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本編と関係ない番外編
番外編 エルドラシアの陰謀? ルシエル×レイ
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砂漠の国、エルドラシア王国、花の離宮。
かつては病を得た王族が静養のために建てたその宮は、数ある離宮の中でも王宮からもっとも離れている。
エルの母から招待を受けた玲は、その離宮へと足を運んでいた。
「まあ、レイちゃんもう覚えちゃったの!今度は一緒に弾きましょうか」
砂漠の中にありながら花と水と緑にあふれたその宮には、王の唯一の恋愛結婚相手、13番目の妃ネフェルとその息子ルシエルが住んでいる。
中庭の小さな泉のほとり、花咲き乱れる木陰で、玲は竪琴で教わったばかりの旋律を爪弾いた。少し遅れて弾き始めたネフェルが低く、高く音を絡めてハーモニーを奏でると、空気が輝き出して精霊たちが集まってくる。
「ふわぁ…きれい」
「うふふ、精霊たちはレイちゃんのことが大好きなのね」
光の乱舞に驚きながら合奏を続けると、蕾は花開き果樹は実をつける。
玲が、精霊楽師ってすごいなー、と思いながら演奏を終えると、はしゃいだネフェルがぎゅっと抱きしめてきた。
「すごーい!レイちゃんがいれば、一年中好きな果物が食べられるわ!レイちゃんの好きなものも植えましょうね」
「わあ、うれしいです!」
リンゴ、もも、ぶどう…砂漠の中で、みずみずしい果物は貴重だ。
精霊に囲まれてネフェルに抱擁されながら無邪気に語らっていると、王族の準正装に身を包んだままのエルが現れた。精霊魔法で転移したのか、エルの周りでも精霊の光が瞬いている。
「エル!」
「母上、レイ、私も混ぜてくれ」
「おかえりなさい、エル」
エルは最近ちょくちょくと王宮に呼ばれている。
罪人の捕縛、囚われた奴隷の解放、穢れによる環境汚染や創世龍の浄化など、エルの功績は著しい。
エルが創世神の力と天使の導き、さらに聖獣や精霊の助力があってのことで、自分はその場にいただけだと主張しても、そもそもふつうはそれらの人知を超えた存在と接する機会はないのだ。
白い髪、褐色の肌の単一民族国家の中で異質な蒼黒の髪を持つことも良い方に作用して、神と精霊の加護を受けた18王子は一味違うぞ、という風潮になってしまった。
「遠巻きにされていた頃がなつかしいよ」
ネフェルたちの傍らに腰を下ろしたエルは、玲の黒髪をそっと撫でた。玲は「おつかれさま」とほほえんで、エルの頬に唇でちょんと触れる。ネフェルは「エルは陛下に似てきたもの。もうだれも疑わないわね」と、うれしそうに笑った。
『不実の子では』と陰口をたたかれなくなったのはいい。
その代わりに舞い込むのは地位やら領地やら政治向きの話で、だいたいそれらには縁談がくっついてくる。成人後は楽師として諸国を回りたいと考えていたエルには、迷惑な話ばかりであった。
「そんなことよりエルも一緒に弾きましょう。レイちゃんとっても上手なの!あ、苗木を用意して、エルとレイちゃんの演奏でどこまで育つか実験もしたいわね。見て!マンゴーもイチジクも一斉に実ったのよ」
エルの悩みをそんなこと、と一蹴したネフェルは、邪魔にならないよう控えていた召使に指示し、実りたての果物を用意させた。演奏中すやすや寝ていたシャールが、『イチジク!』と言いながら玲の懐から出てきてネフェルにイチジクをもらってかじりつく。
エルも出された飲み物を口にして、ふぅと息を吐き出した。ついでマンゴーをひと切れ口にし、「よく熟れてる」と、玲の口元にも持っていく。竪琴を調弦しながらひな鳥のように口を開けた玲も、精霊の恵みを味わった。
「…レイちゃん、竪琴は初めてでも、楽器は初めてじゃないのよね?どんなものを弾くのかしら?」
驚くほど正確に音律を合わせ、指でぴんぴんと弦を弾きながらその響きを楽しんでいた玲に、ネフェルが首をかしげる。指先で弄んでいただけなのに、精霊もちらちらと集まっていた。
「僕がやっていたのは、バイオリンっていう…馬の毛を使った弓で弦を鳴らす楽器です」
バインディーディアにはバイオリンがないようで、エルもネフェルも不思議そうな顔をした。
玲が形や構造、音色を説明すると、難しい顔をしたネフェルが「ヴィオールかしら」と呟く。
「そのものじゃないかもしれないけど、ラクリオンという島国の書物で見たことがあるかも」
「ラクリオン?」
『芸術と精霊の国、と言われていますね。エルドラシアとは、海を挟んだお隣です』
シャールがイチジクの果汁でべたべたにになりながら口を出したので、玲は苦笑しながら魔法で清めた。シャールは照れたように一度咳払いをして、ラクリオンの説明を始める。
ラクリオンは昔から音楽や絵画を始めとする芸術が盛んで、美しいものが好きな精霊たちがよく集まる地でもある。その地で作る楽器や絵具は精霊が宿るとされ、法外な値段が付くという。ゆえに、他国ではなかなか、上流階級以外にラクリオン産の楽器が普及しないのだ。
「レイちゃん、エルと一緒にラクリオンに行って探してみたらどうかしら。エルも用事あるでしょ?」
「エルの用事?」
芸術の国、と聞いて、玲は興味津々だった。
見る目を養うためにも体験せよ、と、バイオリンや絵画、陶芸などにも触れたが、玲はどちらかというと鑑賞する方が好きである。ちなみに絵画は壊滅的で、画伯級の腕前だ。3歳時の五月にすら劣る。
唯一長く続けたバイオリンには才能があると言われていたが、それも兄、薫のピアノと合奏できるから、という理由が大きい。
エルと一緒に、芸術の国で楽器探し。それはとても魅力的で、できればピアノも欲しいけど、エルの邪魔になったりしないかしら、と、玲は隣に座るエルを見つめた。目が合うと軽いキスが降りてくるのは、もはやお約束だ。
「精霊楽師、と名乗るには、ラクリオンの楽師院による認定が必要なんだ」
「エル以上の精霊楽師なんていないのにね。精霊魔法による転移が使えるなんて、伝説級なのよ?」
でも認定がないとあとあと面倒だから、と拗ねたように言うネフェルがほほえましくて、玲は「精霊さんも、エルのことが大好きだから」と笑った。そんな玲をエルが愛おし気に抱きしめると、精霊の光が二人をくるくると取り囲む。
「こんなに精霊に愛されている子たちはいないわ。世界中の人に見せびらかしたいほど、わたしは二人が誇らしいの」
ネフェルは玲とエル二人の頭をやさしく撫で、それぞれの頬へ親愛のキスを贈る。
本当の母とはもう会えなくなってしまった玲だが、自分の息子のエルと同じように慈しんでくれるネフェルの愛情がうれしくて、うっすら涙をにじませた。
「レイ、船で何日かかかる旅だが、一緒に行ってくれるか?」
「いいの?エルの迷惑じゃなければ、僕も行きたい!」
「まあ!じゃあ陛下に船の手配をお願いしなくちゃ!」
おいおい、なんだか外堀埋められてないか?
とシャールは思ったが、玲がうれしそうなので何も言わず、またイチジクをかじった。
そこへ召使の女性が来て「奥様、お風呂の用意が整いました」と告げる。
砂漠の国で風呂を供するのは、客への最高のおもてなしとされている。
シャールはきょとんとしている玲にそのことを教え、「エルも一緒に入るといいわ」というネフェルの声に、神の間へ逃げることを決意する。
『レイ、そのピアノやバイオリン、創造で作れるんじゃないですか?』
そっと尋ねると、玲は「作れると思うけど」と苦笑した。
「異世界の物をいきなり持ち込むんじゃなく、この世界で生まれた楽器を、この世界の技術で創っていく方がずっとすてきかなって」
『なるほど。郷に入っては、というやつですね』
「うん。お風呂も楽しみだね!古代ローマみたいな感じなのかな?」
うきうきしながらエルと二人で召使に案内されていく玲を見送ってから、シャールはネフェルに辞去の挨拶をした。エルとレイが風呂だなんて、いかがわしいことしか待っていない。神の間か五月の所に避難するのが最善だ。
「シャールちゃん、創世神さまの所へ行くなら、とれたての果物を持って行ってくれないかしら。レイちゃんのおかげでたくさん実ってしまったもの」
『はい、ありがとうございます。みな喜ぶと思います』
シャールは果物の籠をありがたく異空間にしまい、ネフェルにぺこりと頭を下げた。
「うふふ。レイちゃんをお嫁に欲しいわ、って伝えて頂戴ね」
『それは…!』
「はい、シャールちゃんには干したイチジクね」
外堀どころじゃない、直球きましたよおい。
好物のドライフルーツをわたわたと受け取り、『そ、それは本人たちが決めることですからっ』となんとか返事をしたシャールは、逃げるようにして花の宮を後にした。
「うわぁ、ひろーい」
薄いガウンのような湯あみ着に着替えた玲は、つるりとした石造りの浴場に入るなり感嘆の声を上げた。
中央には乳白色の湯を満たし、花びらや柑橘類の皮が浮かべられた広い浴槽。周囲には大小さまざまな池のようなものがあり、それぞれに水生の植物が色とりどりに咲き乱れる。
浴槽以外のスペースには休憩用のベンチ、飲食ができるような卓、玲のいた世界で言えばエステやあかすりができそうな寝台など、客をもてなすための様々な趣向が凝らされていると言えた。
「まさか酒など用意はすまいが」
寝台や卓の周囲にいた女性たちを下がらせ、エルが卓の上に準備されていた飲食物を確かめた。中味は果実酢のようで、安堵の息を吐きながらお湯を覗き込む玲のそばへと戻ってくる。
「エルはお酒は飲まないの?」
「必要があれば飲まなくはないが…レイには酒を介した接待などまだ早いだろ」
エルは玲を抱き上げて浴槽に足を踏み入れながら苦笑した。
抱かれたまま共に湯船に浸かると、ぬるめのお湯に温められた花びらや果物の皮が香り立つ。
「いい匂い…」
玲はエルの首に抱き着いたままうっとりと目を閉じた。
薄い湯あみ着はぴったりと互いの肌に張り付いていたが、素材のせいか不快感は一切ない。
「深ければ椅子もあるが、大丈夫か?」
「ん、エルのお膝がいい」
「レイは甘えんぼうだな」
エルは労わるように玲の髪を撫で、額に触れるだけのキスをした。
愛おしむだけの所作は先ほどのネフェルを思い出し、玲は異世界にいる両親へとちょっぴり郷愁をおぼえてしまう。
「ネフェルさまが優しくしてくれたから…僕、甘えんぼうになっちゃったみたい」
「……母上はヒマだから、いくらでも甘えてやってくれ。もちろん、私にも」
「…ふふふ、エルはヒマじゃないでしょ」
「うん?レイを構うのに忙しいかな」
玲はくすくすと笑いながら、エルの肩に頭を待たせかけた。
お湯のあたたかさと一緒に、自分に向けられた愛情がしみ込んでくるようで、玲はしあわせな気持ちになる。
のぼせるから、と再び横抱きにされて寝台に下ろされた玲は、エルに渡された果実酢を飲んで涙目になった。
「…すっぱい」
「はは、さっぱりするだろう?風呂で体を温めて、酢を飲んでさらに柔らかくして、エステやマッサージ、というのがこの国のもてなしの定番だ」
なるほど、と玲は頷いた。
砂漠の国ではただでさえ水は貴重。それをふんだんに使った上に日頃の疲れも癒やされれば、どんなお客様でも喜ぶのだろう。
「僕、エルにもてなされてるんだね。うれしいな」
「そう。エルドラシアは、君を歓迎するよ、レイ」
そう言ってくれるエルの笑顔がきれいだな、と単純に喜んでいる玲に、外堀の大切さを100字以内で簡潔に教えてくれるものは誰もいなかった。『今この人国名使いましたよっ!』とシアタールームで騒いでいるシャールの声など聞こえるはずもない。
もちろん、「じゃあ次はマッサージ」と言われ、肩もみや腰ふみを想像し「僕もエルにする!」と言い出す玲を止めるものもまたいない。
かくして湯あみ着を脱がされた玲は、香油で全身をマッサージされ、僕もエルにする、という宣言通り、向かい合ってエルに跨り、ぬるぬるの全身を擦り付けるおもてなしをすることになる。
「はぁんっ、あん、エルぅ…っ」
「上手だね…レイ、気持ちいいよ…っ」
玲は胡坐をかいたエルの首にしがみつき、香油に濡れた胸や互いの股間で猛ったものを懸命に擦り合わせた。痛いほどに尖った乳首も固く立ち上がった屹立も、香油のせいで過敏になりささいな刺激でも快楽として受け取る。
どこまでも身体が昂って怖いのに、エルが気持ちいいと言ってくれるのがうれしくて止められなかった。
「あぁ…エル、ダメ…うしろ、そんなにしたら…も、ん…っ!」
玲は達してしまいそうだから、後ろを丁寧に解す指を止めてほしい、と言いたいのに、唇をふさがれてさらに指を増やされる。喘ぎ声がエルに呑み込まれると辺りが静かになって、玲の蕾を弄る卑猥な音が耳についた。
玲はたまらなくなって、深く舌を絡めながらも、固く張りつめているエルの欲望に手を伸ばす。
「……ふぅ、レイ…自分で、入れてごらん?そのまま、そう…ゆっくり腰を下ろして」
「あ、あっ…ゃんっ…大き…ッ、はぁん!」
エルの濡れた唇が耳元で囁くまま、玲は大きくて固い屹立を呑み込もうとする。
だが先端を収めただけで頭のてっぺんまで刺激が駆け抜け、しなやかに背を反らしてエルを強く締め付けた。
「く…、そんなにしたら、ちぎれてしまうよ、レイ」
「やぁん、だって……ん、あ…っ」
くすりと笑ったエルが、「力を抜いて」と首筋や鎖骨を柔らかく吸う。
玲もエルにキスを返しながら、少しずつ体重をかけ、香油の助けも借りて力強い熱の塊を受け入れていった。
自分で自分を焦らしているような感覚が長く続いて、やがてぴたりと、パズルのピースが合うように体が密着する。
「全部入ったよ、レイ。…動けそう?」
ハァ、と熱い息を吐くエルの言葉に、玲は震えながら首を振った。
体の内側を満たす熱塊が脈打つのが、つらくもあり、悦びでもあり、何より愛おしく感じて、玲はエルを呑み込んだままふにゃりと笑う。
「僕の中、エルでいっぱい…んっ、どくどくして…もうちょっと、このまま…いて?」
「…ああ、私も…ずっとレイの中に包まれていたい」
うっとりと細めるエルの琥珀色の瞳は、光を弾くと気高い輝きを宿す。
エルの目に映る光は玲なのだけれど。そんな事には気づかない玲はエルの瞳に見惚れて、「エルも甘えんぼさん?」とはにかむように微笑んだ。
「ふふ、そうだな」
「あん、まだ動いちゃ、や…」
繋がり合ったまま何度もキスを交わして、ゆっくり時間をかけて互いを高め合う。
エルドラシアの『おもてなし』は、エルにとっても玲にとっても、この上なく甘いひと時を共有した貴石のような思い出となった。
「レイをお嫁さんに、ねえ…どこまでも愛されっ子だわね、ほんと…」
『それでこそレイだと思います!』
マンゴーをつまみながらもらしたオルカルマールのつぶやきに、シャールが胸を張って答える。
ピッピはその見た目に似つかわしくなく、ふぉ、ふぉ、と笑い声をあげ、シャールが抱えている干しイチジクをついばんだ。
『あれは世界のいとし子じゃて。さて、誰かひとりを選ぶことなどあるのかのう』
『もう全員と結婚すればいいんですよ』
「レイちゃんハーレムね!アタシもレイちゃんのお嫁さんになろうかしら」
玲が誰かの愛を受け、それを返すたびに、神の間にも世界を通して温かい力が届く。
それを羽で感じながら、ピッピは世界に向けてぽつりと言った。
『先が楽しみじゃな』
数週間後、海を隔てた隣国、ラクリオンにて。
精霊楽師認定のための演奏に臨んだエルは、離れた場所で鼻歌を歌う玲に向かって虹色に輝く精霊の橋をかけてしまい、史上最高の『虹霓の精霊楽師』と呼ばれることになる。
◆────────────────────────────────────◆
長くなりすぎたので最後割愛。
時系列としては本編の少しあとくらいでしょうか。
かつては病を得た王族が静養のために建てたその宮は、数ある離宮の中でも王宮からもっとも離れている。
エルの母から招待を受けた玲は、その離宮へと足を運んでいた。
「まあ、レイちゃんもう覚えちゃったの!今度は一緒に弾きましょうか」
砂漠の中にありながら花と水と緑にあふれたその宮には、王の唯一の恋愛結婚相手、13番目の妃ネフェルとその息子ルシエルが住んでいる。
中庭の小さな泉のほとり、花咲き乱れる木陰で、玲は竪琴で教わったばかりの旋律を爪弾いた。少し遅れて弾き始めたネフェルが低く、高く音を絡めてハーモニーを奏でると、空気が輝き出して精霊たちが集まってくる。
「ふわぁ…きれい」
「うふふ、精霊たちはレイちゃんのことが大好きなのね」
光の乱舞に驚きながら合奏を続けると、蕾は花開き果樹は実をつける。
玲が、精霊楽師ってすごいなー、と思いながら演奏を終えると、はしゃいだネフェルがぎゅっと抱きしめてきた。
「すごーい!レイちゃんがいれば、一年中好きな果物が食べられるわ!レイちゃんの好きなものも植えましょうね」
「わあ、うれしいです!」
リンゴ、もも、ぶどう…砂漠の中で、みずみずしい果物は貴重だ。
精霊に囲まれてネフェルに抱擁されながら無邪気に語らっていると、王族の準正装に身を包んだままのエルが現れた。精霊魔法で転移したのか、エルの周りでも精霊の光が瞬いている。
「エル!」
「母上、レイ、私も混ぜてくれ」
「おかえりなさい、エル」
エルは最近ちょくちょくと王宮に呼ばれている。
罪人の捕縛、囚われた奴隷の解放、穢れによる環境汚染や創世龍の浄化など、エルの功績は著しい。
エルが創世神の力と天使の導き、さらに聖獣や精霊の助力があってのことで、自分はその場にいただけだと主張しても、そもそもふつうはそれらの人知を超えた存在と接する機会はないのだ。
白い髪、褐色の肌の単一民族国家の中で異質な蒼黒の髪を持つことも良い方に作用して、神と精霊の加護を受けた18王子は一味違うぞ、という風潮になってしまった。
「遠巻きにされていた頃がなつかしいよ」
ネフェルたちの傍らに腰を下ろしたエルは、玲の黒髪をそっと撫でた。玲は「おつかれさま」とほほえんで、エルの頬に唇でちょんと触れる。ネフェルは「エルは陛下に似てきたもの。もうだれも疑わないわね」と、うれしそうに笑った。
『不実の子では』と陰口をたたかれなくなったのはいい。
その代わりに舞い込むのは地位やら領地やら政治向きの話で、だいたいそれらには縁談がくっついてくる。成人後は楽師として諸国を回りたいと考えていたエルには、迷惑な話ばかりであった。
「そんなことよりエルも一緒に弾きましょう。レイちゃんとっても上手なの!あ、苗木を用意して、エルとレイちゃんの演奏でどこまで育つか実験もしたいわね。見て!マンゴーもイチジクも一斉に実ったのよ」
エルの悩みをそんなこと、と一蹴したネフェルは、邪魔にならないよう控えていた召使に指示し、実りたての果物を用意させた。演奏中すやすや寝ていたシャールが、『イチジク!』と言いながら玲の懐から出てきてネフェルにイチジクをもらってかじりつく。
エルも出された飲み物を口にして、ふぅと息を吐き出した。ついでマンゴーをひと切れ口にし、「よく熟れてる」と、玲の口元にも持っていく。竪琴を調弦しながらひな鳥のように口を開けた玲も、精霊の恵みを味わった。
「…レイちゃん、竪琴は初めてでも、楽器は初めてじゃないのよね?どんなものを弾くのかしら?」
驚くほど正確に音律を合わせ、指でぴんぴんと弦を弾きながらその響きを楽しんでいた玲に、ネフェルが首をかしげる。指先で弄んでいただけなのに、精霊もちらちらと集まっていた。
「僕がやっていたのは、バイオリンっていう…馬の毛を使った弓で弦を鳴らす楽器です」
バインディーディアにはバイオリンがないようで、エルもネフェルも不思議そうな顔をした。
玲が形や構造、音色を説明すると、難しい顔をしたネフェルが「ヴィオールかしら」と呟く。
「そのものじゃないかもしれないけど、ラクリオンという島国の書物で見たことがあるかも」
「ラクリオン?」
『芸術と精霊の国、と言われていますね。エルドラシアとは、海を挟んだお隣です』
シャールがイチジクの果汁でべたべたにになりながら口を出したので、玲は苦笑しながら魔法で清めた。シャールは照れたように一度咳払いをして、ラクリオンの説明を始める。
ラクリオンは昔から音楽や絵画を始めとする芸術が盛んで、美しいものが好きな精霊たちがよく集まる地でもある。その地で作る楽器や絵具は精霊が宿るとされ、法外な値段が付くという。ゆえに、他国ではなかなか、上流階級以外にラクリオン産の楽器が普及しないのだ。
「レイちゃん、エルと一緒にラクリオンに行って探してみたらどうかしら。エルも用事あるでしょ?」
「エルの用事?」
芸術の国、と聞いて、玲は興味津々だった。
見る目を養うためにも体験せよ、と、バイオリンや絵画、陶芸などにも触れたが、玲はどちらかというと鑑賞する方が好きである。ちなみに絵画は壊滅的で、画伯級の腕前だ。3歳時の五月にすら劣る。
唯一長く続けたバイオリンには才能があると言われていたが、それも兄、薫のピアノと合奏できるから、という理由が大きい。
エルと一緒に、芸術の国で楽器探し。それはとても魅力的で、できればピアノも欲しいけど、エルの邪魔になったりしないかしら、と、玲は隣に座るエルを見つめた。目が合うと軽いキスが降りてくるのは、もはやお約束だ。
「精霊楽師、と名乗るには、ラクリオンの楽師院による認定が必要なんだ」
「エル以上の精霊楽師なんていないのにね。精霊魔法による転移が使えるなんて、伝説級なのよ?」
でも認定がないとあとあと面倒だから、と拗ねたように言うネフェルがほほえましくて、玲は「精霊さんも、エルのことが大好きだから」と笑った。そんな玲をエルが愛おし気に抱きしめると、精霊の光が二人をくるくると取り囲む。
「こんなに精霊に愛されている子たちはいないわ。世界中の人に見せびらかしたいほど、わたしは二人が誇らしいの」
ネフェルは玲とエル二人の頭をやさしく撫で、それぞれの頬へ親愛のキスを贈る。
本当の母とはもう会えなくなってしまった玲だが、自分の息子のエルと同じように慈しんでくれるネフェルの愛情がうれしくて、うっすら涙をにじませた。
「レイ、船で何日かかかる旅だが、一緒に行ってくれるか?」
「いいの?エルの迷惑じゃなければ、僕も行きたい!」
「まあ!じゃあ陛下に船の手配をお願いしなくちゃ!」
おいおい、なんだか外堀埋められてないか?
とシャールは思ったが、玲がうれしそうなので何も言わず、またイチジクをかじった。
そこへ召使の女性が来て「奥様、お風呂の用意が整いました」と告げる。
砂漠の国で風呂を供するのは、客への最高のおもてなしとされている。
シャールはきょとんとしている玲にそのことを教え、「エルも一緒に入るといいわ」というネフェルの声に、神の間へ逃げることを決意する。
『レイ、そのピアノやバイオリン、創造で作れるんじゃないですか?』
そっと尋ねると、玲は「作れると思うけど」と苦笑した。
「異世界の物をいきなり持ち込むんじゃなく、この世界で生まれた楽器を、この世界の技術で創っていく方がずっとすてきかなって」
『なるほど。郷に入っては、というやつですね』
「うん。お風呂も楽しみだね!古代ローマみたいな感じなのかな?」
うきうきしながらエルと二人で召使に案内されていく玲を見送ってから、シャールはネフェルに辞去の挨拶をした。エルとレイが風呂だなんて、いかがわしいことしか待っていない。神の間か五月の所に避難するのが最善だ。
「シャールちゃん、創世神さまの所へ行くなら、とれたての果物を持って行ってくれないかしら。レイちゃんのおかげでたくさん実ってしまったもの」
『はい、ありがとうございます。みな喜ぶと思います』
シャールは果物の籠をありがたく異空間にしまい、ネフェルにぺこりと頭を下げた。
「うふふ。レイちゃんをお嫁に欲しいわ、って伝えて頂戴ね」
『それは…!』
「はい、シャールちゃんには干したイチジクね」
外堀どころじゃない、直球きましたよおい。
好物のドライフルーツをわたわたと受け取り、『そ、それは本人たちが決めることですからっ』となんとか返事をしたシャールは、逃げるようにして花の宮を後にした。
「うわぁ、ひろーい」
薄いガウンのような湯あみ着に着替えた玲は、つるりとした石造りの浴場に入るなり感嘆の声を上げた。
中央には乳白色の湯を満たし、花びらや柑橘類の皮が浮かべられた広い浴槽。周囲には大小さまざまな池のようなものがあり、それぞれに水生の植物が色とりどりに咲き乱れる。
浴槽以外のスペースには休憩用のベンチ、飲食ができるような卓、玲のいた世界で言えばエステやあかすりができそうな寝台など、客をもてなすための様々な趣向が凝らされていると言えた。
「まさか酒など用意はすまいが」
寝台や卓の周囲にいた女性たちを下がらせ、エルが卓の上に準備されていた飲食物を確かめた。中味は果実酢のようで、安堵の息を吐きながらお湯を覗き込む玲のそばへと戻ってくる。
「エルはお酒は飲まないの?」
「必要があれば飲まなくはないが…レイには酒を介した接待などまだ早いだろ」
エルは玲を抱き上げて浴槽に足を踏み入れながら苦笑した。
抱かれたまま共に湯船に浸かると、ぬるめのお湯に温められた花びらや果物の皮が香り立つ。
「いい匂い…」
玲はエルの首に抱き着いたままうっとりと目を閉じた。
薄い湯あみ着はぴったりと互いの肌に張り付いていたが、素材のせいか不快感は一切ない。
「深ければ椅子もあるが、大丈夫か?」
「ん、エルのお膝がいい」
「レイは甘えんぼうだな」
エルは労わるように玲の髪を撫で、額に触れるだけのキスをした。
愛おしむだけの所作は先ほどのネフェルを思い出し、玲は異世界にいる両親へとちょっぴり郷愁をおぼえてしまう。
「ネフェルさまが優しくしてくれたから…僕、甘えんぼうになっちゃったみたい」
「……母上はヒマだから、いくらでも甘えてやってくれ。もちろん、私にも」
「…ふふふ、エルはヒマじゃないでしょ」
「うん?レイを構うのに忙しいかな」
玲はくすくすと笑いながら、エルの肩に頭を待たせかけた。
お湯のあたたかさと一緒に、自分に向けられた愛情がしみ込んでくるようで、玲はしあわせな気持ちになる。
のぼせるから、と再び横抱きにされて寝台に下ろされた玲は、エルに渡された果実酢を飲んで涙目になった。
「…すっぱい」
「はは、さっぱりするだろう?風呂で体を温めて、酢を飲んでさらに柔らかくして、エステやマッサージ、というのがこの国のもてなしの定番だ」
なるほど、と玲は頷いた。
砂漠の国ではただでさえ水は貴重。それをふんだんに使った上に日頃の疲れも癒やされれば、どんなお客様でも喜ぶのだろう。
「僕、エルにもてなされてるんだね。うれしいな」
「そう。エルドラシアは、君を歓迎するよ、レイ」
そう言ってくれるエルの笑顔がきれいだな、と単純に喜んでいる玲に、外堀の大切さを100字以内で簡潔に教えてくれるものは誰もいなかった。『今この人国名使いましたよっ!』とシアタールームで騒いでいるシャールの声など聞こえるはずもない。
もちろん、「じゃあ次はマッサージ」と言われ、肩もみや腰ふみを想像し「僕もエルにする!」と言い出す玲を止めるものもまたいない。
かくして湯あみ着を脱がされた玲は、香油で全身をマッサージされ、僕もエルにする、という宣言通り、向かい合ってエルに跨り、ぬるぬるの全身を擦り付けるおもてなしをすることになる。
「はぁんっ、あん、エルぅ…っ」
「上手だね…レイ、気持ちいいよ…っ」
玲は胡坐をかいたエルの首にしがみつき、香油に濡れた胸や互いの股間で猛ったものを懸命に擦り合わせた。痛いほどに尖った乳首も固く立ち上がった屹立も、香油のせいで過敏になりささいな刺激でも快楽として受け取る。
どこまでも身体が昂って怖いのに、エルが気持ちいいと言ってくれるのがうれしくて止められなかった。
「あぁ…エル、ダメ…うしろ、そんなにしたら…も、ん…っ!」
玲は達してしまいそうだから、後ろを丁寧に解す指を止めてほしい、と言いたいのに、唇をふさがれてさらに指を増やされる。喘ぎ声がエルに呑み込まれると辺りが静かになって、玲の蕾を弄る卑猥な音が耳についた。
玲はたまらなくなって、深く舌を絡めながらも、固く張りつめているエルの欲望に手を伸ばす。
「……ふぅ、レイ…自分で、入れてごらん?そのまま、そう…ゆっくり腰を下ろして」
「あ、あっ…ゃんっ…大き…ッ、はぁん!」
エルの濡れた唇が耳元で囁くまま、玲は大きくて固い屹立を呑み込もうとする。
だが先端を収めただけで頭のてっぺんまで刺激が駆け抜け、しなやかに背を反らしてエルを強く締め付けた。
「く…、そんなにしたら、ちぎれてしまうよ、レイ」
「やぁん、だって……ん、あ…っ」
くすりと笑ったエルが、「力を抜いて」と首筋や鎖骨を柔らかく吸う。
玲もエルにキスを返しながら、少しずつ体重をかけ、香油の助けも借りて力強い熱の塊を受け入れていった。
自分で自分を焦らしているような感覚が長く続いて、やがてぴたりと、パズルのピースが合うように体が密着する。
「全部入ったよ、レイ。…動けそう?」
ハァ、と熱い息を吐くエルの言葉に、玲は震えながら首を振った。
体の内側を満たす熱塊が脈打つのが、つらくもあり、悦びでもあり、何より愛おしく感じて、玲はエルを呑み込んだままふにゃりと笑う。
「僕の中、エルでいっぱい…んっ、どくどくして…もうちょっと、このまま…いて?」
「…ああ、私も…ずっとレイの中に包まれていたい」
うっとりと細めるエルの琥珀色の瞳は、光を弾くと気高い輝きを宿す。
エルの目に映る光は玲なのだけれど。そんな事には気づかない玲はエルの瞳に見惚れて、「エルも甘えんぼさん?」とはにかむように微笑んだ。
「ふふ、そうだな」
「あん、まだ動いちゃ、や…」
繋がり合ったまま何度もキスを交わして、ゆっくり時間をかけて互いを高め合う。
エルドラシアの『おもてなし』は、エルにとっても玲にとっても、この上なく甘いひと時を共有した貴石のような思い出となった。
「レイをお嫁さんに、ねえ…どこまでも愛されっ子だわね、ほんと…」
『それでこそレイだと思います!』
マンゴーをつまみながらもらしたオルカルマールのつぶやきに、シャールが胸を張って答える。
ピッピはその見た目に似つかわしくなく、ふぉ、ふぉ、と笑い声をあげ、シャールが抱えている干しイチジクをついばんだ。
『あれは世界のいとし子じゃて。さて、誰かひとりを選ぶことなどあるのかのう』
『もう全員と結婚すればいいんですよ』
「レイちゃんハーレムね!アタシもレイちゃんのお嫁さんになろうかしら」
玲が誰かの愛を受け、それを返すたびに、神の間にも世界を通して温かい力が届く。
それを羽で感じながら、ピッピは世界に向けてぽつりと言った。
『先が楽しみじゃな』
数週間後、海を隔てた隣国、ラクリオンにて。
精霊楽師認定のための演奏に臨んだエルは、離れた場所で鼻歌を歌う玲に向かって虹色に輝く精霊の橋をかけてしまい、史上最高の『虹霓の精霊楽師』と呼ばれることになる。
◆────────────────────────────────────◆
長くなりすぎたので最後割愛。
時系列としては本編の少しあとくらいでしょうか。
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や さ し い せ か い
番外編ありがとうございます!
\(๑ŐωŐ๑)/ヤッター!!
雨さん、ありがとうございます!
愛ある感想のおかげさまで、番外編ができちゃいました。
また何か思いついたら上がるかもしれません(o^^o)
ナイト×レイありがとうございます!ありがとうございますぅぅぅ!!。゚(゚^ω^゚)゚。最高でしたぁ!!
こちらこそ、早速読んでくださってありがとうございます!
あんな子たちになりましたが、少しでも楽しんでもらえたならうれしいです(*´∀`)♪
あぁー確かにそうですね!( *´꒳`*)
お城でエルとそっくりの幽霊(産まれてくるはずだった王子) に会う…とか面白そう笑(好み丸出し)
雨さん想像力豊かですね…!ネタも豊富そうです!
キャラがチートになりすぎて、事件が思いつかないことりですw
何が起きても2秒で解決してしまう…。