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月と太陽1
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ーーああ昨日は、なんて醜態を晒してしまったの……
1番見せてはいけない相手に、涙を晒してしまい。
悪妃作戦が台無しだと、自己嫌悪するヴィオラ。
とそこに、来客が訪れる。
「初めまして。
フラワベル・ビグストンと申します」
ーービグストン公爵令嬢がなぜ?
ビグストン家は最も権力を握っている貴族で、その名を知らぬ者はいなかった。
「初めまして、ヴィオラ・リジエールです。
さっそくですが、どのような御用件でこちらに?」
「あら、お茶も出してくださらないんですの?
もっとも、そのようなものお断りしますが……
噂通り、礼儀が欠けてる方ですのね?
おかげでこちらも、遠慮なくご挨拶出来ますわ」
そうにっこりと笑うフラワベル。
その容姿は、輝くような金髪にトパーズのような瞳で。
同性のヴィオラですら見惚れてしまうほど美しかった。
そしてその笑顔は、太陽のように眩しくて……
月の妖精と称えられたヴィオラとは、まさに正反対だった。
「お近づきの印に、チョコレートドリンクをお持ちしましたの。
どうぞ、お召し上がりくださいませ」
そう言ってフラワベルは……
次の瞬間、ヴィオラにアンティークポットの中身をぶち撒けた。
「きゃああ!」
「妃殿下!
フラワベル様っ、なんて事を!」
「ごめんなさいっ。
私ったら、手を滑らせてしまいましたわ。
でもこれで、少しはサイフォス様の気持ちがお分かりになったんじゃなくて?
目下の者から、ありえない屈辱を受ける気持ちが」
ガタガタと震えるヴィオラに、厳しく言い放つフラワベル。
「あらどうしましょう。
妃殿下に美味しく召し上がっていただこうと、魔法で冷たくしても固まらないようにしてもらったのですが……
早く着替えないと、風邪をひいてしまいますわね。
なので私は、これで失礼いたします。
でもまた、サイフォス様に酷い事をなさったら……
その時は再び、お邪魔させていただきますわね?」
フラワベルがそう立ち去ろうとすると。
ヴィオラは「お待ちください」と引き止めた。
「これは、殿下の差し金ですか?」
「まさか。
ここへは私が勝手に来ただけですし、これも不慮のアクシデントにすぎません」
しかしその態度から、故意に嫌がらせに来たのは明白だった。
ーーきっと彼女は、殿下の事が好きなのね?
「そうですか。
では部外者という事で、今後はここへの来訪を禁じます」
本音を言えば……
自分の最低な行為を、こんなふうに罰せられは方が気が楽だった。
でもこんな事が続けば、フラワベルの方が悪役に見えてしまうと。
それでは悪妃計画が無意味どころか、逆効果になってしまうと。
それらを防ごうとしたのだ。
そしてもう一つ。
自らの立場を悪くしてまで、サイフォスのために悪役になっているフラワベルこそ。
あの優しいサイフォスに相応しいと思い。
これ以上汚名を着せるわけにはいかないと、考えての事だった。
ところがフラワベルは、「あなたの指図は受けないないわ」と去って行ったのだった。
とはいえ、この部屋に通さなければいいだけだと、ヴィオラは悪妃作戦に奮い立った。
というのも、実のところ。
自分の目的のために、周りの人に迷惑をかけてる事や。
ラピズがいなくなった今となっては、離婚が無意味かもしれない事。
なによりサイフォスへの罪悪感から、悪妃作戦を躊躇っていたのだが……
上手く離婚に漕ぎ着ければ。
それにより、サイフォスとフラワベルが結ばれれば。
その方がサイフォスにとって幸せに違いないと。
自分だけじゃなく、皆のためになると。
心置きなく、悪妃になれると思ったからだ。
だがそんな思いとは裏腹に、ヴィオラの脳裏には……
100本以上にも及ぶ薔薇を、王太子自らが摘み取ってくれたと物語る、傷だらけの手や。
これほど非礼な妃だというのに、その心苦しさに気付いてくれただけじゃなく。
抱きしめて、ずっと髪を撫で続けてくれた事が浮かんで。
なぜだか胸がズキリと痛んだ。
しかしヴィオラは、その痛みを押し退けるようにして、新たな悪妃作戦に頭を捻らせた。
そう、してくれた事を踏み躙るだけでは埒があかないし。
今までの経緯から、離婚に結びつくのは難しいと判断したのだ。
そのうえ相手が何もしなくなれば、被害を与える事すら出来ない。
つまりはこちらから仕掛けて。
もう限界だと、ウンザリするように仕向けようと考えたのだ。
1番見せてはいけない相手に、涙を晒してしまい。
悪妃作戦が台無しだと、自己嫌悪するヴィオラ。
とそこに、来客が訪れる。
「初めまして。
フラワベル・ビグストンと申します」
ーービグストン公爵令嬢がなぜ?
ビグストン家は最も権力を握っている貴族で、その名を知らぬ者はいなかった。
「初めまして、ヴィオラ・リジエールです。
さっそくですが、どのような御用件でこちらに?」
「あら、お茶も出してくださらないんですの?
もっとも、そのようなものお断りしますが……
噂通り、礼儀が欠けてる方ですのね?
おかげでこちらも、遠慮なくご挨拶出来ますわ」
そうにっこりと笑うフラワベル。
その容姿は、輝くような金髪にトパーズのような瞳で。
同性のヴィオラですら見惚れてしまうほど美しかった。
そしてその笑顔は、太陽のように眩しくて……
月の妖精と称えられたヴィオラとは、まさに正反対だった。
「お近づきの印に、チョコレートドリンクをお持ちしましたの。
どうぞ、お召し上がりくださいませ」
そう言ってフラワベルは……
次の瞬間、ヴィオラにアンティークポットの中身をぶち撒けた。
「きゃああ!」
「妃殿下!
フラワベル様っ、なんて事を!」
「ごめんなさいっ。
私ったら、手を滑らせてしまいましたわ。
でもこれで、少しはサイフォス様の気持ちがお分かりになったんじゃなくて?
目下の者から、ありえない屈辱を受ける気持ちが」
ガタガタと震えるヴィオラに、厳しく言い放つフラワベル。
「あらどうしましょう。
妃殿下に美味しく召し上がっていただこうと、魔法で冷たくしても固まらないようにしてもらったのですが……
早く着替えないと、風邪をひいてしまいますわね。
なので私は、これで失礼いたします。
でもまた、サイフォス様に酷い事をなさったら……
その時は再び、お邪魔させていただきますわね?」
フラワベルがそう立ち去ろうとすると。
ヴィオラは「お待ちください」と引き止めた。
「これは、殿下の差し金ですか?」
「まさか。
ここへは私が勝手に来ただけですし、これも不慮のアクシデントにすぎません」
しかしその態度から、故意に嫌がらせに来たのは明白だった。
ーーきっと彼女は、殿下の事が好きなのね?
「そうですか。
では部外者という事で、今後はここへの来訪を禁じます」
本音を言えば……
自分の最低な行為を、こんなふうに罰せられは方が気が楽だった。
でもこんな事が続けば、フラワベルの方が悪役に見えてしまうと。
それでは悪妃計画が無意味どころか、逆効果になってしまうと。
それらを防ごうとしたのだ。
そしてもう一つ。
自らの立場を悪くしてまで、サイフォスのために悪役になっているフラワベルこそ。
あの優しいサイフォスに相応しいと思い。
これ以上汚名を着せるわけにはいかないと、考えての事だった。
ところがフラワベルは、「あなたの指図は受けないないわ」と去って行ったのだった。
とはいえ、この部屋に通さなければいいだけだと、ヴィオラは悪妃作戦に奮い立った。
というのも、実のところ。
自分の目的のために、周りの人に迷惑をかけてる事や。
ラピズがいなくなった今となっては、離婚が無意味かもしれない事。
なによりサイフォスへの罪悪感から、悪妃作戦を躊躇っていたのだが……
上手く離婚に漕ぎ着ければ。
それにより、サイフォスとフラワベルが結ばれれば。
その方がサイフォスにとって幸せに違いないと。
自分だけじゃなく、皆のためになると。
心置きなく、悪妃になれると思ったからだ。
だがそんな思いとは裏腹に、ヴィオラの脳裏には……
100本以上にも及ぶ薔薇を、王太子自らが摘み取ってくれたと物語る、傷だらけの手や。
これほど非礼な妃だというのに、その心苦しさに気付いてくれただけじゃなく。
抱きしめて、ずっと髪を撫で続けてくれた事が浮かんで。
なぜだか胸がズキリと痛んだ。
しかしヴィオラは、その痛みを押し退けるようにして、新たな悪妃作戦に頭を捻らせた。
そう、してくれた事を踏み躙るだけでは埒があかないし。
今までの経緯から、離婚に結びつくのは難しいと判断したのだ。
そのうえ相手が何もしなくなれば、被害を与える事すら出来ない。
つまりはこちらから仕掛けて。
もう限界だと、ウンザリするように仕向けようと考えたのだ。
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