31 / 123
舞踏会2
しおりを挟む
身分が高い者から踊るのが通例の中。
王太子を差し置いて護衛騎士と踊るなど、とても許される事ではなかった。
しかも王太子主催の宮廷舞踏会で、多くの上位貴族や名高い有力者が集っているにもかかわらず。
その面前でそこまで王太子を辱めるなど、王族への冒涜に等しかったのだ。
「駄目だ」
さすがのサイフォスも、それは許しがたかった。
「私の気晴らしのために、開いてくださったのでは?
心を許した相手でなければ、逆に憂鬱になるだけです」
「しかしそれでは……」
「ご自分のお立場の方が大事なのですね」
「そうではない!」
そう、そんな冒涜行為を行えば……
ヴィオラは稀代の悪妃と評されるに違いなく。
さらには、多くの貴族から敵視されたり。
痛烈な批判を受けるだろうと、懸念していたからだ。
だが、それを言ったところで……
自らそう仕向けて来た相手には、逆効果でしかなく。
「でしたら、私の好きにさせてもらいます」
そう言ってヴィオラは、脇に控えるランド・スピアーズの側に寄って行ってしまった。
本来は男性から誘うのがマナーだが……
このような状況で、身分の低いランド・スピアーズからダンスを申し込めるはずもなく。
それどころか、不敬罪で処罰される恐れもあるため。
ヴィオラからの命令という形で、2人は踊り始めたのだった。
一方サイフォスは、強引に止める事も出来たが……
これ以上口論したり、争う姿を晒すわけにはいかないと思い。
苦渋の思いで、ぐっと踏みとどまっていた。
そんな事をすれば、余計にヴィオラの評価を悪くする恐れがあるだけでなく。
不仲説など、良からぬ噂まで立てられる可能性があるからだ。
また、王族として……
公衆の面前で、そのような醜態を晒すわけにもいかなかった。
というのも。
サイフォスが常に冷淡な仮面を被り、冷酷に振る舞って来たのは……
いずれ王になる者として、絶対的支配力や威厳を培うために、幼い頃からそう指導されていたからで。
それは服従や懐柔の策である、飴と鞭の一環で……
サイフォスは冷酷に弾圧する代わりに。
すべての国民に行き届く、手厚い政策を心掛けていた。
そのため醜態どころか、自らの感情すらも押し殺して、威厳を保って来たわけだが……
それもヴィオラによって、度々打ち崩され。
今回のように恥をかかされ、冒涜されたとあっては台無しで。
もはや立場もない状況だった。
だがそんな事より、サイフォスはヴィオラの立場を案じており……
と同時に。
自分とは踊ってくれない妻が、他の男と密着して踊っている有様に、酷く胸を痛めていた。
それでも毅然とした態度で、なんとかやり過ごしたものの。
曲目が変わっても、2人は戻って来ず。
小休憩を挟んだのち、また踊り出したのだった。
しかしアップテンポな曲目になると。
いくらラピズが相手でも、のろまなヴィオラには到底踊れず。
その隙にサイフォスは、豪華なビュッフェメニューから、ヴィオラの好物を自らよそい。
介添えの者に運ばせたシャンパンと、一緒に届けた。
ところが。
「っっ、結構ですっ。
ランド・スピアーズが今、取って来てくれているので」
こんな酷い仕打ちを受けても、怒るどころか。
なおも気遣ってくれるサイフォスに……
ヴィオラも酷く胸を痛めながら、苦渋の思いで断った。
「ならば、それは俺にくれないか?
代わりにこれを食べてくれ」
そんなメニューは食べたくないといった理由で、再び断ろうとしたものの。
自分の好物ばかりだったため、ラピズも同じものを取ってくる事が窺え。
他の理由を考えるヴィオラ。
と同時に。
ちゃんと好物を覚えてくれていた事に、いっそう胸を痛めていた。
「……そんな回りくどい事を、する必要がありますか?」
「なくても、それくらいいいだろう」
「押し付けがましいのは嫌いです!
それとも、嫌われたいのですかっ?」
そう言われては、引き下がるしかなく……
サイフォスは、ますます惨めな思いを味わっていた。
それどころか。
その後もヴィオラとランド・スピアーズは、片時も離れず。
可能な限り踊り続け……
サイフォスは、息がぴったりな2人のダンスを見るに耐えず。
かといって、ヴィオラ以外と踊る気などなく。
会場では、あちこちで……
ヴィオラへの批判と、サイフォスへの憐れみの声が飛び交っていた。
そうやって、長年培って来た威厳を無惨に踏み躙られ。
これでもかというほど、惨めな思いを味わわされ。
愛してやまない恋人同士のような、2人の姿に胸を抉られ続け。
そんな居た堪れない状況にもかかわらず。
サイフォスは、ただただヴィオラを心配し……
かつてないほどの批判を集めてしまった事や、そんな行動をさせてしまった事に、遣り切れなくなっていた。
それでもひたすら耐え忍び、最後まで毅然とした態度を貫いたのだった。
一方ヴィオラも、自ら悪妃に徹しながらも。
サイフォスの事を思うたび、幾度も胸を抉られ続け、遣り切れなくなっていたが……
苦手なダンスに集中する事で、何とか乗り切ったのだった。
王太子を差し置いて護衛騎士と踊るなど、とても許される事ではなかった。
しかも王太子主催の宮廷舞踏会で、多くの上位貴族や名高い有力者が集っているにもかかわらず。
その面前でそこまで王太子を辱めるなど、王族への冒涜に等しかったのだ。
「駄目だ」
さすがのサイフォスも、それは許しがたかった。
「私の気晴らしのために、開いてくださったのでは?
心を許した相手でなければ、逆に憂鬱になるだけです」
「しかしそれでは……」
「ご自分のお立場の方が大事なのですね」
「そうではない!」
そう、そんな冒涜行為を行えば……
ヴィオラは稀代の悪妃と評されるに違いなく。
さらには、多くの貴族から敵視されたり。
痛烈な批判を受けるだろうと、懸念していたからだ。
だが、それを言ったところで……
自らそう仕向けて来た相手には、逆効果でしかなく。
「でしたら、私の好きにさせてもらいます」
そう言ってヴィオラは、脇に控えるランド・スピアーズの側に寄って行ってしまった。
本来は男性から誘うのがマナーだが……
このような状況で、身分の低いランド・スピアーズからダンスを申し込めるはずもなく。
それどころか、不敬罪で処罰される恐れもあるため。
ヴィオラからの命令という形で、2人は踊り始めたのだった。
一方サイフォスは、強引に止める事も出来たが……
これ以上口論したり、争う姿を晒すわけにはいかないと思い。
苦渋の思いで、ぐっと踏みとどまっていた。
そんな事をすれば、余計にヴィオラの評価を悪くする恐れがあるだけでなく。
不仲説など、良からぬ噂まで立てられる可能性があるからだ。
また、王族として……
公衆の面前で、そのような醜態を晒すわけにもいかなかった。
というのも。
サイフォスが常に冷淡な仮面を被り、冷酷に振る舞って来たのは……
いずれ王になる者として、絶対的支配力や威厳を培うために、幼い頃からそう指導されていたからで。
それは服従や懐柔の策である、飴と鞭の一環で……
サイフォスは冷酷に弾圧する代わりに。
すべての国民に行き届く、手厚い政策を心掛けていた。
そのため醜態どころか、自らの感情すらも押し殺して、威厳を保って来たわけだが……
それもヴィオラによって、度々打ち崩され。
今回のように恥をかかされ、冒涜されたとあっては台無しで。
もはや立場もない状況だった。
だがそんな事より、サイフォスはヴィオラの立場を案じており……
と同時に。
自分とは踊ってくれない妻が、他の男と密着して踊っている有様に、酷く胸を痛めていた。
それでも毅然とした態度で、なんとかやり過ごしたものの。
曲目が変わっても、2人は戻って来ず。
小休憩を挟んだのち、また踊り出したのだった。
しかしアップテンポな曲目になると。
いくらラピズが相手でも、のろまなヴィオラには到底踊れず。
その隙にサイフォスは、豪華なビュッフェメニューから、ヴィオラの好物を自らよそい。
介添えの者に運ばせたシャンパンと、一緒に届けた。
ところが。
「っっ、結構ですっ。
ランド・スピアーズが今、取って来てくれているので」
こんな酷い仕打ちを受けても、怒るどころか。
なおも気遣ってくれるサイフォスに……
ヴィオラも酷く胸を痛めながら、苦渋の思いで断った。
「ならば、それは俺にくれないか?
代わりにこれを食べてくれ」
そんなメニューは食べたくないといった理由で、再び断ろうとしたものの。
自分の好物ばかりだったため、ラピズも同じものを取ってくる事が窺え。
他の理由を考えるヴィオラ。
と同時に。
ちゃんと好物を覚えてくれていた事に、いっそう胸を痛めていた。
「……そんな回りくどい事を、する必要がありますか?」
「なくても、それくらいいいだろう」
「押し付けがましいのは嫌いです!
それとも、嫌われたいのですかっ?」
そう言われては、引き下がるしかなく……
サイフォスは、ますます惨めな思いを味わっていた。
それどころか。
その後もヴィオラとランド・スピアーズは、片時も離れず。
可能な限り踊り続け……
サイフォスは、息がぴったりな2人のダンスを見るに耐えず。
かといって、ヴィオラ以外と踊る気などなく。
会場では、あちこちで……
ヴィオラへの批判と、サイフォスへの憐れみの声が飛び交っていた。
そうやって、長年培って来た威厳を無惨に踏み躙られ。
これでもかというほど、惨めな思いを味わわされ。
愛してやまない恋人同士のような、2人の姿に胸を抉られ続け。
そんな居た堪れない状況にもかかわらず。
サイフォスは、ただただヴィオラを心配し……
かつてないほどの批判を集めてしまった事や、そんな行動をさせてしまった事に、遣り切れなくなっていた。
それでもひたすら耐え忍び、最後まで毅然とした態度を貫いたのだった。
一方ヴィオラも、自ら悪妃に徹しながらも。
サイフォスの事を思うたび、幾度も胸を抉られ続け、遣り切れなくなっていたが……
苦手なダンスに集中する事で、何とか乗り切ったのだった。
10
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる