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16話

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朝一番で、「しばらく街にいるならアタシの家においでよ!」と言ってくれたシャノンの申し出を断り、玲とシャールは昼を待たず、そっと冒険者ギルドの裏口から旅立とうとしていた。

「ふふ、シャノンさんのおうちも楽しそうだね」
シャノンの家には、父親が全部違う子供が10人いるという。
そのにぎやかさを想像して、玲は微笑ましくにっこりとした。
「…やめとけ。既成事実作られて、ガキどものどれかと結婚させられるぞ」
たった一人見送りに出たノーランが、玲の頭をこつん、と小突く。

玲とシャールは、創世の古龍がいた場所を見に行くつもりだ。
伝承では海の真ん中で眠りにつき、やがて島となり、その場所は渦巻く波と風の結界で守られているという。
正確な場所は、オルカルマールの知識を持つシャールが知っている。
オルカルマールが動けない今、穢れを撒く黒竜が創世の古龍なのかどうかだけでも確かめたいのだ。
もしそうならば、早くオルカルマールに知らせてあげたい。
オルカルマールにとっての創世の古龍は、きっと玲にとってのシャールのように、大切な相棒だったのだろうから。

「本当にお前らだけで大丈夫なのか?やっぱり俺も都合つけて…」
『飛べない人間は足手まといです…って、さっきも言いましたよね?』
「でもよ、戦えねえんだから護衛くらい…」
何度か繰り返されているノーランとシャールの攻防を眺めながら、玲はたまらずくすくすと笑い出した。
ノーランが心配してくれるのはうれしいけれど、玲はなにに遭遇しようとも戦うつもりはないのだ。逃げるのと、身を守るのは自信がある。
「ノーランさん、ありがと。そろそろ行きますね」
「……ああ、また来い」
ノーランは玲の前髪をくしゃっと撫でた後、さらされたおでこにそっと唇をつけた。
「あと数年したら、もう謝らねえからな」
まだ頼りない玲の肩を軽くたたいて、「行ってこい」と送り出す。
『ヘタレオトン…』
「うるせえぞ、シャール」
「ぷっ、行ってきます!」
玲はそう言ってから魔法で気配を消し、ふわりと宙に浮いた。
目指す場所は東の砂漠を越えた先にある海の、ずっとずっと沖。
街に行くまでの間は人や景色を見たくて歩いていたけれど、今はとても気が急いている。
この世界に存在する何か、空や水や空気のようなものに、早く、と背を押されているような気がしていた。

『…レイ、疲れていませんか?大丈夫?』
「うん、平気。空を飛ぶのって、楽しいね」
『ええぇえぇ…相当魔力を使っているはずですけど…無理はしないでくださいよ』

時折シャールが気遣うも玲に疲れは見られない。
日が傾く前に、通常は馬で3日はかかる砂漠が眼下に広がった。
「砂漠って、砂ばかりじゃないんだね」
玲は『砂漠』と聞いて、鳥取砂丘のような景色を想像していたが、砂の大地には奇岩が立ち並び、ところどころに群生する緑も見える。
遥か先は、黄色い砂塵にまみれて見通せなかった。
『砂漠の中にも、国があるみたいですよ』
「そうなんだ」
玲が目を凝らしても、町や村のようなものは見つからない。
どこまでも荒涼とした景色を横目に見ながら、陸の端を目指して飛び続け、空がうっすらと赤みを帯びてくるころに、海を臨む断崖へとたどり着いた。
『レイ、一度休憩しましょう。この先は陸地がありませんから』
そのまま海上へ飛び出そうとした玲を、シャールが止める。
古龍が眠っていたのは遥か沖。
途中で力尽きても、そこには海しかないのだ。
「そうだね、ごめん。シャールも疲れたよね」
『……私はレイのポケットに入ってるだけです…』
けれどここで『疲れていない』と言えば、玲は休憩を取らないかもしれない。
そう思い、シャールはそれ以上何も言わなかった。

降り立った崖の上から見る海は黒く、荒い波が岸壁に打ち付けている。
玲は海からの強い風を頬に受けながら、追い立てられるような気持ちを感じていた。
『海のほうが、異変が顕著ですね…』
まるで穢れが溶け込んだように水は濁り、見ているだけで肌をざわめかせるような不快感がある。
キリンが守る霊峰が、植物に至るまで魔獣化したのと同じ現象かもしれない。
「浄化……できるかな」
『……ここで一晩休んでいくなら、試してもいいですよ』
言いながらシャールは玲の無限収納を勝手に開け、中から菓子パンを取り出して渡す。
水の入ったペットボトルも用意しつつ、パンを握り締めながら一生懸命考えこむ玲を見た。

漠然とした不安を、シャールも感じている。探知の精度が高い玲ならもっと、この空気は負担になっているだろう。
黒いドラゴンが創世の古龍ではないこと祈っていたけれど、きっと彼が眠っていた海の向こうで、何かがあったはずだ。
「……日が沈む前に、行こう」
ちょっと不安そうに眉を下げて、でも決意を秘めた瞳で振り返った玲に、シャールは言った。

『…パン、食べてからですよ』
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