上 下
14 / 35

14話

しおりを挟む
食事を終えた後、玲は職員のお姉さんの好意でお風呂を借りた。
魔法で服や体を洗浄できるが、やっぱり湯船に浸かれるのは気持ちがいい。
『お姉さんと一緒に入ろっか?』と言われ真っ赤になって拒否したら、『うふふん、冗談よ』と笑って出て行ってくれたが、お風呂に入っている間、なんだか視線を感じるような気がしてどきどきしてしまった。

玲はちょっと火照った頬を押さえながら、あてがわれた部屋に向かって廊下を進む。
あとは寝るだけなので、Tシャツにハーフパンツというラフな姿だ。
歯も磨いたし、髪は魔法で乾かしたし、体はぽかぽかして心地よく、玲は歩きながら小さくあくびをした。
「角を曲がって、みっつめ…あれ?」
玲の部屋の前に、人影がある。
「レイ」
お部屋間違えた?と思いながら立ち止まった玲に、カールがいそいそと近寄ってきた。
「俺の部屋に来ないか?レイの旅の話とか、話したいこともあるし」
眠気から、ぽやんとした表情の玲を見て、カールは「うっ」と詰まって言葉を切る。
「ぼ、冒険者のことも、聞いてみたいって言ってたろ?」と続けて、どこか緊張の面持ちで玲を見つめてきた。
「ん、でも…」
─もう遅いし、眠いし、と断りを告げようと、長い睫毛を伏せた玲を見て、カールの頬にサァっと朱が走った。
「レイ…っ」
思わずといった風に、カールのが手が玲へと伸びる。
しかしその手は玲の肩に触れる直前、青い静電気のような光に弾かれた。
「あっ、え…?」
カールが驚いたように自分の手を見る。
玲も、食堂で頭撫でられたりしたけど何でもなかったのに、どうしてキリンの加護が今?と、思いながら、ぼんやりとカールの様子を眺めた。
「おい、ぼうず」
「にゃっ?」
後ろからよく通る低い声がして、玲は首根っこをつかまれた。驚きでつい子猫のような鳴き声を上げてしまう。
Tシャツの後ろ襟をつままれているだけなので、痛くもかゆくもないのだが。
「ギルマス…」
カールがバツ悪そうに、玲の背後を見上げる。
ノーランはその視線を無視し「子供は寝る時間だ」と言って、玲を肩に担いで踵を返した。
戸惑いながら立ち尽くすカールを置き去りにしたノーランは、玲の部屋を通り過ぎ、一番奥の突き当りの部屋に入り、玲を大きなベッドの上にぽん、と座らせた。
「俺の部屋だ。お前危なっかしいから、ここで寝ろ」
玲が疑問を呈すより先に、そう早口で告げる。そして一度玲の前にかがんで、頭をぐりぐりと撫でてから立ち上がった。
「俺は交代で近隣の哨戒に出る。風呂もトイレもあるから、朝まで部屋から出るな。鍵はかけていく」
「あっ、はい」
玲が慌てて返事をする間も、ノーランの動きには淀みがない。
すでに部屋を出る間際だった彼は、振り向かないまま片手を軽く上げてから、ドアの向こうに消えていった。
『心配性のお父さんみたいですね』
シャールがハーフパンツのポケットからちょろちょろっと出てきて、広いベッドの真ん中へとダイブした。
「お父さんかあ…うん、眠かったから、ありがたい、な」
旅をして、魔獣と戦闘になって、冒険者に会って──今日は濃い一日だった。そう振り返りながら、玲はもぞもぞとベッドに入っていく。
「そういえばシャール、属性ってなんだろ?」
『さあ?でも魔法の得手不得手を、人間の基準で定めたものかもしれませんね。本来、魔力に属性なんてものはありません』
それにしては、魔術師の女の人─玲はすでに名前を忘れた─は、風とか火とかやけにこだわっていた。
「ふぅん…?枠にはめることで、かえってその通りに制御されちゃうの、かにゃ」
語尾が「にゃ」になってしまった玲に、思わずツッコミを入れそうになったシャールだったが、むにゃむにゃと眠そうな姿に嘆息し、スルーした。
『そうなのかもしれませんが、どっちみち、あの魔術師はダメです。自分にしか愛がない者に、世界は力を貸しません』
「愛…が、力なの…?」
そういえば、ここは愛と自由のバインディーディア。
玲は眠い目をこすり、何か大切なことを言い出しそうなシャールに意識を向けた。
玲の枕元に移動してきたシャールは、寝物語を聞かせる母親のように、静かに話を続ける。
『親愛でも友愛でも、人や生き物の持つ愛がこの世界を支え、世界はそれを力にして、愛情深きものに還元します。結果、個々の能力や「格」に繋がるのです』
ああ、そういうことなのか、と玲は納得した。
処女1000人のキリンは別格として、今日玲が出会った中で特に印象に残っているのは、面倒見のいい親分肌のノーランと、ちょっと変わった肝っ玉母さんのシャノン。どちらもそれぞれに愛情深いのだろう。魔獣との戦いにおいても、活躍は顕著だった。
「愛が…世界を支える力か…シャール、それはとても…」
すてきだね、と玲の唇が動き、ふにゃっとした笑みを形作った。笑顔のまま、健やかな寝息を立て始める。
『そうですね』と呟いて、玲のおでこをてちてちしたシャールも、大きな枕の端に寄り添って目を閉じた。


◆────────────────────────────────────◆

昨日、仲間との宴会にて

「やっぱり愛がないと会社も世界も成り立たないわけよ!ことりちゃんわかるわよね!」

と、大先輩の姐さんに絡まれ、鼻からオレンヂじゅっちゅ出しそうになりました。
センパイこれ読んでないよね?てか公開したの今日だからね??
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ご主人様に幸せにされた奴隷

よしゆき
BL
産まれたときから奴隷だったエミルは主人に散々体を使われて飽きられて奴隷商館に売られた。そんな中古のエミルをある日やって来た綺麗な青年が購入した。新しい主人のノルベルトはエミルを奴隷のように扱わず甘やかしどろどろに可愛がってくれた。突然やって来た主人の婚約者を名乗る女性に唆され逃げ出そうとするが連れ戻され、ノルベルトにどろどろに愛される話。 穏やかS攻め×健気受け。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...