地仙、異世界を掘る

荒谷創

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26.地仙、聴取する

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「あら?早かったのね…誰?」
ちょっと出てくると言った蛇乱が、半日程で戻ってきた。
蛇乱は基本的に引きこもりな地仙らしく、滅多に外に出ないが、反面、外に出るのは大抵理由があり、日を跨ぐ事は珍しくない。
やけに早く帰ってきたと思ったら、初めて見る男を連れてきた。
「例の一団を率いてた奴だ。名前はリュウグウというらしい。」
「リュウグウ・イチノセだ、お初にお目にかかる。女神マリーカ。」
「女神!?マリーカ??」
目を丸くする稀華に、そういや、女神やら鬼神やら言われている事を稀華に言ってなかったと、蛇乱はその時思い出した。
「あー…とりあえず風呂行くから、話しはその後で。」
「そうね、お風呂と洗濯、着替えの準備を玉鱗に言っとくわ。」
「頼む。」
「風呂があるのかい?そりゃありがたい。」

「…凄いな…いったい、幾つあるんだ。」
「オレの師匠が風呂好きでな。ここだけは凝ったんだ。何処でも好きに入っていいぞ。」
自身もさっさと脱ぎながら、リュウグウを監視するでもなく好きにさせるつもりらしい。
どこまでも剛毅というか、それだけ力に差があるという事だろう。
武人としては歯がゆくもあるが、リュウグウはそれを呑み込む。
実際、大極まであっさりと見切られたのだ。悔しいが、力の差は歴然。
「…海底温泉?天空温泉?竹林温泉に、月見、花園…ホントに幾つあるんだ…それと、なんでガリュウ文字なんだ?」
読めない文字もあるが、リュウグウにしてみれば父親から習った、慣れ親しんだ文字だ。
理由を聞こうかと周りを見ても、既に鬼神はどこかの風呂に行ってしまったらしい。
気配を探っても、まったく判らないのは実力の差か、怪しげな術によるものか。
仕方なく、一番興味を引いた風呂の戸を開ける。なぜ、ガリュウ式の引き戸なんだ?
『檜風呂温泉』
その看板には、そう書かれていた。

亡き父が、いつか入りたいと言っていた檜風呂。
風呂から上がったリュウグウは、心身共に、有り得ないほどリフレッシュしていた。
脱衣所には、いつの間にかガリュウ式の服『キモノ』と、家宝の槍『龍貫』が見違える程綺麗になって置かれており、湯上がりの体に気持ちの良い夜風が何処からか吹いてくる。
「…参った。桁が違う。」
『失礼いたします。主様がお待ちです。』
わざわざ戸の向こうからの声掛け。僅かに気配を感じるも、これは驚かせない様にとの配慮なのだろう。
キモノを纏い龍貫を手に廊下に出れば、そこには誰も居らず、入り込める様な扉も無い。
否応なしに一本道の廊下を進めば、やがて突き当たりに扉が見えた。
『入ってくれ。武器はそのままで良いぞ。』
「失礼する。」
扉の向こうには、異形の者達が勢揃いしていた。
蛇身の美男美女、半人半馬と馬頭の武人、猪頭の男女、童子と女童。
その全てが、人の身では決して届かない力を有しているのが犇々と感じられ、背筋が凍る。
「まあ、座ってくれ。」
椅子を勧めるのは鬼神。
その隣には、腕に竜を巻いた女神。
二柱は、正しくこの場の支配者なのだろう。
だが、リュウグウの認識は鬼神によってあっさり否定される事となる。
「まず、最初に言っておくな。俺も稀華も神じゃない。」
「は?」
「俺は大地の管理をする地仙という仙人。稀華は天の庁で星々の運行を管理する仙人で、天に産まれた天仙だ。」
それは、神とどう違うのだろう?
「天に産まれたなら、神じゃないのか?」
「神ってのは、血筋とか、功績とか色々と条件があってな。そうだな…人間でいう貴族みたいなもんか。稀華は血筋も文句ないから、いずれ神になるかも知れんが。仙人ってのは役人とか、そういう関係と思えば良い。」
「じゃ、じゃあ、何で神と…」
「しばらく前に、吹雪を起こすタコを送り込んできた奴が居てな。その時助けたシンハの兵が勝手に勘違いしたんだ。」
「なんだ、そりゃ。」
話を聞いて呆れるリュウグウの様子で、一つ判った事がある。
どうやらリュウグウの一派は、海産物を送り込んできたのとは、違う勢力であったらしい。
「俺達は、腐れた四女神が荒らしているダロス大陸を、立て直している最中だ。邪魔はして欲しく無い。」
「腐れた女神って…マジか…なら、主の力を奪い、滅茶苦茶やってるのは。」
「腐れ女神共だな。」
そこからは、互いの情報のすり合わせだ。
リュウグウの主は、ミゼット大陸西方小国家『ソーン』の地下に拠点を持つ迷宮主であり、元は四女神によって招聘されたのだという。
「主は今、リソース不足と地脈の枯渇で力の大半を失い、九割眠って命をつないでいるんだ。」
「ずいぶん弱っているな。いつからだ?」
「一年前位からか。それまでは、普通に過ごせていた。急に地脈が枯れ、主は倒れたんだ。」
原因を探り、可能なら排除する為に、リュウグウと迷宮主のサポートをする執事で計画を立てた。虎の子リソースを使い、武装を整え、育成途中ではあるが戦闘力の高い人造人間ホムンクルスと共に旅立った。
人造人間ホムンクルスは、僅かだが地脈を感知出来る。それで地脈の流れを遡っている時に、女神と鬼神の話を聞いたんだ。主は常々女神を『ろくでなし』と言っていたから、てっきりあんたらが原因だと思ったんだが…」
冗談じゃない。
四女神と一緒にされたく無い。
蛇乱と稀華が苦虫を噛み潰した様な表情になってしまったのも、無理からぬ事であった。













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