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二部【学園編】

ヤらないよ

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俺もずいぶん慣れたもので、セスと夜を共にした翌日でも普通に起きられるようになった。
朝はゆっくりしたい派のセスをベッドに残し、日課のジョギングをこなす。余談だがジュードだと寝起きで本番をいたされてしまうことが多くて、走るどころじゃなかったりする。

「カヤ、おはよう」

中庭のカヤの墓まで来ると、サロンから続くテラスでセスと蒼士郎が迎えてくれる。
庭から直接サロンに入り、セスに清潔の魔法をかけてもらって、朝食の支度が整うまでピアノを弾いた。毎日弾いている内に、だんだん指が動くようになってきて楽しい。

朝食を食べて制服を着たら、セスと一緒に馬車で出発。魔術師団でセスを降ろして、俺はそのまま学園へ。
俺が学園へ行った後、蒼士郎はあちこち出歩いているらしい。見聞きした事を夕飯の時にいろいろと話してくれる。ああ、家族がいる日常って尊いなあ。

「よお、ソーヤ!」

教室に入れば、ミッチの明るい声とネイトの控えめな笑顔。女子生徒からも挨拶の声が次々かかって、応えながらも口元が緩む。ああ、俺にとっては学園の日常もまた尊い。

「おはよ、ミッチ、ネイト。えっと、そちらは…」

彼らに近づくと、ミッチの後ろに大きい人がいた。同じクラスだし、見覚えがある。昨日ジャイルズを邪険にしてた子だ。最初はジャイルズのグループと話していたようだったけど、取り巻き、とは違うのかな。

「こいつは同じ寮生でデズモンド。ジャイルズ側の情報を教えてくれた」

静かな身のこなしで、デズモンドはミッチの横に並んだ。褐色、まではいかないが、よく日に焼けた人のように浅黒い肌で、顔立ちも少し系統が違う。この国で会う人は金髪率が高くてデズモンドも例に漏れないが、グレーがかった砂漠の砂のような色だった。

「そうなんだ、デズモンドくん、ありが…」

お礼を言おうとしたら、手で制された。草色の瞳がじっと俺を見据えて、「礼を言われるような意図はなかった」と告げる。なんか佇まいが独特な人だな。武人ぽいというか、あ、剣術の時刃を潰した剣持ってたからS級の人だ。

「ジャイルズの言う事が本当なら、一度お相手願いたいと思ってミッチェルに確認しただけだ」

「……は?」

「っはは、お前それ言っちゃうのかよ。せっかくいい人っぽかったのに」

「台無しだね」

ミッチは声を上げて笑い、ネイトも苦笑している。笑われている当の本人は微動だにせず俺を見つめていて、かすかに口元を緩めたと思ったら、「やはりいいな」と不穏な事を呟いた。

「俺と、ヤらないか?」

直球すぎて固まる俺を見て、ミッチが爆笑した。理解が追いつか…なくはないけど、心が理解するのを拒んでいる。
気を取り直して、ため息と共に「ヤらないよ…」と力なく答えると、デズモンドは平坦な声で「残念だ」と返してきた。本気なのかからかわれているのか試されているのかわからない。

「デズモンドはむっつりだからなー」と、なんでもない事のようにミッチは笑うが、クラスメイトに性的な興味を持たれるのって微妙だ。必要以上に近づいてきたりはしないので、嫌な感じではないんだけどね。

デズモンドの実家は辺境伯に仕える騎士爵だそうだ。辺境伯は文字通り辺境、つまり国境を守るために広大な領地と屈強な軍隊を持っていることが多い。デズモンドの主家も北に位置する草原と西の山脈を国境とする大きな領地を持ち、外敵から国を守る役目を担っている。勤倹尚武の気風を持つ土地柄らしい。確かにそんな雰囲気はあるな。

「その気になったら、俺はいつでも構わない。待っている」

辺境伯について考えを巡らせながらデズモンドを見たら、性的にウェルカム宣言をされてしまった。節度は守るが据え膳はいただきますよアピールがすごい。だからヤらないってば。

「デズモンドがむっつりなのはともかく、バランスのいいメンツになったな、これ」

万能型で情報通のミッチ、頭脳のネイト、体力のデズモンド、魔法が俺?
わくわくした顔でみんなを見回したミッチに、デズモンドが「パーティを組んで冒険しても良さそうだな」と頷いた。仲間と冒険、小説みたいで夢が広がるな。

そんな事を4人で語らっているうちにクラークが教室に入ってきて、俺たちは慌ててそれぞれの席に着いた。
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