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限界1

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 しかし、ヴィオラの心は限界で……
翌日、リモネを除くすべての者を人払いして。
部屋で塞ぎ込んでいた。

ーーああ、殿下は今どんな気持ちでいるだろう……
昨日はどれほど傷ついて、どれほど辛かっただろう!
ごめんなさいっ。
本当にごめんなさいっ……

 サイフォスの事を思うと、ヴィオラは涙が止まらず。
護衛騎士であるランド・スピアーズまでもしりぞけたのは、そんな姿を見せるわけにはいかなかったからだ。

 そう、そんな姿を晒せば……
そんなに殿下の事が大事なのか、などと言われかねないからだ。


 ところが、人払いをしたせいで……
例のごとく、フラワベルが怒鳴り込んで来た。

「あなたって人はっ、どこまで卑劣なのっ!?」

 フラワベルは、昨日の舞踏会には招かれなかったものの。
参加した貴族の間では、ヴィオラの批判で持ちきりで……
すぐさまフラワベルの耳にも届いたのだった。

「……昨日は踊り疲れたので、一日中眠るつもりだったのに……
邪魔しないでもらえますか?」
涙目を拭いながら、そう誤魔化す。

「いい気なものねっ……
あなたのせいで、サイフォス様は倒れたっていうのにっ!」

 その途端、ヴィオラは聞き捨てならなくなる。

「えっ……
どういう事っ?
殿下は今、どうしてるのっ!?」

「今さら心配!?
だったらどうしてあんな酷い事したのよっ!
サイフォス様は、あなたの気晴らしなんかのためにっ……
忙しい最中、寝る間も惜しんで舞踏会の手配をしたのよっ?
しかも前例を見ないほど、豪勢だったって聞いたわっ。
それをこんな短期間で実現するなんて……
どんなに大変な事か、あなたにわかるっ!?」

 そう、招待客の選定や手配に始まり。
装飾や料理の手配、演奏者や曲目の手配。
さらには余興のオペラやバレエ等の手配。
他にも運営や警護人員等の手配など、やる事は盛り沢山で……
にもかかわらず、ヴィオラのために最高の舞踏会しようと。
サイフォスは自ら、あれこれと手を尽くしたのだった。

「なのにそれを踏み躙って、蔑ろにしてっ。
そこまで傷付けて、辱めるなんて……
あなたは血の通ってない悪魔よ!」

「……何とでもおっしゃってください。
それより、殿下の容態は?」

「っ、詳しい事は教えてもらえなかったし。
部屋には通してもらえなかったから、わからないけど……
あなたのせいって聞いたから、きっとショックで寝込んでるのよっ」

 部屋に通されなかったという状況から。
ヴィオラのせいだと告げたのは、ウォルター卿だという事がうかがえた。
となると、その理由は信憑性が高いと思われ……

ーー私は殿下を、そこまで追い詰めてたなんて!
ヴィオラは胸を貫かれる。

 そして、サイフォスに申し訳なくてたまらなくなり。
サイフォスが心配で、居ても立っても居られなくなる。

 しかし悪妃として、そんな気持ちを悟られるわけにはいかず……

「……では今から反省するので、出て行ってもらえますか?」

「はあっ?
そんな事して何の意味があるのよっ」

「今までの態度を改めるには、自分を見つめ直す必要があるので。
それとも、改善する必要はありませんか?」

 そう言われてフラワベルは、ぐっと押し黙る。

 そう、これなら……
いかにもその場凌ぎな言い分のため、逆に反省を感じられないが。
そう言われては、反論するわけにはいかないからだ。

「っっ、わかったわ。
今日は引き下がるけど、その代わり。
何の改善も見られなかったその時は……
多くの貴族から制裁が下される事を、覚悟しとくのね」

 そう釘を刺されたものの。
明確な改善内容や期限が定められてない以上、いくらでも言い逃れ出来るのだった。

 ともあれ、そうやって上手くフラワベルを追い払うと。
ヴィオラはサイフォスの元へ向かうため、急いで支度を始めた。

 悪妃に徹する身としては、訪問したところでどうする事も出来ないうえに。
どうすればいいのかも分からなかったが……
それでもヴィオラは、とにかくサイフォスが心配で。
容態を伺わずにはいられなかったのだ。



 そうして、王太子の部屋を前にすると。
どうやらサイフォスも人払いしているようで……
周りには誰もいなかった。

 そんなに容態が深刻なのかと、逸る気持ちで扉をノックしようとした時。

「お待ち下さい!
そんな体で行かせられませんっ」

 扉の向こうから、出て来ると思わせる、ウォルター卿の声が聞こえて。
思わずヴィオラは、大きなアーチ柱の奥に身を潜めてしまう。

 すると案の定。

「いいからどけっ」
そう言って扉を開けたサイフォス。

「ダメです!
お願いですから、安静にして下さいっ」

「だったらモエをここに呼べっ!」

 モエというのは、ヴィオラの足を治した王宮魔術師の名前だった。

「それもダメです!
生贄を利用されるならともかく、代価を使われては本末転倒ですっ」

「だがのんびり寝ている暇はない!」

「いいえ!
陛下が臥せっている今、殿下がこの国を背負っているのですよっ?
どうかご自愛くださいっ」

ーーえっ……
国王陛下はご病気なのっ?
驚くヴィオラ。

「背負ってるからこそ!
国王の公務を滞らせるわけにはいかないだろうっ」

ーー待って……
じゃあ殿下は、陛下の公務まで賄ってたのっ?
立て続けに驚くも、さらなる衝撃を突き付けられる。
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