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慰め

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 そんな中。
再びやって来たサイフォスは、心なしか憂いを帯びており……

「……抱きしめてもいいか?」
2人きりになるなり、そう言ってきた。

ーーやっぱり何かあったのね……

「その代わり、何があったのか話してください。
私を伴侶だとお思いなら、ひとりで抱え込まないでください」

 気丈に振る舞っていたつもりのサイフォスは、この僅かな接触で見破られた事に驚き。
同時に、そんなヴィオラが……
抱きしめずにはいられないほど、愛しくて堪らなくなる。

 しかも、そう言われては話さない訳にはいかず。
尚且つヴィオラには、トップシークレットである、国王が臥せっている事も、立ち聞きで知られているため。
サイフォスは「わかった」と了承して、話し始めた。

「実は……
父上の件で心労が募ったのか、母上までもが体調を崩したんだ」

「そんなっ……
魔法で治せないんですかっ?」

「一応試したそうだが、目立った効果はなかったらしい」

「魔法が効かないなんて……」

「魔法で何でも治せる訳じゃない。
怪我のように、治療部位やその状態が明白なものは治しやすいが。
それらが分かりにくい病気は、治しにくいうえに、かなりの魔法スキルも要する。
治せるとしたら、恐らく大魔導師くらいだろうな」

 大魔導師とは、魔術士のトップに君臨する存在で。
最大の魔力と最高のスキルを持ち合わせていた。
しかしその力を持ってしても、国王の病気は治せなかったわけだが……

「その方に、治療を頼めないのですか?」

「ああ今は、遠方で発生した災害に対応していて、無理だったが。
終わり次第、来てもらうように段取ってある」

「治るといいですね……」

「ああ……
だが治っても、しばらくは休養してもらうつもりだ」

 というのも。
心労から不調に至ったと、医者から診断されたからだった。

「それがいいと思います」
そう賛同したところで。

 ヴィオラは、はたと気付いて。
それを申し出た。

「ではその間の王妃陛下の公務は、私にさせていただけませんか?」

「……その必要はない」

「まさか、またお一人で背負い込んで、無理をなさるおつもりですかっ?」

「そうではない。
王妃陛下の不調は国政にあまり影響がないため、公にするつもりだからだ。
そうすればその公務は、他へ振り分けられるし、母上も休まざるを得なくなるだろう?」

「なるほど……
ですが、私にも出来る事があればおっしゃってください」

「……ありがとう」
母や自分を、こうも心配してくれるヴィオラに。
その優しい申し出に、度々胸を打たれるサイフォス。

「だがヴィオラも、そう無理をしないでくれ」

「ですから、無理などしていませんっ。
それとも、私に出来る事はありませんかっ?」

「いや……
ヴィオラにしか、出来ない事がある」
そう腰に手を回し、抱き寄せるサイフォスに。

 何を求められているのか察しながらも……
少しでも元気付けたくて、何でもしてあげたくなるヴィオラ。

「何なりと、おっしゃってください」

「……ならば、慰めてくれないか?」
酷く愛しげに見つめるサイフォスに。

 ヴィオラも愛しさが込み上げながら頷くと……
どちらからともなく、唇が重ねられた。

 互いにそれを絡め合うも……
すぐに、先程の続きをするかのように。
もう待ち切れないと言わんばかりに、サイフォスの舌がヴィオラの口内に潜り込む。

 ようやく結ばれた、その甘い熱は……
絡んで、絡んで、蜜のように溶け合って。
ヴィオラは立っていられないくらい、何もかも溶け落ちそうになり……
縋るように、ぎゅううとサイフォスに抱きついた。

 サイフォスもどうにかなりそうな思いで、ぎゅううとヴィオラを抱き込んで……
その後頭部を押さえて、いっそう深く激しく口内を貪った。

 そのまま2人は、夢中で求め合い……
徐々にヴィオラから、たまらなそうに艶声が漏れ始める。

 その声に刺激されて、サイフォスは今にも押し倒しそうになるも……
公務時間にそんな事をする訳にはいかず。

 暴走しそうな自分を堰き止めるため。
そしてこれ以上、ヴィオラの声が漏れるのを防ぐため。
必死にキスを打ち切った。

 ところが、恍惚としているヴィオラを前に……
ゾクリとそそられて、再び唇を奪わずにはいられなくなる。

 終わったと思ったキスの再開は、より興奮を煽って……
2人はなかなか、互いの唇から離れる事が出来なかったのだった。



 それからのヴィオラは……
公務に集中している時間以外は、サイフォスの事で頭がいっぱいになっていた。

ーー私ったらまた!
もう、どうしてこんなに気になるのっ?
……きっと、殿下の事が心配だからだわ。
それと、あの慰めでしたキスのせい……
そう、殿下のキスが上手すぎて、それに惑わされてるだけ。
そう思って、胸がぎゅっと潰される。

 キスが上手いという事は、それほど経験を重ねて来たからだと思い。
大勢の女性が虜になっていたのも、そのキスで惑わされたからじゃないかと考え。
当然婚約者だったフラワベルとも、数え切れないほどして来たのだろうと……
無自覚に嫉妬したからだ。

ーーこれ以上惑わされる訳にはいかない。
だってそんな人を好きになっても、フラワベル嬢の二の舞になるだけだものっ。
いつかまた誰かに、心変わりされるに決まってる!
そう思って、気持ちを自制するも……

 それ以降も、気付けばサイフォスの事ばかり考えていたのだった。


 しかし。
そんな心ここに在らずなヴィオラを、ラピズが見逃すはずもなく。
散々募らせていた不満と苛立ちも、ピークを迎え……
痺れを切らして、自らヴィオラに詰め寄った。

「妃殿下にご相談したい事がございます。
人払いをお願い出来ますか?」

ーーついにこの時がっ……

 これまで公務やサイフォスの事で、頭がいっぱいだったからでもあるが。
そうやって、ラピズと話す事を避けてもいた訳だが……

「……わかったわ」
このように直訴されては、向き合うしかないと。
ヴィオラは腹をくくった。
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