ざまぁ?的な物語?かも?

荒谷創

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とあるOLの場合

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それは金曜日の夜、父母と弟。一家での、大切な一時でした。
来週には、結婚して家を出る私。
不安より、幸せな想像で一杯でした。
式の準備は、万事滞りなく。
小さいながらも一応、印刷会社の社長という肩書きを持つ父が資金を出してくれたので、それなり以上の式になる予定。出席してくれる友人知人、仕事関係者の手配も、引き出物も、父母が一生懸命手伝ってくれました。
いつもはこ憎たらしい弟も、何となく優しい気がして…
まあ、テレビを流しながら、新婚旅行に行く予定のグァムのパンフレットを眺めたりしている時でした。
時刻は22時を少し回った頃。
一本の電話が来たのです。
「あ、陽二さん♪どうしたの?」
「瑞穂、わりぃ。」
「なに?いきなりどうし、」
「結婚出来ないわ。」
「…は??」
「佐久美が妊娠しちゃってさあ。」
「え?」
「責任取らないといけないから、佐久美と結婚するんで。」
「…え?な、何言って…」
「じゃ、そういう事で。二度と連絡してくんなよ~、じゃな。」
「ちょ、ちょっと!」

それから、大変でした。
温厚な父が、包丁持って飛び出して行こうとし、母は泣き、弟は父を羽交い締めにして止めてくれたけど、こんどは自分が金属バットを持って出て行こうとするし。

…もとから、軽い感じの人ではあったけど。
まさか、こんな事をやるなんて…
式場と、旅行会社には連絡すればキャンセル出来る。キャンセル料なんか、勿体無いけど惜しくはない。
でも、招待しちゃった人達に、なんて言えば…
『結婚式目前に、花婿に逃げられました』
『相手の女性は、私の同級生だった人です』
『父の会社よりちょっと…少し大きな、業績の良い建築会社のお嬢さんです』
相手の親には、父が怒鳴り込みました。
向こうの父親は、土下座したそうです。
でも、それだけでした。
嵐の様な、悪夢の様な時間が過ぎ、気がついた時には日曜日でした。
まだ、式場にも連絡してないや…
「…」
ぼんやりと裏のお宮池の柵にもたれて、水面を見る。
鯉の他に、亀もいる。
いつだったか、テレビの人気企画で水を全部抜いて、底を浚ってから随分人が増えたなぁ…
前は夏なると臭くて、近寄れたもんじゃ無かったよ。蚊も、虫除け位じゃおっつかなかったっけ。
それ以降、なんか篤志家からの大口の寄付があったとか町内会長さんと、市議の人が騒いでいたなぁ…
あの時、陽二さんと二人で参加して、ちょっとだけテレビに映って…
ああ…思い出してきちゃった……

ふと、水面から見上げる亀と目があった。
まだ小さくて、上手く泳げないのかジタバタするけど、前に進めてなくて。
「ほら、頑張れ。ごはんあるよ。」
売店で買った80円のエサ。
鯉にも、亀にもあげて良い事になってる。
チビ亀の鼻先に投げてみるけど、自分が立てる波で上手く食べられない。
「あ!?とられちゃった…」
すす~っと寄ってきた緋鯉に、エサを盗られてしまった。
「えい!」
もう一回!チビ亀の鼻先に投げたエサを、今度は真鯉がかっさらう。
「お前たちには、あっち。」
少し離れた所に一掴み投げ入れ、バシャバシャと集っている内に…
「今度こそ!あ!?」
チビ亀に投げたエサを、ジャンプしてキャッチする緋鯉。
わざわざ、邪魔しに来たの?
チビ亀は、ごはんも食べられない上に、大きな鯉の起こす波であっぷあっぷしている様に見えて…

「…どうして…」
なんだか、緋鯉が佐久美に思えて。
なんだか、真鯉が陽二さんに見えて。
なんだかチビ亀が、私に重なって見えて。
目の前が滲んで、立っていられない…

「どうしたの?大丈夫?」
「え?」
すごく、すごく優しい声。
気がつけば、しゃがみ込んでいた私を、見知らぬおばちゃんが、覗き込んで…
「…つらい事でもあったの?」
「あの…」
「大丈夫。」
「!?」
おばちゃんは、抱き締めてくれました。
優しく、力強く。
「…良い子だね。どうしたの?おばちゃんに、話してごらん。」
不思議な人でした。内面から、お日様のような暖かさが滲み出て来て。
見ず知らずの私を、心の底から心配してくれて…
気がついたら、近くの藤棚ベンチでお話しをしていました。
今度の水曜日、結婚式の予定だった事。
金曜日の夜に、突然婚約破棄された事。
陽二さんとは連絡が取れず、相手の親も彼の連絡先も分からないという事。
同級生だった佐久美さんの事。
父が怒り続け、母がショックでふさぎ込み、弟は今にも陽二さんと佐久美さんを、殴り殺しに行きかねない事。
招待客の事。会社を辞めてしまった事。
「会社、辞めちゃったのかい?」
「彼…陽二さんの親が、専業主婦にならないと認めないって言っていたから…」
普通のOLで、辞めたって、会社にそんな迷惑は掛けたりしなかった筈だけど。
「それでも、好きな仕事でした。みんな、式に来てくれる予定だったのに…」
どうしたら良かったのか…
何で、こんな事に…
「どうされました?」
「え?」
「誠一。」
いつの間にか、男性が側に来ていた。
誰?
「どうしたの?具合悪い?」
「あの…大丈夫…です。」
泣き顔なんか、見せたくないんですけど…
「バニラアイスですが、如何?」
「え?」
「母と先に食べていてください。私は新しいのを買ってくるから。」
差し出されたのは、売店で売っているソフトクリーム。
「バニラは大丈夫ですか?」
泣き顔に、気が付いていない筈ない。なのに、まったく触れて来ない。
「行ってらっしゃい。」
「母をお願いします。ちょっと行ってきます。」
タッタッタ。
そんな足音が聞こえてくる程、颯爽と去っていく広い背中。
「自慢の息子なの。」
ドヤ顔のおばちゃん。可愛い。
「堅物で、未だに独り身だけどね。」
「…勿体ないですね。」
凄く優しい声だった。泣き顔をスルーしてくれたし。
男くさい太い眉と、高い鼻、少し垂れ目気味の目。髭のあとは全然無かったなぁ…
「モテそうなのに…」
「仕事中は、鬼みたいに厳しいからね。」
「鬼って…」
「あはは。」
あっけらかんと笑うおばちゃん。可愛いなあ。
「結婚式は水曜日なのよね。」
「…はい。」
「だったら、ねえ…♪」

「チビ亀♪」
「いや、だいぶ大きくなったよ?」
いいの。
私にとって、特別なチビ亀なんだから。
「いつか、ガメラみたいになっても、チビ亀なの♪」
「はははは。」
楽しげに笑う誠一さん
あの日、ソフトクリームを買って戻ってきたこの人に、すべて話して良かったと思います。
だって、まさか予定通り結婚式まで挙げちゃうなんて。
予定の何倍も凄い式になったけど。
玉の輿って、言われたっけ。
でもまさか最大手なんて呼ばれるゼネコンの、創始者一族。御曹子だなんて、思わなかったもの。
『なに、結婚式はお嫁さんの為のものだよ。男なんか添え物で十分。』
『全部、任せて。君を幸せにしてみせる。』
今、思い出しても格好良い♪
「そう言えば、あの意地悪な真鯉と緋鯉、見ないわね?」
「ああ、あの二匹ならだいぶ前にニャン太が食べちゃってたよ?」
「ええ!?…どうやって捕ったのかしら…」
「野良猫のボスだからねぇ。」
来年には、親子三人の生活が待っている。
おばちゃん…お義母さんも、父も、母も、弟も、みんな心待ちにしている、私達の宝物。
早く産まれておいで♪



一組の夫婦が池に餌を投げ込んでいる。
幸せそうで、何よりだ。
『…佐久美容疑者は、金銭トラブルと痴情のもつれから、夫を数十ヶ所も刺…』
売店の親父はテレビを消した。
「やれやれ。いやなニュースだねぇ。去年潰れた三丁目の土建屋の夫婦じゃないか…」












       
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