転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第7章 建国

第252話 -招致交渉 2-

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クロノスが村人達へと高らかに喋っている輪の外で、テミスさんと喋る。

「アルス、酒をくれないかい?」

「まだ昼っすよ?」

「良いんだよ。クロノスの話を聞いていたら面白くて面白くて……酒のツマミにしようと思ってね」

「そんな面白いんすか?」

「アルスのしてきた事をぜぇーんぶ自分の手柄にしてるよ。『王都の英雄は我だ!』とね」

「…まぁ否定はしねぇけど」

「いつネタバラシをするかが楽しみだね。その時はどんな顔するんだろうねぇ?」

「……悪い顔してますよ?」

「お調子者ほど滑稽に落ちる者は居ないからね。……ところで、その子がアルスの友達かい?」

「ええ。ガガって言うんすよ」

「どうも初めまして」

「アンタの事はアルスの記憶から知ってるよ。あたしはテミスって言うんだ。よろしくね」

「よろしくお願いします。………なぁ、アルス。記憶からってどういうことだ?」

「え?それは…………」

「ああ、別に隠す事じゃ無いから言っておくけど、私はアルスと契約しているんだ。分かりやすく言えば召喚獣って事だね」

「し、召喚獣??え、召喚獣って獣じゃないの???」

「獣もいるけど私の様なタイプも居るんだよ。ちなみに、あそこに居るクロノスも同じだよ」

「ハ、ハァ?!」

「ちょっとテミスさん…」

「別に隠す程のことでも無いだろ?王都に居る住人は知ってることじゃないか」

「ち、ちょっと待って!!………アルス、召喚獣を二体も契約してんのか!?」

「……まぁ成り行きで」

「おいおい………オレはバドワール様から借りた本での知識しかねぇけど、普通は一体だけなんじゃないのか??」

「それだけアルスに能力があったって事さ。……ところで、アンタらは向こうで何か話してたけど、ガガに説明したのかい?」

「それは明日に持ち越しっすね」

「……………そうかい。でも触りだけでも話していた方が良いよ。一人だけでも知っている方が話は早いからね」

「…そうなんすかね?」

「どーせアルスの事だから色々な事を端折ってるんだろ?それじゃいくら時間があったって足りないよ」

「……ど、どんな話なんだよ?」

「聞きたい?」

「………………どーせ明日には聞く羽目になるんだろ?」

「そうだけど…」

「……………じゃあ少しだけ教えてくれよ」

「んー……結論は出さなくて良いからな?」

そう前置きしておいて、俺は本来の目的を口にする。

「俺がここに来た理由はダダ村の住人全てをキルリアに連れて行く事なんだ」

「ハァ?!」

「えっと……まずは今の俺の立場から説明しとくわ。俺ね、実は今キルリア国に住んでるんだよ」

「は?へ??」

「んでもって、キルリアの参謀……いや、まぁ偉い立場…国王でいいか。国王がガガ達を欲しがっていてさ、是非ともキルリアで働いて欲しいんだって」

「ち、ちょっと待て!!全然話が理解出来ん!!」

「アルスは説明が下手くそだねぇ……」

「……否定はしないっす」

「ガガ、私から説明するよ」

「か、簡単にしてもらえます?」

「簡単な話だから安心しな。……アンタ、王都に襲撃があったってのは知ってるよね?」

「え、ええ。クロノス様から聞いただけですが」

「アルスは襲撃の時にアルゼリアルを救ったんだ。アルゼリアルだけでなく、キルリアもね?んでもって、今ではその功績を讃えられてアルスはキルリアの最高権力者となってるんだ。けれども、国王では無い。アルスは国王の器では無いからね」

「……………アルスが??」

「まぁ驚くのも無理は無いね。けれど、それが事実なんだ。それでもって、今回ここに来たのは、キルリアで農耕に従している民達をまとめて欲しいと思ってね。それで交渉しに来たってわけ」

「……話の規模が大き過ぎて……」

「もっと分かりやすく言えば、キルリアが成長するにあたってガガのチカラが欲しいって事だね。私はアンタとは初めて会ったけど、アンタはヒトを惹きつける魅力を持ってるよ」

「…………………」

「んでだ。アンタ一人で結論は出せるはずないから、この村で話が分かるヤツを連れて来てくれないかい?アンタの相談役みたいなヤツが居るだろう?」

「居ますけど……」

「連れておいで。アンタも考える事が減るから楽になるよ」

「……………ちょっと待ってくださいね」

そう言ってガガはどこかへと向かっていった。その後ろ姿を見ながら俺はテミスさんに問う。

「直球過ぎません?」

「何言ってんだい。こういうのは早い方がいいんだ。それにあい君から言われてるだろ?」

「…………あ、ナオエ…」

「そう。あい君から聞いてるけど、話はソイツに言ったほうが早いと思うよ」

「…俺には気を付けろしか言わなかったっすよ?」

「何か裏があるんだろ?でも、あい君がソイツのことを気にしてるっつーことは、評価してるって事だよ。知恵が回る人物なんじゃない?」

「うぇえ……面倒臭い系か」

そんな事を考えているとガガは一人の男性を連れてきた。その人は俺のイメージしていた頑固な職人とは違い、普通の村人という雰囲気だった。

「アルス、この人がナオエさんって言って、オレを指南してくれる方だ」

「初めましてナオエさん。アルスって言います」

「アンタの顔は何度か見た事あるよ。ナオエだ。よろしく」

「私はテミスだ。…ガガから私らの事は聞いたかい?」

「ちょっとだけなら」

「そうかい。ならもう一度説明するよ」

そう言ってテミスさんはガガに説明した事をナオエさんへと話す。ナオエさんは腕組みをしてテミスさんが話すのを黙って聞いていた。

「---という話なんだけどね。質問があれば答えるよ」

「ふむ……では、なぜダダ村に目を付けた?別にダダ村でなくても良いだろう?」

「今現在キルリアには色んな村々からヒトが流れ込んでる。村ごと移住してきたりとかね。でも、誰もその移住してきた人々をまとめ上げる事は出来なかったんだよ」

「ガガはまだ村長に成り立てだぞ?」

「それはそうだけど、この子にはヒトを惹きつける魅力がある。キルリアに居るヒトはそれが無いんだよ」

「その役目はキルリアの誰かがすれば良いのでは?別にガガじゃなくても良いだろう?」

「一つはガガがアルスの友人という事。もう一つは、ダダ村の農耕方法が似ているからだ」

「似ている?」

「ああ。キルリアでは農耕技術を急速に発展させている。だから、移住してきたヒトにとっては新しい技術となって、習得まで時間が掛かる。……ここまで言えば分かるね?」

「……なるほどな。ダダ村の農業に近いと言うのならば、その手腕に長けている者が欲しいという事だな」

「そうだね。もっと正確に言えばダダ村の村民には管理を任せたい。ヒトを纏めるのは同じ境遇であるヒトで無ければ出来ないからね」

「ふむ………」

「で?アンタの事だからもう答えは出てるんだろ?聞かせておくれよ」

「……答えは『否』だ」

「…だろうね。それはどういった理由か聞いても良いかい?」

「簡単な事だ。ここに長年住んでいる私達は新天地などは求めていない。飢えもないし魔物の脅威も無い。安全で先祖代々残っている村だからだ」

「まぁそうだわな。けれども、それはクロノスとアルスのお陰だからだろ?」

「それは否定しないが、作り上げてきたのは私達だ。この村を捨てるという選択肢は無い」

「キルリアはこの村とは比較出来ないほど、安全で食べ物も豊富だよ?」

「それでもだ。それにキルリアは争いを好む王が居るではないか」

「ああ、ソイツはもう居ない。その代わりにその王の息子が継いでるよ」

「………なんだと?」

「その息子になってからは武力を放棄したよ。そして、アルスのお陰で平和な国造りを行なっている」

「…………」

「それで次の段階へと移る為にダダ村のチカラが必要だと思ってここに来たのさ」

「あのー……質問いいすか?」

「なんだい?」

「その……オレを高く評価してくれるのは嬉しいんすけど、おやっさんの言う通り、オレじゃなくても良くないですか?アルゼリアルを探せばオレよりも優れた村長とかいると思うんすけど…」

「ガガの言う通りだと思うよ。確かに村々を探し回れば居るかもしれない。けれどね、適役はガガしか居ないんだよ」

「何でって聞いてもいいすか?」

「んー……ここからは少し複雑になるけどそれでも良いかい?」

「お願いします」

「まずガガが適しているのには先も言った通り他の村々と比べてダダ村は農耕技術が発展している。そして、アルスの友人って言うのもある。こっちとしても、アルスと近い人間が居る方が指示も出しやすいし、意見も言い易いってのもある。そして何より、キルリアで更なるを磨いて欲しいんだ」

「技術を磨く??」

「それはアルゼリアルでは絶対に出来ない。底が知れてるからね。けれどもキルリアなら可能と言う事だ」

「…………なるほど。テミス様が言っている相手はバドワール様も含めているということか」

「…こんな含みの会話は面倒だね。頭がこんがらっちまうよ」

「お、おやっさん。バドワール様もってどういうことなんだ?」

「ここはバドワール様のお力添えで発展した村ってのは理解しているよな?俺達はバドワール様が居るからこそ、この生活を手に入れる事が出来た。………だが、元はと言えばバドワール様と繋がる事が出来たのはアルスさんのお陰って訳だ。つまり、この村に関係する人物はアルスさんの友人が多いって事だ」

「………?」

「バドワール様は薬学の発展の為にここで研究をしている。俺も話は聞いているが、アルスさんはバドワール様の薬学の知識に影響を与えたんだろ?」

「そこまで与えたつもりは無いっすけどね…」

「んでもって、ジルバ様ともお知り合いと来てる。テミス様が言いたいのはダダ村だけではなく、周りも貰おうという考えなのだろう」

「そこは私が知るところでは無いね。ただ、私が聞いたのはダダ村とガガが欲しいという事だね」

「なんと愚かな考えなのだろうか…」

「愚かかね?キルリアは今急成長しているんだ。それに守りも固い。魔物の襲撃に怯える心配も無いし、教育の場だって準備してある。ダダ村にとっては千載一遇の好機だと思うけどね」

「それでも慣れ親しんだ村を捨てるというのは無理だろう」

「あ、そこはアルスから話があると思うよ。私はもう喋り疲れたから酒でも呑んどくよ」

「………………」

唐突に話を振られ、ナオエさんがこちらを無言で見つめる。ほぼほぼ俺が言おうとしていた事はテミスさんが話したから、投げられても困るんだけど。

「なぁアルス……どうしてもオレ達が必要なのか?」

「……うん。キルリアが発展する為にはガガ達のチカラが必要なんだ。もっともらしい言葉を並べるなら、キルリアに来れば村人という階級から逃れる事だって出来る。今のキルリアはそれだけ人手を欲してるんだよ」

「でもよ、オレ達は村人だぞ?学もねぇし、人種だって違うだろうし」

「…んまぁガガが言いたい事は分かるよ。でも今現在のアルゼリアルは、キルリアとは比べられないほど差別があるんだよ」

「差別?」

「お前が言った人種…種族だよ。今回の襲撃の発端はキルリアの前国王にあるんだ。ソイツのせいで獣人族に対する恨みがまだ蔓延している。それを知った俺達はすぐにアルゼリアルに住む獣人族をキルリアに連れ戻したんだ」

「…アルスさん。だとしたら、キルリアでもヒト種に対しての差別があるのでは無いか?」

「ある事にはあるだろうよ。全く無いとは言える訳無い。けどね、ナオエさん。キルリアには獣人族やヒト種以外にも交流があるんだ」

「それはエルフやドワーフか?」

「いや、半魚人マリーマンという種族さ。知ってる?」

半魚人マリーマン……確か海の魔物では無かったか?」

「見た目は魔物に近いけど、彼等は言葉も喋れるし温厚な種族さ。彼等はキルリアで色々と学んでるし、住民とも交流をしているよ。……まぁまだ偏見はあるだろうけど」

「ならば尚更無理な話じゃないか?私達とて差別の対象になる可能性もあるだろう?」

「そこは何とかして貰わないとね。……でも1つだけハッキリしているけど、キルリアは実力主義だ。俺の最も頼りになるヤツがちゃーんと適役を選んでくれる」

「「…………………」」

「あ、ちなみにナオエさんやガガが断っても俺は諦めないよ?絶対に欲しいと思っている人材だし、言ってしまえば周りから攻める事だってするよ」

「…ならばそうすれば良いではないか」

「そんな事がしたくないから直接来てるんだよ。それって意地の悪いヤツがする事っしょ」

「…今でも充分に意地は悪いと思うが」

「そう?俺は別に今すぐ回答は求めてないし、同じ事を明日に話すつもりだよ。ナオエさんみたいに嫌だと思っている人達を無理矢理連れて行くのは性に合わないからね」

「……………それは私達の決断に任せるということか?」

「それが村での解決方法でしょ?俺は村の仕組みとかは全く知らんけど、話し合って結論を出すもんじゃないの?国とかじゃ無いんだからさ」

「…………」

「分かった。とりあえず、オレらに話したってことは、考える時間を持たせる為ってことだろ?」

「そうだね。……あ、そうそう。ちょっとナオエさんと話したい事があるんだけど良いかな?」

「? 私とか?」

「うん。ここから話す事はガガには難しい事だからさ」

「…もうオレは今の話題だけで頭がいっぱいだよ」

「ナオエさんと話が終わるまでテミスさんの相手をしててよ」

「ガガ、アンタは酒はイケる口かい?」

「ま、まぁ…程々なら」

ガガに無理矢理テミスさんの相手を任せ、俺はナオエさんと村の入り口へと移動する。『あい君』から言われた事を伝えるつもりだったけど、ちょっと気になる事もあるのでそれを聞こうと思っていた。

「………で?難しい話とはなんだ?」

「その前にさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「……なんだ?」

「ナオエさんってさ…………………………違うよね?」

「ッ?!」

これに気付いたのはガガが連れて来た時からだった。『あい君』が気を付けろって言ってたから、こっそり『鑑定』を使って調べたんだけどナオエさんはヒト種では無くエルフ種だった。それは巧妙に隠されており、魔法に余程精通している人じゃないと見破れない程だった。見た目も誤魔化しており、普通に喋る点ではそこら辺の村人と変わりは無かった。

「……何故それを?」

「ただただけさ。…つーか、否定しないって事は認めた事で良いのかい?」

「……………」

「ああ、別にバラそうとも思ってないし、何でそんな事をしているのかも俺は全く知らないよ」

「…では何故?」

「ただ気を付けろって言われただけだからさ」

「…………」

「んでもってここからが本題。俺は本当に知らないけど、俺の信頼しているヤツがナオエさんに伝えろっていう話があるんだ」

「その話とは?」

「『話は済んでいる』ってさ。………どーいう意味なのか教えて貰ってもいい?」

「…………しばらく待って貰えるか?」

ナオエさんはそう言うと、俺に背を向けて何やらゴソゴソとし始めた。そしてブツブツと独り言を言い出した。

(………え?通信コールを使ってんの??)

失礼だと分かっているが、『鑑定』させて貰った。すると、ナオエさんは魔水晶を取り出しており、誰かと話をしていたのだが、残念ながら通信コールの相手は分からなかった。

「……はい。…………なんと…………………分かりました。その様に致します」

五分程度ナオエさんは通信コールしていると、軽く頭を下げた後に振り返った。

「…………ふぅ。隠し事というのは胃が疲れるものだな」

ナオエさんは寂しそうな笑みを俺に向けると、何やら思案しながら話を続ける。

「アルス。アナタの事はよぉーく知っております。その上でお願いしたい事があります」

「何でしょうか?」

かしこまった口調になり、俺も釣られて口調を正す。

「アナタのチカラで防音などは出来ないでしょうか?今から大事な話をしたいので」

「……ちょっと待ってくださいね」

言われた通り、周囲に防音の結界を展開する。ついでに人払い出来るようにもしていた。

「出来ましたよ」

「ありがとうございます。……ではまずは私の素性から話そうと思います」

「?」

「私の名はナオエ。シュピー共和国の御庭番衆の一人で『師走』という肩書を持っております」

「ッ?!」

「私がここに居る理由はヒルメ様からは伝えるなと言われておりますが、私の役目はダダ村を守護する役目を担っております」

「………それ本当?」

「はい。今し方ヒルメ様に連絡したのですが、どうやらあい君が来られているようです」

「は?あ、『あい君』が??」

「? ご存知では無かったので?」

「し、知らない……」

「そう…なのですか。てっきりご存知なのかと……」

「ま、まぁいいや。『あい君』がシュピーに行ってるのはどうでもいい。ヒルメは何か言ってた?」

「…許可するとだけ。正直な話、私も表立っては反対しておりましたが、実は賛成なのですよ」

「……その口振りは知ってるって感じだね」

「ええ。前線には居りませんが、これでも御庭番衆なので。情報は常に収集しております」

「じゃあ、背景がどうなっているのかも?」

「あい君様が手を回していると言うのであれば、その様な事になっているでしょう」

「…それも知ってんの?」

「今し方聞きましたがね。まさかアルゼリアルまで巻き込んでいるとは」

「…俺が来る意味無かったんじゃね?」

「ガガもお喜びでしたから、これはこれで良かったのではないかと。それにアルス様が説得をする事も大事なのでは?」

「大事?」

「ええ。アルス様はガガ様の大切な友人でありますが、村を小鬼ゴブリンから救った方でもあります。……まぁ、今はクロノス様の方が人気ですが」

「………で?ナオエさん的には賛成だけど、住人を纏められそうかい?」

「それは分かりません。アルス様も仰った通り、皆で話し合い、決断する事ですから」

「…力添えはしてくれると?」

「多少ならば。しかし、皆の意見が優先ですね」

「…参ったな。中々にハードな事になりそうだ」

「ちなみにですが、アルゼリアルからの要求が何だったのかをお聞きしても?」

「…ああ。アルゼリアルから言われたのは住人の移住だけを認めるってさ。村や家屋、畑はそのままって言われてるよ」

「村をそのままに?」

「あー…キルリアで預かっているアルゼリアルの住民をこの村に移動させるつもりだよ。そこんところは教えて貰ってないから予想でしかないけど、ダダ村は安全だからだと思う」

「…となるとダダ村という存在はなくなるのでしょうか?」

「そこまでは聞いてないね。…まぁ、後から名前を変えないって伝えれば良いんじゃないかな?」

「そうして欲しいものです」

「…ダダ村に固執してるけど、何か理由あるの?」

「ここは先代の師走が力添えした村なので…。私としても存在が無くなるのは寂しいですから」

「ふーん……じゃ、名前はそのままでって言っとくよ」

「ありがとうございます」

ナオエさんと会話をしていると、同じタイミングで通信コールが入った。互いに手で『ごめんね』というジェスチャーをした後に応答する。

「はい。アルスですが」

「あ、アルス?マクネアだけど、今大丈夫かしら?」

通信コール相手はマクネアさんであった。タイミングが良すぎるので、何となく話を察した。

「大丈夫っすけど」

「そう。なら、近くにあい君は居るかしら?」

「いや。『あい君』はヒルメん所に居るみたいっすね」

「ヒルメ様の所に?何でまた………」

「わかんねぇっす。それで?」

「あい君からの要望書なんだけど、追加の条件があるのよ」

「どんなのっすか?」

「えっと……非常に言いにくいんだけど、アルスに対してなの」

「俺に?……なんすか?」

「そんな不機嫌にならないでよ。……まぁ、簡単な話、アルスをアルゼリアルの緊急事態の際には借りたいって話ね」

「あー……俺的には別に良いっすけど、『あい君』がどう判断するかは分からんすね」

「アルスから伝えてくれるかしら?私もする事があって忙しいのよ」

「分かりました。すぐに伝えます。報告はマクネアさんにすれば良いですか?」

「ええ。取れるかどうかは分からないけど、それを呑まないとダダ村の住人は譲渡出来ないわ」

「うわ……汚え…」

「私に言わないでよ。…それじゃ後はよろしくね。………あ、そうだ。ミリィにもよろしく言っておいて」

「はーい。……………え?よろしくって何をーー

意味がわからなかったので問い合わせたのだが、通信コールは切れてしまった。同じくしてナオエさんも通信コールが切れたらしく、疲れた様な表情で俺と目があった。

「…アルス様。どうやらあい君様がこちらに出向くそうです」

「はぁー??来るんだったら尚更俺が来た意味ないじゃーん!」

「何かお伝えしたい事があるとか。……ヒルメ様の口調からして面倒事だと思われます」

「……非常に帰りたくなった」

『あい君』がダダ村に来るんだったら、俺来なくて良かったじゃん…。なんで来るのかねぇ?

そんな事を思っていると『あい君』から念話が届いた。

(マスター。今からそちらに向かいます)

(はいはーい)

『あい君』の念話に返事をするとすぐさま目の前に現れた。だが、『あい君』の表情はいつもと違って少しヤツれていた。

「? どうしたの?そんな顔して」

「ヒルメ様のお使いがございましてね……非常に面倒臭いと思っておりまして」

「えー?」

「………あぁ、こちらがナオエ様ですか?」

『あい君』はナオエさんに目を向けると作り笑いを浮かべた。

「初めましてあい君様。御庭番衆の一人、師走のナオエでございます」

「初めまして。ナオエ様の事はヒルメ様からは聞きましたよ。…まぁ隠し事もあるみたいですが」

「左様ですか」

「まぁ聞こうとは思いませんでしたがね。………それでマスター。ダダ村の説得は終わりましたか?」

「んにゃ。今はナオエさんとガガに話した所だよ。明日、村人達に話すつもり」

「………分かりました。では私はバドワール様とジルバ様に話を付けてきます」

「『あい君』がしてくれるの?」

「マスターには別の用事が出来ましたから」

「えぇ…?」

「招致交渉の期限は明日。どうにかして明日までに纏めてください。結果は可決しか認めませんが」

「…………」

「そして翌日にはドルドへと向かって下さい。……あ、そうそう。ダダ村の住人の移動は私が行いますので」

「えっと……ドルドには俺一人で?」

「…今の所はヒルメ様と護衛の方々との予定です。明後日にはこちらに来るそうなので、合流次第向かって下さい」

「て、展開が早過ぎないかな???」

「こちらとしても予想外なのですよ。本来ならばゆっくりしてもらおうと思っていたのですが……先送りしていた課題を早々に済ませるとしましょう」

「その先送りしていた課題とか、俺知らないんだけど……」

「ともかく交渉は任せましたからね。私はカイジャに向かい、バドワール様達と交渉して来ます。……あと私にマスターの魔力を使う許可を下さい」

「へ??なんで??」

「私だけの魔力では頻繁に転移は使えませんから。カイジャとキルリア、ダダ村を行き来するのには足りません」

「…分かった。使っていいよ」

「ありがとうございます。では私はこれで失礼します」

『あい君』は早口でアルスへと伝えると、すぐさまその場から転移した。残されたアルスとナオエは言葉を失い、狼狽えていた。

「なんだってんだよ…」

「…あれがあい君様ですか。アルス様にそっくりですね…」

「…まぁ片割れみたいなもんだね。あ、防音を解除してもいい?」

「ええ。今の会話で状況は察しましたから」

「助かるよ…」

アルスは魔法を解除すると頭をクシャクシャと掻く。正直なところ、時間を掛けて説得しようと思っていたのに、期限が決まってしまったからだ。しかもこの後にアルスは物見遊山までも計画をしていた。

「………アルス。あの方は同時に喋る事が可能なのか?」

防音を解いたことでナオエは普段の口調に戻り、アルスへと話しかける。その顔には少し汗が滲んでいた。

「どーだろ?出来そうだとは思うけど…」

「そうか…。それよりもアルスは大変なんだな」

「大変っすねぇ……。まぁ国を1つ救った時点で分かりきってた事だけどね」

「『救国の英雄』か。ガランドールの後始末も大変だな」

「なんで知って………ああ、ヒルメん所なら知ってるか」

「まぁな。……さてと。俺は俺でやる事が出来ちまったな。まぁ今日は宴を開いてやるから楽しんでくれればいい」

「何か手伝いましょうか?」

「…………………ダダ村はな、食糧は豊富だが酒が無いんだ。商人が寄らなくなってから在庫が無い」

「じゃ用意すれば良いんすね」

「お願いするよ」

気になっていたナオエさんの事も分かったし、『あい君』がバドワールさん達の交渉をしてくれるって言っていたので、俺はダダ村の住民を説得するだけとなった。あ、誤解の無いように言っておくけど、俺だって後々の動きは考えてたよ?ジルバさんは予想外だったけど、ダダ村に薬草栽培を委託しているのはバドワールさんで、ダダ村全員を引き抜くと考えた場合、そこも対処しないといけないと考えていた。

まぁ俺が考えていたのはバドワールさんの所の全員をキルリアに移住させるって思ってたけど、『あい君』が出向いたのならもっと良い交渉ができるだろう。俺よりも優れた交渉がね。

となれば、後顧の憂いは無しだ。キルリアの良いモンをたらふく準備して懐柔するだけだ。説得は難しいだろうけど、それは臨機応変で。ちゃーんとメリット、デメリットを説明するし、将来的な妄想も伝える。そうすりゃ全員とはいかなくても多少はなびいてくれるさ。

(…意外と考えてるな俺)

そんな事を考えながら、酒盛りをしているテミスさん等と合流して夜の宴の準備をするのであった。
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アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

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