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シロオビアゲハ1
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「ねぇ倫太郎、色々ありがとう」
仕事の面接に出掛ける間際。
送ってくれる倫太郎に、しみじみ感謝を告げる望。
「はっ?
何だよ急に」
「だってここまで立ち直れたのも、望として新しい人生を踏み出せるのも、全部倫太郎のおかげだから」
「……俺は自分ちに連れ込んだだけだし。
いいから行くぞ?」
家を出ると、倫太郎が鍵を閉めてる最中。
望は、久しぶりに味わう外の世界の眩しさに……
絶望から這い上がれた気がして、思わずジワリと涙ぐむ。
それを隠すように、気遣う倫太郎の後ろを俯きながら歩いていると……
突如。
視界の端に影が飛び込み、倫太郎がドシャリと崩れる。
えっ、と驚いた望は……
「逃げよう!」
目の前に現れた鷹巨に、ガシッと手首を掴まれて。
グイと、側の下り階段に引き込まれる。
「えっ……ちょっと待って!
倫太郎っ」
振り返ると、倫太郎の太腿には刃物が刺さっていた。
そう、望を様子を気にかけていた倫太郎は、階段に潜んでいた鷹巨に気付かず。
体当たりされる形で軸足を刺されていたのだ。
「倫太郎!!
ちょっ、離して鷹巨っ!」
そう抵抗する望に、鷹巨が怯んだ瞬間。
追い掛けて来た倫太郎が、グッと望を抱き寄せて。
鷹巨を踊り場に蹴り飛ばした。
と同時に、軸足に激痛が走り。
倫太郎もその場に崩れる。
「倫太郎っ!」
当然望はそっちを心配すると。
「戻るぞっ」
今度は倫太郎から腕を引かれる。
そして階段を抜けながら、鷹巨を振り返ると。
ショックの表情を浮かべていて……
それが望の胸に、ナイフのように突き刺さる。
だけどそれどころじゃなく。
「倫太郎!血がっ……」
無理して動いたせいか、通路に赤い線を作っていた。
「救急車呼ばなきゃ……
待って携帯が!」
それは最近倫太郎が買ってくれたもので、入れていたバックごと階段に落としたと気付く。
それどころか倫太郎の携帯も、倒れた場所に落ちていて。
「ねぇ待って倫太郎っ」
「いいから入るぞっ」
なのに強引に、解錠した扉の中に押し込まれる。
それから靴のまま、リビングに連れて行かれて……
そこで倫太郎が倒れ込む。
「倫太郎っ!」
「望っ、大事な話がある」
ガシッと、離れた手がすかさず望の手首を掴んだ。
「それより救急車!
お願い離してっ」
「今(外に)出たら危ねぇだろ!
それに、救急車じゃ出来ない話なんだ」
「知らないわよっ、そんな話どうでもいい!」
「いいから聞けよっ!
頼むからっ……」
激しく怒鳴った後、切実に懇願すると。
望が怯んだ隙に、話し始める倫太郎。
「ほんとは口止めされてんだけど。
俺は、天才ハッカーなんかじゃないんだ。
ただの使いっ走りで……
ほんとのハッカーは、望のバディは、最初からずっと仁希さんだったんだ」
耳を疑う内容に……
思考が停止する望。
「なに、言ってんの……
はっ?意味わかんないだけどっ……」
「だからっ……
3年半前、仁希さんはアンタが黒詐欺やってんのを見つけて。
自分のせいだと思って、罪を回収しようとしたんだ。
けど組織にバレないようにするには、入念な工作が必要で……
その間アンタを守るために、俺が買われたんだ」
「……買われた?」
「ん、(毒女の)落とし前ん時に使った人身売買サイトがあったろ?
俺はあそこで売られてたんだ。
昔っからケンカばっかしててさっ。
ヤバいとこにケンカ売ったら、女と一緒に拉致られて、一緒に売られて……
そんな俺らを買ったのが仁希さんで。
俺の女を助ける代わりに、望を守るのが条件だったんだ」
「待って、頭が整理出来ないしっ……」
こうしてる間も、出血はどんどん広がっていて……
倫太郎は蒼白になっていて、冷汗もかいていた。
「今はそれどころじゃないっ、離してっ!」
「最後まで聞いたら離してやるよ!
それまで絶対離さねぇ」
ケンカに明け暮れて、散々修羅場をくぐって来た倫太郎は……
自分の今の状態が、ヤバいのを察していて。
もしこのまま死んだら……
望にとって重大な真実が、永遠に闇に葬られてしまうと。
仁希からの口止めを破ってでも、言わずにはいられなかったのだ。
どうにもならない状況に、望はボロボロと涙が零れ出し……
「じゃあ、止血だけさせてっ」
そう思いついて。
足の付け根が効くんじゃないかと、そこを片手で強く押し始めた。
「……その代わり、ちゃんと聞けよ?」
そう言って倫太郎は、今までの事を思い返した。
*
*
*
「なんで俺を?」
「まぁ決め手は、何でもするから女助けろって喚いてた事かな。
黙れってボコボコにされても、全然引き下がんなかったし。
頭悪いけど根性あんな~って」
「っせーな、俺が巻き込んだんだから当然だろ」
「そういう義理堅いとこもだよ。
あと、めちゃくちゃ喧嘩強いんだってな?
お前の事は色々調べさせてもらったよ。
誰も信用しない一匹狼だから、情報が漏れるのも最小限に防げるし。
なりより、女っていう人質がいるし?」
「どういう意味だよ」
仁希を睨む倫太郎。
親からも誰からも愛されず、邪魔者にされてきた倫太郎は……
誰にも心を許せず。
自分は要らない存在なのに、何で生まれてきたのかとずっと思ってきた。
そのためいつ死んでもいいと、喧嘩に明け暮れ……
言い寄ってくる女とヤるためだけに付き合っては、すぐに終わりを迎えていた。
だけどその女だけは、そんな倫太郎でも愛想を尽かさず、いつも助けてくれていて……
愛を知らない倫太郎が、心を許し始めた矢先。
今回の事態に巻き込んでしまい。
どんな事をしても、今度は自分が助けたいと思っていたのだ。
「お前には、ある女詐欺師を守ってもらう。
そしたらお前の女も助けてやるよ」
「……なんで自分で守らねんだよ」
「関われない事情があるんだ。
お前だって、もうその女を自分に関わらせたくないんじゃないのか?」
それは図星で……
倫太郎はもう二度と、こんな自分に巻き込みたくないと思っていた。
「……守るって、ボディガードか?」
「それもあるけど。
天才ハッカーのフリして、バディになってもらう」
「はっ?
いやムリだろ、パソコンとか触った事ねぇし」
「お前らにいくら払ったと思ってんだ?
基礎知識と高速タイピングだけでいいから、死ぬ気で身に付けろ。
あとは俺が処理するし、お前用の検索ツールも作っとくよ」
「そんなんで誤魔化せんのか?」
「心配ない、彼女も一匹狼タイプだ。
ほとんど干渉してこないだろう。
もし目の前で作業する事になっても、その検索ツールである程度なんとかなるし。
無理なら理由をつけて、調べとくってかわせばいい。
あと俺の手が空いてたら、これで指示するからその通りにやればいい」
と、ワイヤレスイヤホンを露呈した。
「それでバディを組んだら、GPSで常に彼女の動向を見守ってもらう」
「常に?
そこまでする必要あんのかよ。
そんな事したって守れるとは限らねぇし、そんな仕事じゃ危険は避けて通れねぇだろ」
「それでも……
出来る全てで守りたいんだよ」
「……そこまでそのオンナが大事なのかよ」
「大事だよ。
人生で唯一。
だから、もし手ぇ出したら……
お前もお前の女も殺す」
もちろん脅しだったが……
長年裏の世界で生きてきた男のそれは、本気と思わせるには充分だった。
「……出さねぇよ、人のオンナに興味ねぇし。
別に命なんか惜しくねぇけど。
アンタに買われなかったら、俺たちはきっと生きながら死んでた。
だから、アンタのためにこの命使ってやるよ。
その代わり、アイツを絶対助けろよ?」
「それはお前の行動次第だ。
そのために、四六時中見張らせてもらう」
「……アンタ暇人?」
「はは、お前と一緒にするな。
盗聴器を仕込んで、こっちのタイミングで探らせてもらう。
つまり、変な真似したらすぐにバレるって事だ。
でも逆に、ちゃんと守ればお前の女も守ってやるよ。
悪くない話だろ?」
さらに仁希は……
バディで得た分け前は回収するが、相応の報酬は支払うと約束する。
それから倫太郎に、保険証を作らせ免許を取らせると。
盗聴器を仕込んだ住居と車と携帯を用意したのだった。
*
*
*
仕事の面接に出掛ける間際。
送ってくれる倫太郎に、しみじみ感謝を告げる望。
「はっ?
何だよ急に」
「だってここまで立ち直れたのも、望として新しい人生を踏み出せるのも、全部倫太郎のおかげだから」
「……俺は自分ちに連れ込んだだけだし。
いいから行くぞ?」
家を出ると、倫太郎が鍵を閉めてる最中。
望は、久しぶりに味わう外の世界の眩しさに……
絶望から這い上がれた気がして、思わずジワリと涙ぐむ。
それを隠すように、気遣う倫太郎の後ろを俯きながら歩いていると……
突如。
視界の端に影が飛び込み、倫太郎がドシャリと崩れる。
えっ、と驚いた望は……
「逃げよう!」
目の前に現れた鷹巨に、ガシッと手首を掴まれて。
グイと、側の下り階段に引き込まれる。
「えっ……ちょっと待って!
倫太郎っ」
振り返ると、倫太郎の太腿には刃物が刺さっていた。
そう、望を様子を気にかけていた倫太郎は、階段に潜んでいた鷹巨に気付かず。
体当たりされる形で軸足を刺されていたのだ。
「倫太郎!!
ちょっ、離して鷹巨っ!」
そう抵抗する望に、鷹巨が怯んだ瞬間。
追い掛けて来た倫太郎が、グッと望を抱き寄せて。
鷹巨を踊り場に蹴り飛ばした。
と同時に、軸足に激痛が走り。
倫太郎もその場に崩れる。
「倫太郎っ!」
当然望はそっちを心配すると。
「戻るぞっ」
今度は倫太郎から腕を引かれる。
そして階段を抜けながら、鷹巨を振り返ると。
ショックの表情を浮かべていて……
それが望の胸に、ナイフのように突き刺さる。
だけどそれどころじゃなく。
「倫太郎!血がっ……」
無理して動いたせいか、通路に赤い線を作っていた。
「救急車呼ばなきゃ……
待って携帯が!」
それは最近倫太郎が買ってくれたもので、入れていたバックごと階段に落としたと気付く。
それどころか倫太郎の携帯も、倒れた場所に落ちていて。
「ねぇ待って倫太郎っ」
「いいから入るぞっ」
なのに強引に、解錠した扉の中に押し込まれる。
それから靴のまま、リビングに連れて行かれて……
そこで倫太郎が倒れ込む。
「倫太郎っ!」
「望っ、大事な話がある」
ガシッと、離れた手がすかさず望の手首を掴んだ。
「それより救急車!
お願い離してっ」
「今(外に)出たら危ねぇだろ!
それに、救急車じゃ出来ない話なんだ」
「知らないわよっ、そんな話どうでもいい!」
「いいから聞けよっ!
頼むからっ……」
激しく怒鳴った後、切実に懇願すると。
望が怯んだ隙に、話し始める倫太郎。
「ほんとは口止めされてんだけど。
俺は、天才ハッカーなんかじゃないんだ。
ただの使いっ走りで……
ほんとのハッカーは、望のバディは、最初からずっと仁希さんだったんだ」
耳を疑う内容に……
思考が停止する望。
「なに、言ってんの……
はっ?意味わかんないだけどっ……」
「だからっ……
3年半前、仁希さんはアンタが黒詐欺やってんのを見つけて。
自分のせいだと思って、罪を回収しようとしたんだ。
けど組織にバレないようにするには、入念な工作が必要で……
その間アンタを守るために、俺が買われたんだ」
「……買われた?」
「ん、(毒女の)落とし前ん時に使った人身売買サイトがあったろ?
俺はあそこで売られてたんだ。
昔っからケンカばっかしててさっ。
ヤバいとこにケンカ売ったら、女と一緒に拉致られて、一緒に売られて……
そんな俺らを買ったのが仁希さんで。
俺の女を助ける代わりに、望を守るのが条件だったんだ」
「待って、頭が整理出来ないしっ……」
こうしてる間も、出血はどんどん広がっていて……
倫太郎は蒼白になっていて、冷汗もかいていた。
「今はそれどころじゃないっ、離してっ!」
「最後まで聞いたら離してやるよ!
それまで絶対離さねぇ」
ケンカに明け暮れて、散々修羅場をくぐって来た倫太郎は……
自分の今の状態が、ヤバいのを察していて。
もしこのまま死んだら……
望にとって重大な真実が、永遠に闇に葬られてしまうと。
仁希からの口止めを破ってでも、言わずにはいられなかったのだ。
どうにもならない状況に、望はボロボロと涙が零れ出し……
「じゃあ、止血だけさせてっ」
そう思いついて。
足の付け根が効くんじゃないかと、そこを片手で強く押し始めた。
「……その代わり、ちゃんと聞けよ?」
そう言って倫太郎は、今までの事を思い返した。
*
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「なんで俺を?」
「まぁ決め手は、何でもするから女助けろって喚いてた事かな。
黙れってボコボコにされても、全然引き下がんなかったし。
頭悪いけど根性あんな~って」
「っせーな、俺が巻き込んだんだから当然だろ」
「そういう義理堅いとこもだよ。
あと、めちゃくちゃ喧嘩強いんだってな?
お前の事は色々調べさせてもらったよ。
誰も信用しない一匹狼だから、情報が漏れるのも最小限に防げるし。
なりより、女っていう人質がいるし?」
「どういう意味だよ」
仁希を睨む倫太郎。
親からも誰からも愛されず、邪魔者にされてきた倫太郎は……
誰にも心を許せず。
自分は要らない存在なのに、何で生まれてきたのかとずっと思ってきた。
そのためいつ死んでもいいと、喧嘩に明け暮れ……
言い寄ってくる女とヤるためだけに付き合っては、すぐに終わりを迎えていた。
だけどその女だけは、そんな倫太郎でも愛想を尽かさず、いつも助けてくれていて……
愛を知らない倫太郎が、心を許し始めた矢先。
今回の事態に巻き込んでしまい。
どんな事をしても、今度は自分が助けたいと思っていたのだ。
「お前には、ある女詐欺師を守ってもらう。
そしたらお前の女も助けてやるよ」
「……なんで自分で守らねんだよ」
「関われない事情があるんだ。
お前だって、もうその女を自分に関わらせたくないんじゃないのか?」
それは図星で……
倫太郎はもう二度と、こんな自分に巻き込みたくないと思っていた。
「……守るって、ボディガードか?」
「それもあるけど。
天才ハッカーのフリして、バディになってもらう」
「はっ?
いやムリだろ、パソコンとか触った事ねぇし」
「お前らにいくら払ったと思ってんだ?
基礎知識と高速タイピングだけでいいから、死ぬ気で身に付けろ。
あとは俺が処理するし、お前用の検索ツールも作っとくよ」
「そんなんで誤魔化せんのか?」
「心配ない、彼女も一匹狼タイプだ。
ほとんど干渉してこないだろう。
もし目の前で作業する事になっても、その検索ツールである程度なんとかなるし。
無理なら理由をつけて、調べとくってかわせばいい。
あと俺の手が空いてたら、これで指示するからその通りにやればいい」
と、ワイヤレスイヤホンを露呈した。
「それでバディを組んだら、GPSで常に彼女の動向を見守ってもらう」
「常に?
そこまでする必要あんのかよ。
そんな事したって守れるとは限らねぇし、そんな仕事じゃ危険は避けて通れねぇだろ」
「それでも……
出来る全てで守りたいんだよ」
「……そこまでそのオンナが大事なのかよ」
「大事だよ。
人生で唯一。
だから、もし手ぇ出したら……
お前もお前の女も殺す」
もちろん脅しだったが……
長年裏の世界で生きてきた男のそれは、本気と思わせるには充分だった。
「……出さねぇよ、人のオンナに興味ねぇし。
別に命なんか惜しくねぇけど。
アンタに買われなかったら、俺たちはきっと生きながら死んでた。
だから、アンタのためにこの命使ってやるよ。
その代わり、アイツを絶対助けろよ?」
「それはお前の行動次第だ。
そのために、四六時中見張らせてもらう」
「……アンタ暇人?」
「はは、お前と一緒にするな。
盗聴器を仕込んで、こっちのタイミングで探らせてもらう。
つまり、変な真似したらすぐにバレるって事だ。
でも逆に、ちゃんと守ればお前の女も守ってやるよ。
悪くない話だろ?」
さらに仁希は……
バディで得た分け前は回収するが、相応の報酬は支払うと約束する。
それから倫太郎に、保険証を作らせ免許を取らせると。
盗聴器を仕込んだ住居と車と携帯を用意したのだった。
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