転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第10章 平穏

第403話 -帰国からのお仕事 1-

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「んー……これはまだ内容が練られてないから再考行きだな」

シュピーから帰国した翌日、アルスは自室の机で書類と睨めっこをしていた。キルリアの大きな役割の書類は『あい君』を始めとした有能な人材が決裁するが、アルスには判断の困るような独特な書類が回されることがあった。その書類はほぼ企画書と言ってよいモノばかりだが、『楽しい事をしたい』というアルスの希望を『あい君』が叶えたのだった。

「次は---お祭りかぁ。確かにお祭りは楽しいけど、これ全部通したら毎日がお祭りになっちゃうからなぁ…」

アルス宛に届いている企画書はどれもがお祭り関連であり、シュピーの『収穫祭』をモデルにした企画などが多かった。

「月一のお祭りも多い気がするけど………でも2ヶ月に一回ってなるとそれはそれでつまらんし……」

アルスは前世の記憶を引っ張り出して色々と考える。しかし催し事に精通しているわけでは無いのでフワッとした考えしか浮かばなかった。

「うーーーーん…………2ヶ月に一回にするか3ヶ月に一回にするか--ん?はーい、どうぞ!」

悩んでいるアルスの部屋に誰かがノックをし、アルスは入室の許可を出す。すると扉を開けて入って来たのは『半魚人マリーマン』の長、テイタムであった。

「久し振りだなアルス」

「……久し振りだぁ。マジで久し振りだな。元気にしてた?」

「元気にしてるぞ。まぁ私も忙しかったし、アルスも忙しかったみたいだからな。会おうと思う度に仕事が山ほど増えてその暇が無かったんだよ」

「忙しかった?………ああ、そういや海は漁場にするとかなんとか言ってた記憶があるな…。そこら辺はどんな感じ?」

「もう終わってるし、運河も切り拓いたからアルスの記憶とはかなり違っていると思うぞ」

「へぇー!んなら……ちょっと見に行きたいなぁ」

「私は構わないが……その机の上の仕事は良いのか?」

「ん?あぁ、別に火急の仕事って訳じゃないからね。後回しにしても大丈夫だよ。それにちょっと気分転換したいし」

「ふーん。まぁそれならば良いが」

「……………テイタムはなんか用事あったんじゃないの?」

「ああ。ちょいとばかし考えがあってな。それをアルスに聞いてもらおうと思って」

「それって面倒ごと?」

「いや。ちょうどお前の机の上の資料と同じ内容だ」

「…お祭りってことかぁ」

「祭りというか観光というか………まぁ話は後だ。とりあえず村へ行かないか?」 

「オッケー」

テイタムの誘いをアルスは了承し、扉に『外出中』とボードに書き込んでからテイタムと共に海へと向かう。

「つーか………部屋の時に気付いたんだけど、服着れるんだな」

道を歩きながらテイタムの格好をまじまじと眺める。アルスの記憶の中のテイタムは全裸であったが、今のテイタムはピーターパンの様な布製の服とサンダルを着用していた。

「我々もアルス達と交流するならそちらのルールに従わなければならないからな。まぁ魔法が付与された物や鎧とかになると着用出来ないが」

「そういや魔力は毒になるんだったね。……あれ?でも結構キルリアってあちこちで魔法が発動されてるよね?それって大丈夫なの???」

「我々もそのまま過ごした訳では無いぞ?ある程度の魔法に対する耐性を頑張ってる習得したんだ」

「そんなん出来たの?!」

「最初は本当に慣れるところから始めてな。薬師のハイン殿に協力して貰って薬を飲みながら魔法の耐性を上げていったんだ。そのお陰か、キルリア国内でよく使われる魔法には耐えれるようにはなった。まぁ、冒険者が使う魔法にはまだ耐性は無いがな」

「テイタム達もこっちに慣れようとして努力してんだなぁ……」

「努力…というよりは、私達がそうありたいと願った結果だな。私はアルスと出会い、滅びかけていた国が復興する様を眼前で観てきた。それは種族という狭い世界で生涯を終えるのを勿体無いと感じたんだ」

「…なんか難しい話になりそうだけど、勿体無いってのは?」

「我々、半魚人マリーマン種の未来を考えると目の前に大きな世界が広がっているのに傍観するのは勿体無いだろう?結果論ではあるが、アルス達と交流した事により、我々は新たな学びとチカラを手に入れることができた。それは即ち、半魚人マリーマンという種族にとっての宝になったんだよ」

「そんな大袈裟な……」

「いやいや。大袈裟では無いぞ?実際、我々が狭い世界で生きてれば食糧難とは常に隣り合わせだ。しかし、交流して新たな学びを得た事で改善することが出来るんだ。例えば養殖という作業だったりな」

「そういや『あい君』からその話を聞いた記憶があるな…。魚だけじゃなくて貝類も増えたんだっけ?」

「ああ。我々には当たり前だがヒトからすれば高価な食材らしいな。高値で売れるからウハウハだよ」

「そんな言葉を使うなよ……」

「言葉も学びだぞ?まぁヒースクリス殿からも似たような事を言われたが」

「結構喋ってる間柄なの?」

「キルリアの主要人物の方々とは結構話している方だと思うぞ?まぁ立場的なモノもあるが、ごく稀に呑みに誘うくらいはしてるな」

「え?なにそれ…初耳なんだが?つーか、俺は誘われてませんが?!」

「いや、アルスは忙しいから難しいだろ。私だって呑みに誘いたいが、ハモンやらが五月蝿いし…」

「忙しくなんて無いですけどね!!」

「そうなのか?ハイン殿やガガに聞いたりすると『自分らも会ってないから忙しいんじゃないか?』と言ってたぞ?」

「外出が結構多いからかなぁ?……いや、愚痴になるかもしんねーけど、俺って『あい君』やヒースクリスさんと比べるとマジで仕事無いのよ。頭も良くないから重要な書類はできねーし、前までは散歩ばっかりしてたんだよ」

「うーむ………それはそれで良いとは思うがな。個人の意見だが、アルスが暇そうにしてるからこそ民も穏やかに生活できるんじゃないか?長として優先すべき事は仲間の安全の確保だが、アルスは王で無いのだから、自由気ままにすれば良いと思うぞ?」

「自由気まま過ぎて申し訳ない気持ちが溢れるんだよぉ……」

「…なんとも気難しいヤツだな。だったらこう捉えるのはどうだ?たまに仕事が来たら全力で取り組んで満足感を得るんだ。例えそれが簡単なモノだったとしても自己満足は充分感じられるはずだぞ?」

「ううーん………」

「まぁとりあえず私が言った事をやってみろ。それで満足しなかったらまだまだ出来たって事だから次に活かせばいい」

「そうだなぁ……とりあえずそれを実践してみるよ」

「相談くらいならいつでも聞くからな」

そんな会話をしながらアルス達は運河へと到着し、小舟へと移るとテイタムが手漕ぎで海へと向かう。本来なら泳いで行くのが一番なのだが、久しぶりにアルスと会えたので少しでも長く喋りたかったので遅い方を選んだのだった。

30分ほど漕ぐと水門が見えてきた。テイタムは小舟を水門近くの船着場へと寄せるとそのまま陸へと上がる。そして階段を登って水門の向こう側へと入るとそこには工場化が進んだ世界が広がっていた。

「なっ、なんじゃこりゃ!!!」

「かなり変わってるだろう?」

「か、変わり過ぎだわ!!な、なんだよこの建物の数は……」

水門から見える建物は大小合わせて40はあった。昔見た砂浜の面影は一切無く、海と知らなければ工業地域と思えるほどであった。

「殆どが加工場だな。あとはキルリアに卸す海産物だったり、養殖場も併設してるぞ。そしてここは我々の職場なんだよ」

「はぇっ?!ど、どういうこと?」

「ん?聞いておらんのか?一応、我々はここを任されていて、ここら一帯の海岸線は我々の管轄区域になっている」

「……………そ、それでいいの?!」

「良いのの意味が分からんが、我々の村はここにあるし、ヒースクリス殿と話し合って互いに協力しあっているからな。我々は種族の安全を求めており、ヒースクリス殿は食糧を求めていた。そこの利害を一致させて、我々の管轄区域にしてもらったんだ。水の種族だから適任だろう?」

「あぇー………いや、テイタムが納得してるなら大丈夫なんだろうけど………まぁ言わば属国みたいなモンじゃね?それで反対意見とか出なかったの?」

「ああ、そういうことか。反対派はいるにはいたが、ここまでの発展を見せ付けられてはぐうの音も出なかった様だ。少しずつではあるが村の者達も心を開き始めている。まぁまだ完全にとは言えないがな」

「ふーん……仲良くはなってるって感じか。完全に仲良くなるにはどうすれば良いかな?」

「…根本的に我々は水の住人だからな。外の世界も魅力的だが、心から安らげるのはやはり水中で、そこまで来れるヒトは居ないからなぁ。それに完全にというのは非常に難しい言葉だぞ?陸に住む者達だって心のどこかでは壁があり、自分の中の領域を決めているんだ。アルスだってそうではないのか?」

「あー……まぁ確かに結構気を許す方ではあるけど、踏み込んでほしく無い部分はあるなぁ」

「だから完全という言葉自体が不完全なのだよ。まぁここで使うに適しているのは非常に友好的であるが適切かな?」

「言葉遊びは好きじゃ無いんだよなぁ……。んじゃここのヒト達とは友好的な関係を築けているって事でいいのか?」

「ああ」

「ならいいや。険悪だったりしたら困るからさぁ」

「互いに言い合うようにしてるからな。種族も違えば考えも違う。だから『言語』というのは非常に大事なツールだ。我々も都市に出向いて勉強をしてる最中だよ」

「…………え?テイタム達は普通に喋れるよな?」

「私のように喋れる者もいればそうで無い者もいる。まぁハモンが教師役になっているから、アルスと出会った当初よりは話せる者は多いぞ」

「……てっきり皆喋れると思ってたよ」

「アルスがオカシイだけだ。私も初めて会った時に感じたのだが………あんなに流暢に会話が出来るなどとは思わなかった。きっとそれはアルスの持つ不思議な能力という物なのだろうな」

「………そうかもしんねーや」

「フフフッ…さ、まずは施設の案内からしていこう。ただ教えるだけはつまらないから、私の考えに意見をくれるだろうか?」

「ん?どーゆー意味だ?」

「あい君風に言えば改善の余地があると思ってる箇所がある。そこで色々と意見交換をしたい」

「あー……俺の低レベルな脳みそで良ければ」

「意見交換に優秀さなど必要ない。どんなに優秀であっても見え方1つで変わるものだ。それに私は別に答えを求めてないからな?ただ、意見を交換したいだけさ」

「そっか。んなら俺でも役立ちそうだ」

「フフッ…ならまずは右端の加工場から行こう」

テイタムとアルスはそのまま施設の巡回をしていった。加工場は部門ごとに分けており、様々な種族がここで働いていた。ヒト、獣人族、半魚人マリーマン、ドワーフなどの種族が黙々と作業をしている光景を眺めながら時間をかけてアルス達は施設を全て回った。

回り終えた頃、太陽は頂点から若干降りてきており、アルス達は昼食を取ることにした。この工業地帯とも言える場所には大型の『食堂』が1つ建っており、朝早くから夜の20時まで営業している。アルスとテイタムはそこへ入ると、中には昼休憩の職員達が談笑しながら食事をしていた。

「デッケェな」

「食事は労働の根幹と聞いているからな。あい君と相談して大きくしてもらったんだ」

「こんだけ大きいとメニューも沢山あるんだろうな」

「いや?メニューはかなり少ないぞ?」

「えっ?こんなに大きいのに??」

「金を払って食べる食堂とは違うからな。それに沢山メニューがあると廃棄も出てしまうし、調理側も疲労してしまうからな」

「色々と考えてるのね……。でもこんなにデカくしなくてもよかったんじゃ?」

「『仕事終わりの一杯をここでやりたい』と要望が多くてな。都市に帰って着替えて呑みに行くのは面倒だそうだ」

「ああー………なるほどねぇ?」

「就業時間が終われば皆がここで呑んでいくからな。だから大きくしなければならなかったんだ」

「まぁ確かに呑み屋にはかなり遠いが……よく『あい君』が許したね」

「あい君が言うにはこれも労働の対価らしいぞ?味気ない1日に彩りを与えると頑張ろうという意欲が湧くらしい」

アルスとテイタムは注文をしてから空いてる席に座る。今日のオススメは日替わりらしくアルスはそれを頼み、テイタムは刺身定食を頼んでいた。

「つーか米喰えるのね」

「食べれるようになったが正しいな。まぁ陸の食べ物が常に食べれるようになってからは魚以外がお気に入りだな」

「肉とかも喰うんか?」

「ああ。焼肉はハモン達も大好きになったぞ。だが、火を扱うから村では出来ないのが難点だな」

「まぁ水中じゃ無理だわなぁ」

「まぁ時々、一族全員で陸に上がってバーベキューをするがな。今では一族全員の楽しみになってるぐらいだ」

「バーベキューするとか意外なんだが?!」

「同僚に教えてもらったからな。そう言えば3ヶ月に1回、ここの職員全員でバーベキューをするのが最近決まったな」

「それはなんだか良さそうな集まりだな」

「酒と食材は持ち寄りで宿泊は食堂になってる。アルスも予定が空いてれば来るか?」

「空いてるとは思うけど…いきなり予定を入れられるから確約は出来ねぇな」

「ならば予定日が決まったら連絡する。その時はお前も何か持ってくるんだぞ?」

「オッケー」

会話がちょうど終わった時に注文した料理が出来たと呼ばれてアルス達は取りに行く。今日の日替わりはアジフライで、大きなアジフライが2枚キャベツの上に乗っていた。

「旨い!!」

ソースを多めにかけてからアルスはアジフライに齧り付く。身はプリプリでザクザクと衣の良い食感がアルスの耳を幸せにする。テイタムは刺身定食でアルスには分からない種類の魚が3切れずつ乗っていた。ドバドバと醤油皿に醤油を注いだテイタムはドップリと付けた後にご飯と一緒に口に含んだ。どうやらテイタムは醤油が大好きらしく、メニューには醤油を使うメニューが必ず一品はあるとのこと。これは本人が頼み込んだ事で食堂で働くヒト達は濃い目に調整してくれてるらしい。ちなみに山葵は苦手である。

「いやぁ旨かったなぁ!!」

食事中に喋る事なくアルス達は無言で食べ終わり、食後のお茶を飲みながらゆっくりとしていた。

「そうだろう?同僚が言うには都市部の料理にも引けをとらないらしいぞ?」

「確かに同じくらいの旨さはあったな。ま、俺も全部の飲食店を食べ歩いた事はないから分からんけど」

「ハモン達が耐性がもう少し強くなったら食べに行こうと話をしているんだ。まだまだ都市部は魔力が強いから、時間は掛かるが」

「おーイイじゃんイイじゃん!」

「その時はアルスも一緒に食べないか?私ではメニューを見ても想像が付かないからな」

「それは全然構わないぞ?その時は前もって言ってくれ」

「わかった。……そしたら少し遠出をしようか。ちょいとアルスに見てもらいたい場所があるんだ」

「遠出?まぁ構わないけど……結構遠い?」

「んー……移動手段がまだ無いから徒歩なんだよ。海を泳いでも同じぐらいの距離で歩いて20分程かな?」

「そんなに遠くは無いね。じゃ早速行こうぜ」

アルス達は席を立って食堂を後にする。一番最初に見た大きな工場を素通りすると大きな城壁が聳え立っており、その下にあるそこそこの大きさの城門から外へと出た。

「アルス。見て分かる通り今から外に出るんだが、まだ外は魔物が存在しているから気を付けてくれ」

「あいよ」

アルスは剣を『創造』して腰に掛ける。そしてテイタムの案内で海岸線を歩いていく。

「眺めは良いけど足場が自然なままだな」

「こっちはまだ何も手を加えてないからな。いずれは綺麗にするとは思うが、案が通ればの話だな」

「その案ってのが見てもらいたい物なのか?」

「ああ」

海岸線は岩場となっていたり、砂浜になっていたりと歩き辛いものだった。しかし、潮風が吹いてくれるのでそこまで暑さを感じる事はなかった。

「着いたぞ。あそこだ」

岩場からテイタムが指差した方向には砂浜が広がっており、岩場から見る景色は絶景であった。

「うおーー!!!」

絶景を観たアルスは大声で感動を伝える。その様子に微笑みを溢したテイタムはそのまま話し始める。

「素晴らしい場所だろう?」

「まさに絶景だわ!!砂浜はクリーム色で海はコバルトブルーとか、マジで南国だぁ……」

「そのナンゴクが何かは分からないが、ここを遊び場にしようかと思ってな」

「遊び場?………海水浴場か?」

「お?なんだそのカイスイヨクジョウとは??」

「え?えっと……まぁ誰でも泳げたり砂遊びしたり出来る場所……かなぁ???」

「ふむ………それは実際にある施設なのか?」

「…………いや?各国に出向いたけど、海水浴場があるってのは聞いたことはないなぁ」

「ふむ…仮にそのカイスイヨクジョウとやらをここに造ったら観光として成功すると思うか?」

「あー……なるほど?うーん…………」

アルスは少し悩んでから口を開く。その内容は『成功するとは思うが距離が問題』であった。

「なるほど。距離か」

「魔導列車をここまで走らせるか、近くに宿屋を造れば解決するとは思うけど……そもそも海で泳いだりするんかね?」

「? どういうことだ?」

「テイタムは水の種族だから泳ぐのは当たり前だと思うんだけど、他の国に無いって事は海で遊ぶって感覚は無いんじゃないかな?それを受け入れられるのかなーって疑問が湧いた」

「そ、そうなのか………。同僚達は海で水浴びをしたりしてるからイケると思ったんだが……」

「水浴びと泳ぎは違うからなぁ…。まぁ安全を確保しつつ泳いだりする事が出来れば可能だとは思うけど………」

「無理そうか?」

「無理とは思わないけど難しいとは思う。いくつか案はあるけど………それが受け入れられるかどうかは自信が無いなぁ」

「その案を聞かせてくれ!」

「詳しくは知らないけど海水浴場ってのは---

アルスは前世の記憶を頼りにテイタムへと説明する。ビーチで出来るスポーツであったり、浮き輪や水着の話もした。その話をテイタムはポケットに入れていた手帳にメモしていった。

「---って感じだったんだよね。でも前提として『海は遊ぶ場所』って考えがあるからで、最初は景観の良い宿泊施設として運営した方がいいんじゃないかなぁ?」

「うーーーむ……………」

テイタムは畳んだ手帳を手で叩きながら思考する。アルスの話はチンプンカンプンであったが、面白そうだとも感じた。

「アルス。非常に申し訳ないのだが、その遊びとやらを実演してくれないか?やはり言葉だけでは想像が付かないんだ」

「別にいいけど……俺らだけじゃ出来ないのもあるぜ??」

「1人でも出来るやつは無いのか?」

「砂遊びとか釣りとかになるけど……でも海水浴場ってのは結構大人数で来たりする場所だぜ?」

「ふむふむ……人数が必要なのはどんな遊びだ?」

「えーっと……ビーチサッカーだったりビーチバレーだったり……ビーチフラッグもそうだな。あとは……スイカ割りとかか?」

「………分からん!!!だが、それらは大人数でするという訳だな?」

「少なくても出来るけど、大人数だともっと楽しいって感じかな??」

「ふーむ…………今から職場の何名かを連れてくれば出来るか?」

「え?どうだろ?……球技は『創造』しないと創れないし、アレはゴムだからヴァルキューレ様に怒られるだろうし………ビーチフラッグぐらいなら出来るかな??」

「うむ!!なら少し待っててくれ!!急いで何人か連れてくる!!」

「んなら俺と一緒に戻ろうぜ?ここの場所は把握したから転移で移動出来るからさ」

「おお!ならよろしく頼む!!」

アルスとテイタムは転移で一度戻ってから5名ほどのヒトを連れてきた。一応、テイタムの仲間は呼ばずに種族をバランスよく集めた。

「テイタムさん。一体ここで何をするんでぇ?」

ドワーフの1人が不思議そうに聞くとテイタムはアルスに話した説明をする。すると全員理解出来たようでウンウンと頷いていた。

「それでここを遊び場にしようと思うのだが………お前達は泳いだり出来るか?」

「オヨグってのは?」

「私がよく海で移動するだろう?アレなんだが…」

「はー、それがオヨグってことですかい。…………無理ですな」

「ボ、ボクもテイタムさんの様には出来ないですね……」

「浸かる程度なら出来ますけど……足が付かない所に行くのは怖いですね…」

ドワーフ、獣人族、エルフの3人がそう答え、残った人間種の2人も同意見だった。

「そうか………。なら砂浜で遊ぶ事に注力を注いだ方が良さそうだな。アルス、説明を頼む」

「へっ?……ビーチフラッグでいいよね?」

「分からんからそれでいい」

アルスはビーチフラッグの説明を5人に話す。実演を交えて説明し終えると、一先ずやってみようという流れになり、実践してみる。すると『砂場を走る』という行為は全員が初めてで、思ったよりも走りづらい事に面白さを感じたらしく、数回やり直しをした。全員が男性というのもあったからか、異性を気にせず全力で走り、中には転けたりする者も居た。そしてやはり種族差があるからか、従業員達は自分達でルールを決め始め、丁度良い塩梅を探し始めた。

「ぬぅ!!やはりもう1秒待つべきだ!!」

「おいおい……それじゃ絶対負けちまうぜ?いくら獣人族でも結構キツそうだし…」

「魔法ありにしません?そうすれば良い感じになりそうですが…」

文句を言ったのはドワーフで、好成績を残している獣人族にハンデをたくさん貰おうとしていた。しかし、人間種が異を唱え、エルフが魔法を使用するとか身も蓋もない事を言い出した所でアルスが口を開く。

「ま、まぁそこら辺は後で決めるとしてさ………感想を聞かせてもらっていい?」

反応は好評で砂浜限定で無くても楽しめるという感想を貰った。また、全種族が楽しむにはルールが必要であるとも言われた。

「ふむふむ……楽しめたみたいで何よりだな。あと、何か気になる事はある?」

「あるとすれば汗をかいた後の水浴びぐらいですかのぉ?」

「おいおい……目の前に海があるのにわざわざ水浴びすんのか?」

「バカモン!!ワシだってそのくらいは分かっとるわい!!ワシが言いたいのは真水でということじゃ!」

「あ、確かに海水じゃベトベトするもんな…」

「なるほどなー。テイタム、さっきの案にシャワー室を造るってのも書いといて」

「シャワーというのはアレか?お前達がよく体を洗う時に使う……魔道具だったか?」

「そうですじゃ」

「なるほど…私には分からないが、海水はベトベトするのだな」

「それはテイタムさんが水の種族だからっよ。俺達は陸の種族っすから表皮に違いがあるんすよきっと!」

「ムムム…これは思った以上に価値観の違いを突き詰めねばならないな」

「まぁそこはまだ草案だから後回しで良いんじゃね?とりあえずビーチフラッグを実演したけど言語化できそう?」

「大丈夫だ。伝わらなかったら実演すれば良い事だしな」

「ならあとはどーするよ?とりあえずビーチフラッグのルールでも決めとく?」

「「「「「ぜひ!!!!」」」」」

「私は案をまとめておく。終わったら声をかけてくれ」

テイタムは少し離れた所に腰を下ろして手帳にカリカリと案を書いていき、アルス達はビーチフラッグのルールを細かく決めていった。別にルールなど必要はないと思うが、種族混合となると差が出るらしい。結局、2時間ほど掛かってかなりルールが決まった所でテイタムもまとまったらしく、水魔法で汗を流してから帰路に着くのであった。
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