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ときめき3

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「これはただっ……
青が集中出来るので、選んだだけですっ」

「だとしても、すごく嬉しい。
……抱き締めずには、いられないほど」
言い終えるや否や。

 グイとサイフォスに抱き寄せられて、胸が思い切り弾けるヴィオラ。

「っっ!なっ……
何の真似ですかっ?」
動転して、思わずそんな言葉が出るも。

「公務をさせたら、いくらでもこうしていいと言っただろう?」
そう返され。

 確かにその時、その場限りといった制限を設けなかったと。
反論の余地をなくすヴィオラ。

 しかしこのままでは、この激しい胸の高鳴りが確実に伝わってしまうと。
離れたくない気持ちに反して、抵抗する。

「だとしてもっ……
公務中に不謹慎ですっ」

「すまない、だが……
そんな見境もなくなるくらい。
ヴィオラに会いたくて、触れたくて、どうにかなりそうだった!」
そんな言葉で、ぎゅううと抱き締められ……

 ヴィオラは胸まで、千切れそうなほど締めつけられて。
堪らずぎゅっとしがみついた。

 するとサイフォスは、バッと体勢を変え。
座っていたヴィオラの顔を、クイと持ち上げ。

「好きだ……
好きだヴィオラ」

「っっっ!!」

 その不意打ちの、真っ直ぐな告白に。
ヴィオラの心は、壊れそうなほど鷲掴まれる。

 見つめる漆黒の瞳は、ゾクリとするほど魅惑的で。
ひと度嵌れば決して抜け出せない、底無し沼のように剣呑で。
なのに、たまらなく愛しげで。
ヴィオラは抗いようもなく吸い込まれて、どこまでも落ちていきそうになり……

 互いに、唇を求めずにはいられなくなる。

 ヴィオラがスッと目を閉じると同時に、重なったそれは……
チュッと何度か、優しく触れたあと。
すぐに熱烈なものに変わり……
甘く絡みつくように、貪るサイフォス。

 そのキスには媚薬でも含まれているのかと思うほど……
心も身体もどうしようもなく蕩けて、たまらなく悶えるヴィオラ。

 甘い吐息を漏らしながら、互いにもっとと欲し合い……
ヴィオラの唇を舐めていたサイフォスの舌が、ぐにゅりと口内に入った瞬間。

「失礼してもよろしいでしょうか!」
ドアノックとともに、そう声掛けられ。
咄嗟に2人は、例のごとく慌てて離れた。

 そしてすぐさま口元を拭って、ヴィオラが「どうぞっ」と答えると。
入って来たウォルター卿に対して。
「またお前かっ……」と、片手で頭を抱えるサイフォス。

「いえ私ではなく王妃陛下が、殿下をお呼びです」

 そういう意味じゃないと思いながらも、「母上が?」と気持ちが切り替わり。

 「わかった、すぐに行く」
そう続けたサイフォスは、くるりとヴィオラに向き戻った。

「……後でまた来ても、いいか?」
そう訊かれて。

 無意識に感じていた寂しさが、ドキリと嬉しさに変わるヴィオラ。
しかし、扉の向こうから意味深な視線を向けているランド・スピアーズが目に入り……
返事をためらう。

 けれど、王妃陛下からの呼び出しという状況から。
病気の国王陛下に何かあったのかと、心配になり……

「構いません」
公務の引き継ぎがまだ終わっていない事にすればいいかと、そう答えた。


 そして2人が立ち去ったあと。
今更のように我に返ったヴィオラは、先程の熱烈なキスを思い出し……
ぶわりと、今頃になってその余韻に襲われる。

ーーああ!どうしてこんなにっ……
痛いくらい胸を打たれて。
狂おしいほど、もどかしくて。
苦しいほど切ないのっ?
得体の知れない激情に翻弄されて、身悶える。

 ラピズと恋仲だったヴィオラは、当然こんなキスも。
それどころかもっと過激で濃厚なキスも、数え切れないほど経験していたが……
ラピズとは長年の友人関係から、自然と恋人関係に発展したため。
どちらかと言うと、家族愛に近いもので……
こんなふうにときめきを感じるのは、初めてだったのだ。

 そのため。
サイフォスのために粧し込んだり、サイフォスのために公務に熱中したりと、その不慣れな感情に踊らされ……
ラピズへの後ろめたさや、悪妃に徹しなければならない事と、上手く折り合いを付けられずにいた。

 そんなヴィオラの変化に、ラピズが気付かないはずもなく。
むしろ、誰の目から見ても明らかで……

 それも離婚作戦の一環なら、打ち明けてくれてもいいはずなのにと。
何の説明もないどころか、避けてさえいるようなヴィオラに……
ラピズはギリリと、不満と苛立ちを募らせていた。



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