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剣術大会4

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「あの敬礼した剣士、見事な腕前だったな、ヴィオラ」
そこでサイフォスに、そう声掛けられて。

 ヴィオラはさっきから気になっていた事を、言わずにはいられなくなる。

「……そうですね。
ところで殿下。
先程から、いちいち名前を呼びすぎなのでは?」

「っ、すまない。
呼べるのが嬉しくて……」
そうプイと顔を背けるサイフォスに。

ーーなんなのこの人!
その冷淡な顔で、素っ気ない口調で、なんて事言うのっ?

 そのギャップと愛くるしい発言に、胸を掴まれて。
ヴィオラもプイと、顔を背けずにはいられなかった。

 とはいえ、次の試合が始まると。
2人して、観察するように見入ったのだった。


 そうしてるうちに、試合は次々と繰り広げられ。
ラピズに似た男は、どんどんと勝ち進み……
とうとう、決勝戦を迎える事となった。

 するとサイフォスが、「準備をしてくる」と席を外した。

ーー準備って、表彰式の?
当然そう思って。
気になる決勝戦の、勝負の行方を見守った。

 観戦中に聞いた話によると、相手は優勝候補らしく。
試合は白熱を極めたが……

「勝負あり!
勝者、ランド・スピアーズーーー!」

 そこで、大歓声が沸き起こり。
勝ったのは、あのラピズに似た男だった。

 ヴィオラは、ほっと胸を撫で下ろすと……
「やはりあの男が勝ったか」
戻ってきたサイフォスに声掛けられる。

「予想していたとは、意外と見る目があるのですね」
そう振り向くと。

 サイフォスは剣士の服装を身にまとい、剣を携えていた。

「……なぜそのような出で立ちを?」

「余興として、優勝者と一戦交える事にした」

「はい?
何を考えているのですかっ?
あの者の腕前をご覧になったでしょう?
殿下が太刀打ち出来るような相手ではございません」

「やってみなければ判らないだろう?
俺も剣術は、歴戦の最強騎士から鍛えられてる」

「だとしてもっ、お怪我をされたらどうするのですか!」

 そう、今大会のルールは寸止めだったが、使用するのは真剣だからだ。

 するとサイフォスは、驚いた顔を覗かせて。
そのあとフッと、嬉しそうに微笑んだ。

「もしかして、心配してくれてるのか?」
そう返されて。
今度はヴィオラが、その図星に驚いた。

ーーうそ私、どうして心配してるのっ?
いっそ命を落としてくれたら、この結婚から解放されるのに……
そう思って、ハッとする。

ーーもしあの男も、同じ事を考えたら?

そう、試合中の事故なら罪には問われず。
あの男の実力なら、それを装うことは容易かった。
そしてあの男がラピズかその関係者なら、そうする可能性も十分にあった。
相手は、愛する恋人を奪った男なのだから。

「……っ、心配してるといったら、やめてくださいますか?」

「……やめたら、俺を好きになってくれるか?」

「ふざけないでください!
それとこれとは話が別ですっ」

「ならばやる。
勝てば、憧れはしてくれるんだろう?」

「え……」
そこでヴィオラは、先程言った言葉を思い出す。
~「この大会で優勝するほどの腕前なら、憧れはするでしょう」~

ーーそのために、いずれはこの国を統べる王太子が、こんな危険な事をっ?

「……撤回します」

「撤回は受け付けない」

「そんなっ、」

 その時。
大会の進行役から、王太子の余興が告げられ。
会場が、かつてないほどの大盛況に包まれる。

「もう後戻り出来ない。
行ってくる」

「待ってください!
少しはご自分のお立場をお考えくださいっ。
殿下っ!」

 だがサイフォスは行ってしまい……

「無駄ですよ、言い出したら聞きませんから。
ですが……
もし殿下に何かあったら、妃殿下のせいですから」
ウォルター卿にそう睨まれる。

 自分のせいになるのは、一向に構わなかったが……

ーーどうか殿下が、無事でありますように。
そう願わずにはいられなかった。
と同時に、そんな自分が理解出来ずにいた。

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