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舞踏会2

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 身分が高い者から踊るのが通例の中。
王太子を差し置いて護衛騎士と踊るなど、とても許される事ではなかった。

 しかも王太子主催の宮廷舞踏会で、多くの上位貴族や名高い有力者が集っているにもかかわらず。
その面前でそこまで王太子を辱めるなど、王族への冒涜に等しかったのだ。

「駄目だ」
さすがのサイフォスも、それは許しがたかった。

「私の気晴らしのために、開いてくださったのでは?
心を許した相手でなければ、逆に憂鬱になるだけです」

「しかしそれでは……」

「ご自分のお立場の方が大事なのですね」

「そうではない!」

 そう、そんな冒涜行為を行えば……
ヴィオラは稀代の悪妃と評されるに違いなく。
さらには、多くの貴族から敵視されたり。
痛烈な批判を受けるだろうと、懸念していたからだ。

 だが、それを言ったところで……
自らそう仕向けて来た相手には、逆効果でしかなく。

「でしたら、私の好きにさせてもらいます」
そう言ってヴィオラは、脇に控えるランド・スピアーズの側に寄って行ってしまった。

 本来は男性から誘うのがマナーだが……
このような状況で、身分の低いランド・スピアーズからダンスを申し込めるはずもなく。
それどころか、不敬罪で処罰される恐れもあるため。
ヴィオラからの命令という形で、2人は踊り始めたのだった。

 一方サイフォスは、強引に止める事も出来たが……
これ以上口論したり、争う姿を晒すわけにはいかないと思い。
苦渋の思いで、ぐっと踏みとどまっていた。
そんな事をすれば、余計にヴィオラの評価を悪くする恐れがあるだけでなく。
不仲説など、良からぬ噂まで立てられる可能性があるからだ。

 また、王族として……
公衆の面前で、そのような醜態を晒すわけにもいかなかった。

 というのも。
サイフォスが常に冷淡な仮面を被り、冷酷に振る舞って来たのは……
いずれ王になる者として、絶対的支配力や威厳を培うために、幼い頃からそう指導されていたからで。

 それは服従や懐柔の策である、飴と鞭の一環で……
サイフォスは冷酷に弾圧する代わりに。
すべての国民に行き届く、手厚い政策を心掛けていた。

 そのため醜態どころか、自らの感情すらも押し殺して、威厳を保って来たわけだが……
それもヴィオラによって、度々打ち崩され。
今回のように恥をかかされ、冒涜されたとあっては台無しで。
もはや立場もない状況だった。

 だがそんな事より、サイフォスはヴィオラの立場を案じており……
と同時に。
自分とは踊ってくれない妻が、他の男と密着して踊っている有様に、酷く胸を痛めていた。

 それでも毅然とした態度で、なんとかやり過ごしたものの。
曲目が変わっても、2人は戻って来ず。
小休憩を挟んだのち、また踊り出したのだった。


 しかしアップテンポな曲目になると。
いくらラピズが相手でも、のろまなヴィオラには到底踊れず。

 その隙にサイフォスは、豪華なビュッフェメニューから、ヴィオラの好物を自らよそい。
介添えの者に運ばせたシャンパンと、一緒に届けた。

 ところが。

「っっ、結構ですっ。
ランド・スピアーズが今、取って来てくれているので」

 こんな酷い仕打ちを受けても、怒るどころか。
なおも気遣ってくれるサイフォスに……
ヴィオラも酷く胸を痛めながら、苦渋の思いで断った。

「ならば、それは俺にくれないか?
代わりにこれを食べてくれ」

 そんなメニューは食べたくないといった理由で、再び断ろうとしたものの。
自分の好物ばかりだったため、ラピズも同じものを取ってくる事が窺え。
他の理由を考えるヴィオラ。
と同時に。
ちゃんと好物を覚えてくれていた事に、いっそう胸を痛めていた。

「……そんな回りくどい事を、する必要がありますか?」

「なくても、それくらいいいだろう」

「押し付けがましいのは嫌いです!
それとも、嫌われたいのですかっ?」

 そう言われては、引き下がるしかなく……
サイフォスは、ますます惨めな思いを味わっていた。


 それどころか。
その後もヴィオラとランド・スピアーズは、片時も離れず。
可能な限り踊り続け……

 サイフォスは、息がぴったりな2人のダンスを見るに耐えず。
かといって、ヴィオラ以外と踊る気などなく。

 会場では、あちこちで……
ヴィオラへの批判と、サイフォスへの憐れみの声が飛び交っていた。

 そうやって、長年培って来た威厳を無惨に踏み躙られ。
これでもかというほど、惨めな思いを味わわされ。
愛してやまない恋人同士のような、2人の姿に胸を抉られ続け。
そんな居た堪れない状況にもかかわらず。
サイフォスは、ただただヴィオラを心配し……
かつてないほどの批判を集めてしまった事や、そんな行動をさせてしまった事に、遣り切れなくなっていた。

 それでもひたすら耐え忍び、最後まで毅然とした態度を貫いたのだった。


 一方ヴィオラも、自ら悪妃に徹しながらも。
サイフォスの事を思うたび、幾度も胸を抉られ続け、遣り切れなくなっていたが……
苦手なダンスに集中する事で、何とか乗り切ったのだった。



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