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よつば猫

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始まり2

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「楽しそうだね?
こっちまで楽しくなるよ」

「楽しいよ!
でもサイカくんは、誰よりも楽しくなさそうに見えるけど……」

 再び驚いた。
さっきの動作といい、洞察力の鋭い女だな。

 そりゃ仕事だし、ホストなんて表面的な華やかさからは想像もつかないほど過酷な世界だから。
誰だって楽しい訳ない。

 けど俺は、楽しい演技を見破られた事なんかなかったのに。
誰よりも楽しくなさそう、だって?
ぶすくれてる奴とか、ぼーっとしてる奴とかも居るのに……
俺が内心、女を見下したり憎んでるのを感じ取ってるのか?

「そりゃあ自分が楽しむんじゃなくて、姫達を楽しませるのが仕事だからね」
とりあえずそう誤魔化すと。

「だったら余計、自分が楽しまなきゃ相手も楽しめないと思うよ?
ほらお酒もさ、片方シラフだとなんかシラケたりするじゃん?
それに楽しさって伝染すると思う!」

 面倒くさい。
興味を持った事を少し後悔した。

「すごいねユイカちゃん、勉強になるよ。
ただ仕事となると、楽しんでばかりじゃいられないけどね」

「ん~、でも人生の3分の1は仕事なんだし、楽しまなきゃ損じゃない?」

「そうだね。
まぁ言うほど簡単じゃないとは思うけど。
ユイカちゃんは楽しんでるんだ?仕事」

「うん!楽しいよっ。
仕事でも何でも。
私ね、楽しさを見つけるプロになりたいのっ」
そうキミは笑った。

 その笑顔は輪をかけてキュートで、鮮やかなほど明るくて……
視界が眩しく感じた。

 きっと愛されて天真爛漫に育ったんだろう。
俺とは違う。
即座に、関わりたくないと思ったのに……
既にその眩しさに惹かれてた。

「じゃあ俺にも、楽しさを見つけるコツ教えてくれる?」

「いーよっ。
ほんとは受講料取るんだけど、特別に初回無料ねっ?」
そうふざけて楽しそうに笑う。

「まだプロじゃないのに金取るんだ!
詐欺っぽいトコは目ぇつぶるから、ずっと無料にしてくれる?」

「んん~?
その代わり、楽しさ講座を普及させてねっ」
わざとらしくニヤニヤ悩んで、また笑顔。

ー楽しさって伝染すると思う!ー
ふと、その通りだと思った。

「まずはね、思い込む事!
これには想像力が必要です。
例えば、旅行って楽しいよね?
でも冷静に見ると、同じ日本なら住んでる町と大して変わんなかったりするんだよ?
なのに街並みもコンビニも違って見える。
なんでだと思いますかっ?」

「いきなりクイズ?
まぁ、テンション上がってるからだろ?」

「それもあります。
でも今回のテーマは思い込みです!
旅行だ!とゆう特別感が、見える景色を変えたのですっ」

「それなにキャラ?」
俺の突っ込みをスルーして、キミは熱弁を続ける。

「だったらその特別感を、実生活に取り入れてみましょう!
ここで、さっき言った想像力が必要になります」
そう言って目をつぶるキミに。

 なんだろう……
胸がむず痒くて、高揚する。

「どうですか?」

「え、何が?」

「何がって、想像しましたかっ?」

「あ、ごめん、よくわかんない」
けど、なぜだか楽しい。

「だから~、いつもの景色を旅行に来て初めて見た景色だと思い込むの!
わぁ~、こんなトコにこんな道が!とか。
駅はどんな人達で溢れてるんだろう?
この町ではどんな時間が流れてるんだろう?
とかねっ」

「それ、けっこうな想像力と思い込みが必要だね」

「頑張って鍛えて下さいっ。
新しい発見と新鮮な気分で、ほんとに楽しくなっちゃうから!」

 言ってる事は最もだと思うけど、要は何でも楽しくプラス思考でって事だろ?
しかも言うほど簡単じゃない。

 だけど俺は、彼女流の発想や楽しく説き明かしてる姿に……
このモノクロの世界から連れ出されてく気がしてた。

「かもね。
けど俺の場合は、まず旅行を経験しないとな」

「修学旅行でもOKだけど、楽しくなかった?」

「いや、それも参加してなくて」

 そこでまた、他の枝から横ヤリが入った。

「なんか結歌たち楽しそーだね~。
えっと、サイカくんだっけ?
てか名前被ってない!?イカコンビだっ」

 うるせぇな、変なコンビ名つけんなよ。
でもキミは、やっぱり楽しそうに応える。

「ほんとだっ、イカコンビ!
ね、サイカくんの名前ってどう書くのっ?」

「えっと……」
チラと巧に視線を流すと、名刺渡せよと目配せが返される。

 この席担当の許可を得て、正々堂々とそれを渡すと。

「うそ、歌なんだ!?
私と同じ!
私はねっ?結ぶに歌なんだよっ?」

「え、そうなんだ?
……なんか、運命ぽくない?」
お決まりの甘ゼリフ。

 だけど、いつもとは違う。
罪歌はただの源氏名なのに、俺はきっと本気で運命的に感じたんだと思う。

 そしたらキミも……
「ぽいね!運命だねっ」
クシャっと満面の笑みで笑った。


 キミの笑顔は本当に眩しくて。
気付けば、モノクロで歪んでた景色は……
鮮やかに、輝いて見えてた。


 女なんか見下して、憎んでた筈なのに。
運命は何の前触れも無く、感情は制御出来ないものだ。

 俺は初めて恋に落ちて……
鮮やかな時間が始まった。



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