8 / 30
侵食の体温3
しおりを挟む
「茉歩それ、詳しく話してくれ」
「はい、このツールなんですけど。
操作性に優れてて、ものすごく使い易いのが1番の利点で、まずは……」
と、一通り説明を流すと。
「なるほど、な。
それなら労働力もコスト削減出来て、常務の指摘してた問題点もクリア出来るな」
常務の指摘……
実は、誰も専務に不満を持ってなさそうとは思ったものの。
常務は例外だ。
それもそのはず。
常務は元々、創業以来の専務で。
社長と一緒に会社を築き上げて来て、時期社長とまで思われて来た人らしいのに。
いきなり社長の息子に役職を奪われ、常務に降格させられたとなれば。
その息子、大崎専務を快く思わないのも無理はない。
だからこそ。
その常務からの問題点をクリア出来るなら、私も嬉しい。
「でかした茉歩!
こんな凄いツール、よく制作したなっ」
「その制作プロジェクトに、全てを掛けてましたから」
おかげで家庭の崩壊を招いてしまったけど……
「ただ今から変更となると、それに伴う手続きや諸作業等が発生しますが」
「構わない。
メリットの方がバカでかい」
「良かったです。
ではこの件に関する諸作業等は、全て私に任せてもらえますか?」
「プレゼンまで寝ない気か?
茉歩は前社と、そのツール導入の段取りだけ進めてくれ。
他の作業は俺が周りに振り分ける」
「大丈夫なんですか?」
周りの誰もが、既に手一杯に見えるけど……
「大丈夫。
今、茉歩に振り分けたように、上手く振り分けるから」
なるほど……
いくら作業を増やした張本人だからとはいえ。
助けられた気分にされられて、こうも鮮やかに振り分けられてたなんて。
「専務の手腕、ある意味惚れ惚れします」
「茉歩に惚れられたら、もっと嬉しいけどね」
またこの人は!
どうしてそんな、戸惑わせる発言ばかりするんだろうっ……
「……前から思ってたんですけど。
専務って、発言は女たらしですよね」
「そうかな。
でも俺は、誰にでも言ってる訳じゃない。
茉歩だから言ってるんだけど?」
危ない!
この人ってば、ほんとに危ない……
危うくまた動揺のドツボに送り込まれる所だった。
要は、クールな私なら真に受けないって解ってるから言える。
そう言う事ですよね?
だったら……
「光栄です。
じゃあ私も専務だから言います。
もうとっくに惚れてますよ?」
部下として上司に。
軽い発言に合わせて、そう仕返すと。
専務の、驚いて固まる姿が目に映る。
「え……
ええっ!
違いますよっ?部下としてって意味ですっ」
ドン引きの専務に焦りながらも。
慣れない発言はするもんじゃないと、後悔した。
遅れながらも「それは残念!」って、専務が乗ってくれたから救われたけど……
◇
そうして、プレゼンを明後日に控えた日の深夜。
明日の予定を確認しようとして、会社にプライベート手帳を忘れて来た事に気付く。
ここ数日、プレゼンの事で頭がいっぱいだったから……
だけど明日、大事なプライベートの予定があったような?
気になって仕方なく。
会社がこんな至近距離で良かったと思いながら、すぐに取りに向かった。
大崎不動産は……
1階に店舗を構えていて、そこに社員デスクや応接室等があって。
2階は住居仕様を改造した、社長室や専務室・会議室等になっていた。
ちなみにスカイラウンジの下階には、オーナーズルームやゲストルームがあって。
専務はそこに住んでるらしい。
4階から2階への短い移動を終えて。
オートロックになっている専務室の鍵を開けて、中に入ると。
え、電気!
それが点いている状態に驚いた。
どうやら専務はまだ残ってるようで……
今はシャワーを浴びてる様子だった。
というのも、この部屋には住居仕様だった名残で、浴室やベッドルーム等が備わってた。
それより、出て来た時に鉢合わせたら気まずい。
誰も居ないと思って、裸だったりしたら尚更。
そう思って急ぎながらも、視界に入った専務のデスクに気を奪われる。
いつも綺麗に整理されてるそのデスクは、資料や書類で乱れてて……
これは!
つい覗いて、目にした状況に唖然とする。
だけどその時、浴室から扉が開く音がして。
慌ててその場を後にした。
結局、プライベートの予定は来週だったから良かったものの。
目にした状況についての追究は、翌日へ持ち越す事に。
◇
「んっ?……どうした?」
朝の伝達後。
早々と仕事に取り掛かった専務は、意味深な視線を投げ続けてる私に気付くと。
2度見で軽く驚いて、でもすぐに優しい眼差しで問い掛けて来た。
「専務。
忙しい時に申し訳ないんですが、私の相談に乗ってもらえますか?」
「もちろん……
どうした?
旦那と何かあったのか?」
もうっ、今から怒ろうとしてるのに。
しかもプレゼン前日の追い込みで、それどころじゃない筈なのに。
そんな心配そうに、優しくしないでよっ。
「実は……
相棒だと思って信頼してた上司に、裏切られたんです」
途端、専務はキョトンとして。
「……それは、俺の事か?」
「そうですね。
実は昨日の夜、ここに忘れ物を取りに来たんです。
その時、専務の散らかったデスクが気になって……
勝手に覗いてしまった事は、謝ります。
ですが、あれでは私の立場がありません!」
周りに上手く振り分ける、と言っていたプレゼンの変更作業は……
確かに多少は振り分けたんだろうけど、状況的に殆ど専務が賄ってる様子で。
それだけじゃなく。
私の知らない業務や、しなくていいと言われた通常業務も沢山あった。
ー「人を使うのが得意だからね。
こんなにプライベートが取れるのも、仕事を上手く周りに割り当ててるからなんだ。
ずるいだろ?」ー
なんて。
実際に上手く割り当ててる所を見て来たし、人を使うのが得意なのは間違いないけど。
決して誰かに無理はさせず、それを1人で背負い込んでたんだ。
ずるいどころか、専務のプライベートは仕事だらけだった筈だ。
「はい、このツールなんですけど。
操作性に優れてて、ものすごく使い易いのが1番の利点で、まずは……」
と、一通り説明を流すと。
「なるほど、な。
それなら労働力もコスト削減出来て、常務の指摘してた問題点もクリア出来るな」
常務の指摘……
実は、誰も専務に不満を持ってなさそうとは思ったものの。
常務は例外だ。
それもそのはず。
常務は元々、創業以来の専務で。
社長と一緒に会社を築き上げて来て、時期社長とまで思われて来た人らしいのに。
いきなり社長の息子に役職を奪われ、常務に降格させられたとなれば。
その息子、大崎専務を快く思わないのも無理はない。
だからこそ。
その常務からの問題点をクリア出来るなら、私も嬉しい。
「でかした茉歩!
こんな凄いツール、よく制作したなっ」
「その制作プロジェクトに、全てを掛けてましたから」
おかげで家庭の崩壊を招いてしまったけど……
「ただ今から変更となると、それに伴う手続きや諸作業等が発生しますが」
「構わない。
メリットの方がバカでかい」
「良かったです。
ではこの件に関する諸作業等は、全て私に任せてもらえますか?」
「プレゼンまで寝ない気か?
茉歩は前社と、そのツール導入の段取りだけ進めてくれ。
他の作業は俺が周りに振り分ける」
「大丈夫なんですか?」
周りの誰もが、既に手一杯に見えるけど……
「大丈夫。
今、茉歩に振り分けたように、上手く振り分けるから」
なるほど……
いくら作業を増やした張本人だからとはいえ。
助けられた気分にされられて、こうも鮮やかに振り分けられてたなんて。
「専務の手腕、ある意味惚れ惚れします」
「茉歩に惚れられたら、もっと嬉しいけどね」
またこの人は!
どうしてそんな、戸惑わせる発言ばかりするんだろうっ……
「……前から思ってたんですけど。
専務って、発言は女たらしですよね」
「そうかな。
でも俺は、誰にでも言ってる訳じゃない。
茉歩だから言ってるんだけど?」
危ない!
この人ってば、ほんとに危ない……
危うくまた動揺のドツボに送り込まれる所だった。
要は、クールな私なら真に受けないって解ってるから言える。
そう言う事ですよね?
だったら……
「光栄です。
じゃあ私も専務だから言います。
もうとっくに惚れてますよ?」
部下として上司に。
軽い発言に合わせて、そう仕返すと。
専務の、驚いて固まる姿が目に映る。
「え……
ええっ!
違いますよっ?部下としてって意味ですっ」
ドン引きの専務に焦りながらも。
慣れない発言はするもんじゃないと、後悔した。
遅れながらも「それは残念!」って、専務が乗ってくれたから救われたけど……
◇
そうして、プレゼンを明後日に控えた日の深夜。
明日の予定を確認しようとして、会社にプライベート手帳を忘れて来た事に気付く。
ここ数日、プレゼンの事で頭がいっぱいだったから……
だけど明日、大事なプライベートの予定があったような?
気になって仕方なく。
会社がこんな至近距離で良かったと思いながら、すぐに取りに向かった。
大崎不動産は……
1階に店舗を構えていて、そこに社員デスクや応接室等があって。
2階は住居仕様を改造した、社長室や専務室・会議室等になっていた。
ちなみにスカイラウンジの下階には、オーナーズルームやゲストルームがあって。
専務はそこに住んでるらしい。
4階から2階への短い移動を終えて。
オートロックになっている専務室の鍵を開けて、中に入ると。
え、電気!
それが点いている状態に驚いた。
どうやら専務はまだ残ってるようで……
今はシャワーを浴びてる様子だった。
というのも、この部屋には住居仕様だった名残で、浴室やベッドルーム等が備わってた。
それより、出て来た時に鉢合わせたら気まずい。
誰も居ないと思って、裸だったりしたら尚更。
そう思って急ぎながらも、視界に入った専務のデスクに気を奪われる。
いつも綺麗に整理されてるそのデスクは、資料や書類で乱れてて……
これは!
つい覗いて、目にした状況に唖然とする。
だけどその時、浴室から扉が開く音がして。
慌ててその場を後にした。
結局、プライベートの予定は来週だったから良かったものの。
目にした状況についての追究は、翌日へ持ち越す事に。
◇
「んっ?……どうした?」
朝の伝達後。
早々と仕事に取り掛かった専務は、意味深な視線を投げ続けてる私に気付くと。
2度見で軽く驚いて、でもすぐに優しい眼差しで問い掛けて来た。
「専務。
忙しい時に申し訳ないんですが、私の相談に乗ってもらえますか?」
「もちろん……
どうした?
旦那と何かあったのか?」
もうっ、今から怒ろうとしてるのに。
しかもプレゼン前日の追い込みで、それどころじゃない筈なのに。
そんな心配そうに、優しくしないでよっ。
「実は……
相棒だと思って信頼してた上司に、裏切られたんです」
途端、専務はキョトンとして。
「……それは、俺の事か?」
「そうですね。
実は昨日の夜、ここに忘れ物を取りに来たんです。
その時、専務の散らかったデスクが気になって……
勝手に覗いてしまった事は、謝ります。
ですが、あれでは私の立場がありません!」
周りに上手く振り分ける、と言っていたプレゼンの変更作業は……
確かに多少は振り分けたんだろうけど、状況的に殆ど専務が賄ってる様子で。
それだけじゃなく。
私の知らない業務や、しなくていいと言われた通常業務も沢山あった。
ー「人を使うのが得意だからね。
こんなにプライベートが取れるのも、仕事を上手く周りに割り当ててるからなんだ。
ずるいだろ?」ー
なんて。
実際に上手く割り当ててる所を見て来たし、人を使うのが得意なのは間違いないけど。
決して誰かに無理はさせず、それを1人で背負い込んでたんだ。
ずるいどころか、専務のプライベートは仕事だらけだった筈だ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
糖度高めな秘密の密会はいかが?
桜井 響華
恋愛
彩羽(いろは)コーポレーションで
雑貨デザイナー兼その他のデザインを
担当している、秋葉 紫です。
毎日のように
鬼畜な企画部長からガミガミ言われて、
日々、癒しを求めています。
ストレス解消法の一つは、
同じ系列のカフェに行く事。
そこには、
癒しの王子様が居るから───・・・・・
カフェのアルバイト店員?
でも、本当は御曹司!?
年下王子様系か...Sな俺様上司か…
入社5年目、私にも恋のチャンスが
巡って来たけれど…
早くも波乱の予感───
ドSな上司は私の本命
水天使かくと
恋愛
ある会社の面接に遅刻しそうな時1人の男性が助けてくれた!面接に受かりやっと探しあてた男性は…ドSな部長でした!
叱られても怒鳴られても彼が好き…そんな女子社員にピンチが…!
ドS上司と天然一途女子のちょっと不器用だけど思いやりハートフルオフィスラブ!ちょっとHな社長の動向にもご注目!外部サイトでは見れないここだけのドS上司とのHシーンが含まれるのでR-15作品です!
嫁にするなら訳あり地味子に限る!
登夢
恋愛
ブランド好きの独身エリートの主人公にはほろ苦い恋愛の経験があった。ふとしたことがきっかけで地味な女子社員を部下にまわしてもらったが、地味子に惹かれた主人公は交際を申し込む。悲しい失恋をしたことのある地味子は躊躇するが、公私を分けてデートを休日に限る約束をして交際を受け入れる。主人公は一日一日を大切にしたいという地味子とデートをかさねてゆく。
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。
−−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!!
イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ただいま冷徹上司を調・教・中!
伊吹美香
恋愛
同期から男を寝取られ棄てられた崖っぷちOL
久瀬千尋(くぜちひろ)28歳
×
容姿端麗で仕事もでき一目置かれる恋愛下手課長
平嶋凱莉(ひらしまかいり)35歳
二人はひょんなことから(仮)恋人になることに。
今まで知らなかった素顔を知るたびに、二人の関係は近くなる。
意地と恥から始まった(仮)恋人は(本)恋人になれるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる