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 2人も部屋に戻りながら……
ヴィオラは、どことなく機嫌が悪そうなラピズに、気まずさを感じていた。

 そう、ラピズは……
これほどまでに非礼で冷たい態度を受けながらも、全て受け止めて深い愛を注ぐ王太子と。
それに心を動かされいるヴィオラの姿に、やり切れない思いを抱えていたのだ。

 そこでヴィオラは、ラピズの不満を聞くために、専用庭園へ寄り道する事にした。



「ねぇ、何か……怒ってる?」

「……怒ってはないけど。
不安でたまらないんだっ……
ヴィオラが殿下に、心変わりするんじゃないかって」

「っ、そんなっ……
だったらあんなふうに、悪妃を演じるわけがないでしょうっ?」

「今はそうでも!この先はわからないだろっ。
殿下は地位も富も、容姿も人望も……
おまけにヴィオラが憧れる剣術の腕前までもっ、全て兼ね揃えてる!
好きにならない方がおかしいだろっ」

「私がそういったもので判断しない事くらい、わかってるでしょうっ?」

「わかってるけど!殿下はっ……」
あんなにヴィオラの事を愛してるから、そう言いかけて口を噤んだ。
ヴィオラにそれを、知られたくなかったからだ。

「っっ、殿下は……
とても優しくて、心が広いって言ってたよな?
そこにはだんだん惹かれてるだろっ、さっきからずっと!」

「っ!違うわっ……
そんな人だからこそ、罪悪感で動揺してただけっ」

 それは言い訳というよりも……
誰よりもヴィオラ自身が、そう思いたかったのだ。

「……だけどラピズ。
それを見るのが辛いなら、もう護衛騎士はやめて?」

「っ、なんだよそれ……
そうか、そしたら気兼ねなく殿下を受け入れられるもんなあっ」

「違うわっ!
前にも言った通り、そしてさっき見た通り、この作戦は成功しそうにないから……
いつ離婚出来るかわからないし、最悪出来ないかもしれない。
だから、これ以上ラピズを苦しめたくないのっ」

「殿下を苦しめたくないの間違いじゃないのかっ!?」

「どうしてそんな事言うのっ!?」
思わず不服を唱えるも。
ラピズの指摘は、半分図星で……

「……いいえ、確かにそれもあるわ。
あんないい人を、これ以上苦しめたくない……
だけど、それ以上にラピズを苦しめたくないの!
じゃなきゃ、悪妃を演じ続けないわっ」

 そう、当然ながら。
悪妃を演じれば、苦しむのはサイフォスの方だからだ。

「……わかった。
本音を言えば、俺だけを心配して欲しいけど……
ヴィオラは優しいから、仕方ないよな。
けど俺は、護衛騎士を辞める気はないから」

「ラピズっ……」

ーーじゃあラピズは私を心配してる?
それで私が、板挟みで苦しむとは思わないのっ?
そう言いかけて、ヴィオラは言葉を呑んだ。
ラピズをもっと苦しめてしまうからだ。

 そしてなりより、全ては自分が悪妃になったせいだと。

 とはいえ、心の中には……
~「君を苦しめるために娶ったわけじゃない!」~
ヴィオラの心苦しさに気付いて、そう抱きしめてくれたサイフォスが浮かんでいた。



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