58 / 60
二部【学園編】
ヤらないよ
しおりを挟む
俺もずいぶん慣れたもので、セスと夜を共にした翌日でも普通に起きられるようになった。
朝はゆっくりしたい派のセスをベッドに残し、日課のジョギングをこなす。余談だがジュードだと寝起きで本番をいたされてしまうことが多くて、走るどころじゃなかったりする。
「カヤ、おはよう」
中庭のカヤの墓まで来ると、サロンから続くテラスでセスと蒼士郎が迎えてくれる。
庭から直接サロンに入り、セスに清潔の魔法をかけてもらって、朝食の支度が整うまでピアノを弾いた。毎日弾いている内に、だんだん指が動くようになってきて楽しい。
朝食を食べて制服を着たら、セスと一緒に馬車で出発。魔術師団でセスを降ろして、俺はそのまま学園へ。
俺が学園へ行った後、蒼士郎はあちこち出歩いているらしい。見聞きした事を夕飯の時にいろいろと話してくれる。ああ、家族がいる日常って尊いなあ。
「よお、ソーヤ!」
教室に入れば、ミッチの明るい声とネイトの控えめな笑顔。女子生徒からも挨拶の声が次々かかって、応えながらも口元が緩む。ああ、俺にとっては学園の日常もまた尊い。
「おはよ、ミッチ、ネイト。えっと、そちらは…」
彼らに近づくと、ミッチの後ろに大きい人がいた。同じクラスだし、見覚えがある。昨日ジャイルズを邪険にしてた子だ。最初はジャイルズのグループと話していたようだったけど、取り巻き、とは違うのかな。
「こいつは同じ寮生でデズモンド。ジャイルズ側の情報を教えてくれた」
静かな身のこなしで、デズモンドはミッチの横に並んだ。褐色、まではいかないが、よく日に焼けた人のように浅黒い肌で、顔立ちも少し系統が違う。この国で会う人は金髪率が高くてデズモンドも例に漏れないが、グレーがかった砂漠の砂のような色だった。
「そうなんだ、デズモンドくん、ありが…」
お礼を言おうとしたら、手で制された。草色の瞳がじっと俺を見据えて、「礼を言われるような意図はなかった」と告げる。なんか佇まいが独特な人だな。武人ぽいというか、あ、剣術の時刃を潰した剣持ってたからS級の人だ。
「ジャイルズの言う事が本当なら、一度お相手願いたいと思ってミッチェルに確認しただけだ」
「……は?」
「っはは、お前それ言っちゃうのかよ。せっかくいい人っぽかったのに」
「台無しだね」
ミッチは声を上げて笑い、ネイトも苦笑している。笑われている当の本人は微動だにせず俺を見つめていて、かすかに口元を緩めたと思ったら、「やはりいいな」と不穏な事を呟いた。
「俺と、ヤらないか?」
直球すぎて固まる俺を見て、ミッチが爆笑した。理解が追いつか…なくはないけど、心が理解するのを拒んでいる。
気を取り直して、ため息と共に「ヤらないよ…」と力なく答えると、デズモンドは平坦な声で「残念だ」と返してきた。本気なのかからかわれているのか試されているのかわからない。
「デズモンドはむっつりだからなー」と、なんでもない事のようにミッチは笑うが、クラスメイトに性的な興味を持たれるのって微妙だ。必要以上に近づいてきたりはしないので、嫌な感じではないんだけどね。
デズモンドの実家は辺境伯に仕える騎士爵だそうだ。辺境伯は文字通り辺境、つまり国境を守るために広大な領地と屈強な軍隊を持っていることが多い。デズモンドの主家も北に位置する草原と西の山脈を国境とする大きな領地を持ち、外敵から国を守る役目を担っている。勤倹尚武の気風を持つ土地柄らしい。確かにそんな雰囲気はあるな。
「その気になったら、俺はいつでも構わない。待っている」
辺境伯について考えを巡らせながらデズモンドを見たら、性的にウェルカム宣言をされてしまった。節度は守るが据え膳はいただきますよアピールがすごい。だからヤらないってば。
「デズモンドがむっつりなのはともかく、バランスのいいメンツになったな、これ」
万能型で情報通のミッチ、頭脳のネイト、体力のデズモンド、魔法が俺?
わくわくした顔でみんなを見回したミッチに、デズモンドが「パーティを組んで冒険しても良さそうだな」と頷いた。仲間と冒険、小説みたいで夢が広がるな。
そんな事を4人で語らっているうちにクラークが教室に入ってきて、俺たちは慌ててそれぞれの席に着いた。
朝はゆっくりしたい派のセスをベッドに残し、日課のジョギングをこなす。余談だがジュードだと寝起きで本番をいたされてしまうことが多くて、走るどころじゃなかったりする。
「カヤ、おはよう」
中庭のカヤの墓まで来ると、サロンから続くテラスでセスと蒼士郎が迎えてくれる。
庭から直接サロンに入り、セスに清潔の魔法をかけてもらって、朝食の支度が整うまでピアノを弾いた。毎日弾いている内に、だんだん指が動くようになってきて楽しい。
朝食を食べて制服を着たら、セスと一緒に馬車で出発。魔術師団でセスを降ろして、俺はそのまま学園へ。
俺が学園へ行った後、蒼士郎はあちこち出歩いているらしい。見聞きした事を夕飯の時にいろいろと話してくれる。ああ、家族がいる日常って尊いなあ。
「よお、ソーヤ!」
教室に入れば、ミッチの明るい声とネイトの控えめな笑顔。女子生徒からも挨拶の声が次々かかって、応えながらも口元が緩む。ああ、俺にとっては学園の日常もまた尊い。
「おはよ、ミッチ、ネイト。えっと、そちらは…」
彼らに近づくと、ミッチの後ろに大きい人がいた。同じクラスだし、見覚えがある。昨日ジャイルズを邪険にしてた子だ。最初はジャイルズのグループと話していたようだったけど、取り巻き、とは違うのかな。
「こいつは同じ寮生でデズモンド。ジャイルズ側の情報を教えてくれた」
静かな身のこなしで、デズモンドはミッチの横に並んだ。褐色、まではいかないが、よく日に焼けた人のように浅黒い肌で、顔立ちも少し系統が違う。この国で会う人は金髪率が高くてデズモンドも例に漏れないが、グレーがかった砂漠の砂のような色だった。
「そうなんだ、デズモンドくん、ありが…」
お礼を言おうとしたら、手で制された。草色の瞳がじっと俺を見据えて、「礼を言われるような意図はなかった」と告げる。なんか佇まいが独特な人だな。武人ぽいというか、あ、剣術の時刃を潰した剣持ってたからS級の人だ。
「ジャイルズの言う事が本当なら、一度お相手願いたいと思ってミッチェルに確認しただけだ」
「……は?」
「っはは、お前それ言っちゃうのかよ。せっかくいい人っぽかったのに」
「台無しだね」
ミッチは声を上げて笑い、ネイトも苦笑している。笑われている当の本人は微動だにせず俺を見つめていて、かすかに口元を緩めたと思ったら、「やはりいいな」と不穏な事を呟いた。
「俺と、ヤらないか?」
直球すぎて固まる俺を見て、ミッチが爆笑した。理解が追いつか…なくはないけど、心が理解するのを拒んでいる。
気を取り直して、ため息と共に「ヤらないよ…」と力なく答えると、デズモンドは平坦な声で「残念だ」と返してきた。本気なのかからかわれているのか試されているのかわからない。
「デズモンドはむっつりだからなー」と、なんでもない事のようにミッチは笑うが、クラスメイトに性的な興味を持たれるのって微妙だ。必要以上に近づいてきたりはしないので、嫌な感じではないんだけどね。
デズモンドの実家は辺境伯に仕える騎士爵だそうだ。辺境伯は文字通り辺境、つまり国境を守るために広大な領地と屈強な軍隊を持っていることが多い。デズモンドの主家も北に位置する草原と西の山脈を国境とする大きな領地を持ち、外敵から国を守る役目を担っている。勤倹尚武の気風を持つ土地柄らしい。確かにそんな雰囲気はあるな。
「その気になったら、俺はいつでも構わない。待っている」
辺境伯について考えを巡らせながらデズモンドを見たら、性的にウェルカム宣言をされてしまった。節度は守るが据え膳はいただきますよアピールがすごい。だからヤらないってば。
「デズモンドがむっつりなのはともかく、バランスのいいメンツになったな、これ」
万能型で情報通のミッチ、頭脳のネイト、体力のデズモンド、魔法が俺?
わくわくした顔でみんなを見回したミッチに、デズモンドが「パーティを組んで冒険しても良さそうだな」と頷いた。仲間と冒険、小説みたいで夢が広がるな。
そんな事を4人で語らっているうちにクラークが教室に入ってきて、俺たちは慌ててそれぞれの席に着いた。
10
お気に入りに追加
578
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
お助けキャラの俺は、今日も元気に私欲に走ります。
ゼロ
BL
7歳の頃、前世の記憶を思い出した。
そして今いるこの世界は、前世でプレイしていた「愛しの貴方と甘い口付けを」というBLゲームの世界らしい。
なんでわかるかって?
そんなの俺もゲームの登場人物だからに決まってんじゃん!!
でも、攻略対象とか悪役とか、ましてや主人公でも無いけどね〜。
俺はね、主人公くんが困った時に助言する
お助けキャラに転生しました!!!
でもね、ごめんね、主人公くん。
俺、君のことお助け出来ないわ。
嫌いとかじゃないんだよ?
でもここには前世憧れたあの子がいるから!
ということで、お助けキャラ放棄して
私欲に走ります。ゲーム?知りませんよ。そんなもの、勝手に進めておいてください。
これは俺が大好きなあの子をストーkじゃなくて、見守りながら腐の巣窟であるこの学園で、
何故か攻略対象者達からお尻を狙われ逃げ回るお話です!
どうか俺に安寧の日々を。
だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する
モト
BL
第10回BL大賞奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
2023.12.11~アンダルシュノベルズ様より書籍化されます。
◇◇◇
孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人
姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。
そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。
互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!?
・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。
総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。
自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。
俺は薄幸の青年じゃない!勘違いしないでくれ!
bull
BL
異世界に転生した主人公。
気づいたら森で眠っていた。
……ん?俺、服着てなくね?
こんな肌白かったっけ……?
**********
「なんて可哀想なんだ!そんな美しく愛らしい見た目で裸で捨てられたのか?あぁ!可哀想に!もう大丈夫だ!これからは俺が守ってやるからな?」
………………は?
腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした
沼木ヒロ
BL
顔だけは良い高校一年生の主人公、海野大和(うみのやまと)。いわゆる腐男子である。
ある日子猫を助けた際トラック事故に巻き込まれ、異世界へ転移。
その世界は女性が滅び、男性だけが存在する世界だった。
大和の顔はこの世界では非常に美しい顔立ちらしく周囲から熱い視線、セクハラ、ラブアタック等を受けてしまう。
天使から貰った、使えるのか使えないのかよくわからないへっぽこチート能力のせいで、中出しされてしまったら一貫の終わり。
異世界の本屋で住み込みバイトをしつつ、
果たして大和はこの異世界で中出し妊娠を回避しつつ、腐男子生活を満喫出来るのか?
……そんなお話です。
※下ネタ、H系の用語使用、性行為及びそれを想起させる描写があるのでR18指定にしていますが、比較的過激な描写は少なく緩めです。
しかしそういったものが苦手な方はご注意下さい(過激な描写がある章のタイトルには※印を付けています)。
※物語自体は完結済みです。現在は番外編を時々アップしております。
※この作品は「小説家になろう」様、「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
転生した脇役平凡な僕は、美形第二王子をヤンデレにしてしまった
七瀬おむ
BL
(追記)アンダルシュノベルズ様より書籍化予定となります。本当に、応援してくださった皆様のおかげです!
■転生した平凡執事が、無意識に美形第二王子をヤンデレ化させてしまう話。
美形ヤンデレ第二王子×平凡転生執事/ヤンデレ・執着攻め/ハッピーエンド
■あらすじ
前世でプレイしていた乙女ゲーム『ルナンシア物語』の世界に転生してしまった、第二王子の執事「エミル」。
『ルナンシア物語』は、ヒロインの聖女「マリア」が、俺様系第一王子「イザク」と、類稀なる美貌を持つが心に闇を抱える第二王子「アルベルト」、この二人の王子から取り合いをされるドキドキの乙女ゲームである。
しかし、単なる脇役執事であるエミルは、主人である第二王子アルベルトと、ヒロインのマリアが結ばれなければ死んでしまう!
死を回避するため奮闘するエミルだったが、なぜかアルベルトはマリアに興味がなく、それどころか自分に強い執着を向けるようになって……!?
■注意書き
※カップリングは固定、総受けではありませんのでご了承ください。
※サブキャラ同士ですが、男女カップリングがあります。
※攻め→→→[越えられない壁]→→(←←)受けくらいのイメージです!
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる