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ヘイ羞恥心

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ジュードは寝ていてもいいと言ったけど、邪魔しないからと実務部の人たちが作業をしている執務室に連れて行ってもらった。

俺の体、痛いところはないんだけど、足腰に力が入らなくて、お子様抱っこで運ばれてしまう。
「俺のペットなんだから気にすんな」と言われても、情けないのと恥ずかしいのは仕方がない。
部屋に入るなり案の定注目を浴びてしまい、俺は先制とばかりにぺこりと頭を下げた。

ざわめきが起こる中そろりと顔を上げると、床に転がるしかばねが3人、立って作業をしているのは5人。その中にライラもいて、「ね、ね、おひさまの色でしょ!ププー!」と言っているのがはっきり聞こえた。

俺もしかばねになりたい。

「……」

黙って俯いていると、般若の笑みを貼り付けたセスがつかつかと歩み寄って来る。
セスは俺の前で立ち止まり、無言のまま顎に手をかけてクイっと持ち上げられた。

「セ、セス…?あの、寝てて、ごめんなさ…っん!」

とりあえず謝ろうとしたら、衆人環視の中でキスされた。
セス!見てる!みんな見てるよ!!

俺の心の叫びなどお構いなしに、すぐに舌を絡め取られて浮遊感に襲われる。
ジュードに抱っこされながらセスのシャツにしがみつき、ディープなキスをされるとか。
なんという倫理規定違反。子供は見ちゃいけないヤツだ。

「……ぁっ、ん…ふ……っ…」

必死で声を堪えていると、周囲のざわめきがどよめきに変わった。
「虹色って3Pだったんだ…」という誰かの呟きが聞こえて、羞恥とともに魔力の色が変化したのを知る。
これはもしや、ジュード×セス≠虹色、の証明なのか。

「ん、あ…っ」

「…これでいいでしょう」

最後に俺の耳をこちょこちょして声をあげさせてから、セスは唇を離した。満足げに目を細めて頭を撫でられて、謝るのも抗議するのもやめにする。きっと墓穴掘るだけだし、セスの気が済んだならいいや。うん、俺、だんだん図太くなってきた。

「団長、そろそろ下準備は終わりますよ」

「ああ」

ジュードはセスと会話をしつつ、俺を抱えたままソファへ移動する。
どよめいていたみなさまは、セスに叱られて作業を再開したようだ。

でもライラだけはこっちを見ながら無邪気に手を振っていて、俺は真っ赤になりながら会釈を返した。

なんで彼女は、他人の濡れ場を見といて、あんなにけろっとしていられるのか。
隣りで書類を見ているジュードもまったく気にしてないし。達人か。悟ってるのか。俺もこの境地に達しなければいけないのだろうか。道のりは長いな…。

まあ今のジュードは周りを気にしてない、と言うより、作業に集中しすぎているだけのようだ。
手にしている紙束には、数字と記号と美しい構文がびっちり書かれている。魔術式は数式や化学式とよく似ていて、いつのまにかその複雑な式を解くのに夢中になった。

「あ、ジュード、この値違うみたい」

「げ、ほんとだ。描く前でよか…って、蒼夜?読めるのか?」

「なんとなく?」

数学は好きだし、ジュードの言語知識もあるから、読んだり解いたりするのはできそう。でもこれを何もないところから構築する、ジュードはすごい。
そう伝えると、追加する術式の確認作業を半分くらい分けてもらった。

「やってくれるか?」

「うん。俺でもできることがあって、よかった」

役に立てるのがうれしくてそう言うと、今度はジュードにキスされた。
ソファに並んで座っていたことが災いして、半ば押し倒されながら、シャツの上から胸をまさぐられる。
口内を犯されて抗議の声も上げられず、息苦しさと気持ちよさで思考が蕩けてきてしまう。

「んーっ!んんッ、ン……ゃ…ふ…」

どうしてそんなに快楽に従順かな、俺!

注目を浴びながらのセクハラは、セスが魔石でジュードの頭を殴るまで続いた。

お願い羞恥心、仕事して。


それからしばらく経って、俺はきれいな数式を見つめながら、うつらうつらと舟をこいでいる自分に気が付いていた。気づいていたからと言って止められるものでもない。

「…フ、寝てろ」

「ん…」

隣りにある、ジュードの声、体温、匂い。抗える要素は何一つなくて、俺は引き寄せられるまま、ジュードの膝に頭を乗せた。気持ちいい。

「…ほんっとこいつ、とんでもねえな」

「ソーヤのいた世界は、高度な文明と教育水準を持つようです。それにしても団長の式を初見で解くのですから、ソーヤ自身が相当に英明なのでしょうね。初対面の時も、聡明さに驚きましたよ」

いやいやいや、それほんと誤解。俺程度はザラにいるから。

でも今までやってきたことが、こっちでも生きるならうれしい。ジュードやセスの役に立ちたい。もっと勉強したい。

「蒼夜の身分どうすっかなー。王族からは絶対隠したいし」

ん?なんで?
あ、異世界知識で働かされるってこと?
魔術師団から離されるのは俺もヤダ。

「家に連れて帰れるのでうちの養子に、とも思いましたが、兄弟になってしまいますしねえ」

「それ以前に侯爵家の養子って、王家と近すぎるだろ」

セスの家、侯爵なんだ。知らないことがまだまだいっぱいある。
これから、知っていけることがいっぱいあるんだ。すごい、楽しみ。

「……やっぱり嫁かペットですね」

「やっぱ嫁かペットだろ」

そんなオチかーーーい。

いいよ、ペットでも嫁でも。一緒にいられるなら。

でも、男の嫁って、ありなの?
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