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14話
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食事を終えた後、玲は職員のお姉さんの好意でお風呂を借りた。
魔法で服や体を洗浄できるが、やっぱり湯船に浸かれるのは気持ちがいい。
『お姉さんと一緒に入ろっか?』と言われ真っ赤になって拒否したら、『うふふん、冗談よ』と笑って出て行ってくれたが、お風呂に入っている間、なんだか視線を感じるような気がしてどきどきしてしまった。
玲はちょっと火照った頬を押さえながら、あてがわれた部屋に向かって廊下を進む。
あとは寝るだけなので、Tシャツにハーフパンツというラフな姿だ。
歯も磨いたし、髪は魔法で乾かしたし、体はぽかぽかして心地よく、玲は歩きながら小さくあくびをした。
「角を曲がって、みっつめ…あれ?」
玲の部屋の前に、人影がある。
「レイ」
お部屋間違えた?と思いながら立ち止まった玲に、カールがいそいそと近寄ってきた。
「俺の部屋に来ないか?レイの旅の話とか、話したいこともあるし」
眠気から、ぽやんとした表情の玲を見て、カールは「うっ」と詰まって言葉を切る。
「ぼ、冒険者のことも、聞いてみたいって言ってたろ?」と続けて、どこか緊張の面持ちで玲を見つめてきた。
「ん、でも…」
─もう遅いし、眠いし、と断りを告げようと、長い睫毛を伏せた玲を見て、カールの頬にサァっと朱が走った。
「レイ…っ」
思わずといった風に、カールのが手が玲へと伸びる。
しかしその手は玲の肩に触れる直前、青い静電気のような光に弾かれた。
「あっ、え…?」
カールが驚いたように自分の手を見る。
玲も、食堂で頭撫でられたりしたけど何でもなかったのに、どうしてキリンの加護が今?と、思いながら、ぼんやりとカールの様子を眺めた。
「おい、ぼうず」
「にゃっ?」
後ろからよく通る低い声がして、玲は首根っこをつかまれた。驚きでつい子猫のような鳴き声を上げてしまう。
Tシャツの後ろ襟をつままれているだけなので、痛くもかゆくもないのだが。
「ギルマス…」
カールがバツ悪そうに、玲の背後を見上げる。
ノーランはその視線を無視し「子供は寝る時間だ」と言って、玲を肩に担いで踵を返した。
戸惑いながら立ち尽くすカールを置き去りにしたノーランは、玲の部屋を通り過ぎ、一番奥の突き当りの部屋に入り、玲を大きなベッドの上にぽん、と座らせた。
「俺の部屋だ。お前危なっかしいから、ここで寝ろ」
玲が疑問を呈すより先に、そう早口で告げる。そして一度玲の前にかがんで、頭をぐりぐりと撫でてから立ち上がった。
「俺は交代で近隣の哨戒に出る。風呂もトイレもあるから、朝まで部屋から出るな。鍵はかけていく」
「あっ、はい」
玲が慌てて返事をする間も、ノーランの動きには淀みがない。
すでに部屋を出る間際だった彼は、振り向かないまま片手を軽く上げてから、ドアの向こうに消えていった。
『心配性のお父さんみたいですね』
シャールがハーフパンツのポケットからちょろちょろっと出てきて、広いベッドの真ん中へとダイブした。
「お父さんかあ…うん、眠かったから、ありがたい、な」
旅をして、魔獣と戦闘になって、冒険者に会って──今日は濃い一日だった。そう振り返りながら、玲はもぞもぞとベッドに入っていく。
「そういえばシャール、属性ってなんだろ?」
『さあ?でも魔法の得手不得手を、人間の基準で定めたものかもしれませんね。本来、魔力に属性なんてものはありません』
それにしては、魔術師の女の人─玲はすでに名前を忘れた─は、風とか火とかやけにこだわっていた。
「ふぅん…?枠にはめることで、かえってその通りに制御されちゃうの、かにゃ」
語尾が「にゃ」になってしまった玲に、思わずツッコミを入れそうになったシャールだったが、むにゃむにゃと眠そうな姿に嘆息し、スルーした。
『そうなのかもしれませんが、どっちみち、あの魔術師はダメです。自分にしか愛がない者に、世界は力を貸しません』
「愛…が、力なの…?」
そういえば、ここは愛と自由のバインディーディア。
玲は眠い目をこすり、何か大切なことを言い出しそうなシャールに意識を向けた。
玲の枕元に移動してきたシャールは、寝物語を聞かせる母親のように、静かに話を続ける。
『親愛でも友愛でも、人や生き物の持つ愛がこの世界を支え、世界はそれを力にして、愛情深きものに還元します。結果、個々の能力や「格」に繋がるのです』
ああ、そういうことなのか、と玲は納得した。
処女1000人のキリンは別格として、今日玲が出会った中で特に印象に残っているのは、面倒見のいい親分肌のノーランと、ちょっと変わった肝っ玉母さんのシャノン。どちらもそれぞれに愛情深いのだろう。魔獣との戦いにおいても、活躍は顕著だった。
「愛が…世界を支える力か…シャール、それはとても…」
すてきだね、と玲の唇が動き、ふにゃっとした笑みを形作った。笑顔のまま、健やかな寝息を立て始める。
『そうですね』と呟いて、玲のおでこをてちてちしたシャールも、大きな枕の端に寄り添って目を閉じた。
◆────────────────────────────────────◆
昨日、仲間との宴会にて
「やっぱり愛がないと会社も世界も成り立たないわけよ!ことりちゃんわかるわよね!」
と、大先輩の姐さんに絡まれ、鼻からオレンヂじゅっちゅ出しそうになりました。
センパイこれ読んでないよね?てか公開したの今日だからね??
魔法で服や体を洗浄できるが、やっぱり湯船に浸かれるのは気持ちがいい。
『お姉さんと一緒に入ろっか?』と言われ真っ赤になって拒否したら、『うふふん、冗談よ』と笑って出て行ってくれたが、お風呂に入っている間、なんだか視線を感じるような気がしてどきどきしてしまった。
玲はちょっと火照った頬を押さえながら、あてがわれた部屋に向かって廊下を進む。
あとは寝るだけなので、Tシャツにハーフパンツというラフな姿だ。
歯も磨いたし、髪は魔法で乾かしたし、体はぽかぽかして心地よく、玲は歩きながら小さくあくびをした。
「角を曲がって、みっつめ…あれ?」
玲の部屋の前に、人影がある。
「レイ」
お部屋間違えた?と思いながら立ち止まった玲に、カールがいそいそと近寄ってきた。
「俺の部屋に来ないか?レイの旅の話とか、話したいこともあるし」
眠気から、ぽやんとした表情の玲を見て、カールは「うっ」と詰まって言葉を切る。
「ぼ、冒険者のことも、聞いてみたいって言ってたろ?」と続けて、どこか緊張の面持ちで玲を見つめてきた。
「ん、でも…」
─もう遅いし、眠いし、と断りを告げようと、長い睫毛を伏せた玲を見て、カールの頬にサァっと朱が走った。
「レイ…っ」
思わずといった風に、カールのが手が玲へと伸びる。
しかしその手は玲の肩に触れる直前、青い静電気のような光に弾かれた。
「あっ、え…?」
カールが驚いたように自分の手を見る。
玲も、食堂で頭撫でられたりしたけど何でもなかったのに、どうしてキリンの加護が今?と、思いながら、ぼんやりとカールの様子を眺めた。
「おい、ぼうず」
「にゃっ?」
後ろからよく通る低い声がして、玲は首根っこをつかまれた。驚きでつい子猫のような鳴き声を上げてしまう。
Tシャツの後ろ襟をつままれているだけなので、痛くもかゆくもないのだが。
「ギルマス…」
カールがバツ悪そうに、玲の背後を見上げる。
ノーランはその視線を無視し「子供は寝る時間だ」と言って、玲を肩に担いで踵を返した。
戸惑いながら立ち尽くすカールを置き去りにしたノーランは、玲の部屋を通り過ぎ、一番奥の突き当りの部屋に入り、玲を大きなベッドの上にぽん、と座らせた。
「俺の部屋だ。お前危なっかしいから、ここで寝ろ」
玲が疑問を呈すより先に、そう早口で告げる。そして一度玲の前にかがんで、頭をぐりぐりと撫でてから立ち上がった。
「俺は交代で近隣の哨戒に出る。風呂もトイレもあるから、朝まで部屋から出るな。鍵はかけていく」
「あっ、はい」
玲が慌てて返事をする間も、ノーランの動きには淀みがない。
すでに部屋を出る間際だった彼は、振り向かないまま片手を軽く上げてから、ドアの向こうに消えていった。
『心配性のお父さんみたいですね』
シャールがハーフパンツのポケットからちょろちょろっと出てきて、広いベッドの真ん中へとダイブした。
「お父さんかあ…うん、眠かったから、ありがたい、な」
旅をして、魔獣と戦闘になって、冒険者に会って──今日は濃い一日だった。そう振り返りながら、玲はもぞもぞとベッドに入っていく。
「そういえばシャール、属性ってなんだろ?」
『さあ?でも魔法の得手不得手を、人間の基準で定めたものかもしれませんね。本来、魔力に属性なんてものはありません』
それにしては、魔術師の女の人─玲はすでに名前を忘れた─は、風とか火とかやけにこだわっていた。
「ふぅん…?枠にはめることで、かえってその通りに制御されちゃうの、かにゃ」
語尾が「にゃ」になってしまった玲に、思わずツッコミを入れそうになったシャールだったが、むにゃむにゃと眠そうな姿に嘆息し、スルーした。
『そうなのかもしれませんが、どっちみち、あの魔術師はダメです。自分にしか愛がない者に、世界は力を貸しません』
「愛…が、力なの…?」
そういえば、ここは愛と自由のバインディーディア。
玲は眠い目をこすり、何か大切なことを言い出しそうなシャールに意識を向けた。
玲の枕元に移動してきたシャールは、寝物語を聞かせる母親のように、静かに話を続ける。
『親愛でも友愛でも、人や生き物の持つ愛がこの世界を支え、世界はそれを力にして、愛情深きものに還元します。結果、個々の能力や「格」に繋がるのです』
ああ、そういうことなのか、と玲は納得した。
処女1000人のキリンは別格として、今日玲が出会った中で特に印象に残っているのは、面倒見のいい親分肌のノーランと、ちょっと変わった肝っ玉母さんのシャノン。どちらもそれぞれに愛情深いのだろう。魔獣との戦いにおいても、活躍は顕著だった。
「愛が…世界を支える力か…シャール、それはとても…」
すてきだね、と玲の唇が動き、ふにゃっとした笑みを形作った。笑顔のまま、健やかな寝息を立て始める。
『そうですね』と呟いて、玲のおでこをてちてちしたシャールも、大きな枕の端に寄り添って目を閉じた。
◆────────────────────────────────────◆
昨日、仲間との宴会にて
「やっぱり愛がないと会社も世界も成り立たないわけよ!ことりちゃんわかるわよね!」
と、大先輩の姐さんに絡まれ、鼻からオレンヂじゅっちゅ出しそうになりました。
センパイこれ読んでないよね?てか公開したの今日だからね??
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