転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第8章 教会編

第286話 -下準備 1-

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♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「うーん………何か新鮮に感じられるなぁ」

アルゼリアルの門を潜ったアルスは街並みを見て感想を漏らす。アルスが最後に見た街並みは瓦礫だらけとなっていたが、今ではその影すら見当たらなく綺麗になっていた。

「ドルドから沢山の工匠達を派遣させたそうですからね。建築関係は前よりも良くなったそうですよ」

「おっと『あい君』、口調は変えてくんなきゃ不味いぜ?」

「ならばマスターこそ私の名前を間違わないでくれるかな?」

「………そうだったね。悪りぃ、

「気にすんなよ

2人は顔を見合わせるとニヤリと笑う。姿はアルゼリアルの平均--平均値は前世よりも遥かに高い--であり、能力共に制限を掛けている。また、声帯も変えている為、全く別人となっていた。ちなみに、アルスは『アル』、『あい君』は『イアン』となっている。ネーミングセンスの無いアルスが付けた名前である。

「さてと……まずは宿探しだな」

「情報収集もしたいから格安の宿がいいね」

「……ならギルドに行こう。低ランク向けの宿を教えてくれるはずだ」

アルス--もとい、アル達はギルドを目指して歩き始める。タイリークの奥へと進み、冒険者用通路に入りギルドへと到着する。

「………しっかし、陰口めっちゃ叩かれてるな」

「皮装備だからね。まぁ駆け出しはこんな感じだよ」

道中、すれ違う冒険者達はアル達の格好を見てクスクスと笑っていた。恐らく身なりを見て駆け出しだと分かり、田舎者だと笑ったのだろう。

「……まぁこれが普通だわな」

「ボロを出さないようにしてよ?アルは目立ちたがり屋だから」

「そこはちょっと自信無いな……」

気を取り直してアルは受付へと向かい、安い宿を尋ねる。受付嬢は親切に複数の宿を教えてくれ、簡単な地図も書いてくれた。その間、イアンは掲示板を眺めていた。

「お待たせ」

「見つかった?」

「とりあえず4ヶ所教えてもらった。一番安い宿は亜人地区にあるらしい」

「……………………まだ残ってるんだ」

「ああ、元亜人地区な?素泊まり50Gだからかなり安いぞ」

「じゃあそこでいいね」

アル達はメモを頼りにその宿へと向かう。元亜人地区とあまり良い風には聞こえなかったが、到着してみると至って普通であった。宿泊の手続き--格安の理由は大部屋であった--を済ませたアル達は部屋の隅でひっそりと相談をする。

「……さてと。これからどう動く?」

「ちょっと気になったことがあるんだけどさ」

「ん?なんだ?」

「さっき掲示板を見てたんだけど、パーティ募集が貼り出されてたんだ」

「へー!依頼だけじゃないんだな」

「ちなみにその募集は前衛を募集してたんだけど……ちょっと閃いた事があって」

「なになに?どんなの?」

イアンは掲示板を見て思い付いた事をアルに話す。アルはその考えに賛成したが、簡単に出来ない事に気付く。

「面白いとは思うけどさ……登録させなきゃいけないぜ?」

「それはドーラ様に頼みましょ。だから、明日は一度カイジャに戻って2人を呼ばなければ」

「…………もしそれが出来たら駆け出しの癖に最強になるな」

「前衛と後衛2人ずつだからバランスもいいだろうしね」

イアンが提案したのはパーティを増やすという事だった。アル的にも信頼出来るメンツなので楽になるだろうと考えた。早速アルは魔水晶を通じてドーラに連絡を取り、念話で2人と連絡を取った。ドーラは二つ返事で帰ってきたが、もう一方は少し時間が掛かった。その片方は難色を示していたが、もう片方が折檻したのか、少し間を開けてから弱々しい声で返事が返ってきた。

「とりあえず明日の午前中に約束したよ」

「こちらも終わり。……ただ、何となく悪い予感がするんだよね」

「……悪い予感ってなんだよ」

「マクネア様に伝えたんだけど……あまりにも返事が早かったからね。なんとなーく来そうな気がする」

「…………いやいや!それはヤバイだろ!」

「私もそう思いたいんだけど………ね?」

一抹の不安が残ったが、アルは断ると言い切った。何故ならば三大貴族の令嬢を危険な目には合わせられないからだ。傷一つでも負わせた時にはどんな事になるか、馬鹿なアルでも理解していた。

「と、とりあえず今日はもう寝よう。見た感じ、ここでの情報収集は意味無さそうだし…」

「………私達と似た様な感じだしね」

アル達は部屋を見渡しポツリと漏らす。格安とあって、相部屋になっているのでどれも駆け出しばかりが多かった。中には駆け出し以外も居るだろうが、それをわざわざ探すのも面倒で、労力に見合ったモノも無さそうだと感じた。となれば、アル達は大人しく寝るだけだ。アルの本音は街に出てメシを食いたいと思っていたが、『駆け出しに金があるのはおかしい』というイアンの発言でオジャンになった。

そして、アル達は大人しく就寝し、日が出る前に起床する。移動に時間が掛かるからとかの理由では無く、他の冒険者達の歯軋りやイビキがうるさかったからだ。悪態吐きながらアル達は身支度を済ませると、若干暗さの残る外へと出た。

「うー……寒ぃな。イアンはよく寝むれた?」

「うん。雑音は遮断してたからね」

「器用な事しますねぇ……」

「さてと。約束の時間までかなりあるから、ちょっと路銀稼ぎでもしようか」

「個室に泊まれる金額を目標にしようぜ」

「…それはちょっと無理かな?物価が高いからね」

「相部屋だと安いのに個室になると値段が爆上げだもんなぁ…。そりゃ駆け出しにはツライわ」

「アルは泊まったことないもんね」

「金は死ぬ程あったし、御世話してもらってたからね」

「コネってのは重要だね。…ま、私達には野宿って手段もあるし、そっちの方が良いかもね」

「……………………その手があったか!!!」

アルの我儘により、当分は野宿する事に決定した。野宿と言ってもアル達の場合は品質が段違いだ。

少しばかり自分の馬鹿さ加減に呆れていたアルであったが、気持ちを切り替えて外へと出る。そして出会った魔物を次々と剥ぎ取りしていく。

この行為にはちゃんと理由がある。駆け出しの冒険者にとって依頼は顔を売る為に必要な事だ。少ない報酬でも顔を売るというのは比べ物にならない大事な事である。だが、アル達にはそれは必要無い。顔を売るのは後々面倒になるので、依頼は受けない。そして、魔物を剥ぎ取りギルドを介して路銀を得る。そうすればちゃんと金を稼いでいるという表向きの証拠になる。

もし、ギルドから依頼を勧められた場合は断るつもりである。理由は『装備一式を購入する為』という仮初めだ。何故なら、駆け出しの冒険者からすればより良い依頼を受けるには武器も新調しなければならない。皮装備で討伐依頼を受けるなど、ギルドから突っぱねられるだろう。

その魔法の言葉は冒険者からすれば当たり前で、チマチマと依頼を受けるよりも剥ぎ取りをした方が金になるのは明白だ。顔を売らずに地味に活動するには丁度良い考えであった。

「……しっかし、魔物を厳選するってのも面倒だな」

一角兎ホーンラビットを狩りながらアルは呟く。

「仕方ないよ。駆け出しが一ツ目サイクロプスとか狩ったらおかしいでしょ」

「それもそうだけど……選ぶのも大変だぜぇ」

表向きの役作りとしてアル達は低級しか狩らない様にしている。更には昇級に必要なポイントなども最低限になる様に調整している。

「ちょっとアル。そんな綺麗に剥ぎ取らないでよ。もうちょっと雑にして!」

「……ツノに傷が付いたら価値が下がるんだぜぇ?」

「それも折り込み済みだってば」

「………メシ代すら稼ぐのに時間が掛かるよぉ」

イアンの完璧主義は異常であった。微々たる金額になるが、昇級ポイントが付かない様に素材に傷をつけ、低級に手こずった印象を与える為の細工であった。そして、数も多く討伐出来ない。大量に討伐するとボーナスが付いてしまうからだ。

「野宿するんだからメシは大丈夫だよ。……よし、これで目標数は達成だね」

一角兎を4匹討伐し、皮袋に入れてカイジャへと歩いて行く。転移でなら一瞬なのだが、役作りの為に徒歩であった。

「……馬買おうぜ馬」

「あんな高いのを買えるわけないでしょ」

「せめてロバとか…」

「それなら歩く方が早い」

アルの提案はすぐに却下される。新人が個人用の馬を購入するなど、ちょっと値段が張る宿屋に泊まるよりも目立つからだ。ブーブーと文句を言うアルであったが、1時間も歩けばそれはすっかり忘れていた。

「グフフ……豊作だぜ」

その理由は道中に果実やキノコなどを採取したからであった。流石に生のキノコは食べれないが、果実ならば歩きながら食べれる。小腹が空いた時の果実はとても美味しかった。

「晩飯は豪勢に出来るね。まぁ、隠れて野営するから必要無いけど」

「隠れて?」

「どーせ夜になったら能力使うつもりでしょ?」

「……まぁメシぐらいは良いの食べたいし」

「だから目立たない場所を探してそこで一時的に能力は解禁しよう。それに………食費は絶対に掛かるからね」

「…………確かに」

パーティが増えるのならば当然食費は増える。ただの人間ならば大丈夫だが、彼等となると能力を使わなければならない。食費が倍になると言うレベルでは無いからだ。

「野営場所30mに不可視の魔法を展開すれば大丈夫かな。流石に覗き見る様な物好きは居ないと思うし」

「……………物好きねぇ。はどうすんの?」

「ただの監視でしょ?ほたっとけば良いよ」

「…メシぐらいは差し入れしてやるか」

アル達は自分達の後方に潜んでいる者の気配を感じながらひたすら歩く。途中面倒になったアルが能力を少しだけ解放し、駆け足でカイジャへと進んだ。

「着いたなー」

「そんなに急がなくても良かったのに。………約束の時間まであと2時間もあるよ?」

「適当にぶらついとけば2時間経つでしょ。それでも余ったら外で休憩しようぜ」 

約束の時間は11時。それまでアル達は自由時間を設ける事にした。これはイアンの提案で、後々別行動を取る時があるかも知れないという理由だった。その案にアルは反対する理由は無く、11時前にギルド前に集合という事で別れた。

「うーん………いざ一人となると何したら良いかわかんねぇな」

これが潜入中などであれば頭をフル回転させれるが、何も用事の無い散歩みたいなものとなると、何をして良いかサッパリであった。

「うーん………俺何すればいいと思います?」

アルは物陰に潜んでいる何者かに声を掛けるが返事は無い。むしろ、声を掛けられた事に驚いて素早く移動して行った。

「………いや。能力を制限してると言っても感知ぐらいは残してるからね?」

アルという仮の姿であっても必要な能力は残している。ただその強大な能力を制限しているだけだ。

「………ん!そうだ!良いこと考えた!」

アルは何やら思い付くとスタスタと街の外へ出て行く。そして、森の中へ入るとそこそこ高い樹の上へと登る。

「おーおー。良い眺めだな」

アルはカイジャの街を眺めた後、樹の上に腰を下ろす。そして胡座をかくと目を瞑り集中する。

(能力に制限を掛けているけど、その状態を上手く扱えなきゃダメだな)

アルは目を瞑り魔力を薄く伸ばして行く。少しばかり魔力を解放したが、大気成分と変わらないほどの量である為、魔法に長けた者でも分からない薄さであった。

(おー……カイジャの隅々まで見渡せるな)

アルの頭の中には鮮明な映像が流れている。アルが使用している技は、簡単に言えば魔力を通して眺めている状況だ。脳内で視点を切り替えることで色々な所から覗ける。それが例え秘密部屋だったとしてもだ。

(……これって下手すりゃ覗きで捕まるレベルだな。バレないで女性風呂とか覗けそう…………いや、無理だな。バレてるわ)

そんな事を考えるアルであったが、そう言った性癖は持ってなかった。そして、そんな技であるにも関わらず気付く者が一人だけ居た。

(…ちょっとイアン。そんな睨まないでよ…)

その気付いた者とは商人と会話をしていたイアンであった。イアンは商人と会話しつつも隙を見ては周囲に目を配り、密かに眉間に皺を寄せていた。

そして、ギルドを覗いたのだが冒険者でごった返して居るにも関わらず誰一人として反応する者は居なかった。そのまま執務室を覗いたが、書類と格闘しているドーラも何かに気付く様な仕草は見せなかった。

(ふーん……ドーラさんでも気付かないって事は中々優れてんな。偵察とかに使えそう)

仮にイアンレベルの人物がいたらアウトだろうが、その様な人物を耳にした事はない。

(………王都に戻ったら試してみるか。スサノオさんが居れば良いんだけどなぁ)

カイジャと王都の冒険者の質を比べれば後者の方が遥かに高い。もし、スサノオが居れば良い実験が出来るとアルは思った。そして、そのままその技の訓練を続け、ある程度の仕様が分かった。

「………なるほどね。これ以上薄くしたら見えなくなるのか。んでもって、部分的に置くことも可能なのね」

アルが言う部分的というのは監視カメラの様な事も出来るという事だ。これが出来る事によって無駄に魔力を広げなくても済むという事になる。

「いやー……イメージしただけで自由に扱えるってのが便利だわ。まぁ、見てる間は無防備なんですけどね」

アルは近くに潜む者に聞こえる大きさで呟く。この技の欠点は不利な状況になってしまう事である。例えば覗いているときに襲撃されればアルの行動は一歩遅れた状況となる。………まぁ襲撃されて不利になったとしても余裕で巻き返せる事は可能であるが。

「出来れば二分割で観れる様にしたいけど……俺の脳みそじゃ耐えれないな」

アルの閃きは可能ではあるが、脳への負担は大きい。イアンであれば可能だろうが、それだと自分の仕事が無くなり、イアンに負担が掛かってしまう。

「まぁこれだけでも充分使えるし、わざわざ手間を掛けなくてもいいな」

アルはもう一度練習をしようと思い、再度魔力を張る。一度イメージした事により、簡単に使うことが出来た。

(………………ん??)

アルはカイジャをグルグルと視点変更して眺めていると何かに気付いた。そこに視点を切り替えると1人の女性が落ち着きの無い動きをしていた。

(………………へっ??マクネアさん?!)

その落ち着きの無い女性とはマクネアであった。マクネアは至る所をキョロキョロとしており、傍目から見れば何かを探している様であった。

(こんな所で何してんだろ?)

アルはマクネアを注意深く監視していたが、通行人がマクネアに気付き、話しかけている状況を見て監視をやめた。

「……あー、そういやなんかイアンが言ってたな」

イアンが昨日言っていた事を思い出し、その不安は的中したのだと悟る。となればアルの役目はマクネアの参加を断らなければならない。

「カァーッ!めんどくさ!!」

イアンの手前、断ると言っていたが正直自信は無い。だが、巻き込むのはどう考えてもダメだという事は理解している。マクネアに口で勝つ自信はこれっぽっちも無いが拒否の姿勢を取り続けようとアルは決めた。

「そろそろ時間だな。………ハァー、何か胃が痛くなってきた」

きっとマクネアはあの手この手でアルスを丸め込もうとするだろう。拒否ばかりを連呼していても相手は口の上手い相手だ。いくつかシミュレーションをしながらアルはギルドへと向かうのであった。
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