恋愛図書館

よつば猫

文字の大きさ
上 下
31 / 46

6月ー1

しおりを挟む
 そしてまた1年の月日が流れた。

「この指輪は、私の愛と真心と変わらぬ貞節の誓いであり、しるしです」
その言葉と共に、指輪が薬指に通される。

 そして誓いのキスを交わした、幸せそうな2人を映して……
俺まで胸が熱くなる。

 ジューンブライドに因んだ、6月の今日。
巧と章乃ちゃんの結婚式が執り行なわれて、自分の事みたいに喜びを感じてた。

 だけど少し切なさも。
7年前の今頃、俺と結歌も結婚を描いてたのにな……

 それは、ふとした瞬間に。






 風呂上がりに結歌特製のブルーベリーシャーベットを食べて、ソファでまったりしてると……
ウトウトし始めたキミ。

「そろそろ眠る?」

「んん、おかしーな……
ブルーベリーは眠気を覚ますはずなのに」

「え、夜なのに眠気覚ますつもりだった?
しかもブルーベリーって、目の疲れに効くんじゃなかったっけ?」

「どっちもでーす……
ブルーベリーはすごいんだよ?他にもいっぱい……」

「じゃあその凄さは今度聞くから、今日はもう眠ろっか」
そう促して、俺の体に寄りかかってるキミを抱きかかえようとすると。

「まだ寝ませーん!まだずーっと……
明日休みだよ?
それにこのまったりしたカンジ、なんか好き……」
ジタバタ抵抗した後に、また俺に体を預けた。

 愛しさが込み上げすぎて、まったりを壊してしまいそうな自分を必死に抑えながら。
そっとキミの頭を撫でた。

「じゃあ結歌の気が済むまで、ずっとこうしてよっか」

 そう言うと結歌から、嬉しそうなクスクス声が漏れる。

「ずっとだよ?ずーっと。
気が済むまでとーぶん。
それでねぇ……
ずっとずうっと、道哉と一緒に居たいなぁ。
あ、こっちは永久に気が済む事はありませんよっ?」

 まるで逆プロポーズみたいな言葉を、笑いながら零すキミに。
胸が弾けて言葉に詰まった。

「……え、無反応!?
もしかして引いちゃってるっ?」
慌ててキミが体を起こす。

「っ、引いてるよ。
むしろ呆れてる。
居たいじゃなくて、居てくれなきゃ困る。
俺は、ずっと一緒に居るのが当たり前だと思ってたけど、違った?」
キミの言葉に負けじと、強気な気持ちを返してみると。

 始めはショックそうな表情を覗かせてたキミが……
キョトンと固まって、すぐにその顔を歪ませた。

「違わないっ……
違わないけど紛らわしーよっ!」
そう抱きついてきて、俺の胸に顔を埋める。

「ごめんごめんっ。
改めて、ずっと一緒に居ような?」
俺もぎゅっと抱き返しながら。

 プロポーズもどきの気持ちが嬉しくて堪らなくて。
夢とは別の、もう1つの未来に勇気が湧いてた。

 正直その未来と向き合うのは、何よりも怖かった。
だけど……

ーどんな道でも、キミと一緒に歩みたいー
ずっと抱えてた確かな気持ちを、確かな現実に変えようと思えた。

 その内ちゃんと、俺からプロポーズしよう。
そう心に決めて。
浮かんだキミのドレス姿に、頬が緩んだ。






「章乃、綺麗だなぁ……」

「文乃もそろそろ結婚したくなった?」

 二次会の会場になってる俺の職場で、料理を出しながら……
仕事尽くしの彼女に問い掛けた。

「まぁ、ね。
私もいいかげん、前に進まなきゃね……」

「へぇ、いい人が居るんだ?」

 ひとまず料理を出し終えた様子に、そこでそのまま話を続けると。
睨み顔が向けられる。

「そーゆう意味じゃないわよっ。
章乃にはね、前から言われてたの。
道哉には心に決めた人が居るから、どうにもならないよって。
お姉ちゃんはお姉ちゃんの運命の人を探しなよ、って」

 思ってもないカミングアウトに、暫し硬直。

「……っ、えっ?」

「えっ、じゃないわよ。
どんだけその子しか見えてないワケ?
こんなに長い間、ココの担当で居続けたのも。
その為に他のオイシイ仕事を蹴ってきたのも。
それなりにモテて来たのに独り身で居たのも。
想いを仕事尽くしで誤魔化して、道哉の友人で居続けたのもっ……
全っ部道哉の事が忘れられなかったからでしょ!?
こんの鈍感オトコっ!」

 実を言うと、そう感ずいてた時期もあった。
だけどさすがに何年もそれはないと、とっくにその考えは消えていた。

「っっ……
ごめん、俺っ……」
あまりに健気で一途な想いに、言葉が詰まる。

「謝らないで!わかってるんだからっ。
余計惨めでしょっ?」

「そうじゃなくてっ……」
文乃の気持ちは、狂おしいほどよく解る。

 手に入らないかもしれない相手を何年も想い続ける……
切なくて、もどかしくて、やり切れない気持ち。

 しかも文乃は、俺の心に揺るぎない存在が居るのを解ってて。
それを側で見守りながら、ずっと……

「何で俺なんだよっ」
思わず片手で顔を覆った。

「……私だって自分を問い詰めたいわよ。
あと道哉の事も。
何でその子なのよ、って」

 その言葉で、ハッと文乃に顔を向けて……
ため息が零れた。

 そうだよな……
想いは理屈じゃない。
女を憎んでた俺が、結歌に溺れたように。
ずっと会えなくても、愛が募るように。

 そして文乃の気持ちが解るからこそ。

「気付けなくて、ごめん。
付き合ってた時も、友人でいた時も……
大事に出来なくて、ごめんっ。
だけど……
ずっとずっと、ありがとうっ」
感極まった想いを伝えると。

 文乃の瞳に眩い雫が膨らんで……
大きく崩れた。

「っっ……
あとで後悔したって、遅いからね?
結局ずっと独りぼっちで、寂しい人生送ってもっ、知らないからねっ?」

「ん……
覚悟してるよ」

「下半期は異動に踏み切るしっ、もう滅多に会えないんだからねっ?
だけどそれでもっ……
道哉の新しい道は、ずっと応援してるからねっ!」

「んっ……
俺も文乃の新しい道、応援するよ。
そんで負けないくらい、俺も頑張るよ」

 ずっと働いて来たこの店で、来月からはバイトになる。
時間的融通が利くようになる分、それを開業準備に充てて……
俺もとうとう、自分の夢へ踏み出そうとしてた。

「あとっ!
あと……
その子との未来を掴めるように、祈ってるからねっ」

 そう泣き笑う文乃が凄く綺麗で、愛しく思えて……
思わず抱きしめたくなったけど。
向けた視線に投影して、感謝の思いで頷いた。

 ありがとう、文乃……
俺、何としてでも望む未来を掴まえるよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブエン・ビアッヘ

三坂淳一
ライト文芸
タイトルのブエン・ビアッヘという言葉はスペイン語で『良い旅を!』という決まり文句です。英語なら、ハヴ・ア・ナイス・トリップ、仏語なら、ボン・ヴォアヤージュといった定型的表現です。この物語はアラカンの男とアラフォーの女との奇妙な夫婦偽装の長期旅行を描いています。二人はそれぞれ未婚の男女で、男は女の元上司、女は男の知人の娘という設定にしています。二人はスペインをほぼ一ヶ月にわたり、旅行をしたが、この間、性的な関係は一切無しで、これは読者の期待を裏切っているかも知れない。ただ、恋の芽生えはあり、二人は将来的に結ばれるということを暗示して、物語は終わる。筆者はかつて、スペインを一ヶ月にわたり、旅をした経験があり、この物語は訪れた場所、そこで感じた感興等、可能な限り、忠実に再現したつもりである。長い物語であるが、スペインという国を愛してやまない筆者の思い入れも加味して読破されんことを願う。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

しんおに。~新説・鬼遊戯~

幹谷セイ
ライト文芸
オカルト好きな女子高生・談子の通う学校には、鬼が封印されているという伝説がある。 その謎を解き明かそうと、幼女の姿をした謎の生徒会長・綺羅姫と行動を共にするうちに、本当に封印された鬼を蘇らせてしまった。 学校は結界によって閉鎖され、中に閉じ込められた生徒たちは次々と魂を食われてゆく。 唯一、鬼を再び封印できる可能性を秘めた談子は、鬼を監視するために選び抜かれた、特殊能力を持つ生徒会役員たちと力を合わせてリアル鬼ごっこを繰り広げる!

幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~

海獺屋ぼの
ライト文芸
 千葉県千葉市美浜区のとある地下街にある「コスチュームショップUG」でアルバイトする鹿島香澄には自身のファッションブランドを持つという夢があった。そして彼女はその夢を叶えるために日々努力していた。  そんなある日。香澄が通う花見川服飾専修学園(通称花見川高校)でいじめ問題が持ち上がった。そして香澄は図らずもそのいじめの真相に迫ることとなったーー。  前作「日給二万円の週末魔法少女」に登場した鹿島香澄を主役に服飾専門高校内のいじめ問題を描いた青春小説。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」 寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。 クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。 第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...