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強引2

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 翌日。
サイフォスは公務の引き継ぎをするために、再びヴィオラの部屋を訪れた。

「遅くなってすまない」

「いえ、ですが……
もう夕刻前なので、今日はいらっしゃらないのかと思ってました」
まだラピズが側にいたため、敢えてそう嫌味をこぼすも。

「そんなにお忙しいなら、別の日でも構いませんが?」
陰ながら気遣うヴィオラ。

「いや、問題ない。
さっそく取り掛かろう」


 そうして、例のごとく2人っきりになると……

ーー早く終わらせれば、殿下とゆっくり出来るかも!
ーー早く終わらせて、ヴィオラとイチャつきたい!

 2人してそう思いながら。
今まで以上に集中して、引き継ぎに当たったのだった。

 といのも、今日は時間が下がっているため。
引き継ぎが終わる頃には、規定の公務時間も終わっていると予想されたからだ。

 そんな2人の狙い通り……
公務時間終了を目前にしたところで、無事に引き継ぎを終えたのだった。

「後は頼むが、大変な時はいつでも言ってくれ」

「いえ、大丈夫です。
今までありがとうございました」

「俺こそありがとう」

「殿下がお礼を言う事じゃありませんよっ?
元々王太子妃の公務なのですから」

「だとしても。
俺の妃にならなければ、やらずに済んだ事だ。
にもかかわらず、ヴィオラが引き受けてくれたおかげで、ずいぶんと楽になった。
本当に感謝している。
よってこれより、対等に接してくれ」

「今からですかっ?」

「そうだ。
そういう約束だっただろう?」

「それは、そうですが……」

 いざ敬語敬称を使わないとなると、しかも急に切り替えるとなると、流石に抵抗を感じるヴィオラ。

「……慣れるまで、徐々にで構いませんか?」

「それは構わないが……
約束を守った証として、敬称だけはすぐにやめてくれ」

「えっ……」

 それもかなり抵抗があるものの。
好きな人の名を口にしたい気持ちと、すでにそう呼んでいるフラワベルに対しての嫉妬から……
ひとまず「わかりました」と答えるヴィオラ。

「ならば、さっそく呼んでくれ」

「っ、今ですかっ!?」

「そうだ。
何か問題があるか?」

「問題は、ありませんが……
用もないのに呼べませんっ」

「ヴィオラから言い出した事だし、難しい事ではないだろう?
それとも、恥ずかしいのか?
違うなら呼んでくれ」
そうけしかけられて。

 図星をつかれたヴィオラは、それを誤魔化すために言わざるを得なくなる。

「~~っ、わかりました。
呼べばいいんでしょうっ?」
そう強気に振る舞うも。

「…………サイフォス、様っ……」
頬は紅潮し、視線も泳がせずにはいられない上に。
どうしても呼び捨て出来ずに、様をつけてしまう。

 サイフォスは、そんなヴィオラがあまりにも可愛いすぎて。
さらには、名前呼びの破壊力があまりにも凄まじくて。
心臓をズキュンと撃ち抜かれると同時。
平静を保てないほど、目も合わせられないほど、打ちのめされてしまう。

ーーどうして何も言ってくれないのっ?

 無反応な状態が居たたまれなくなったヴィオラは、チラリとサイフォスに目を向けると。

 冷淡な表情は何処へやら……
今度はその人が照れくさそうに、口元を手で覆いながら顔を背けていた。

ーーうそまさか、照れてるの?
自分から催促したくせにっ?
待って、可愛い!
なんて愛おしいのっ……

 普段とのギャップに、胸をどうしようもなくくすぐられて。
自身の恥ずかしさも何処へやら……
そんなサイフォスが、もっと見たくなるヴィオラ。

「サイフォス様?
どうしたんですかっ?サイフォス様」
わざと名前呼びをしながら、その顔を覗き込むと。

 途端。
痺れを切らしたようにグイと抱き寄せられて、そのままグンと抱き上げられる。

「きゃあ!
なっ……殿下っ!?」
心臓が飛び出そうなほど暴れ出して、咄嗟に敬称呼びに戻ってしまう。

 すると、すぐさまベッドに運ばれて。
覆い被さるような体勢になったサイフォスに、上から見下ろされ……
ますます心臓が暴れ狂うヴィオラ。

「約束通り、ドレスの中に付けさせてもらう」

 そう言ってサイフォスは、鎖骨のあたりに唇を落とすと。
チュッと胸元の方に這わせながら、そこをはだけさせようとした。

「あっ、待っっ……
待ってくださいっ」
心の準備が追い付かず、咄嗟に引き止めてしまうも。

「無理だ。
ヴィオラが悪い」
そう返され。

 挑発してしまった事への、お仕置きなのだと察知するヴィオラ。
ところがその矢先。

「可愛いすぎて、待てるわけがないだろう」
そう真因を告げられ。

 次の瞬間。
胸の膨らみに、ちゅうと強く吸いつかれる。

「ぁっっ……んっ……」

 それだけでもヴィオラは、たまらなく悶えていたにもかかわらず。
吸われたところが、べろりと舐められ……
その舌ふちが、敏感な先端に掠ってしまう。

「あっ……!」
ビクと感じるヴィオラに。

 サイフォスが煽られたのは言うまでもなく。
今度はその先端を狙って舌を這わせ、舌先で愛でるように撫で、転がすように舐め始めた。

「あっ、ああっ……
やっっ……だめですっ!」

 拒絶の言葉に、ピタリと止まったサイフォスは……

「……嫌か?」
切なげに、たまらなそうに問いかけた。

「……イヤ、です。
その、湯浴みをしていないので……」

「湯浴みっ?」
一瞬ショックを受けるも、嫌な理由に面食らう。

 なぜなら。
すでに舐めた後だというのに、湯浴みを希望するという事は……
その先の行為に対して言っているも同然だと思ったからだ。
しかもその理由だと……
言い換えれば、湯浴みをすればその先も受け入れるという事になり。
一気に胸が暴れ狂うサイフォス。

 一方ヴィオラは、湯浴みも拒んだ理由の1つではあったが……
実際、その先の行為に進むのを躊躇っていた。
サイフォスに抱かれたい気持ちは、当然あったものの。
そんな行為をしたのがバレたら、ラピズが何をするかわからないと思ったからだ。
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