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第7章 建国
第234話 -異変-
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「え?今からすか?」
学園内の復旧も大方終わり、報告をマクネアさんへと伝えに行った。マクネアさんの仕事も終わりが見えた様で、丁度休憩している時だった。
「ええ。お爺様の体調も良くなったし、ヒルメ様からもお呼びがあるからね」
「そういやなんか言ってましたね。忘れてましたよ…」
「ちなみにミリィも来るそうよ」
「ミリィも?」
「ええ。………ねぇ、アルス。ミリィがキルリア国の王女だって知ってた?」
「あー……襲撃の時にヒースクリスさんの姉って聞きましたね」
「そう………。じゃあ私だけ知らなかったんだ…」
マクネアさんは少し寂しそうに笑うと天井を見上げる。
「……親友だと思ってたんだけどなぁ」
「…………」
こういう時イケメンとか空気の読める奴だったら気の利いた事を言えるんだろうけど、俺にはなんて言えばいいか分からない。
「…………えと
「まぁ、状況が状況だったから仕方ないのよね。きっと、ミリィにも秘密にしないといけない理由があったのよ」
「…そうっすね」
「さてと……。それじゃシュピー共和国へと向かいましょう。きっと首を長くして待っているわ」
「んじゃ、先に下に降りときますね」
「? 何を言ってるの?転移で行くのよ?」
「……あっ」
「その為にアルスだけを来させたんだから」
「……なるほどねぇ。んじゃ行きますか」
マクネアさんの手を握り--とても柔らかくてスベスベしてた--シュピー共和国へと転移する。シュピー共和国の大門へと到着すると驚いている兵士へと話しかける。
「こんにちは。私はアルゼリアル王国のマクネアと申します。ヒルメ様に謁見したいのですが」
「……しばし待たれよ」
兵士はそういうと門を叩き、中の兵士へと小窓から何やら話をしていた。小窓が閉まると兵士は戻ってきてマクネアさんに話しかける。
「お待たせしました。ドウザン様がお迎えに来るそうです。今しばらくここでお待ちを」
「分かりました」
5分程外の景色--とは言っても森しか無いが--を見ながら時間を潰していると門から威勢の良い声が聞こえた。
「やぁやぁ!待たせてすまなんだ!」
「こんにちはドウザン様」
「久し振りでございますなマクネア様。立ち話もなんですし、どうぞ中へ」
ドウザンさんの後をついて行き中へと入る。街中は以前来た時と全く変わりが無く、襲撃は無かったんだなと思った。
「お二人に少し話がある」
「? 何ですかね?」
真面目な口調で話しかけたドウザンさんに内緒話をするかのように耳を近づけると、鼻で笑われた。
「いやいや…。別に秘密の話ではない。ただの情報交換だ」
「?」
「本当は私が直接マクネア様の屋敷へと足を運ぶつもりだったのだが……丁度お二方が参られたのでな」
「どのようなお話でしょうか?」
「キルリア国についてだ。……変な噂を耳にしたのでな、何か知っているかと思って」
「変な噂…ですか?」
「ああ。ヒルメ様からも聞かれるだろうが、何やらキルリア国でまたも不穏な動きがあるらしい」
「「ッ?!」」
ドウザンさんの言葉に俺らは目を見開いて驚く。その様子を見てドウザンさんは慌てて訂正する。
「あ、違う違う。言葉選びが可笑しかった。不穏な動きと言うのは悪い方の話ではない」
「………では何でしょう?」
「……不思議な話なのだが、キルリア国から密者が来てな。その者には品性のカケラも持ち合わせて無かったのだが……国王から書簡を持ってきたのだ」
「書簡?……てか、国王??」
「国王の名はヒースクリス様だった。まぁ順当に考えればヒースクリス様が後を継ぐのは理解出来るのだが、内容が内容でな」
「それはここで話しても大丈夫なのですか?」
「ああ。アルゼリアルはしてないだろうが、我等シュピー共和国の者達はキルリア国との国交を再開したのだ。まぁ、探りを入れたと言うのが正しいのだが」
「…それで?その結果は?」
「至って普通の国に戻っていたよ。どこから調達したのかは分からないが、国内には食糧も出回っていた。………だが、それが不思議な話なのだよ」
「????」
「まぁ、細かい話はヒルメ様がしてくださるだろう。だが、先にある程度話しておこうと思ってな。…………先も言ったが書簡の内容は『借金を食物で返す』と言う中身だった」
「食べ物で?」
「ああ。……キルリア国は不毛な土地の筈なのだが、そういう内容が届いたのだ。まぁシュピーはキルリアにある程度の金銭の援助はしていた。だが、大部分は食物だったんだよ」
「……………それは不思議ですわね」
「だろう?ヒルメ様もアルス殿やマクネア様が何か知っているのではないかと考えてな、私に命じたんだよ」
「通信で聞けば良かったんじゃ……」
「……それがヒルメ様の魔水晶は今壊れているんだ。取り寄せてはいるのだが、アルゼリアルも枯渇しているし、質の良い魔水晶も中々見つからないのだよ」
「………通りで書簡で届くはずだわ」
「何だって?ヒルメ様は説明してなかったのか?」
「ええ。書簡も文通の様なものだった。近況を教えて欲しいみたいな感じだったわ」
「…ヒルメ様は伝えていると言ってたんだが……まぁた嘘を仰ったんだな」
「…もしかしたら言ったつもりなのかも?」
「アルス殿の言う通りかも知れんな。ヒルメ様はいつもそうなのだよ……。通りで葉月が怒り狂う訳だ」
ドウザンさんは『やれやれ』と言った具合にジェスチャーをする。それからしばらく歩いた後、ヒルメの屋敷へと到着し中へと入る。今回は回り道などせず直接ヒルメの部屋へと向かった。
「ヒルメ様。マクネア様とアルス殿をお連れしました」
「うむ。中へ入れ」
中に入るとヒルメはだらしない格好で俺達を待っていた。手には何やら紙を持っており、それをヒラヒラと泳がしていた。
「ドウザン。マクネア達には粗方説明したかの?」
「はい。………所でヒルメ様。魔水晶が使えない事をマクネア様はご存知無かった様ですが?」
「はぇ?妾はちゃーんと伝えたぞ?」
「いえ。聞いておりませんわ」
「…………い、いや!ちゃんと伝えたぞ!!」
「現にマクネア様は不審に思われていたご様子。書簡にもその様な事は無かったと申しておられますが?」
「………………………伝えたはず」
「………ハァ。良いですかヒルメ様?そういったことをちゃんとしてないから部下達から不満が---
「ええい!うるさいうるさい!!もう小言は聞き飽きた!!」
駄々っ子の様にヒルメは耳を塞ぎ声を荒げる。ドウザンさんは心底疲れた様な溜息を吐くと話を変えた。
「……この事については後ほどしっかり言い聞かせますからね。所でヒルメ様。道中にマクネア様にもお聞きしましたが、何もご存知なかった様です」
「ふむ………マクネアよ。アルゼリアルはキルリア国と連絡は取っておらぬのか?」
「はい。人手が足りませんので…」
「間者達もか?」
「彼等は今王国の貴族達の動きを探らせています。状況が状況ですので、悪さをするには丁度良いですからね」
「貴族が多いのも大変じゃのう?………ならばアルスよ。ソチは何か知らぬか?」
「……なぁーんにも。ミリィを送った後は音沙汰無しだ」
「……そうか。じゃとすると、これは姫君の考えかのぅ?」
「……………………ヒルメ様。一つお聞きしたい事があります」
「なんじゃマクネア?」
「ミリィの事についてです」
「…ふむ。その言い方から察するに何故知っていて教えなかったのか言うことかのぅ?」
「はい」
「簡単な話じゃ。あの娘は不思議な縁を持ち合わせておる。そして何より、あの娘は世間上では死んだ事になっておるからじゃよ」
「………それは分かっております」
「マクネアよ。あの娘が生きていたと知られた時、ガランドールはどうしたと思う?」
「…………」
「恐らくこの度の襲撃が早まったじゃろうなぁ。『アルゼリアルに奪われた姫君を奪還する』という大義名分付きでじゃ」
「………それは!」
「ガランドールには火種が必要だったのじゃよ。それは何でも良いのだ。だが、姫君を奪還するという事柄は民衆をも一纏めにしたじゃろうて」
「……ヒルメ様。ミリィがキルリア国の姫君だと知ったのはいつ頃でしょうか?」
「…………………最初からじゃ。あの娘がアルゼリアルに逃げた時からじゃな」
「ッ!!」
「……その中身は本人から直接聞いた方が良いぞ?あの娘もマクネアに言えなかったのが気掛かりじゃろうからな。………言い訳をさせて貰えば、ルイに話をしておこうと思っていた。極秘に匿う様にとな?じゃが、拾われた先が大問題じゃった。マクネアも知っておろうが、あの娘は『戦神』に拾われたのじゃよ。…………………あとは分かるな?」
「…………………仰る事は理解出来ます。名家がミリィを拾った事で、略奪したと言われてもおかしくない状況だとも」
「まぁ戦神はミリィの事は知らんがな。ただの民を保護したとしか思うておらんじゃろうて」
「ですが……」
「時にマクネア。お主はあの娘からとある秘密を聞かされたじゃろ?アルスも知ってるじゃろうが、神と会話が出来るという秘密じゃ」
「「ッ?!」」
「ああ、その話はドウザンも知っておる。何せその情報を持ってきたのはドウザンじゃからな」
「……忍び込ませていたのですか?」
「もちろんじゃ。あの娘の動向は妾としても知らなければおかぬからのぅ?」
「そう……なんですか…」
「ん?ちょっと待てよヒルメ。忍び込ませていたってのは、ミリィを怪しんでいたって事か?」
「違うぞ。あの娘が自らの事を話さないか警戒しておったのじゃ。バレればその後は火を見るより明らかじゃからな」
「……けどよ、ヴァルと会話出来るっつーだけでもやべぇんじゃねぇか?」
「フハハッ!それをお主が言うのか?お主もマクネアに話せる事を暴露したじゃろ?」
「………ああっ!!!」
「マクネアは口が固いからの。じゃからそれについては大丈夫だと思うたまでじゃ」
ヒルメは扇子をパタパタとさせると、話題を変える。
「これ以上の事は本人から直接聞いた方が良かろうて。マクネアも色々と言いたいじゃろうしな。………話を戻すが、キルリアから来た書簡に不可解な事が書かれておってな。その事についてアルスに聞きたい」
「俺に?」
「うむ。書簡には……まぁ色々な事が書かれておる。抜粋すれば『借金の食糧での返還』、『大々的な交易の許可』、『アルスの来訪』じゃ」
「俺の来訪?????え、なんで??」
「妾が聞きたい。しかも、ヒースクリスからの指名じゃ」
「ヒルメ様、何故それをヒルメ様に送ったのでしょうか?」
「アルゼリアルにキルリアからの使者が来ればどうなるか分かるじゃろ?ドルドは表立っては無関心を通しておるからな。シュピーであれば上手く立ち回れると考えたのじゃろう」
「ふーん………じゃあ、俺も呼んだのはこの事があったからか?」
「この件もあるが、別件もある。……何度も読み返してみたのじゃが、余りにも手が早すぎるのじゃ」
「? 手が早すぎる??」
「妾はヒースクリスの事をある程度は知っておる。じゃが、あの坊主がここまで知恵が回るとは思わなんだ。あの娘が介入していたとしても、余りにも策が手練れ過ぎる」
「???? ごめん……全然意味が分からん」
「……アルスの貧相なオツムにもわかりやすく言えば、キルリア国は三国から拒否されている立場じゃ。そして、不毛な土地も相まって自力で生き延びる事は出来んのじゃよ」
「それはさっきも聞いたから分かるけど……それが?」
「見通しが立たぬ筈なのに、交易を再開しようとしたり食糧で借金を返そうとしたりするのは、まだまだ早いのじゃ。自国がある程度潤ってから、或いは基盤が出来てから徐々に動くならまだしも、キルリア国は早急に門を叩いてきたのじゃ」
「????」
「……なるほど。助けを求めるのならまだしも、先を見据えて動いてきた事にヒルメ様は疑問を持ったのですね?」
「その通りじゃ。現に借金を返すという名目と共に種が送られてきたのじゃ」
「種……?」
「恐らくそれを当てるつもりじゃろうな。部下の調べによるとその種は麦と西瓜だそうじゃ」
「麦と西瓜………麦は分かるけど何で西瓜が?」
「分からん。キルリアは農業が栄えている訳でもない。じゃが、西瓜がもし出荷出来るほど収穫出来たら話が変わるじゃろうな」
「たかが西瓜でそんなんなるの??」
「西瓜は我がシュピーの珍品なのじゃ。アルゼリアルでもドルドでも栽培は出来ぬ」
「……ただ、種植えるだけじゃないの?」
「不向きなのは理由がある。それは土壌の管理じゃな。我が国は自然豊かであり人の手は一切加えてない。そこに綺麗な湧き水と自然な魔力が奇跡的に調和し、甘くなめらかな口溶けの西瓜が育っておるのじゃ」
「…アルス、説明しとくけどシュピーの西瓜ってのはかなりの高級品なの。貴族達も中々手を出せないし、食べる事もかなり運が良くないとダメなのよ」
「西瓜……の話っすよね?」
「ええ。シュピーでは西瓜を栽培してないの。自然のままに育ってたまたまそれを見つけた時に市場に出るの。大体はシュピーで消費されるんだけど、ヒルメ様が各国に贈ったりする時があるのよ」
「えーと……つまり西瓜はかなり珍しい食べ物って事??」
「そうじゃ。まぁドルドでもアルゼリアルでも種を集めて栽培しようとしておったが、成果は出なかったそうじゃな?」
「ええ、仰る通りですわ。結局、土壌と天然の魔力が漂ってないと育たないという事が発表されました」
「まぁシュピーも西瓜で生計は立てておらぬからな。運良く収穫出来たらの話じゃし、販売もしておらん」
「…………つーことは、キルリア国が西瓜を販売する様になったらマズいって事?」
「別にマズくはない。それが栽培出来ればの話じゃし、先も言った通り西瓜で生計は立てておらぬ。じゃが、麦の種と西瓜の種を送ってきたという事は自信がある、もしくは既に出来ているのかも知れん」
「??」
「疑問に思わぬか?農耕が発展しておらぬ不毛な土地にそぐわない食物の栽培なのじゃぞ?ヒースクリスもあの娘にも農耕の知識は無いはずじゃ。なんだかんだ言ってアヤツらは良い育ちじゃからの」
「はぁ……でもなんでそれが?全然意味が分かんない…」
「そこに更なる疑問が生まれたのじゃがアルスの事じゃ。どうやら現国王ヒースクリスはアルスと直々に逢いたいそうじゃ」
「俺と会う理由と西瓜の繋がりが全く分からん………」
「……あー、すまない。また言い忘れておった。坊主によるとアルスと西瓜を栽培するには理由があるそうじゃ」
「??????????」
ヒルメの話に全く頭がついてけない。もう何言ってんのかさっぱりだ。
「…その様子ではアルスも知らん様じゃの」
「うん……心当たりが無さ過ぎて」
「どうするかのぅ……。妾からすればアルスにはキルリアに行ってもらいたいのじゃが、ルイが許さんじゃろ?」
「……そうですね。事実を知っているとは言え、アルスも王国では有名人ですから」
「へ?そうなの???」
「陛下の話を聞いてなかったの??アルス達が陛下達を探し出し、ガランドールを倒したって話をしたでしょう?」
「……………いや、その時俺は裏で動いてたから」
「呆れた……。じゃあ恩賞の話は?」
「なにそれ?!」
「……………タイリークで手伝いをしている時に何も感じなかったの?」
「別に?よく話しかけられんなーとは思ったけど」
「……陛下から聞いてないのね?」
「うん」
「………後で陛下に伝えとくわ。この話は後日念入りにするとして………ヒルメ様はアルスをキルリアに向かわせた方が良いとお考えですか?」
「うむ。動向を探って欲しいのが本音じゃ。向こうもアルスを名指しした訳じゃし、丁度良いと思うてな」
「……………それは私も同伴出来たりは?」
「…それは分からぬなぁ。何故じゃ?」
「私も同伴出来れば行動出来るからです。出来なければアルスだけを向かわせられません」
「………分かった。坊主に聞いてみよう。…………ああ、それと。アルス、お主は影という者を知っておるか?」
「かげ?………いや、知らないなぁ」
「そうか。……何やら面倒になりそうな気がする」
「ヒルメ様。そのカゲとは?」
「坊主から送られてきた書簡に連名があってな。坊主の名の下にはトーマスが。更にその下に影という言葉が記されておったのじゃ」
ヒルメは俺達に書簡を見せる。ヒルメの言う通り、書簡の最後にはヒースクリスさんの名前とトーマスさん、そして影と書かれていた。
「………つーか最初っからこの書簡を見せてくれれば良かったんじゃ?」
「馬鹿を言うな。これは一応国家間の物じゃぞ?見せれるはずが無かろう?」
「……見せてんじゃん」
「この一枚にはなぁーんにも重要な事は書かれてないからな。名前ぐらいなら大丈夫じゃ」
ヒルメは書簡を取り上げるとドウザンさんに話しかける。
「ドウザン。アルス達の食事の準備を頼む。今日は泊まらせるので、客間の用意も頼むぞ」
「いえ。私達はお話が終われば国に--
「ルイにはもう伝えておる。ルイからの伝言じゃ。『たまにはゆっくり休んでくれ』とな」
「………直接言ってくだされば良いのに」
「フハハッ!マクネアが一生懸命なのは理解しておる。じゃがの、下が優秀過ぎるのも問題なのじゃ。まぁそう仕向けた妾には言う権利は無いがな」
「……そうですわね」
「ま、予想以上の働き振りであったぞマクネア。後の舵取りはルイに任せるが良い。…………後々のことを考えるとな」
「後々とは?」
「マクネアがルイの側室になるならば何も言わん。じゃが、これ以上三大貴族のバランスが崩れるのもよろしくない」
「私が陛下の側室に?………それはあり得ませんわ。絶対に。確実に」
「ならば引き際じゃ。あとはルイに託すが良い」
「……ヒルメ様がそう仰るのなら」
「うむうむ。これは妾の命令じゃ。………では、食事の準備が出来るまで客間でゆっくりしておけ。散歩に出掛けても良いぞ?」
ドウザンがアルス達の部屋の準備が出来たと報告しにきた。アルス達はドウザンの案内で部屋から出ていく。そして、一人残った部屋に静かに訪れる者がいた。
「帰ったか?」
「ハッ」
「して?キルリアの様子は?」
「…現状以前と変わりはありません。ヒースクリス様もミリィ様も国内を奔放している様です」
「ふむ……。では影については?」
「それが…………少しややこしい話でして」
「? ややこしい話とな?どういうことじゃ葉月よ?」
「…………王城内を調べた所、アルス様にそっくりな人物が居られました」
「は?アルスとそっくりじゃと?」
「はい………名前までは調べる事が出来ませんでしたが、トーマス殿やヒースクリス様とも仲良さそうに話をしておりました」
「……葉月。お主の友人とやらに聞いてみたのか?」
「ハッ。……ただ誰も名を知らないと申しております」
「……なんじゃそりゃ。そんな訳無かろうて…」
「もう一度調べましょうか?」
葉月の言葉にヒルメは少し悩む。調べて欲しいが、葉月達には別の仕事にも向かわせたい。それに、これ以上調べても間者では限界がある。どうするかを悩んだヒルメは計画を練る。
(…アルスとそっくりな人物か。ヒミコ様の予言にもそのような事は書かれて無かった……。ならば新たな脅威なのじゃろうか?)
ヒルメは畳んだ扇子を膝に当てながら思案を巡らせる。
(……向こうの返事次第だが、アルス達に調べされるというのも手じゃな。マクネアも連れていけば理解するはず。しかし、不安要素をそのままにするというのも困る………)
「………葉月。今すぐに坊主に書簡を届ける事は可能か?」
「もちろんです」
「では今から書簡を書き上げる。そして、その返事を坊主から直接聞いてこい」
「直接…ですか?」
「うむ。それ次第で動きが変わる。そして、この書簡は坊主の目の前で焼却せよ」
「………承知しました」
「ではしばし時間をくれ。あと、他の者達にはアルゼリアルの貴族の動向を探るよう命じよ」
「アルゼリアルのですか?マクネア様の密偵が探っているはずですが……」
「マクネアが動いているという事は何かしら予兆があるはず。お前達は情報を整理しマクネアの間者と共有しておけ」
「……承知。判断は如何様に?」
「敵か味方かで別けよ。そこら辺はマクネアの直属が知っておるだろう」
「ケビンの事ですね。では仰せのままに」
「うむ」
ヒルメは葉月を待機させると紙に文字を書く。内容は誤魔化したり遠回しなものでなく、単刀直入な内容であった。
「……よし。では葉月。これを坊主に渡してこい」
「承知しました。では!」
葉月はヒルメから書簡を預かるとその場から消える。誰も居なくなった事でヒルメは盛大に溜め息を吐くと額に手を当てる。
「……ヒミコ様も面倒な予言を残したものじゃ。アレが戯言であれば妾がここまで悩むこともなかったじゃろうに…」
ヒルメはヒミコの顔を思い出し悪態を吐く。ヒミコの予言は細かい事は書かれておらず大雑把なものであったが、今のところほぼ的中している。その予言にはこれからどうなるかも書かれており、一波乱を迎えそうな事柄であった。
「全ては転生者次第……か。ヒミコ様も転生者であったが、死ぬときはあっさりしておったのぅ。確か前世では巫女だったと聞いておったが……」
ヒルメは懐かしい思い出を蘇らせる。ヒルメは輪廻転生という言葉を信じていない。それは身を持って理解している事で、ヒミコの様に安らかに死ねることを羨ましく思ったほどだ。だが、ヒルメの役割は未来永劫続く。終わるとすればそれはこの世界が滅びる時だろう。
「……余計な事を言えぬのは辛いのぅ。神も余計な事を託したものじゃ」
ヒルメはとある神の顔を思い浮かべて少しだけ悪態を吐く。まぁその神が居たからこそ、この世界は均衡が保たれているのも事実だ。そして、その均衡を邪魔する者は全力で駆除しなければならない。例えそれがアルスだったとしても……だ。
「全員が全員平和日和な者ではない…か。混沌を招く者はいつのときにも現れる。………妾にも平穏が訪れるのかのぉ?」
ヒルメの呟きは誰に聞かれる事なく消えていく。ゆっくりと腰を上げたヒルメはアルス達の部屋へと向かう。恐らく今日の夜には返事が届くはずだ。それを聞いてからマクネアに話し、行動せねばならない。
「……たまには妾もゆっくりしたいぞ。ヒミコ様の秘密部屋に逃げ込もうかの?」
ヒミコが生前隠していた物がその部屋にはある。小型の物が出来ないと知ったときのヒミコは泣き喚いていた。しかし、それとは別に何やらコソコソしていたかと思ったら、大量の紙を消費して書庫を作っていた。何やら前世の宝物と言っていたが、ヒルメからすれば男と男がまぐわう話など興味は持てなかった。
「……アルスにも一度見てもらうかのぅ。アヤツなら知っておるじゃろ」
そんな事を考えながらアルス達の部屋へと向かうのであった。
「え?今からすか?」
学園内の復旧も大方終わり、報告をマクネアさんへと伝えに行った。マクネアさんの仕事も終わりが見えた様で、丁度休憩している時だった。
「ええ。お爺様の体調も良くなったし、ヒルメ様からもお呼びがあるからね」
「そういやなんか言ってましたね。忘れてましたよ…」
「ちなみにミリィも来るそうよ」
「ミリィも?」
「ええ。………ねぇ、アルス。ミリィがキルリア国の王女だって知ってた?」
「あー……襲撃の時にヒースクリスさんの姉って聞きましたね」
「そう………。じゃあ私だけ知らなかったんだ…」
マクネアさんは少し寂しそうに笑うと天井を見上げる。
「……親友だと思ってたんだけどなぁ」
「…………」
こういう時イケメンとか空気の読める奴だったら気の利いた事を言えるんだろうけど、俺にはなんて言えばいいか分からない。
「…………えと
「まぁ、状況が状況だったから仕方ないのよね。きっと、ミリィにも秘密にしないといけない理由があったのよ」
「…そうっすね」
「さてと……。それじゃシュピー共和国へと向かいましょう。きっと首を長くして待っているわ」
「んじゃ、先に下に降りときますね」
「? 何を言ってるの?転移で行くのよ?」
「……あっ」
「その為にアルスだけを来させたんだから」
「……なるほどねぇ。んじゃ行きますか」
マクネアさんの手を握り--とても柔らかくてスベスベしてた--シュピー共和国へと転移する。シュピー共和国の大門へと到着すると驚いている兵士へと話しかける。
「こんにちは。私はアルゼリアル王国のマクネアと申します。ヒルメ様に謁見したいのですが」
「……しばし待たれよ」
兵士はそういうと門を叩き、中の兵士へと小窓から何やら話をしていた。小窓が閉まると兵士は戻ってきてマクネアさんに話しかける。
「お待たせしました。ドウザン様がお迎えに来るそうです。今しばらくここでお待ちを」
「分かりました」
5分程外の景色--とは言っても森しか無いが--を見ながら時間を潰していると門から威勢の良い声が聞こえた。
「やぁやぁ!待たせてすまなんだ!」
「こんにちはドウザン様」
「久し振りでございますなマクネア様。立ち話もなんですし、どうぞ中へ」
ドウザンさんの後をついて行き中へと入る。街中は以前来た時と全く変わりが無く、襲撃は無かったんだなと思った。
「お二人に少し話がある」
「? 何ですかね?」
真面目な口調で話しかけたドウザンさんに内緒話をするかのように耳を近づけると、鼻で笑われた。
「いやいや…。別に秘密の話ではない。ただの情報交換だ」
「?」
「本当は私が直接マクネア様の屋敷へと足を運ぶつもりだったのだが……丁度お二方が参られたのでな」
「どのようなお話でしょうか?」
「キルリア国についてだ。……変な噂を耳にしたのでな、何か知っているかと思って」
「変な噂…ですか?」
「ああ。ヒルメ様からも聞かれるだろうが、何やらキルリア国でまたも不穏な動きがあるらしい」
「「ッ?!」」
ドウザンさんの言葉に俺らは目を見開いて驚く。その様子を見てドウザンさんは慌てて訂正する。
「あ、違う違う。言葉選びが可笑しかった。不穏な動きと言うのは悪い方の話ではない」
「………では何でしょう?」
「……不思議な話なのだが、キルリア国から密者が来てな。その者には品性のカケラも持ち合わせて無かったのだが……国王から書簡を持ってきたのだ」
「書簡?……てか、国王??」
「国王の名はヒースクリス様だった。まぁ順当に考えればヒースクリス様が後を継ぐのは理解出来るのだが、内容が内容でな」
「それはここで話しても大丈夫なのですか?」
「ああ。アルゼリアルはしてないだろうが、我等シュピー共和国の者達はキルリア国との国交を再開したのだ。まぁ、探りを入れたと言うのが正しいのだが」
「…それで?その結果は?」
「至って普通の国に戻っていたよ。どこから調達したのかは分からないが、国内には食糧も出回っていた。………だが、それが不思議な話なのだよ」
「????」
「まぁ、細かい話はヒルメ様がしてくださるだろう。だが、先にある程度話しておこうと思ってな。…………先も言ったが書簡の内容は『借金を食物で返す』と言う中身だった」
「食べ物で?」
「ああ。……キルリア国は不毛な土地の筈なのだが、そういう内容が届いたのだ。まぁシュピーはキルリアにある程度の金銭の援助はしていた。だが、大部分は食物だったんだよ」
「……………それは不思議ですわね」
「だろう?ヒルメ様もアルス殿やマクネア様が何か知っているのではないかと考えてな、私に命じたんだよ」
「通信で聞けば良かったんじゃ……」
「……それがヒルメ様の魔水晶は今壊れているんだ。取り寄せてはいるのだが、アルゼリアルも枯渇しているし、質の良い魔水晶も中々見つからないのだよ」
「………通りで書簡で届くはずだわ」
「何だって?ヒルメ様は説明してなかったのか?」
「ええ。書簡も文通の様なものだった。近況を教えて欲しいみたいな感じだったわ」
「…ヒルメ様は伝えていると言ってたんだが……まぁた嘘を仰ったんだな」
「…もしかしたら言ったつもりなのかも?」
「アルス殿の言う通りかも知れんな。ヒルメ様はいつもそうなのだよ……。通りで葉月が怒り狂う訳だ」
ドウザンさんは『やれやれ』と言った具合にジェスチャーをする。それからしばらく歩いた後、ヒルメの屋敷へと到着し中へと入る。今回は回り道などせず直接ヒルメの部屋へと向かった。
「ヒルメ様。マクネア様とアルス殿をお連れしました」
「うむ。中へ入れ」
中に入るとヒルメはだらしない格好で俺達を待っていた。手には何やら紙を持っており、それをヒラヒラと泳がしていた。
「ドウザン。マクネア達には粗方説明したかの?」
「はい。………所でヒルメ様。魔水晶が使えない事をマクネア様はご存知無かった様ですが?」
「はぇ?妾はちゃーんと伝えたぞ?」
「いえ。聞いておりませんわ」
「…………い、いや!ちゃんと伝えたぞ!!」
「現にマクネア様は不審に思われていたご様子。書簡にもその様な事は無かったと申しておられますが?」
「………………………伝えたはず」
「………ハァ。良いですかヒルメ様?そういったことをちゃんとしてないから部下達から不満が---
「ええい!うるさいうるさい!!もう小言は聞き飽きた!!」
駄々っ子の様にヒルメは耳を塞ぎ声を荒げる。ドウザンさんは心底疲れた様な溜息を吐くと話を変えた。
「……この事については後ほどしっかり言い聞かせますからね。所でヒルメ様。道中にマクネア様にもお聞きしましたが、何もご存知なかった様です」
「ふむ………マクネアよ。アルゼリアルはキルリア国と連絡は取っておらぬのか?」
「はい。人手が足りませんので…」
「間者達もか?」
「彼等は今王国の貴族達の動きを探らせています。状況が状況ですので、悪さをするには丁度良いですからね」
「貴族が多いのも大変じゃのう?………ならばアルスよ。ソチは何か知らぬか?」
「……なぁーんにも。ミリィを送った後は音沙汰無しだ」
「……そうか。じゃとすると、これは姫君の考えかのぅ?」
「……………………ヒルメ様。一つお聞きしたい事があります」
「なんじゃマクネア?」
「ミリィの事についてです」
「…ふむ。その言い方から察するに何故知っていて教えなかったのか言うことかのぅ?」
「はい」
「簡単な話じゃ。あの娘は不思議な縁を持ち合わせておる。そして何より、あの娘は世間上では死んだ事になっておるからじゃよ」
「………それは分かっております」
「マクネアよ。あの娘が生きていたと知られた時、ガランドールはどうしたと思う?」
「…………」
「恐らくこの度の襲撃が早まったじゃろうなぁ。『アルゼリアルに奪われた姫君を奪還する』という大義名分付きでじゃ」
「………それは!」
「ガランドールには火種が必要だったのじゃよ。それは何でも良いのだ。だが、姫君を奪還するという事柄は民衆をも一纏めにしたじゃろうて」
「……ヒルメ様。ミリィがキルリア国の姫君だと知ったのはいつ頃でしょうか?」
「…………………最初からじゃ。あの娘がアルゼリアルに逃げた時からじゃな」
「ッ!!」
「……その中身は本人から直接聞いた方が良いぞ?あの娘もマクネアに言えなかったのが気掛かりじゃろうからな。………言い訳をさせて貰えば、ルイに話をしておこうと思っていた。極秘に匿う様にとな?じゃが、拾われた先が大問題じゃった。マクネアも知っておろうが、あの娘は『戦神』に拾われたのじゃよ。…………………あとは分かるな?」
「…………………仰る事は理解出来ます。名家がミリィを拾った事で、略奪したと言われてもおかしくない状況だとも」
「まぁ戦神はミリィの事は知らんがな。ただの民を保護したとしか思うておらんじゃろうて」
「ですが……」
「時にマクネア。お主はあの娘からとある秘密を聞かされたじゃろ?アルスも知ってるじゃろうが、神と会話が出来るという秘密じゃ」
「「ッ?!」」
「ああ、その話はドウザンも知っておる。何せその情報を持ってきたのはドウザンじゃからな」
「……忍び込ませていたのですか?」
「もちろんじゃ。あの娘の動向は妾としても知らなければおかぬからのぅ?」
「そう……なんですか…」
「ん?ちょっと待てよヒルメ。忍び込ませていたってのは、ミリィを怪しんでいたって事か?」
「違うぞ。あの娘が自らの事を話さないか警戒しておったのじゃ。バレればその後は火を見るより明らかじゃからな」
「……けどよ、ヴァルと会話出来るっつーだけでもやべぇんじゃねぇか?」
「フハハッ!それをお主が言うのか?お主もマクネアに話せる事を暴露したじゃろ?」
「………ああっ!!!」
「マクネアは口が固いからの。じゃからそれについては大丈夫だと思うたまでじゃ」
ヒルメは扇子をパタパタとさせると、話題を変える。
「これ以上の事は本人から直接聞いた方が良かろうて。マクネアも色々と言いたいじゃろうしな。………話を戻すが、キルリアから来た書簡に不可解な事が書かれておってな。その事についてアルスに聞きたい」
「俺に?」
「うむ。書簡には……まぁ色々な事が書かれておる。抜粋すれば『借金の食糧での返還』、『大々的な交易の許可』、『アルスの来訪』じゃ」
「俺の来訪?????え、なんで??」
「妾が聞きたい。しかも、ヒースクリスからの指名じゃ」
「ヒルメ様、何故それをヒルメ様に送ったのでしょうか?」
「アルゼリアルにキルリアからの使者が来ればどうなるか分かるじゃろ?ドルドは表立っては無関心を通しておるからな。シュピーであれば上手く立ち回れると考えたのじゃろう」
「ふーん………じゃあ、俺も呼んだのはこの事があったからか?」
「この件もあるが、別件もある。……何度も読み返してみたのじゃが、余りにも手が早すぎるのじゃ」
「? 手が早すぎる??」
「妾はヒースクリスの事をある程度は知っておる。じゃが、あの坊主がここまで知恵が回るとは思わなんだ。あの娘が介入していたとしても、余りにも策が手練れ過ぎる」
「???? ごめん……全然意味が分からん」
「……アルスの貧相なオツムにもわかりやすく言えば、キルリア国は三国から拒否されている立場じゃ。そして、不毛な土地も相まって自力で生き延びる事は出来んのじゃよ」
「それはさっきも聞いたから分かるけど……それが?」
「見通しが立たぬ筈なのに、交易を再開しようとしたり食糧で借金を返そうとしたりするのは、まだまだ早いのじゃ。自国がある程度潤ってから、或いは基盤が出来てから徐々に動くならまだしも、キルリア国は早急に門を叩いてきたのじゃ」
「????」
「……なるほど。助けを求めるのならまだしも、先を見据えて動いてきた事にヒルメ様は疑問を持ったのですね?」
「その通りじゃ。現に借金を返すという名目と共に種が送られてきたのじゃ」
「種……?」
「恐らくそれを当てるつもりじゃろうな。部下の調べによるとその種は麦と西瓜だそうじゃ」
「麦と西瓜………麦は分かるけど何で西瓜が?」
「分からん。キルリアは農業が栄えている訳でもない。じゃが、西瓜がもし出荷出来るほど収穫出来たら話が変わるじゃろうな」
「たかが西瓜でそんなんなるの??」
「西瓜は我がシュピーの珍品なのじゃ。アルゼリアルでもドルドでも栽培は出来ぬ」
「……ただ、種植えるだけじゃないの?」
「不向きなのは理由がある。それは土壌の管理じゃな。我が国は自然豊かであり人の手は一切加えてない。そこに綺麗な湧き水と自然な魔力が奇跡的に調和し、甘くなめらかな口溶けの西瓜が育っておるのじゃ」
「…アルス、説明しとくけどシュピーの西瓜ってのはかなりの高級品なの。貴族達も中々手を出せないし、食べる事もかなり運が良くないとダメなのよ」
「西瓜……の話っすよね?」
「ええ。シュピーでは西瓜を栽培してないの。自然のままに育ってたまたまそれを見つけた時に市場に出るの。大体はシュピーで消費されるんだけど、ヒルメ様が各国に贈ったりする時があるのよ」
「えーと……つまり西瓜はかなり珍しい食べ物って事??」
「そうじゃ。まぁドルドでもアルゼリアルでも種を集めて栽培しようとしておったが、成果は出なかったそうじゃな?」
「ええ、仰る通りですわ。結局、土壌と天然の魔力が漂ってないと育たないという事が発表されました」
「まぁシュピーも西瓜で生計は立てておらぬからな。運良く収穫出来たらの話じゃし、販売もしておらん」
「…………つーことは、キルリア国が西瓜を販売する様になったらマズいって事?」
「別にマズくはない。それが栽培出来ればの話じゃし、先も言った通り西瓜で生計は立てておらぬ。じゃが、麦の種と西瓜の種を送ってきたという事は自信がある、もしくは既に出来ているのかも知れん」
「??」
「疑問に思わぬか?農耕が発展しておらぬ不毛な土地にそぐわない食物の栽培なのじゃぞ?ヒースクリスもあの娘にも農耕の知識は無いはずじゃ。なんだかんだ言ってアヤツらは良い育ちじゃからの」
「はぁ……でもなんでそれが?全然意味が分かんない…」
「そこに更なる疑問が生まれたのじゃがアルスの事じゃ。どうやら現国王ヒースクリスはアルスと直々に逢いたいそうじゃ」
「俺と会う理由と西瓜の繋がりが全く分からん………」
「……あー、すまない。また言い忘れておった。坊主によるとアルスと西瓜を栽培するには理由があるそうじゃ」
「??????????」
ヒルメの話に全く頭がついてけない。もう何言ってんのかさっぱりだ。
「…その様子ではアルスも知らん様じゃの」
「うん……心当たりが無さ過ぎて」
「どうするかのぅ……。妾からすればアルスにはキルリアに行ってもらいたいのじゃが、ルイが許さんじゃろ?」
「……そうですね。事実を知っているとは言え、アルスも王国では有名人ですから」
「へ?そうなの???」
「陛下の話を聞いてなかったの??アルス達が陛下達を探し出し、ガランドールを倒したって話をしたでしょう?」
「……………いや、その時俺は裏で動いてたから」
「呆れた……。じゃあ恩賞の話は?」
「なにそれ?!」
「……………タイリークで手伝いをしている時に何も感じなかったの?」
「別に?よく話しかけられんなーとは思ったけど」
「……陛下から聞いてないのね?」
「うん」
「………後で陛下に伝えとくわ。この話は後日念入りにするとして………ヒルメ様はアルスをキルリアに向かわせた方が良いとお考えですか?」
「うむ。動向を探って欲しいのが本音じゃ。向こうもアルスを名指しした訳じゃし、丁度良いと思うてな」
「……………それは私も同伴出来たりは?」
「…それは分からぬなぁ。何故じゃ?」
「私も同伴出来れば行動出来るからです。出来なければアルスだけを向かわせられません」
「………分かった。坊主に聞いてみよう。…………ああ、それと。アルス、お主は影という者を知っておるか?」
「かげ?………いや、知らないなぁ」
「そうか。……何やら面倒になりそうな気がする」
「ヒルメ様。そのカゲとは?」
「坊主から送られてきた書簡に連名があってな。坊主の名の下にはトーマスが。更にその下に影という言葉が記されておったのじゃ」
ヒルメは俺達に書簡を見せる。ヒルメの言う通り、書簡の最後にはヒースクリスさんの名前とトーマスさん、そして影と書かれていた。
「………つーか最初っからこの書簡を見せてくれれば良かったんじゃ?」
「馬鹿を言うな。これは一応国家間の物じゃぞ?見せれるはずが無かろう?」
「……見せてんじゃん」
「この一枚にはなぁーんにも重要な事は書かれてないからな。名前ぐらいなら大丈夫じゃ」
ヒルメは書簡を取り上げるとドウザンさんに話しかける。
「ドウザン。アルス達の食事の準備を頼む。今日は泊まらせるので、客間の用意も頼むぞ」
「いえ。私達はお話が終われば国に--
「ルイにはもう伝えておる。ルイからの伝言じゃ。『たまにはゆっくり休んでくれ』とな」
「………直接言ってくだされば良いのに」
「フハハッ!マクネアが一生懸命なのは理解しておる。じゃがの、下が優秀過ぎるのも問題なのじゃ。まぁそう仕向けた妾には言う権利は無いがな」
「……そうですわね」
「ま、予想以上の働き振りであったぞマクネア。後の舵取りはルイに任せるが良い。…………後々のことを考えるとな」
「後々とは?」
「マクネアがルイの側室になるならば何も言わん。じゃが、これ以上三大貴族のバランスが崩れるのもよろしくない」
「私が陛下の側室に?………それはあり得ませんわ。絶対に。確実に」
「ならば引き際じゃ。あとはルイに託すが良い」
「……ヒルメ様がそう仰るのなら」
「うむうむ。これは妾の命令じゃ。………では、食事の準備が出来るまで客間でゆっくりしておけ。散歩に出掛けても良いぞ?」
ドウザンがアルス達の部屋の準備が出来たと報告しにきた。アルス達はドウザンの案内で部屋から出ていく。そして、一人残った部屋に静かに訪れる者がいた。
「帰ったか?」
「ハッ」
「して?キルリアの様子は?」
「…現状以前と変わりはありません。ヒースクリス様もミリィ様も国内を奔放している様です」
「ふむ……。では影については?」
「それが…………少しややこしい話でして」
「? ややこしい話とな?どういうことじゃ葉月よ?」
「…………王城内を調べた所、アルス様にそっくりな人物が居られました」
「は?アルスとそっくりじゃと?」
「はい………名前までは調べる事が出来ませんでしたが、トーマス殿やヒースクリス様とも仲良さそうに話をしておりました」
「……葉月。お主の友人とやらに聞いてみたのか?」
「ハッ。……ただ誰も名を知らないと申しております」
「……なんじゃそりゃ。そんな訳無かろうて…」
「もう一度調べましょうか?」
葉月の言葉にヒルメは少し悩む。調べて欲しいが、葉月達には別の仕事にも向かわせたい。それに、これ以上調べても間者では限界がある。どうするかを悩んだヒルメは計画を練る。
(…アルスとそっくりな人物か。ヒミコ様の予言にもそのような事は書かれて無かった……。ならば新たな脅威なのじゃろうか?)
ヒルメは畳んだ扇子を膝に当てながら思案を巡らせる。
(……向こうの返事次第だが、アルス達に調べされるというのも手じゃな。マクネアも連れていけば理解するはず。しかし、不安要素をそのままにするというのも困る………)
「………葉月。今すぐに坊主に書簡を届ける事は可能か?」
「もちろんです」
「では今から書簡を書き上げる。そして、その返事を坊主から直接聞いてこい」
「直接…ですか?」
「うむ。それ次第で動きが変わる。そして、この書簡は坊主の目の前で焼却せよ」
「………承知しました」
「ではしばし時間をくれ。あと、他の者達にはアルゼリアルの貴族の動向を探るよう命じよ」
「アルゼリアルのですか?マクネア様の密偵が探っているはずですが……」
「マクネアが動いているという事は何かしら予兆があるはず。お前達は情報を整理しマクネアの間者と共有しておけ」
「……承知。判断は如何様に?」
「敵か味方かで別けよ。そこら辺はマクネアの直属が知っておるだろう」
「ケビンの事ですね。では仰せのままに」
「うむ」
ヒルメは葉月を待機させると紙に文字を書く。内容は誤魔化したり遠回しなものでなく、単刀直入な内容であった。
「……よし。では葉月。これを坊主に渡してこい」
「承知しました。では!」
葉月はヒルメから書簡を預かるとその場から消える。誰も居なくなった事でヒルメは盛大に溜め息を吐くと額に手を当てる。
「……ヒミコ様も面倒な予言を残したものじゃ。アレが戯言であれば妾がここまで悩むこともなかったじゃろうに…」
ヒルメはヒミコの顔を思い出し悪態を吐く。ヒミコの予言は細かい事は書かれておらず大雑把なものであったが、今のところほぼ的中している。その予言にはこれからどうなるかも書かれており、一波乱を迎えそうな事柄であった。
「全ては転生者次第……か。ヒミコ様も転生者であったが、死ぬときはあっさりしておったのぅ。確か前世では巫女だったと聞いておったが……」
ヒルメは懐かしい思い出を蘇らせる。ヒルメは輪廻転生という言葉を信じていない。それは身を持って理解している事で、ヒミコの様に安らかに死ねることを羨ましく思ったほどだ。だが、ヒルメの役割は未来永劫続く。終わるとすればそれはこの世界が滅びる時だろう。
「……余計な事を言えぬのは辛いのぅ。神も余計な事を託したものじゃ」
ヒルメはとある神の顔を思い浮かべて少しだけ悪態を吐く。まぁその神が居たからこそ、この世界は均衡が保たれているのも事実だ。そして、その均衡を邪魔する者は全力で駆除しなければならない。例えそれがアルスだったとしても……だ。
「全員が全員平和日和な者ではない…か。混沌を招く者はいつのときにも現れる。………妾にも平穏が訪れるのかのぉ?」
ヒルメの呟きは誰に聞かれる事なく消えていく。ゆっくりと腰を上げたヒルメはアルス達の部屋へと向かう。恐らく今日の夜には返事が届くはずだ。それを聞いてからマクネアに話し、行動せねばならない。
「……たまには妾もゆっくりしたいぞ。ヒミコ様の秘密部屋に逃げ込もうかの?」
ヒミコが生前隠していた物がその部屋にはある。小型の物が出来ないと知ったときのヒミコは泣き喚いていた。しかし、それとは別に何やらコソコソしていたかと思ったら、大量の紙を消費して書庫を作っていた。何やら前世の宝物と言っていたが、ヒルメからすれば男と男がまぐわう話など興味は持てなかった。
「……アルスにも一度見てもらうかのぅ。アヤツなら知っておるじゃろ」
そんな事を考えながらアルス達の部屋へと向かうのであった。
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