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戻った愛と目覚める欲5
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「あの、色々と楽しかったですし。
こんなに美味しいものを頂けて、役得だとは思うんですが……
私が来た意味、ありました?」
そう自分の出張経費を申し訳なく感じてると。
「あったよ。
茉歩の明るい笑顔が見れた」
なんて。
この人は!
何で気付かなかったんだろうっ……
専務は私の状態を察して、息抜き目的で誘ってくれたんだ。
だけど。
「困りますっ。
そんな事の為に、会社の経費を使わないで下さい」
「大丈夫。
茉歩の分は俺の自腹だから」
「っ、だったら余計困ります!
専務にそこまでしてもらう理由が、」
「あるよ」
私の言い分を遮って。
専務は優しい眼差しで、続きを語る。
「茉歩のそんな笑顔を見るとさ。
それが原動力になって、何倍も頑張れるから」
胸がぎゅっと、痛いくらい疼いた。
何でこんな苦しい時に、そんな嬉しい事言うのっ?
また、甘えたくなる……
「……だから茉歩は、素直に甘えろ」
心を後押しする言葉と、頭をぽんぽんする体温に……
涙と胸の内が、堰を切って溢れ出した。
個室とはいえ、その場所は飲食店だったから、安心して甘えられたのかもしれない。
あの時みたいに、欲に流される心配はないって。
専務はずっと、見守るような眼差しで……
「うん、うん……
……そうだよな」って。
ただただ、受け止めてくれた。
正直、夫婦間の事はその夫婦にしか解らないと思う。
ましてや独身の専務には、なおさら。
だから下手に言葉をもらうより、こうやって存分に吐き出せる方が有難い。
しかもそれは、心をこんなに軽くする。
おかげで途中からは明るい愚痴になって。
それから今日の楽しかった話題で盛り上がって。
お酒も進んだ。
「けっこう酔ってるな……
明日、大丈夫か?」
店を出て、よろけた私を支える専務。
「大丈夫です。
ちょっと躓いただけなので」
平静を装ったものの、そのまま手を繋がれる。
「あのっ、ほんとに大丈夫なので手をっ、」
離してもらおうとした矢先。
「あれに乗ろう」
そのまま引かれて、近くのタクシーに誘導された。
「ホテルに着くまで、このままでいいか?」
乗り込んだところで、繋いだ手をぎゅっとする専務。
「……駄目です」
このまま繋いでたら、また欲に流されそうで……
怖い。
そのくせ。
緩んだその手から、すぐには離れられなくて……
ようやく指を、僅かに引いた瞬間。
再びぎゅっと握られる。
どうしよう、このままじゃっ……
なぜか沈黙の車内で、胸だけがやたらと騒いでた。
ほどなくして、泊まるホテルに到着すると。
「許せないなら、同じ過ちを犯せばいい」
エレベーターに乗り込むと同時。
専務から零された言葉に、驚きの視線をぶつけた。
だけど当の本人は、動じる事もなく話を続けた。
「たった1度だけ。
そしたら少し、楽になれないか?
例え許せなくても。
似たような立場になれば、苦しみは半減するんじゃないか?」
扉が閉まったその空間で……
思わず、そうかもしれないと思いながらも。
戸惑う事しか出来ずにいると。
専務は視線をフロアボタンに移して、その空間を動かした。
「俺達は別に、愛し合ってもなければ。
俺には婚約者が、茉歩には愛してる旦那がいる。
だからお互い後腐れもないだろうし。
割り切った関係で、1度だけ……
嫌じゃなかったら、このまま俺の部屋に連れて行く」
そう言って。
ホテルに着いて、1度は解かれた手が……
再びその体温に、力強く繋がれた。
心臓があり得ないくらい早鐘を打って……
嫌な訳ないと。
例え拒んでも、またさっきみたいに離れられないと。
過ちへ追い立てる。
聡と似たような事なんか、不倫じみた最低な事なんか、したくなかった。
だけどこのままじゃ苦しくて、自ら終止符を打ってしまいそうだったし。
終止符を打たなければ、この苦しみが一生続きそうで……
少しでも救ってくれそうな何かに、縋りたかったんだと思う。
でも本当は……
それを口実にして、専務の体温が欲しかっただけかもしれない。
私は、何も言えずに俯いて……
手から伝わる体温に、翻弄されて……
気付けば、目覚めた欲に支配されてた。
お互い貪るように唇を絡めて、舌を絡めて……
次第にそれは、身体へと侵食を進める。
肌に掛かる熱い吐息、そこを伝う唇。
艶かしい濡れ跡を残して、蠢めく舌。
息も出来ないくらいの快感に襲われて……
「っ、すごい感度だな」
蜜に触れた専務が、驚きを洩らすほど。
だけど、自分でも驚いてる。
今までこんなに感じた事なんて無かったし。
ベッドでもクールだった私は、こんなに欲する事もなかったのに……
どうして?
専務が上手いのはもちろんだけど。
アルコールの所為?
それとも、いけない行為だから?
過ちを犯す不安から、吊り橋効果が働いてるの?
なんにしても、とにかくこの体温が欲しくて堪らない!
身体の奥まで、もっともっと……
「あぁっ!専務っ……」
突き刺さる熱に、声を上げてその身体にしがみつくと。
「慧剛」
そう呼べとでも言うように言い直されて。
「ふっ、ああっっ、慧剛っ……」
名前を口にした途端、愛しさが溢れ出す。
慧剛の体温は、その熱は……
私の身体をトロトロに溶かして。
心まで浸食する様に、じりじりと焦がしていった。
こんなに美味しいものを頂けて、役得だとは思うんですが……
私が来た意味、ありました?」
そう自分の出張経費を申し訳なく感じてると。
「あったよ。
茉歩の明るい笑顔が見れた」
なんて。
この人は!
何で気付かなかったんだろうっ……
専務は私の状態を察して、息抜き目的で誘ってくれたんだ。
だけど。
「困りますっ。
そんな事の為に、会社の経費を使わないで下さい」
「大丈夫。
茉歩の分は俺の自腹だから」
「っ、だったら余計困ります!
専務にそこまでしてもらう理由が、」
「あるよ」
私の言い分を遮って。
専務は優しい眼差しで、続きを語る。
「茉歩のそんな笑顔を見るとさ。
それが原動力になって、何倍も頑張れるから」
胸がぎゅっと、痛いくらい疼いた。
何でこんな苦しい時に、そんな嬉しい事言うのっ?
また、甘えたくなる……
「……だから茉歩は、素直に甘えろ」
心を後押しする言葉と、頭をぽんぽんする体温に……
涙と胸の内が、堰を切って溢れ出した。
個室とはいえ、その場所は飲食店だったから、安心して甘えられたのかもしれない。
あの時みたいに、欲に流される心配はないって。
専務はずっと、見守るような眼差しで……
「うん、うん……
……そうだよな」って。
ただただ、受け止めてくれた。
正直、夫婦間の事はその夫婦にしか解らないと思う。
ましてや独身の専務には、なおさら。
だから下手に言葉をもらうより、こうやって存分に吐き出せる方が有難い。
しかもそれは、心をこんなに軽くする。
おかげで途中からは明るい愚痴になって。
それから今日の楽しかった話題で盛り上がって。
お酒も進んだ。
「けっこう酔ってるな……
明日、大丈夫か?」
店を出て、よろけた私を支える専務。
「大丈夫です。
ちょっと躓いただけなので」
平静を装ったものの、そのまま手を繋がれる。
「あのっ、ほんとに大丈夫なので手をっ、」
離してもらおうとした矢先。
「あれに乗ろう」
そのまま引かれて、近くのタクシーに誘導された。
「ホテルに着くまで、このままでいいか?」
乗り込んだところで、繋いだ手をぎゅっとする専務。
「……駄目です」
このまま繋いでたら、また欲に流されそうで……
怖い。
そのくせ。
緩んだその手から、すぐには離れられなくて……
ようやく指を、僅かに引いた瞬間。
再びぎゅっと握られる。
どうしよう、このままじゃっ……
なぜか沈黙の車内で、胸だけがやたらと騒いでた。
ほどなくして、泊まるホテルに到着すると。
「許せないなら、同じ過ちを犯せばいい」
エレベーターに乗り込むと同時。
専務から零された言葉に、驚きの視線をぶつけた。
だけど当の本人は、動じる事もなく話を続けた。
「たった1度だけ。
そしたら少し、楽になれないか?
例え許せなくても。
似たような立場になれば、苦しみは半減するんじゃないか?」
扉が閉まったその空間で……
思わず、そうかもしれないと思いながらも。
戸惑う事しか出来ずにいると。
専務は視線をフロアボタンに移して、その空間を動かした。
「俺達は別に、愛し合ってもなければ。
俺には婚約者が、茉歩には愛してる旦那がいる。
だからお互い後腐れもないだろうし。
割り切った関係で、1度だけ……
嫌じゃなかったら、このまま俺の部屋に連れて行く」
そう言って。
ホテルに着いて、1度は解かれた手が……
再びその体温に、力強く繋がれた。
心臓があり得ないくらい早鐘を打って……
嫌な訳ないと。
例え拒んでも、またさっきみたいに離れられないと。
過ちへ追い立てる。
聡と似たような事なんか、不倫じみた最低な事なんか、したくなかった。
だけどこのままじゃ苦しくて、自ら終止符を打ってしまいそうだったし。
終止符を打たなければ、この苦しみが一生続きそうで……
少しでも救ってくれそうな何かに、縋りたかったんだと思う。
でも本当は……
それを口実にして、専務の体温が欲しかっただけかもしれない。
私は、何も言えずに俯いて……
手から伝わる体温に、翻弄されて……
気付けば、目覚めた欲に支配されてた。
お互い貪るように唇を絡めて、舌を絡めて……
次第にそれは、身体へと侵食を進める。
肌に掛かる熱い吐息、そこを伝う唇。
艶かしい濡れ跡を残して、蠢めく舌。
息も出来ないくらいの快感に襲われて……
「っ、すごい感度だな」
蜜に触れた専務が、驚きを洩らすほど。
だけど、自分でも驚いてる。
今までこんなに感じた事なんて無かったし。
ベッドでもクールだった私は、こんなに欲する事もなかったのに……
どうして?
専務が上手いのはもちろんだけど。
アルコールの所為?
それとも、いけない行為だから?
過ちを犯す不安から、吊り橋効果が働いてるの?
なんにしても、とにかくこの体温が欲しくて堪らない!
身体の奥まで、もっともっと……
「あぁっ!専務っ……」
突き刺さる熱に、声を上げてその身体にしがみつくと。
「慧剛」
そう呼べとでも言うように言い直されて。
「ふっ、ああっっ、慧剛っ……」
名前を口にした途端、愛しさが溢れ出す。
慧剛の体温は、その熱は……
私の身体をトロトロに溶かして。
心まで浸食する様に、じりじりと焦がしていった。
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