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よつば猫

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2月ー1

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 再び1年が過ぎた、2月。

 街は、色んな好意で溢れてる。
それは俺の所にも……

「あのっ、好きなんです!
つ、付き合って下さいっ」

 よく挨拶を交わす隣の店の子が、俺にチョコレートを差し出してきた。

「……ごめん、受け取れない。
俺、誰とも付き合う気ないんだ。
でもありがとう」
気まずい思いで店内に戻ると。

「相変わらずモッテモテね~。
なのにいつも断っちゃうのは、私への罪悪感からかな?」
営業に来てた文乃が、からかうように声掛けてきた。

「それもあるよ」

「も、って事は、あとは何?」

「それは秘密」

「うわ、もったいぶっちゃって」

 最初は気まずかった文乃とも、今はいい友人だ。

 そんな文乃を最後に、俺は誰とも付き合わなくなった。
3人の元カノへの罪悪感も、理由の一部ではあるけど……
主には、忘れるってゆう無駄な抵抗をやめたから。

 結局どう足掻いたって、俺の心は結歌だらけなんだ。

 受け入れたら苦しさは少しマシになったけど……
今度は切なさが増大した。

 感情に逆らわないって事は、いつか時間が解決してくれるまで想い続けるって事で……

 なぁ結歌、おかしいだろ?
キミは側に居ないのに、好きな想いは膨らむんだ。

 それに伴って、会いたくなって……
切なさに押し潰されそうになる。

 更に、2月の甘い思い出は……
去年同様、想いを煽る。






「ハッピーバレンタイ~ン!
はいどーぞっ」
ケーキボックスを差し出してきた、遅い帰宅の結歌。

 今日は俺の店も忙しかったけど、スイーツカフェはもっと忙しかったはずで。
当然、手作りの余裕なんかないと思って……

「ありがとっ。
結歌の店のケーキ、食べてみたかったんだ」

「え、そーなのっ?
ざんねーん!箱はうちの店だけど、中身は千川さんが作りましたぁ~」

「え、結歌の手作りっ?
だったらもっと嬉しいよっ」

「うっそだぁ~!
絶対取り繕ったでしょっ!」
すごく嬉しそうに茶化すキミ。


 そして胸を膨らませながら、食後を迎えると。

「もしかして、これっ……」

「目が輝いてますね~。
そお、お察しのとーりですっ」

 目の前には、俺の1番好きなティラミス。
しかも小さめとはいえ、贅沢にワンホールの姿で!

「うわ、うわー」
角度を変えて覗き込んでると。

 吹き出す結歌。
「大げさだよっ!そんなに好きなのっ?」

「だって、ティラミスをワンホールとか初めてだし……
好きだって事も覚えてくれたわけだし、 なにより結歌の手作りだろ?」

「そーだけどっ。
はいはい、じゃあさっそく食べて下さいっ?」

 口にしたそれは、親父が毎年買ってくれてたものとよく似た味で……
胸が詰まった。

 思わず顔を歪めると。

「え、美味しくないっ?
うそ、どーしよっ」
キミが慌てて横からつまむ。

「あぁごめんっ、そうじゃなくて……
なんか、幸せな味がして」

「それ、微妙な表現なんですけど~」

「いやっ、ほんとに旨いよ。
ただ、誕生日に買ってもらってたのと同じ味でさ。
そのケーキ屋、今は無くなってて……
もう味わえないと思ってたから」

「そうなんだ……
だったらなんか、嬉しいな。
道哉の思い出と関われたみたいで……」
しみじみと微笑むキミの言葉が。

 口の中でほろっと溶けるティラミスみたいに、俺の心をほろっと溶かした。

「ん……
俺もすごく、嬉しいよ。
この味さ、俺と親父の大好物でさ……
年に1度を楽しみにしてたんだ」

 ワンカットのティラミスは……
一緒に食べた方がおいしいよ!って、いつも俺が半分に切り分けて。
親父と2人で、ささやかな幸せを味わってた。

「そっかぁ……
じゃあ今度は、道哉のお父さんにも作ってあげたいなぁ」

 そう優しげに目を細める結歌に…
胸がジワリと締め付けられる。

「ありがと……
親父も天国で喜んでるよ」

 途端、キミの表情が驚きに変わる。

「あぁ親父、ってか両親とも他界してるんだ。
だからさ。
今度墓参りの時、ティラミス作ってくれる?」
明るめに切り返したけど。

 キミは少し切なげに微笑んだ。

「もちろんだよ。
あと、よかったら私も手を合わせたいな……」

「ありがと。
じゃあ、墓掃除も手伝ってくれる?」

「うん、喜んでっ」
今度はキミも明るめに返してくれて。
心がふっと軽くなる。


 そうして、幸せ味のティラミスを食べ終えると。
恒例のメッセージ本と一緒に、バレンタインプレゼントまで渡された。

 それは、和紙布ボディタオルで……

「ありがとうっ。
でも何で2つ?ピンクのは結歌の分?」

「うん、そう……
これで、洗いあいこしよーねっ?」

 瞬間、一時停止。

「え……ええっ!?
え、いーのかっ?っ、解禁!?」
理性崩壊寸前の状態で、結歌の肩をガッシリ掴む。

「う、うん……
落ち着こうか!道哉クンっ」

「よしっ、今すぐ入ろう!
片付けは後で俺がやっとくから」
落ち着けるはずもなく、そう結歌を抱き上げて風呂場に向かうと。

「ちょっ……
待って待って!着替えとかさっ」
もっともな足止めを食らう。


 更には俺が脱がしたかったのに、今日はおあずけで……
半端ない胸の高鳴りを引き連れて、先に入って待つ事に。

 そして恥ずかしそうに現れた、眩しい姿。

 ヤバい、落ち着け、しっかりしろっ。
おかしくなりそうなほど、見たくて堪らなかった姿を前に。
今にも襲いそうになる。

 そんな自分を必死に抑えてたのに……

「もぉ、見すぎ……」
恥じらう仕草は反則だ。

 バッと湯船から出て、その身体を抱き寄せると。
右肩から背中に向かって、大きな傷痕が目に入る。

「あっ……肩ねっ?
小学生の時、木登りしてたら落っこちちゃって!
ほらっ、おてんばだったからさぁ」

「おてんばにも程があるだろ……
けど、痛かっただろ?」
そっとその傷をさすった。

「っ、どうだろっ?あんま覚えてないんだよねっ。
それより……気持ち悪くないの?」

「えっ?」
その質問で、解った気がした。

 一緒に風呂に入るのを拒んだり、抱き合う時に真っ暗を求めたり……
それは恥ずかしがり屋だからじゃなくて、この傷を気にしてたからじゃないかって。

 傷痕に優しくキスを落として、何度もそれを繰り返すと……

「結歌の全てが愛しいよ」
そう答えを返した。

「っっ、道哉大好きっ……
ね、愛してる……」

 ただでさえ、俺の興奮は計り知れないのに。
そんな事言われたら、もう……


「ダメっっ……もっ、狂いそっ……」

「うん俺もっ……
一緒に狂ってくれるっ?」

 俺達は、何度も何度も愛の言葉を口にして……
おかしくなるほど、身体で愛を確かめ合った。






 思い出す度、心が引き裂かれそうになる。
まるで俺達は、元々一つだったかのように……
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