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第7章 建国
第237話 -『あい君』の計画 2-
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「私はマスターにキルリア国の国王になって貰おうと考えております」
『あい君』の口から信じられない言葉が出てきた。だが、『ムンクの叫び』の様に表情を崩しているのはトーマスさんだけであった。
「あ、アルス様をこ、国王にぃーーー!?」
「……落ち着きなよトーマス」
「……その理由を聞いてもいいかしら?」
ヒースクリスさんとマクネアさんは平然とした面持ちで『あい君』の言葉を待つ。
「ええ、勿論お話しします。しかし…
「質問は聞き終わってからするわ」
「……はい」
『あい君』は俺をチラリと見た後にゆっくりと口を開いた。
「……マスターを国王にする利点が複数ありまが、まず一つ目の理由として、マスターはアルゼリアル王国には勿体無いからです」
(ハ、ハァーー!?)
「まずドルド、シュピー、アルゼリアルは現時点で国王並びに女王が座しております。民衆からも厚い信頼を受けており国としてしっかり成り立っております。しかし、成り立っているが故にマスターのチカラを思う存分発揮出来ないのです」
『あい君』はパンッと柏手を叩くと掌から炎を出す。
「今の技術は『無詠唱』という技術です。マクネア様やミリィ様は間近で見た事があるので驚きはないと思いますが、ヒースクリス様方は初めて見たでしょう?」
「お、おう…………」
「トーマス様の反応を見る限りこの世界には『無詠唱』という技術は浸透していない。調査によればあるにはありますが、廃れた技術、或いは難しいという理由で手練れであっても使うことはありません。しかし、マスターはこの技術で最高位魔法を放つことが出来ます。マスターが見たことも無い魔法を使っていたとカフラーからの報告で聞いておりますでしょう?」
「……うむ、それは聞いておるが…」
「マスターはこの大陸で最強であると言っても過言では有りません。しかし、その最強であるマスターが一国に従事するというのも無理な事なのです。マスターという存在は戦力の均衡を崩す可能性も秘めているのですよ。………だからこそマスターは現在力無きキルリアの国王になって貰わなければなりません」
『あい君』はそう言い切るとマクネアさん達の反応を待った。
「……言いたい事は分かったわ。けれど、理解できるものでは無いわ?」
「逆にマクネア様にお聞きしますが、マスターはアルゼリアルに忠誠を誓っていると言いきれますか?」
「……それは」
「マスターが命を掛ける対象は身近な者だけです。それはミリィ様もマクネア様もお分かりでしょう?」
「…………」
「そしてアルゼリアルが襲撃された時、素早く行動出来たのは誰のお陰でしょうか?」
「……アルスね」
「はい。マスターと契約しているクロノス様達が居たからこそアルゼリアルは最小限の被害で済みました。しかし、アルゼリアルが窮地に陥った際、誰が指示系統を担当しましたか?本来ならば国王がするべきでしょうが、アルゼリアルの国王はキルリア前国王に隔離されていた。………もし、マスターが国王であったならばその様な事はあり得なかったでしょう」
「それは仕方ないでしょう?」
「はい。普通ならば仕方ないで済むのです。しかし、マスターならばの話です」
「……マクネア様。これは僕にも話した理由の一つですよ」
「これを聞いてヒースクリス様は了承したの?」
「複雑な部分は有りますが……民を護れる可能性が高いのはアルス様ですので」
「……そう」
「お分かりになりましたか?…次の理由ですが、マスターを頂点に置く事はマスターに自由を与える為でもあります」
「自由?……今でも自由でしょう?」
「違います。今のマスターは恩を返すために動いているだけです。バドワール様やドーラ様……まぁ色々と仕掛けてきましたがジルバ様もですね。この方々と出会い、良くしてくれたことにマスターは恩を感じ、それを返す為に従ったのですよ」
「……失礼な言い方ね」
「これはこれは失礼しました。しかし、それは真の自由では有りません。……マクネア様、マスターはここの常識を知らないでしょう?」
「それは否定しないわ?」
「だからこそマスターはキルリアの王となり、自由気ままに楽しんでもらおうと考えているのです」
「…質問は良いかしら?」
「どうぞ?予想できますが」
「アナタ…あい君は簡単に国王にさせようとしているけど、国王というのは自由とは全く逆の立場の存在よ?アルスの行動一つで国が左右されるのを理解して言っているのかしら?」
「ええ。勿論ですともマクネア様」
「……じゃあ----
「逆に質問ですマクネア様。マスターが国王として立派に働けるとお思いですか?」
(………はい?)
「………」
「政務で側にいたマクネア様ならお分かりでしょう?マスターは実力こそあれど知能は低いです。礼儀も知らなければ、常識も知らない。そんな人物が国を動かせるとお思いですか?」
(ちょっ?!『あい君』?!!)
突如『あい君』が俺を罵倒し始め、ヒースクリスさんとトーマスさんが驚いた表情を浮かべていた。
「……………………………………」
しかし、マクネアさんは『あい君』の質問を答えずに考え込む仕草をする。
「………………なるほど。あい君が言おうとしていることが分かったわ」
「え?ど、どういう事なんですかマクネア様?」
ヒースクリスさんがマクネアさんへと尋ねると『予想だけど』と前置きしてから話し出す。
「あい君が言っているのはアルスを国王にするという事。でもそれはアルゼリアルの様に戴冠式等をするということでは無い……」
「???」
「言ってしまえばアルスに国王としての位をあげるという事。つまり、別にアルスがキルリア国の王となるのではなくて、国のしがらみに囚われない自由な立場にさせるという話よ?」
「…………という事は、国王だけれど国王では無い?」
「ええ。……もしその予想が正解だとすると国王はヒースクリス様のままね。けれども国を運営するのはアルス達が……って事かしら?」
「「「??????」」」
ヒースクリスさんとトーマスさん、そして俺はマクネアさんが言っている言葉がよく理解出来なかった。無い脳味噌を必死に絞っていると拍手の音が聞こえた。
「流石ですねマクネア様。よくもまぁあれだけしか無い情報でここまで導き出しました」
拍手をしていたのは『あい君』であった。満足げな表情で拍手し終えるとヒースクリスさん達に説明してくれた。
「国王国王と言っておりましたが、マスターになってもらうのは名ばかりの国王という事です。……冷静に考えてください。この話について行けてないマスターが海千山千が集う輩の輪に入れるとでも?」
「…さっきから馬鹿にしてる?」
「馬鹿も何も事実でしょう?マスターが聡明であればジルバ様如きの策に引っかかる事は無かったんですよ?」
「う、うぐぅ……」
「私に逐一相談してくれればこの様な面倒くさい立場にもならなかったのに。私に任せてくれればアルゼリアルなど一瞬で乗っ取ったでしょう」
「「「「「?!!!!!!」」」」」
『あい君』の爆弾発言にその場が凍りつく。しかし、『あい君』は鼻で笑うと話し続ける。
「…しかしアルゼリアルには魅力は感じませんでしたし、完全に乗っ取るまでは時間が掛かったでしょうね。…………あぁ、ご心配なさらず。あくまでも私であったらの話ですので」
「……いや、冗談でも笑えんぞ」
ドン引きしながらも『あい君』の話は続く。
「それはさておき、マスターが馬鹿で間抜けでしょーもないアホという事は理解出来ると思います。しかし、実際には情に脆く厚い人物でもあるのです。それ故に他国では良いように扱われてしまう可能性があるのですよ」
「アルゼリアルはそんな事しないわ?」
「それはどうでしょうか?ジルバ様のお考えをご存知でしょう?」
「………それは」
「まぁジルバ様も裏でコソコソと動いておりましたが、結局の所アルゼリアルのために動いていたのは事実。バドワール様はジルバ様の様な考えはお持ちでは無かった様ですが、ジルバ様の動きは私からすれば少しあからさまでしたよ」
「あからさま?……どういう意味だよ『あい君』」
「馬の骨とも分からない冒険者を貴族の子供達が通う学校に易々と派遣させるわけ無いでしょう?」
「????」
「バドワール様の助手として学会に出たのもジルバ様の策略の一つだったんですよ。まぁバドワール様はそれには関与しておりませんが」
「策略ぅ?」
「『知名度を上げる』という言葉に聞き覚えはありませんか?」
「…バドワール様が言っていた様な気が…」
「バドワール様はただ単に新知識を共有したかっただけ。しかし、ジルバ様は著名人や貴族にマスターの顔と名前を覚えさせたかったのです。私の予想でありますが、マスターの実力を子供経由で伝達することによってマスターの存在を知らしめる。それを時間をかけて浸透させる事で爵位を上げアルゼリアルの中核にぶちこもうとしていたと思います」
「え?なんでそんな面倒な事を?」
「それがアルゼリアルに利があるからですよ。武力も兼ね備え、知識もある者がアルゼリアルの中枢に居れば将来の技術発展に繋がる。そして、中枢にいる事でアルゼリアルを裏切ることができない様に仕向ける………と考えていたでしょうね」
「…でもそれは『あい君』の予想だろ?」
「はい、予想です。しかし、先程も言った通りアルゼリアルには魅力を感じません。広大な土地や労働力も持ち合わせながらも辺境の村々はおざなりにしている。それを発展させるとすればマスターがあちこちを走り回らないと行けないからです」
『あい君』の説明を受けて俺は違和感を感じる。その違和感とは理由なのだが、『あい君』は何事にもちゃんとした理由を述べる。だが、今回の話は理由が薄すぎる。………何か隠してるんじゃねぇだろうな?
…アルスが『あい君』の話に違和感を覚えたのは正解である。だが、『あい君』がこのような事を言っている理由はアルスにあったのを忘れていた。
『あい君』を創り出した理由は『アルスが楽をするため』であった。そして、アルスがここに転生した元々の理由は福引きに当たったという事である。閻魔が転生前に言っていた『輪廻前のバカンスだと思って楽しんでください』という事を『あい君』が覚えていたという事だ。
つまり、『あい君』は自らの主人を自由に楽しませようと考えた結果、この様な決断をしたのである。本来ならばアルスを何にも束縛される事なく自由に遊んでもらおうと考えていたが、自分が生み出された時にはすでにアルスはアルゼリアルという国家に組み込まれていた。そこから抜け出す事は『あい君』としても面倒極まりない事であり、それを主人が実行するはず無いと理解していた。
しかし、『あい君』にとって最大の好機が訪れた。主人が分身を創り出し、アルゼリアルを救う為に自分を置いていった時に、『あい君』は自らが考えていた事を急ピッチで進めれると理解したのだ。『あい君』にとってはアルゼリアルの存続などどうでも良い。主人が居なければアルゼリアルは滅びるだろうが、それを主人は救いに行った。その傍ら、『あい君』の手の中には未来のない国が残っていたのだ。
キルリアに残った『あい君』は『主人の名声を高める為』に四方八方を走り回った。この時にヒースクリスの名は出さなかった。王城に来れていない病弱な民衆の家へと足を運び、食糧と簡単な治癒魔法を掛けるという行為を済ませると次の家へと向かった。この反響は凄まじく、アルスの名はキルリアへとすぐに広まった。アルスのチカラを目の当たりにした兵士からは武勇伝が、『あい君』からは『慈愛に満ちた英雄』という話が。特に『あい君』の行為は心身ともに衰弱していた民衆には効果があった。
『あい君』は飴だけで民衆の感情をアルスへと向けさせた。暗躍せずとも簡単に『あい君』はキルリアを手中に収めることが出来た『あい君』はヒースクリスへと提案を持ちかけた。その提案とは上記の通りであるが、流石のヒースクリスもすぐに返事は出来なかった。だが、『あい君』の提案は心優しいヒースクリスにとっては魅力的なものであった。『自分は王の器ではない』と理解しているヒースクリスに『あい君』はこれからの未来についても提案する。結局、民衆を第一とした考えにヒースクリスは首を縦に振る。八方塞がりである現状、『あい君』の様な考えを閃く事はできなかったからだ。
「……とまぁ、色々と言いましたが国を運営するに当たってはヒースクリス様を主軸に置きます。マスターは各国を自由に回って頂きますが、国家の運営には私も関わらせて頂くという話をヒースクリス様にはお伝えしておりました」
「…ヒースクリス様、これは本当かのぉ?」
「うん。あい君の言う通りだね」
「儂になぜ仰ってくれなかったのじゃ?」
「トーマスも同じ答えを出したと思うよ?……あい君からはまだ伝えられてないけど、見返りもあるんだよ」
「見返り?…なんですかの?」
「技術と文明の発展だよ。あい君が言うにはこの大陸には存在しない新たな技術と文明を提供してくれるんだってさ」
「技術と文明ィ?!……話が壮大過ぎてついて行けんぞ…」
「あい君が言うには娯楽という文明を生み出すんだってさ。キルリア国は戦闘民族だ。しかし、それを廃止とするならば違う職を見つけなければならない」
「違う職と言うたら……農耕ではないのか?」
「流石に全国民を農耕に当てたら他の分野が遅れをとってしまうよ。ただでさえ、父上の所為でキルリア国は未発展なんだから」
「むむむ…………??」
ヒースクリスさんとトーマスさんの会話を聞いていて、引っ掛かることがあった。
(技術と文明の発展??……農耕を主とするんじゃ無かったのか?)
「あい君、ヒースクリス様に話した事を私にも教えてくれるかしら?」
「ええ。ヒースクリス様に話した事は技術と文明の発展。本来ならば技術を磨いてから文明を発展させるものですが、今回の場合は違い、逆から行こうと考えております」
「逆から?文明を創ってからと言うことかしら?」
「はい。…マクネア様はご存知でしょうがその文明はマスターが居なければ話になりません」
「…………なるほどね。その交換条件としてアルスにその地位を求めるわけね?」
「はい」
「…どういうことですかのぉ?マクネア様」
「…アルスの知識で文明を創るということよ。アルスの持つ知識は確かに革新的な物だわ。それをキルリア国の物とするならば、復興も早くなるでしょうし何より、武器を捨てるという事は三ヶ国からも好印象を受けるでしょうね」
「……なんとなくは理解出来るが、そのアルス殿が知る知識で文明が造れるのか?」
「ええ。勿論ですとも」
トーマスさんの心配げな言葉に『あい君』は力強く答える。
「じゃあ、儂にも分かりやすい文明とやらを講釈してもらおうかのぉ?」
トーマスさんの意地悪げな言葉に『あい君』は満面の笑みで返す。
「まず一つの文明として『本』を創り出します」
「本じゃとぉ?」
自信満々な答えにトーマスさんは上擦った声で返事をする。そして、理解すると共に呆れたような口調でこう話す。
「……なぁーんじゃ。本なんぞ他国にも存在しておるわぃ…。新しい文明と言っていたが存在しているではないか」
「たかが本、されど本ですよ?トーマス様が想像している本とは異なる物です」
「異なる本?」
「ええ。……アルゼリアルは学問にも優れておりますが、それは王都を含めた周辺だけの話。辺境に行けば本などは存在しません」
「そうなのか?」
「…まぁ流通はしているでしょうけど、必要かどうかを問われたら要らないでしょうね」
「トーマス様、本には幾つか種類がございますがご存知ですか?」
「そりゃ知っとるぞ?学術書や指導書、物語などじゃろう?」
「はい。しかし、本の可能性はそれだけでは無いんです」
「???」
「マスター。何も考えないので良いので、本と聞かれたら何を連想しますか?」
突如『あい君』に話を振られ、ちょっと考えた後に答える。
「……漫画とか小説、雑誌とかかな?」
「「「「??????」」」」
俺の返答にマクネアさん達は疑問符を浮かべる。しかし、『あい君』は満足げに頷くと口を開く。
「マスターが言った言葉は存じ上げないでしょう?たかが本と言ってもマスターの知識には沢山の種類があるのですよ」
「その…まんがやらしょうせつ?とやらはどんな物なんでしょう?」
ヒースクリスさんが俺に尋ねてくるが、『あい君』がそれに返事をする。
「漫画とは絵だけで作り上げる創作話でございます。そして小説とは絵付きの物語でございます」
「絵付き……ですか?」
「ええ。トーマス様も仰いましたが、絵という物は娯楽にも繋がる要素なのですよ」
「…絵は確かにアルゼリアルにもあるけどそれが文明になるのかしら?」
「なりますとも。私の調べでは絵は貴族御用達ですよね?」
「……まぁあまり大衆向けでは無いわね」
「フフフッ…マクネア様。今ご自分で答えを言いましたよ?」
「えっ?」
「画家は各国に存在しておりますが、それらはどれも貴族向けの娯楽です。しかし、それを大衆向けに発信すると需要は一気に増えることでしょう。そして、その大衆向けに発信した最初の国がキルリア国となると?」
「………………やだ。あい君の考えはどれも意地汚いものばかりね」
「ど、どういうことですかマクネア様?」
ヒースクリスさんがマクネアさんに助け舟を求めるが、その横にいたミリィが納得した仕草をしながら口を開いた。
「……あー…あたしも分かったかも。つまり、あい君が言いたいのは文明の先駆けを創る事なんでしょ?それが他国にも広まれば技術を習得しに人が流れ込んでくる。けど、その技術に必要な道具はキルリアでしか作れない様にするって魂胆ね?」
「流石ミリィ様。ご明察の通りです」
ミリィの話を聞いて俺も閃くものがあった。
「あー………もしかして、農耕に手を出すってのもそれが目的?」
「おお!マスターもお分かりになられたのですか?!」
「…やっぱり馬鹿にしてんだろ!!」
「驚いているだけですよ。……ヒースクリス様、ミリィ様が仰った通り漫画や雑誌には必要な道具があるのです。それをキルリアでしか作れない様にすればキルリアは潤います」
「…その言い方だとまだあるみたいだね?」
「ええ。一応言っておきますが、漫画と雑誌は確実に流行します。これは予想でも何でもなく自信を持って予言出来ることです」
「その根拠は?」
「根拠も何も学術書が流通している時点で軌道はあるんですよ?それに乗せるだけで勝手に流行するんですよ」
「………その為にアルスを…ってことね?」
「はい。あくまでも今のはアイディアだけです。ヒースクリス様は了承して頂きましたが、トーマス様やミリィ様の賛成も得なければなりません。……因みにですが今言ったことは一例に過ぎません。他にもあるということだけ匂わせておきましょう」
(何か『あい君』が性悪で胡散臭い奴に見えてきた……)
『あい君』の言葉にトーマスさんは顔を顰める。ヒースクリスさんはミリィとトーマスさんの表情を窺い口を開くのを待っていた。
「…まぁ現状を考えるならばその提案に乗るしか無いわね」
「ひ、姫様……」
口火を切ったのはミリィだった。ミリィの言葉を聞いたヒースクリスさんはホッとした表情を浮かべており、マクネアさんも目を瞑ってはいたが、首を縦にも横にも振らなかった。
「爺や、あたし達がいくら考えたってあい君の提案以上のものは出てこないわ?不利益はあるけれど、それ以上に利益の方が大きい。別にアルスが国王以上の権力を持ったとしても、アルスの根性じゃどうもすることも出来ないわよ」
「フフフッ…流石ミリィ様。マスターの事をよく理解していらっしゃいますね」
「アルスの事はギルドの時から見てるからね。……面倒臭いことは直ぐに逃げ出すから分かりやすいわ?」
「ングッ………」
「トーマス様。一言言っておきますが、アルス様には条約などを結ばせる権利は持たせません。その際は私が判断いたします」
「………………」
「トーマス。僕らが取る道はこれしか無いんだよ。トーマスが僕達のことを考えてくれるのは有り難く思うけど、それよりもまずは民達に目を向けないと」
「………分かりました、分かりましたよヒースクリス様。どーせ反対する奴はおらんじゃろうて。………しかし、民達にはどう説明するのじゃ?ヒースクリス様が国王だからこそ一纏めになっておるのじゃぞ?」
「いや。それは違うよトーマス。あい君はアルスさんの名をもう売り出しているんだ。それも巧妙にね」
「………それじゃ考えるだけ無駄ではないか…」
「いいや。それがあったからこそ、この提案が出来たんだよ。断ったとしても今あい君が話してくれた事を真似すればいいだけだしね」
「いえいえ。皆様方が了承してくださると信じて私は提案したまでですよ。乗るかどうかは皆様次第でございます」
「フフフッ……断ることの出来ない提案を出しておいて僕達次第とか……。良い性格してるよあい君は」
「ありがとうございます」
「……姉さんやトーマスの賛成も得たことだしあい君の提案を受けることにするよ。……でも一つ気掛かりがあるんだけど」
「アルゼリアルですか?」
「うん。流石にアルスさんをキルリアの物にする事は反対するでしょう?父上がやった事と変わりないからね」
「それはご安心を。その為にマクネア様もお呼びしたのですから」
「………え?私に判断させるの?」
「ええ。現在のアルゼリアルを担っているのはマクネア様です。マクネア様の意見をアルゼリアル国王も無碍には出来ないでしょう?」
「……流石に無理だと思うわよ?」
「ではヒントを差し上げましょう」
「ヒント?」
「ええ。マスターはキルリアの国王でも無い。そして、シュピーとアルゼリアルを結ぶ大使でもある。更にはマスターは非常勤講師であり、爵位も持っていない」
「…………ッ?! アナタって人は……」
「?? どゆこと?」
『あい君』のヒントにマクネアさんはハッとした表情を浮かべる。どうやらマクネアさんは『あい君』の言いたい事が理解できたようだった。
「……無理難題を押し付けるわね。でも私一人では出来ないわよ?」
「その為にヒルメ様がいらっしゃるではありませんか。シュピーの後ろ盾を使わない手はございませんよ」
「……やってみるわ。けれど、陛下が『はいそうですか』とすんなり引くとは思わないわ?」
「その時は既成事実を作るまでです。翻すことの出来ない事実をね………フフフッ」
『あい君』は何やらニンマリとした表情で俺を見る。その目を見て俺は寒気がし身震いした。……これ、絶対変な事だ!ぜってぇーーー変なことだ!!!
「………ねぇ。それってもしかして---
「ご安心を。キルリア国であれば大丈夫ですから。マスターも断る理由はありませんからね」
「…………!!!」
マクネアさんは雷に打たれたような表情を浮かべるとミリィと俺をキツく睨む。そして、『あい君』へと舌打ちをすると苦々しい表情で口を開いた。
「…アナタって人は!!本当にいい性格してるわね!!!」
「お褒めに預かり光栄です」
「皮肉だってば!!……うぅー、じゃあその線で陛下に伝えるわ」
「よろしくお願いします。いざとなれば私が向かいますので」
「アナタが来たら余計話が拗れるだけだわ。……………ところで話はもう終わり?」
「ええ。重要な物は以上です」
『あい君』の言葉で、全然理解出来ないまま会談が終わった。ヒースクリスさんの好意で今日はキルリアに泊まることとなった。こちらの用件は済んだので帰ろうと思ったが、ナイルさんを筆頭とした兵士達が俺と喋りたいと訴え出たそうだ。マクネアさんに相談しようと思ったが、『どーせあい君がヒルメ様に報告するんでしょ?』と聞くと、『勿論ですとも。ついでにミネルヴァ様へもお伝えしましょうか?』と答えていた。
マクネアさんが『だったら泊まりましょう。ミリィとも話したいこともあるし』という鶴の一声で宿泊が決まった。俺が宿泊するという話は直ぐに広まり、王城にはキルリア国の住民達が次々に押し寄せてきた。人前に立つのは苦手だが、悪い気はしない。………ちょっとだけ鼻が高くなっていたのは否定しないけど。
住民達や兵士達の相手をしながら夜が過ぎていく。後半になると俺はトーマスさんの愚痴に付き合っていた。ヒースクリスさんを始めとした兵士達は見張りの兵士を除き全員が酔い潰れていたからだった。酒に酔うとやはり本音が出る様で、トーマスさんは『あい君』の提案をあまり良くは思っていないようだった。まぁそれは仕方の無いことだと思うし、王族ってのは色々としきたりとかあるはず。それを赤の他人に被せるってのもトーマスさんの立場からしたら好ましくないのだろう。
トーマスさんも酔い潰れ、満点の星空が広がる中、そろそろ寝ようかと思った時に『あい君』から声を掛けられる。どうやら俺と話がしたいらしかったが、俺も色々と聞きたい事があるので了承し、人目につかない所へと移動する。そして、『あい君』に感じた違和感を質問し、『あい君』が何を考えているかを知った俺はあんぐりと口を開ける。
『あい君』から聞かされた話は国王がどうたらこうたらとかの問題では無かった。聞かされている俺も『え?なにそれは?』と素の感情で聞き返す始末だった。しかし、その話をした『あい君』は自信無さげな表情を浮かべており、情報が足りないと嘆いていた。結果的に言うと、『世界は広い』と言うことだった。
その説明と『あい君』が濁していた部分が繋がり俺は納得した。確かにこの話は俺以外には想像出来ないだろう。通りで俺を自由にさせたがっていた訳だよ。
『あい君』の話は明け方まで続き、ようやく解放されると俺はその場で眠りに落ちた。酒が入っていたからという理由では無く、頭がパンクするほど情報が多かったからだ。脳味噌は悲鳴を上げ休息を求め俺を眠りにつかせる。俺も一気に話された所為でかなり疲れた。
意識が薄れる中、『あい君』が何かを話した気がする。しかし、休息に入っている脳は『あい君』の言葉を聞き入れなかった。そのまま俺はグースカと眠り込み、マクネアさん達に起こされるまで外で放置されるのであった。
『あい君』の口から信じられない言葉が出てきた。だが、『ムンクの叫び』の様に表情を崩しているのはトーマスさんだけであった。
「あ、アルス様をこ、国王にぃーーー!?」
「……落ち着きなよトーマス」
「……その理由を聞いてもいいかしら?」
ヒースクリスさんとマクネアさんは平然とした面持ちで『あい君』の言葉を待つ。
「ええ、勿論お話しします。しかし…
「質問は聞き終わってからするわ」
「……はい」
『あい君』は俺をチラリと見た後にゆっくりと口を開いた。
「……マスターを国王にする利点が複数ありまが、まず一つ目の理由として、マスターはアルゼリアル王国には勿体無いからです」
(ハ、ハァーー!?)
「まずドルド、シュピー、アルゼリアルは現時点で国王並びに女王が座しております。民衆からも厚い信頼を受けており国としてしっかり成り立っております。しかし、成り立っているが故にマスターのチカラを思う存分発揮出来ないのです」
『あい君』はパンッと柏手を叩くと掌から炎を出す。
「今の技術は『無詠唱』という技術です。マクネア様やミリィ様は間近で見た事があるので驚きはないと思いますが、ヒースクリス様方は初めて見たでしょう?」
「お、おう…………」
「トーマス様の反応を見る限りこの世界には『無詠唱』という技術は浸透していない。調査によればあるにはありますが、廃れた技術、或いは難しいという理由で手練れであっても使うことはありません。しかし、マスターはこの技術で最高位魔法を放つことが出来ます。マスターが見たことも無い魔法を使っていたとカフラーからの報告で聞いておりますでしょう?」
「……うむ、それは聞いておるが…」
「マスターはこの大陸で最強であると言っても過言では有りません。しかし、その最強であるマスターが一国に従事するというのも無理な事なのです。マスターという存在は戦力の均衡を崩す可能性も秘めているのですよ。………だからこそマスターは現在力無きキルリアの国王になって貰わなければなりません」
『あい君』はそう言い切るとマクネアさん達の反応を待った。
「……言いたい事は分かったわ。けれど、理解できるものでは無いわ?」
「逆にマクネア様にお聞きしますが、マスターはアルゼリアルに忠誠を誓っていると言いきれますか?」
「……それは」
「マスターが命を掛ける対象は身近な者だけです。それはミリィ様もマクネア様もお分かりでしょう?」
「…………」
「そしてアルゼリアルが襲撃された時、素早く行動出来たのは誰のお陰でしょうか?」
「……アルスね」
「はい。マスターと契約しているクロノス様達が居たからこそアルゼリアルは最小限の被害で済みました。しかし、アルゼリアルが窮地に陥った際、誰が指示系統を担当しましたか?本来ならば国王がするべきでしょうが、アルゼリアルの国王はキルリア前国王に隔離されていた。………もし、マスターが国王であったならばその様な事はあり得なかったでしょう」
「それは仕方ないでしょう?」
「はい。普通ならば仕方ないで済むのです。しかし、マスターならばの話です」
「……マクネア様。これは僕にも話した理由の一つですよ」
「これを聞いてヒースクリス様は了承したの?」
「複雑な部分は有りますが……民を護れる可能性が高いのはアルス様ですので」
「……そう」
「お分かりになりましたか?…次の理由ですが、マスターを頂点に置く事はマスターに自由を与える為でもあります」
「自由?……今でも自由でしょう?」
「違います。今のマスターは恩を返すために動いているだけです。バドワール様やドーラ様……まぁ色々と仕掛けてきましたがジルバ様もですね。この方々と出会い、良くしてくれたことにマスターは恩を感じ、それを返す為に従ったのですよ」
「……失礼な言い方ね」
「これはこれは失礼しました。しかし、それは真の自由では有りません。……マクネア様、マスターはここの常識を知らないでしょう?」
「それは否定しないわ?」
「だからこそマスターはキルリアの王となり、自由気ままに楽しんでもらおうと考えているのです」
「…質問は良いかしら?」
「どうぞ?予想できますが」
「アナタ…あい君は簡単に国王にさせようとしているけど、国王というのは自由とは全く逆の立場の存在よ?アルスの行動一つで国が左右されるのを理解して言っているのかしら?」
「ええ。勿論ですともマクネア様」
「……じゃあ----
「逆に質問ですマクネア様。マスターが国王として立派に働けるとお思いですか?」
(………はい?)
「………」
「政務で側にいたマクネア様ならお分かりでしょう?マスターは実力こそあれど知能は低いです。礼儀も知らなければ、常識も知らない。そんな人物が国を動かせるとお思いですか?」
(ちょっ?!『あい君』?!!)
突如『あい君』が俺を罵倒し始め、ヒースクリスさんとトーマスさんが驚いた表情を浮かべていた。
「……………………………………」
しかし、マクネアさんは『あい君』の質問を答えずに考え込む仕草をする。
「………………なるほど。あい君が言おうとしていることが分かったわ」
「え?ど、どういう事なんですかマクネア様?」
ヒースクリスさんがマクネアさんへと尋ねると『予想だけど』と前置きしてから話し出す。
「あい君が言っているのはアルスを国王にするという事。でもそれはアルゼリアルの様に戴冠式等をするということでは無い……」
「???」
「言ってしまえばアルスに国王としての位をあげるという事。つまり、別にアルスがキルリア国の王となるのではなくて、国のしがらみに囚われない自由な立場にさせるという話よ?」
「…………という事は、国王だけれど国王では無い?」
「ええ。……もしその予想が正解だとすると国王はヒースクリス様のままね。けれども国を運営するのはアルス達が……って事かしら?」
「「「??????」」」
ヒースクリスさんとトーマスさん、そして俺はマクネアさんが言っている言葉がよく理解出来なかった。無い脳味噌を必死に絞っていると拍手の音が聞こえた。
「流石ですねマクネア様。よくもまぁあれだけしか無い情報でここまで導き出しました」
拍手をしていたのは『あい君』であった。満足げな表情で拍手し終えるとヒースクリスさん達に説明してくれた。
「国王国王と言っておりましたが、マスターになってもらうのは名ばかりの国王という事です。……冷静に考えてください。この話について行けてないマスターが海千山千が集う輩の輪に入れるとでも?」
「…さっきから馬鹿にしてる?」
「馬鹿も何も事実でしょう?マスターが聡明であればジルバ様如きの策に引っかかる事は無かったんですよ?」
「う、うぐぅ……」
「私に逐一相談してくれればこの様な面倒くさい立場にもならなかったのに。私に任せてくれればアルゼリアルなど一瞬で乗っ取ったでしょう」
「「「「「?!!!!!!」」」」」
『あい君』の爆弾発言にその場が凍りつく。しかし、『あい君』は鼻で笑うと話し続ける。
「…しかしアルゼリアルには魅力は感じませんでしたし、完全に乗っ取るまでは時間が掛かったでしょうね。…………あぁ、ご心配なさらず。あくまでも私であったらの話ですので」
「……いや、冗談でも笑えんぞ」
ドン引きしながらも『あい君』の話は続く。
「それはさておき、マスターが馬鹿で間抜けでしょーもないアホという事は理解出来ると思います。しかし、実際には情に脆く厚い人物でもあるのです。それ故に他国では良いように扱われてしまう可能性があるのですよ」
「アルゼリアルはそんな事しないわ?」
「それはどうでしょうか?ジルバ様のお考えをご存知でしょう?」
「………それは」
「まぁジルバ様も裏でコソコソと動いておりましたが、結局の所アルゼリアルのために動いていたのは事実。バドワール様はジルバ様の様な考えはお持ちでは無かった様ですが、ジルバ様の動きは私からすれば少しあからさまでしたよ」
「あからさま?……どういう意味だよ『あい君』」
「馬の骨とも分からない冒険者を貴族の子供達が通う学校に易々と派遣させるわけ無いでしょう?」
「????」
「バドワール様の助手として学会に出たのもジルバ様の策略の一つだったんですよ。まぁバドワール様はそれには関与しておりませんが」
「策略ぅ?」
「『知名度を上げる』という言葉に聞き覚えはありませんか?」
「…バドワール様が言っていた様な気が…」
「バドワール様はただ単に新知識を共有したかっただけ。しかし、ジルバ様は著名人や貴族にマスターの顔と名前を覚えさせたかったのです。私の予想でありますが、マスターの実力を子供経由で伝達することによってマスターの存在を知らしめる。それを時間をかけて浸透させる事で爵位を上げアルゼリアルの中核にぶちこもうとしていたと思います」
「え?なんでそんな面倒な事を?」
「それがアルゼリアルに利があるからですよ。武力も兼ね備え、知識もある者がアルゼリアルの中枢に居れば将来の技術発展に繋がる。そして、中枢にいる事でアルゼリアルを裏切ることができない様に仕向ける………と考えていたでしょうね」
「…でもそれは『あい君』の予想だろ?」
「はい、予想です。しかし、先程も言った通りアルゼリアルには魅力を感じません。広大な土地や労働力も持ち合わせながらも辺境の村々はおざなりにしている。それを発展させるとすればマスターがあちこちを走り回らないと行けないからです」
『あい君』の説明を受けて俺は違和感を感じる。その違和感とは理由なのだが、『あい君』は何事にもちゃんとした理由を述べる。だが、今回の話は理由が薄すぎる。………何か隠してるんじゃねぇだろうな?
…アルスが『あい君』の話に違和感を覚えたのは正解である。だが、『あい君』がこのような事を言っている理由はアルスにあったのを忘れていた。
『あい君』を創り出した理由は『アルスが楽をするため』であった。そして、アルスがここに転生した元々の理由は福引きに当たったという事である。閻魔が転生前に言っていた『輪廻前のバカンスだと思って楽しんでください』という事を『あい君』が覚えていたという事だ。
つまり、『あい君』は自らの主人を自由に楽しませようと考えた結果、この様な決断をしたのである。本来ならばアルスを何にも束縛される事なく自由に遊んでもらおうと考えていたが、自分が生み出された時にはすでにアルスはアルゼリアルという国家に組み込まれていた。そこから抜け出す事は『あい君』としても面倒極まりない事であり、それを主人が実行するはず無いと理解していた。
しかし、『あい君』にとって最大の好機が訪れた。主人が分身を創り出し、アルゼリアルを救う為に自分を置いていった時に、『あい君』は自らが考えていた事を急ピッチで進めれると理解したのだ。『あい君』にとってはアルゼリアルの存続などどうでも良い。主人が居なければアルゼリアルは滅びるだろうが、それを主人は救いに行った。その傍ら、『あい君』の手の中には未来のない国が残っていたのだ。
キルリアに残った『あい君』は『主人の名声を高める為』に四方八方を走り回った。この時にヒースクリスの名は出さなかった。王城に来れていない病弱な民衆の家へと足を運び、食糧と簡単な治癒魔法を掛けるという行為を済ませると次の家へと向かった。この反響は凄まじく、アルスの名はキルリアへとすぐに広まった。アルスのチカラを目の当たりにした兵士からは武勇伝が、『あい君』からは『慈愛に満ちた英雄』という話が。特に『あい君』の行為は心身ともに衰弱していた民衆には効果があった。
『あい君』は飴だけで民衆の感情をアルスへと向けさせた。暗躍せずとも簡単に『あい君』はキルリアを手中に収めることが出来た『あい君』はヒースクリスへと提案を持ちかけた。その提案とは上記の通りであるが、流石のヒースクリスもすぐに返事は出来なかった。だが、『あい君』の提案は心優しいヒースクリスにとっては魅力的なものであった。『自分は王の器ではない』と理解しているヒースクリスに『あい君』はこれからの未来についても提案する。結局、民衆を第一とした考えにヒースクリスは首を縦に振る。八方塞がりである現状、『あい君』の様な考えを閃く事はできなかったからだ。
「……とまぁ、色々と言いましたが国を運営するに当たってはヒースクリス様を主軸に置きます。マスターは各国を自由に回って頂きますが、国家の運営には私も関わらせて頂くという話をヒースクリス様にはお伝えしておりました」
「…ヒースクリス様、これは本当かのぉ?」
「うん。あい君の言う通りだね」
「儂になぜ仰ってくれなかったのじゃ?」
「トーマスも同じ答えを出したと思うよ?……あい君からはまだ伝えられてないけど、見返りもあるんだよ」
「見返り?…なんですかの?」
「技術と文明の発展だよ。あい君が言うにはこの大陸には存在しない新たな技術と文明を提供してくれるんだってさ」
「技術と文明ィ?!……話が壮大過ぎてついて行けんぞ…」
「あい君が言うには娯楽という文明を生み出すんだってさ。キルリア国は戦闘民族だ。しかし、それを廃止とするならば違う職を見つけなければならない」
「違う職と言うたら……農耕ではないのか?」
「流石に全国民を農耕に当てたら他の分野が遅れをとってしまうよ。ただでさえ、父上の所為でキルリア国は未発展なんだから」
「むむむ…………??」
ヒースクリスさんとトーマスさんの会話を聞いていて、引っ掛かることがあった。
(技術と文明の発展??……農耕を主とするんじゃ無かったのか?)
「あい君、ヒースクリス様に話した事を私にも教えてくれるかしら?」
「ええ。ヒースクリス様に話した事は技術と文明の発展。本来ならば技術を磨いてから文明を発展させるものですが、今回の場合は違い、逆から行こうと考えております」
「逆から?文明を創ってからと言うことかしら?」
「はい。…マクネア様はご存知でしょうがその文明はマスターが居なければ話になりません」
「…………なるほどね。その交換条件としてアルスにその地位を求めるわけね?」
「はい」
「…どういうことですかのぉ?マクネア様」
「…アルスの知識で文明を創るということよ。アルスの持つ知識は確かに革新的な物だわ。それをキルリア国の物とするならば、復興も早くなるでしょうし何より、武器を捨てるという事は三ヶ国からも好印象を受けるでしょうね」
「……なんとなくは理解出来るが、そのアルス殿が知る知識で文明が造れるのか?」
「ええ。勿論ですとも」
トーマスさんの心配げな言葉に『あい君』は力強く答える。
「じゃあ、儂にも分かりやすい文明とやらを講釈してもらおうかのぉ?」
トーマスさんの意地悪げな言葉に『あい君』は満面の笑みで返す。
「まず一つの文明として『本』を創り出します」
「本じゃとぉ?」
自信満々な答えにトーマスさんは上擦った声で返事をする。そして、理解すると共に呆れたような口調でこう話す。
「……なぁーんじゃ。本なんぞ他国にも存在しておるわぃ…。新しい文明と言っていたが存在しているではないか」
「たかが本、されど本ですよ?トーマス様が想像している本とは異なる物です」
「異なる本?」
「ええ。……アルゼリアルは学問にも優れておりますが、それは王都を含めた周辺だけの話。辺境に行けば本などは存在しません」
「そうなのか?」
「…まぁ流通はしているでしょうけど、必要かどうかを問われたら要らないでしょうね」
「トーマス様、本には幾つか種類がございますがご存知ですか?」
「そりゃ知っとるぞ?学術書や指導書、物語などじゃろう?」
「はい。しかし、本の可能性はそれだけでは無いんです」
「???」
「マスター。何も考えないので良いので、本と聞かれたら何を連想しますか?」
突如『あい君』に話を振られ、ちょっと考えた後に答える。
「……漫画とか小説、雑誌とかかな?」
「「「「??????」」」」
俺の返答にマクネアさん達は疑問符を浮かべる。しかし、『あい君』は満足げに頷くと口を開く。
「マスターが言った言葉は存じ上げないでしょう?たかが本と言ってもマスターの知識には沢山の種類があるのですよ」
「その…まんがやらしょうせつ?とやらはどんな物なんでしょう?」
ヒースクリスさんが俺に尋ねてくるが、『あい君』がそれに返事をする。
「漫画とは絵だけで作り上げる創作話でございます。そして小説とは絵付きの物語でございます」
「絵付き……ですか?」
「ええ。トーマス様も仰いましたが、絵という物は娯楽にも繋がる要素なのですよ」
「…絵は確かにアルゼリアルにもあるけどそれが文明になるのかしら?」
「なりますとも。私の調べでは絵は貴族御用達ですよね?」
「……まぁあまり大衆向けでは無いわね」
「フフフッ…マクネア様。今ご自分で答えを言いましたよ?」
「えっ?」
「画家は各国に存在しておりますが、それらはどれも貴族向けの娯楽です。しかし、それを大衆向けに発信すると需要は一気に増えることでしょう。そして、その大衆向けに発信した最初の国がキルリア国となると?」
「………………やだ。あい君の考えはどれも意地汚いものばかりね」
「ど、どういうことですかマクネア様?」
ヒースクリスさんがマクネアさんに助け舟を求めるが、その横にいたミリィが納得した仕草をしながら口を開いた。
「……あー…あたしも分かったかも。つまり、あい君が言いたいのは文明の先駆けを創る事なんでしょ?それが他国にも広まれば技術を習得しに人が流れ込んでくる。けど、その技術に必要な道具はキルリアでしか作れない様にするって魂胆ね?」
「流石ミリィ様。ご明察の通りです」
ミリィの話を聞いて俺も閃くものがあった。
「あー………もしかして、農耕に手を出すってのもそれが目的?」
「おお!マスターもお分かりになられたのですか?!」
「…やっぱり馬鹿にしてんだろ!!」
「驚いているだけですよ。……ヒースクリス様、ミリィ様が仰った通り漫画や雑誌には必要な道具があるのです。それをキルリアでしか作れない様にすればキルリアは潤います」
「…その言い方だとまだあるみたいだね?」
「ええ。一応言っておきますが、漫画と雑誌は確実に流行します。これは予想でも何でもなく自信を持って予言出来ることです」
「その根拠は?」
「根拠も何も学術書が流通している時点で軌道はあるんですよ?それに乗せるだけで勝手に流行するんですよ」
「………その為にアルスを…ってことね?」
「はい。あくまでも今のはアイディアだけです。ヒースクリス様は了承して頂きましたが、トーマス様やミリィ様の賛成も得なければなりません。……因みにですが今言ったことは一例に過ぎません。他にもあるということだけ匂わせておきましょう」
(何か『あい君』が性悪で胡散臭い奴に見えてきた……)
『あい君』の言葉にトーマスさんは顔を顰める。ヒースクリスさんはミリィとトーマスさんの表情を窺い口を開くのを待っていた。
「…まぁ現状を考えるならばその提案に乗るしか無いわね」
「ひ、姫様……」
口火を切ったのはミリィだった。ミリィの言葉を聞いたヒースクリスさんはホッとした表情を浮かべており、マクネアさんも目を瞑ってはいたが、首を縦にも横にも振らなかった。
「爺や、あたし達がいくら考えたってあい君の提案以上のものは出てこないわ?不利益はあるけれど、それ以上に利益の方が大きい。別にアルスが国王以上の権力を持ったとしても、アルスの根性じゃどうもすることも出来ないわよ」
「フフフッ…流石ミリィ様。マスターの事をよく理解していらっしゃいますね」
「アルスの事はギルドの時から見てるからね。……面倒臭いことは直ぐに逃げ出すから分かりやすいわ?」
「ングッ………」
「トーマス様。一言言っておきますが、アルス様には条約などを結ばせる権利は持たせません。その際は私が判断いたします」
「………………」
「トーマス。僕らが取る道はこれしか無いんだよ。トーマスが僕達のことを考えてくれるのは有り難く思うけど、それよりもまずは民達に目を向けないと」
「………分かりました、分かりましたよヒースクリス様。どーせ反対する奴はおらんじゃろうて。………しかし、民達にはどう説明するのじゃ?ヒースクリス様が国王だからこそ一纏めになっておるのじゃぞ?」
「いや。それは違うよトーマス。あい君はアルスさんの名をもう売り出しているんだ。それも巧妙にね」
「………それじゃ考えるだけ無駄ではないか…」
「いいや。それがあったからこそ、この提案が出来たんだよ。断ったとしても今あい君が話してくれた事を真似すればいいだけだしね」
「いえいえ。皆様方が了承してくださると信じて私は提案したまでですよ。乗るかどうかは皆様次第でございます」
「フフフッ……断ることの出来ない提案を出しておいて僕達次第とか……。良い性格してるよあい君は」
「ありがとうございます」
「……姉さんやトーマスの賛成も得たことだしあい君の提案を受けることにするよ。……でも一つ気掛かりがあるんだけど」
「アルゼリアルですか?」
「うん。流石にアルスさんをキルリアの物にする事は反対するでしょう?父上がやった事と変わりないからね」
「それはご安心を。その為にマクネア様もお呼びしたのですから」
「………え?私に判断させるの?」
「ええ。現在のアルゼリアルを担っているのはマクネア様です。マクネア様の意見をアルゼリアル国王も無碍には出来ないでしょう?」
「……流石に無理だと思うわよ?」
「ではヒントを差し上げましょう」
「ヒント?」
「ええ。マスターはキルリアの国王でも無い。そして、シュピーとアルゼリアルを結ぶ大使でもある。更にはマスターは非常勤講師であり、爵位も持っていない」
「…………ッ?! アナタって人は……」
「?? どゆこと?」
『あい君』のヒントにマクネアさんはハッとした表情を浮かべる。どうやらマクネアさんは『あい君』の言いたい事が理解できたようだった。
「……無理難題を押し付けるわね。でも私一人では出来ないわよ?」
「その為にヒルメ様がいらっしゃるではありませんか。シュピーの後ろ盾を使わない手はございませんよ」
「……やってみるわ。けれど、陛下が『はいそうですか』とすんなり引くとは思わないわ?」
「その時は既成事実を作るまでです。翻すことの出来ない事実をね………フフフッ」
『あい君』は何やらニンマリとした表情で俺を見る。その目を見て俺は寒気がし身震いした。……これ、絶対変な事だ!ぜってぇーーー変なことだ!!!
「………ねぇ。それってもしかして---
「ご安心を。キルリア国であれば大丈夫ですから。マスターも断る理由はありませんからね」
「…………!!!」
マクネアさんは雷に打たれたような表情を浮かべるとミリィと俺をキツく睨む。そして、『あい君』へと舌打ちをすると苦々しい表情で口を開いた。
「…アナタって人は!!本当にいい性格してるわね!!!」
「お褒めに預かり光栄です」
「皮肉だってば!!……うぅー、じゃあその線で陛下に伝えるわ」
「よろしくお願いします。いざとなれば私が向かいますので」
「アナタが来たら余計話が拗れるだけだわ。……………ところで話はもう終わり?」
「ええ。重要な物は以上です」
『あい君』の言葉で、全然理解出来ないまま会談が終わった。ヒースクリスさんの好意で今日はキルリアに泊まることとなった。こちらの用件は済んだので帰ろうと思ったが、ナイルさんを筆頭とした兵士達が俺と喋りたいと訴え出たそうだ。マクネアさんに相談しようと思ったが、『どーせあい君がヒルメ様に報告するんでしょ?』と聞くと、『勿論ですとも。ついでにミネルヴァ様へもお伝えしましょうか?』と答えていた。
マクネアさんが『だったら泊まりましょう。ミリィとも話したいこともあるし』という鶴の一声で宿泊が決まった。俺が宿泊するという話は直ぐに広まり、王城にはキルリア国の住民達が次々に押し寄せてきた。人前に立つのは苦手だが、悪い気はしない。………ちょっとだけ鼻が高くなっていたのは否定しないけど。
住民達や兵士達の相手をしながら夜が過ぎていく。後半になると俺はトーマスさんの愚痴に付き合っていた。ヒースクリスさんを始めとした兵士達は見張りの兵士を除き全員が酔い潰れていたからだった。酒に酔うとやはり本音が出る様で、トーマスさんは『あい君』の提案をあまり良くは思っていないようだった。まぁそれは仕方の無いことだと思うし、王族ってのは色々としきたりとかあるはず。それを赤の他人に被せるってのもトーマスさんの立場からしたら好ましくないのだろう。
トーマスさんも酔い潰れ、満点の星空が広がる中、そろそろ寝ようかと思った時に『あい君』から声を掛けられる。どうやら俺と話がしたいらしかったが、俺も色々と聞きたい事があるので了承し、人目につかない所へと移動する。そして、『あい君』に感じた違和感を質問し、『あい君』が何を考えているかを知った俺はあんぐりと口を開ける。
『あい君』から聞かされた話は国王がどうたらこうたらとかの問題では無かった。聞かされている俺も『え?なにそれは?』と素の感情で聞き返す始末だった。しかし、その話をした『あい君』は自信無さげな表情を浮かべており、情報が足りないと嘆いていた。結果的に言うと、『世界は広い』と言うことだった。
その説明と『あい君』が濁していた部分が繋がり俺は納得した。確かにこの話は俺以外には想像出来ないだろう。通りで俺を自由にさせたがっていた訳だよ。
『あい君』の話は明け方まで続き、ようやく解放されると俺はその場で眠りに落ちた。酒が入っていたからという理由では無く、頭がパンクするほど情報が多かったからだ。脳味噌は悲鳴を上げ休息を求め俺を眠りにつかせる。俺も一気に話された所為でかなり疲れた。
意識が薄れる中、『あい君』が何かを話した気がする。しかし、休息に入っている脳は『あい君』の言葉を聞き入れなかった。そのまま俺はグースカと眠り込み、マクネアさん達に起こされるまで外で放置されるのであった。
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