心じゃないと弁明すれば……
なぜそんな嘘をつく必要があったのか、話さなければいけなくなるため。
本当の事を言えば、ラピズは処刑されてしまうと思うと……
当然、言えるはずなどなかった。
いくら愛する人の暗殺を企てた相手でも、ヴィオラにとっては家族同然かそれ以上の存在であり。
自分たちさえ円満になれば、ラピズの命はどうなってもいいなどと、思えるわけがないからだ。
とはいえ。
ヴィオラが裏切っていたのは、むしろラピズの期待に対してで。
サイフォスに対しては……
ラピズに押し切られて、裏切っているも同然の状況に身を置くしかなかっただけで。
実際は裏切ってもなければ、それ同然の状況も懸命に拒んでいたため。
とにかく裏切りだけでも、否定せずにはいられなかった。
しかし、「でも違うのっ!」と必死に訴えるも。
「言い訳は聞きたくない!」と、容赦なく撥ね退けられ。
ショックと鋭い胸の痛みで、息を呑むヴィオラ。
さらには。
続いた言葉に、反論の余地すらなくなってしまう。
「お前みたいな悪妃はもううんざりだっ」
正に、そう思わせるために、酷い仕打ちを重ねてきたのだから。
そう思われるのは至極当然の、覆しようがない事実であるうえに。
「今まで俺が、どれだけ心を痛めてきたかわかるか?」
問われるまでもなく。
サイフォスを散々傷付けてきたと、苦しいほど痛感してきて……
どれだけ償っても償いきれないと思うほど、罪悪感を抱えていたからだ。
「そんな俺を支えてくれた女に、心変わりするのは当然だろう」
まさしくそれも、その通りで……
心変わりの相手はきっとフラワベルだろうと、その優遇されている現状から察し。
どれだけ酷い仕打ちを受けても、ひたむきに愛し続けたサイフォスに、ヴィオラが心変わりをしたように。
理不尽に婚約を破談されながらも、ひたむきに慕い続けたフラワベルに、サイフォスが心変わりをするのも当然だと思い……
もはや謝って済む状況でもなければ。
心変わりをした相手に想いを告げたところで、今さらでしかないと思い知らされる。
「少しでも悪いと思ってるなら、潔く身を引いてくれ」
挙句、そう言われては……
身を引かなければ、悪いと思っていない事になるため、ヴィオラは別れを受け入れるしかなく。
ーーああ、そんな……
悪妃になんてならなきゃよかった!
凄まじい後悔で、胸が張り避けそうになり。
ぐわりと涙が、目頭を痛くするほど込み上げる。
けれど、全ては自分が撒いた種で……
自業自得でしかないうえに。
散々傷付けた自分が、泣く資格などないと。
ヴィオラはぎゅうと唇を噛んで、力いっぱい瞼を閉じて、必死に必死に閉じ込めた。
そのため、言葉を発する事が出来ず。
さらにはこの期に及んでも、サイフォスと離れるなど考えられなくて。
どうしても別れを受け入れられなくて。
承諾出来ずにいると……
「……今後の身の上を案じているんだろうが、心配ない」
と切り出すサイフォス。
「まずシュトラント公爵の爵位は継続とし、新たに南部公領の半分を分け与える」
ーー半分も!?
ヴィオラが驚くのも無理はなく。
豊かな南部の、それも広大な公領の、半分を貰い受けるなど……
貴族最大の権力を得るも同然だからだ。
となるとシュトラント家は、離婚や悪妃の悪影響を微塵も受けないどころか、むしろかなりの安泰で。
汚名を挽回する必要も、ヴィオラが責任を取らされる事も、あるはずがないのだった。
世継ぎを産んでシュトラント家の立場を挽回するために、好きでもない人に抱かれるしかなかったなどと言ったのだから。
かといって、それは本心じゃないと弁明すれば……
なぜそんな嘘をつく必要があったのか、話さなければいけなくなるため。
本当の事を言えば、ラピズは処刑されてしまうと思うと……
当然、言えるはずなどなかった。
いくら愛する人の暗殺を企てた相手でも、ヴィオラにとっては家族同然かそれ以上の存在であり。
自分たちさえ円満になれば、ラピズの命はどうなってもいいなどと、思えるわけがないからだ。
とはいえ。
ヴィオラが裏切っていたのは、むしろラピズの期待に対してで。
サイフォスに対しては……
ラピズに押し切られて、裏切っているも同然の状況に身を置くしかなかっただけで。
実際は裏切ってもなければ、それ同然の状況も懸命に拒んでいたため。
とにかく裏切りだけでも、否定せずにはいられなかった。
しかし、「でも違うのっ!」と必死に訴えるも。
「言い訳は聞きたくない!」と、容赦なく撥ね退けられ。
ショックと鋭い胸の痛みで、息を呑むヴィオラ。
さらには。
続いた言葉に、反論の余地すらなくなってしまう。
「お前みたいな悪妃はもううんざりだっ」
正に、そう思わせるために、酷い仕打ちを重ねてきたのだから。
そう思われるのは至極当然の、覆しようがない事実であるうえに。
「今まで俺が、どれだけ心を痛めてきたかわかるか?」
問われるまでもなく。
サイフォスを散々傷付けてきたと、苦しいほど痛感してきて……
どれだけ償っても償いきれないと思うほど、罪悪感を抱えていたからだ。
「そんな俺を支えてくれた女に、心変わりするのは当然だろう」
まさしくそれも、その通りで……
心変わりの相手はきっとフラワベルだろうと、その優遇されている現状から察し。
どれだけ酷い仕打ちを受けても、ひたむきに愛し続けたサイフォスに、ヴィオラが心変わりをしたように。
理不尽に婚約を破談されながらも、ひたむきに慕い続けたフラワベルに、サイフォスが心変わりをするのも当然だと思い……
もはや謝って済む状況でもなければ。
心変わりをした相手に想いを告げたところで、今さらでしかないと思い知らされる。
「少しでも悪いと思ってるなら、潔く身を引いてくれ」
挙句、そう言われては……
身を引かなければ、悪いと思っていない事になるため、ヴィオラは別れを受け入れるしかなく。
ーーああ、そんな……
悪妃になんてならなきゃよかった!
凄まじい後悔で、胸が張り避けそうになり。
ぐわりと涙が、目頭を痛くするほど込み上げる。
けれど、全ては自分が撒いた種で……
自業自得でしかないうえに。
散々傷付けた自分が、泣く資格などないと。
ヴィオラはぎゅうと唇を噛んで、力いっぱい瞼を閉じて、必死に必死に閉じ込めた。
そのため、言葉を発する事が出来ず。
さらにはこの期に及んでも、サイフォスと離れるなど考えられなくて。
どうしても別れを受け入れられなくて。
承諾出来ずにいると……
「……今後の身の上を案じているんだろうが、心配ない」
と切り出すサイフォス。
「まずシュトラント公爵の爵位は継続とし、新たに南部公領の半分を分け与える」
ーー半分も!?
ヴィオラが驚くのも無理はなく。
豊かな南部の、それも広大な公領の、半分を貰い受けるなど……
貴族最大の権力を得るも同然だからだ。
となるとシュトラント家は、離婚や悪妃の悪影響を微塵も受けないどころか、むしろかなりの安泰で。
汚名を挽回する必要も、ヴィオラが責任を取らされる事も、あるはずがないのだった。
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