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俺はペット

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顔の熱が引かないまま執務室に連れられ、昼と同じように向かい合う。

テーブルの上は、コース料理をいっぺんに並べたように、所狭しと皿が並んでいた。
数種のカトラリーがフレンチの時みたいに置いてある。

うーん、見た感じ、コース的に食べていいもん、なのかな?
チラ、と向かいを伺うと、セスは「すみません、寝巻きではその、まだ食堂にはご案内できないので」と苦笑した。

ああ、確かに。
ディナーどころか、廊下に出るための服もない。
まあ廊下には(付き添いつきで)出てるけど、執務室と団長室の往復だけ。

「順番など気にせず、好きに食べてもらって構いませんので。どうぞ」

てことは順番あるんだー。

やはり執務室で食べやすいよう、全部一度に出してくれたんだろうな。
俺寝巻きなのに、ボーイに給仕してもらうのもおかしいしね。

「いただきます」とまた習慣で口にして、一応元の世界で知っていた作法通りに食べ始めた。

野菜も肉も新鮮でうまい。調味料があと一歩足りない。魚がない。など、心の中で批評しつつ、順番に平らげていく。

セスは時折俺を見てキレイな顔で微笑み、物音ひとつ立たない魔法のような手つきで食事をしていた。

「当面の、ソーヤの扱いですが…」

俺がメイン料理にさしかかった頃、ナプキンでつい、と形の良い唇を拭ってから、セスが口を開く。

俺は肉を切っていた手を止め、薄く微笑んでいるような切れ長の目を見つめ返した。

「団長のペット、ということにしました」
「?!」

すっごい良い顔で言われて、俺はナイフとフォークを落とした。
といっても元から皿の上だったので、少しソースが跳ねたくらいで、音だけが大きく響く。

「おや、ソースが」

えええ、ペットってどういう事?
っていうかどういうイミで?!

と、動揺しまくる俺の手を、セスが流れるように自然な動作で取る。
淑女への挨拶よろしく唇が近づいて、ソースが一滴ついた指の付け根を舐められた。

「……っ、セ、セセセセセ、セス?!」

ちょっと、お願いちょっと待って。

セスの言葉に対する頭の反応が追いつかないのに、身体は新たな刺激にさっさと反応する。
俺の動揺は一気にMAXだ。
舐められた所からゾクゾクしたものが上ってきて、顔が熱くなった。

セスは壮絶な流し目で俺を見てくすりと笑ってから、指の第一関節あたりにチュッとキスをして、ようやく顔を離してくれた。

うん。指先4本、まとめて握られたままだけどね。

いやだと思ってないのに振り払うのもなんだし、セスの手のほんのりとした温かさとか、さらっとした感触とかむしろ好き…いやいや落ちついて、俺。

「驚かせてすみません。でもソーヤを守るために、ペットが最も都合良いのです」

あ、そうだ、そうだった。
セスの指弄りテクの方に驚いて、ペットの話抜けてたわ。

「ソーヤがいた世界の文明やその知識は、他国から狙われてもおかしくないものです。本来なら王に謁見してもらい、国で保護すべきですが」
「ほえっ?!」

奇声をあげた俺の手を、セスが優しく撫でる。
俺はふう、と小さく息を吐き、続けて大丈夫だと伝えるようにセスの目を見た。

手を繋がれているの、慣れてきた。
むしろ安心できる、気がする。

「まだソーヤには、元の世界に戻れる可能性がありますから、国での保護はその結果次第ですね。私としては、ずっとこちらにいて欲しいと思っていますが」

海外モデルばりの美貌で、手をぎゅっとしてにこっとされると、クラッときてしまった。
自分の顔の使い方をよく分かっているというか、魔術師団の副団長は、美形の策士なのかもしれない。

「とりあえず、何処ぞをほっつき歩いているおバカが戻るまでは、国に知らせず、魔術師団にてお過ごしいただきたいのです」
「……それで、ペット………?」

にっこり。
セス、本日最高の笑顔です…。

まあ、納得、できなくも、ない。

組織内で、団長や副団長の客として遇するなら、少なくとも身元が必要になる。身元を詐称すればどこで綻びが出るかもわからない。
かといって、見習いや下働きになると、タテヨコの人間関係ができ、どこの誰かを詮索される。
いずれの方法も、イケオジが戻るまで国に身バレしない、というのはできなくもないが難しい。

で、団長所有のペットの場合は。

「ソーヤが執務室や団長の自室でゴロゴロしていようと、私に餌付けされていようと、『団長のペット』というだけでみな得心し、そっとしておいてくれるでしょうね」
「そ、そうですか…」

イケオジ団長…日頃の行い…。
ああ、そういえば、まだ名前も知らないな。

「…団長のことを考えましたか?」
「うわ…っと、セス、さん?」

セスが、掴んでいた俺の手を引いた。
まだ料理が並んだままのテーブルの上に身を乗り出す感じになって、空いた手でソファの端を掴み体を支える。

「セス、と。さっきは呼んでくれたでしょう?」
「………っぅ!」

責めるように言ったセスが、俺の中指の先を噛んだ。
舌が爪の先を舐めると息が震えてしまう。こんなところにも性感帯があるとは。

さらに指の股、手のひらのくぼみを舌と唇で愛撫され、指先は手首周辺をうごめいて、俺の手はどんどん開発されていく。

「あ…っ、セ、ス…待……ッ…」

手をいじられているだけなのに、俺は滑稽なくらい身悶えた。多分魔力も使われてる。
くそ、それずるい、反則。
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