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第6章 王都動乱編
第214話 -テミスside 3-
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「殻に篭るとはお前にしては悪手だったな!」
隙間の外には満面の笑みを浮かべ左手を振りかざしているテミスがいた。
(なぜ!?)
ウェウェテオトルはいくつもの意味を込めた『なぜ』という言葉を使う。『なぜ無傷なのか』、『なぜ左手が使えるのか』、『なぜ距離を詰めれたのか』と。それと同時に自分の魔法の甘さを痛感する。魔法を使う範囲をもう少し広くすれば良かったと。
ウェウェテオトルは危険を察知したまでは良かったのだが、飛来する何かから顔を守るために自分の身体よりほんのちょっぴり大きな殻を出現させた。『生きている』という可能性を考えた時点で広くするべきだったと痛感する。
「『テテオ・インナン』!!」
ウェウェテオトルは更に殻の強度を上げ、脳を回転させる。脱出出来る策は地中へと穴を掘り外へ出るか、テミスが空けた穴から目眩しの炎を飛ばしてから解除するしか無い。………後にテミスに言われるのだが、ここで『転移』が出来ることをウェウェテオトルが考えれなかった事は最大の過ちであった。
(----そうじゃっ!!まずは殻の外に蛇を出してそれから逃げれば良い!)
ウェウェテオトルは攻めと逃げの両方の策を閃く。
「なぁーに引き篭もってるんだい!」
テミスが力強く殻を殴っているのが振動で伝わる。テミスがいる場所を予測しながらウェウェテオトルは蛇を外へと出現させる。
「『チャンティコ・蛇』」
「なにっ!?」
テミスの焦ったような声が聞こえた瞬間にウェウェテオトルは殻を解除し、反対方向へと退避しようとする。……しかし。
「残念でしたっ!!」
「グハッ?!」
ウェウェテオトルが駆け出そうとした瞬間、目の前に暗い影が迫り衝撃が走る。鼻が潰れた感覚と共に殴られたと理解する。
「『チャルチウィト----
「させないよ!!」
水の神の魔法を使おうとした時、テミスはウェウェテオトルとの距離を一瞬で詰め、顎へと痛烈な一撃を加える。その攻撃によりウェウェテオトルは舌を噛み、口内に血の味が広がる。
「ボェッ!!」
「ハッ!舌を噛んじまったのかい!」
馬鹿にするような声を上げながらもテミスは更なる攻撃を喰らわす。
「『海神の痛打』『冥府の痛打』」
テミスの拳がウェウェテオトルの腹へと突き刺さる。拳が突き刺さったウェウェテオトルはくの字に曲がり吐血する。
「ブヘァ!!」
「さーてさて………お前には色々と聞きたい事があるんだが……何から聞こうかねぇ?」
舌を無くし、テミスの二撃を喰らったウェウェテオトルの顔を鷲掴みにし目を合わせる。
「そうだな………まずはヤツの話を聞こうか」
荒く呼吸をしているウェウェテオトルを眺めながらテミスは質問を続ける。
「お前がここにいるという事は、テスカポリトカが居るという事だな?」
「………」
「返事しろよ」
目で睨みつけるウェウェテオトルに対し、テミスは片方の手で鼻を潰す。
「!!!!!」
「………ああ、舌を無くして喋れないのか。なら、頷くぐらいは出来るだろう?」
ウェウェテオトルはテミスの左腕をチラリと見ながら、弱々しく頷く。
「……『冥府の領域』」
テミスはウェウェテオトルと自分の周囲にとある領域を展開する。この中では全ての魔法の使用が出来ない魔法である。
「…それで?テスカポリトカはどこにいる?」
「………」
テミスの問いにウェウェテオトルは首を横に振る。
「知らないという事かい?」
「………」
ウェウェテオトルは再度首を横に振る。
「? どういう事だ?」
更なる疑問が生まれ、テミスは少し思案する。しかし、それは後回しにし他に聞き出そうとする。
「それじゃ次だ。……ヤツは何を依代にした?どこぞの国王か?」
テミスは過去の記憶を頼りに答えやすいよう質問をする。
「………」
今度は首を縦に振り、テミスは更に質問を続ける。
「………なるほど。ならば今回の依代はキルリア国の王という事かい」
「……」
ウェウェテオトルはこの質問に頷きはしなかったが、テミスはそれしかないと理解している。この質問をしたのはあくまでも確認の為だ。
「それで他に仲間は?……テペヨロトルやミク夫妻、ナナワツィンも何処かに居るのか?」
「………」
「頷くぐらいしろや」
テミスは無言を貫こうとするウェウェテオトルの顎を砕く。この行為によりウェウェテオトルは完全に喋る事は出来なくなった。
「おっと…すまないねぇ。喋らせられる様に回復してあげたいが、それは出来ないんだよ」
悪びれる様子もなくテミスは質問を続ける。
「それじゃ次だ。ヤツは何を企んでいる?大量の贄か?それとも復活の血か?」
「………」
「ヤツはクロノスによって殺された筈だ。だが、お前がいるという事はヤツもいる筈だ。お前らは全てにおいて繋がっているからな」
テミスの問いにウェウェテオトルは答えない。大量の涎と血が混じり合った液体を口から垂らしながらも目だけはギラギラと隙を窺っている。
「………そんなに左手が気になるのか?」
「ッ?!」
テミスはウェウェテオトルの視線を探りながら投げ掛ける。その言葉に一瞬だけウェウェテオトルの目が泳ぐのが分かり、何を企んでいるのかを理解する。
「……あー、なるほどね。お前らが求めているのは強者の部位か」
「………」
「黙ってても無駄だよ。……という事はヤツはまだ完全に復活はしてないという事か」
テミスは今までのウェウェテオトルの会話を思い出し、過去の記憶と照らし合わせ理解する。
「となると……あと4人。どうやらお前らのお仲間が何処かにいるようだな」
テミスは実は馬鹿ではない。頭の回転は早く、むしろ全ての答えを直感的に導き出す事ができる。だが、それは『めんどうだから』という事で、実際にはクロノスよりも物事がよく見えている。
「ッ……!!」
テミスはわざと考える様な仕草をする。その隙を狙いウェウェテオトルはテミスの左手を引っ掻こうとする。
「……バカだねぇ」
テミスはウェウェテオトルの右手を止めると、曲げてはいけない方向へと腕ごと曲げる。
「ゴアッ!!」
テミスは腕を折ると、そのまま握力で手首の骨を砕く。念の為右手も同じように折り、ウェウェテオトルを無力化する。
「今のお前の行動で確信できた。……という事でお前にはもう用はない」
「ま、まふぇ!!!」
テミスはウェウェテオトルの首をゆっくりと握りしめると、ジワジワと力を入れていく。
「……あ、そうだ。一つだけ聞かせろ」
テミスは足をジタバタと動かしているウェウェテオトルを冷たい眼差しで見つめる。
「…………彼女を……。彼女を殺したのは何故だ?」
「ひ、ひひゃん!!」
「……知らないなら用はない。じゃあな」
「----!!」
テミスはウェウェテオトルの首を全力で握ると、骨が砕けるのを実感する。ジタバタと暴れていた足が力無く宙へとぶら下がり、ウェウェテオトルは事切れた。
「………」
ウェウェテオトルの死骸を乱暴に地面へと叩きつけると、テミスは首と胴体を分離させる。捻りながら首を引っ張った事で、血が噴水の如く噴き出す。
「……ハッ。老兵は死なず消え去るのみだぞ?ウェウェテオトル…」
ウェウェテオトルの死骸を弔いの炎で焼く。弔いとは言っても冥府の炎であり、そこに慈悲は無い。
「…智将なる者が浅はかな行動を取ったもんだ。転移なりすればまだ戦えたというのに…」
テミスはウェウェテオトルとの戦いを振り返る。正直言って自分の戦い方は悪い物であった。被弾覚悟で隙を見せ、こちらのペースに持って行こうなど、過去の戦いの時であれば自殺行為であった。しかし、それはウェウェテオトルにも言えた。ウェウェテオトルにしては珍しく、回避ではなく護りを優先した。その出来事はテミスにとって僥倖であったのだ。
「………まぁ内容はどうあれ最後に残った者が勝利者なんだよね」
冥府の炎により消し炭となった死骸を風魔法で散布する。風に乗り消え去る消し炭を見ながらテミスはすぐに情報整理を行う。
「…さて。ウェウェテオトルがいるという事は他にも居るという事だ。何処にいるのかは分からないが……クロノスには話していた方がいいかもねぇ…」
流石にピュートン側には居ないとは思うが、一応警戒する事に越した事はない。テミスはピュートン側へと跳躍しようとしたが、王都の門に見慣れない人物がいる事に気付く。
「ん?」
空中で姿勢を切り替え、門の方へと移動する。テミスが勢いよく門の前に着地すると、その者達は深々と頭を下げる。
「あんた達は敵かい?」
テミスがこう問いかけたのには理由がある。何故ならば片方の異形の者が両手を挙げ敵意が無いことを示していたからだ。
「いえ。私達は閻魔様の命によりこちらへと援軍に来た鬼でございます」
「閻魔………あぁ、髭もじゃの」
「ええ。その髭もじゃです」
「………星熊」
鬼と名乗った異形の者は頭を上げずにテミスの問いに答える。
「その閻魔の手先が援軍とはどういう事だい?」
「私達はクロノス様の要請に応じた迄です。本来は閻魔様が直接---
「顔を上げて喋りな。敵で無いなら良いんだよ」
テミスは鬼へと優しく話しかけ、顔を上げるのを確認した後、再度質問をする。
「クロノスが呼び出したと言ってたけど……その理由は知っているのかい?」
「……いえ。私共も後で話すとだけ」
「そうかい…」
「ただ……」
「ただ?」
「気になることがあると仰っておりました。それと転々と回るとも」
「…………あぁ。何かクロノスが臭いがどうのこうのとか言っていたね。……という事はクロノスはこの事に気付いていた?」
「さぁ?私には分かりかねます」
「……それで?閻魔が寄越すぐらいだから、あんた達は強いんだろうね?」
「はい。こちらの世界ではどのような強さかは分かりませんが、私達は酒呑童子様の配下でございます」
「しゅてんどうじ……………………あぁ、あの呑んだくれか」
「はい」
「星熊!!」
「なるほどね……。配下ってのは直属って事かい?」
「私達の向こうでの呼び名は『酒呑童子の四天王』と呼ばれております。直属と言われれば直属ではございます」
「ふぅん……なら実力は申し分ないって事だ。なら後の2人は?四天王って言うくらいだからあと2人はいるんだろ?」
「はい。今は王都の城壁に守護を掛けて貰っています。テミス様側は大丈夫だとしても反対側は心配ですから」
「中々頭が切れるね…」
「ありがとうございます」
テミスと星熊が会話をしていると、ピュートンと虎熊達が戻ってきた。
「お帰り虎熊、熊」
「聞いてくれよ星熊。熊と向こう側に行った時なんだけど---
「お帰りピュートン。強いヤツは居たかい?」
「ガルルルッ…」
テミスの問い掛けにピュートンは首を振り返事を返す。
「こんな顔の奴らは居たかい?」
テミスはピュートンの頭に人差し指を当てると記憶を共有する。しかし、ピュートンは同じ様に首を振るだけだった。
「……そうかい。なら何処かに隠れているって事だろうね」
テミスの記憶違いで無ければ、残るは4人。ウェウェテオトルは単体ではそこまで怖くは無いが、テペヨロトルは少し面倒だ。そして一番厄介なのがミク夫妻。2人は常に一緒に行動し、攻撃と防御を完璧に分けている。流石のテミスと言えども夫妻相手には余裕で負ける。こちらとしてもその事は共有しておかなければとテミスは考える。
「---んでよ?熊が『時間かかるから後ろ見とけ』って言うからよ、結構警戒してたんだわ。したらよ、空からデッケェ足が一本ニュッって出て来て地面に落ちたんだわ。したらよー、クッソヤベェ地震が起きて俺が立ってた場所が割れたんだよ」
「それはそれは大変でしたね」
「敵かと思ってよー、戦闘態勢に入ったら熊が変な声出すんだよ。『守護の結界が張られた』とかよ。俺は熊がしたもんだと思ってたんだが、熊が信じられないって言ってるんだよ。『王都全域に結界を張るなど私には出来ない』ってさ」
「…………虎熊。王都内に敵が居る可能性は?」
「んにゃ、中までは入ってない。可能性としてはあるだろうけど、俺らが外を回っている間は誰も居らんかったぞ」
「未確認という事ですか?」
「ああ。別に中を確認しても良かったが…………星熊の時みたいになるかもしんねぇからな」
「金熊、アナタは姿を変える事が出来ましたよね?」
「出来るが……中に入るのは御免被る。土地勘が全く無いし、避難した人間共がウジャウジャ居るだろう?私の戦い方には確実に犠牲が出る」
「星熊。たまには自分でしたらどうだ?」
「熊。それをしても良いのですか?」
「………すまない。金熊よりも犠牲が出てしまう」
「私も自分の力量ぐらいは把握してますよ。あと性格もね」
「…生真面目過ぎるのも問題だよな。もうちょっと適度に出来ねぇのか?」
「……………」
虎熊の問い掛けに星熊は薄い笑みで返す。
「…話は戻るが、クロノス様から貰った記憶には広範囲に渡って結界を張れる人間は居るのか?」
熊が星熊へと問う。星熊はしばらく考えた後に首を振って否定する。
「…居るとすればアルスという人物かスサノオと言う人物、それと各国の王ぐらいでしょう。しかし、クロノス様の記憶によるとアルス様以外はその様な事をしたという記憶はありません」
「あー…………その結界ってのは何でも弾くヤツかい?」
星熊達が話している内容を耳にしたテミスが、会話へと割り込んでくる。
「熊。その様な結界なのですか?」
「多分虎熊でも破壊出来ないぐらいの結界。試してないが、恐らく私の術でも通用しないだろう」
「…それってもしかしたらあたしかも知れない」
「……どういう事です?」
「あたしが戦ってたのは知ってるだろ?」
「ええ。クロノス様が仰ってましたが、巻き添えになると思い近寄りませんでした」
「まぁそれは正しい判断だ。…んで、ちょっぴり魔物を殺すのが面倒だったから一気にしようと思ってね。その時に王都の方から悲鳴が聞こえたもんだから、慌てて守護の結界を張ったってわけさ」
「……なるほど。テミス様のお力であれば熊が驚くのは当たり前でしょう」
「……テミス様。あの術はどうやってやったのか聞いてもよろしいだろうか?」
「ん?……ただ知ってる魔法を掛けただけなんだが…」
「熊。今は状況が状況です。それについては後日にでも回してください」
「……テミス様。申し訳ない」
「気にしないでいいよ。あたしも上手く説明できないからさ…」
何となく変な雰囲気が漂い、テミスは何か話題を振らなければと頭を回転させる。
「テミス様。この後はどうすれば良いでしょうか?」
話題を考えていると星熊がテミスへと喋りかける。だが、それにテミスが答える前に熊が口を開く。
「星熊。先も言ったが、王都の中に入った方が良いのでは?」
「熊の言う通りだ。外は俺らで何とかなるが、中に入り込んでたら不味いんじゃねぇか?」
「しかし……」
「虎熊達が言うのも分かるけど、私達は潜入向きじゃないだろ?それに変化を上手く使えるのは私だけだ」
星熊達はこの後の指針は定まっている様だが、肝心な部分が決めれなかった。金熊は変化--擬態とも言える--が上手に出来るが、鬼の性質上、上手く立ち回る事が出来ない。星熊が上手に出来れば大丈夫だろうが、彼は罪人に対しては容赦が無い。その罪とは微々な物でも罪と見なす。例にあげると悪口やスキンシップでの暴力だ。一応、善行が悪行よりも優っていれば大丈夫だが、人とは知らずのうちに悪口などと言った軽い罪を重ねている。魔物に襲われ、王都へとぎゅうぎゅう詰めにされた商人や貴族達が今頃兵士へと悪口を飛ばしているだろう。その中に星熊達が潜入するとなると、火を見るよりも明らかだ。
「……ん?待てよ星熊。潜入…つーか、中に入るのをテミス様に頼むってのはどうだ?」
虎熊が『名案を思い付いた』と言わんばかりの表情で星熊へと告げる。
「………」
「ダ、ダメか?」
星熊は無表情で虎熊を見つめる。そして、少し思案を巡らせた後に口を開く。
「悪くない……悪くない考えです」
「だろぉ?」
「しかし、それはテミス様の許可が無ければ出来ません」
「……そういうのは星熊に任せた!」
星熊が虎熊へと面倒臭そうな目を向けた後、テミスへと話をしようとする。しかし、テミスは星熊達の話を理解しており手で制す。
「話は分かった。あたしが王都の中を調べれば良いんだね?」
「よろしいのですか?」
「ハッ。変化だの何だのは分からんけど、あたしならアルスの召喚獣だと知っている奴らもいる。それにアンタ達みたいに善と悪への処罰はしないからね」
「話が早くて助かります」
「まぁ……中に奴らが居たとしたらアンタ達じゃ無理かもしれないからね」
「…奴らとは?」
「あぁ、こっちの話。あたしやクロノスと同系列の奴らが居るかも知れないんだよ。あくまでも可能性の話だけどね」
「……なるほど。それは私達では無理かも知れませんね」
「いやいや星熊。俺らだったら戦えるだろ!」
「違うんですよ虎熊。テミス様が仰ることは、私達では難しいという話です」
「はぁ?……どういうことだ?」
「簡単な話、被害を抑えれるかどうかの話です。虎熊は見ていないようですが、テミス様の戦い振りは熾烈な物です。それに守護の結界の力量も熊よりも上。……戦うだけなら余裕でしょうが、被害は確実に出る事でしょう」
「……なるほど。戦闘だけなら大丈夫だが、周囲の被害が……という事か」
「ええ、恐らくそうだと思います」
「…いや、別にそんなことはこれっぽっちも思ってもいなかったんだけどさ…。ま、アンタ達の実力なら外の守りは任せれるだろう?」
「ええ。人間達は中に居るでしょうから」
「なら外の魔物はアンタ達に任せる。あたしは中に入って状況を見ながら動くよ」
そう言うとテミスは首の骨を鳴らし門へと足を進める。
「あ、そうだ。ピュートンも置いていくから好きに遊ばしてやって頂戴。こっちの言葉は通じるからさ」
「さすがテミス様の眷属ですね」
「それと、クロノスが戻ってきたらあたしは中に居るって伝えてくれないかい?」
「承知しました」
「じゃピュートン。皆のお手伝いをちゃーんとするんだよ?」
「グルルァ!!」
テミスはそう星熊へと伝えると手をヒラヒラさせながら門を潜っていく。
「……さて。では私達は陣を敷いて警戒をしましょうか」
「陣を敷くって……範囲が広すぎやしねぇか?」
「対空はピュートン様に任せましょう。私達は陸を薙ぎ払えば良いのですから」
「………なるほどねぇ。星熊が人間が中に居るって言ったのはそう言う意味かい」
「ん?金熊、どういうことだ?」
「加減しなくて良いって事だよ。中に全員入っているなら外に居るのは敵のみって事だろ?」
「????」
「…金熊。虎熊はおつむが足りないからあまり難しい言い方はしない方が良い」
「……はぁ。虎熊、とりあえずアンタは何も考えないで敵だと認識したモノは全力で屠って行きな」
「!! なるほど!そういう意味か!」
「……たまにまともな事言う癖に、こういう時は頭が回らないんだよなぁ…」
金熊のぼやきに星熊は苦笑しつつも皆へと指示を出す。各々、星熊の指示に従い四方へと展開し、王都の守りを固めるのであった。
隙間の外には満面の笑みを浮かべ左手を振りかざしているテミスがいた。
(なぜ!?)
ウェウェテオトルはいくつもの意味を込めた『なぜ』という言葉を使う。『なぜ無傷なのか』、『なぜ左手が使えるのか』、『なぜ距離を詰めれたのか』と。それと同時に自分の魔法の甘さを痛感する。魔法を使う範囲をもう少し広くすれば良かったと。
ウェウェテオトルは危険を察知したまでは良かったのだが、飛来する何かから顔を守るために自分の身体よりほんのちょっぴり大きな殻を出現させた。『生きている』という可能性を考えた時点で広くするべきだったと痛感する。
「『テテオ・インナン』!!」
ウェウェテオトルは更に殻の強度を上げ、脳を回転させる。脱出出来る策は地中へと穴を掘り外へ出るか、テミスが空けた穴から目眩しの炎を飛ばしてから解除するしか無い。………後にテミスに言われるのだが、ここで『転移』が出来ることをウェウェテオトルが考えれなかった事は最大の過ちであった。
(----そうじゃっ!!まずは殻の外に蛇を出してそれから逃げれば良い!)
ウェウェテオトルは攻めと逃げの両方の策を閃く。
「なぁーに引き篭もってるんだい!」
テミスが力強く殻を殴っているのが振動で伝わる。テミスがいる場所を予測しながらウェウェテオトルは蛇を外へと出現させる。
「『チャンティコ・蛇』」
「なにっ!?」
テミスの焦ったような声が聞こえた瞬間にウェウェテオトルは殻を解除し、反対方向へと退避しようとする。……しかし。
「残念でしたっ!!」
「グハッ?!」
ウェウェテオトルが駆け出そうとした瞬間、目の前に暗い影が迫り衝撃が走る。鼻が潰れた感覚と共に殴られたと理解する。
「『チャルチウィト----
「させないよ!!」
水の神の魔法を使おうとした時、テミスはウェウェテオトルとの距離を一瞬で詰め、顎へと痛烈な一撃を加える。その攻撃によりウェウェテオトルは舌を噛み、口内に血の味が広がる。
「ボェッ!!」
「ハッ!舌を噛んじまったのかい!」
馬鹿にするような声を上げながらもテミスは更なる攻撃を喰らわす。
「『海神の痛打』『冥府の痛打』」
テミスの拳がウェウェテオトルの腹へと突き刺さる。拳が突き刺さったウェウェテオトルはくの字に曲がり吐血する。
「ブヘァ!!」
「さーてさて………お前には色々と聞きたい事があるんだが……何から聞こうかねぇ?」
舌を無くし、テミスの二撃を喰らったウェウェテオトルの顔を鷲掴みにし目を合わせる。
「そうだな………まずはヤツの話を聞こうか」
荒く呼吸をしているウェウェテオトルを眺めながらテミスは質問を続ける。
「お前がここにいるという事は、テスカポリトカが居るという事だな?」
「………」
「返事しろよ」
目で睨みつけるウェウェテオトルに対し、テミスは片方の手で鼻を潰す。
「!!!!!」
「………ああ、舌を無くして喋れないのか。なら、頷くぐらいは出来るだろう?」
ウェウェテオトルはテミスの左腕をチラリと見ながら、弱々しく頷く。
「……『冥府の領域』」
テミスはウェウェテオトルと自分の周囲にとある領域を展開する。この中では全ての魔法の使用が出来ない魔法である。
「…それで?テスカポリトカはどこにいる?」
「………」
テミスの問いにウェウェテオトルは首を横に振る。
「知らないという事かい?」
「………」
ウェウェテオトルは再度首を横に振る。
「? どういう事だ?」
更なる疑問が生まれ、テミスは少し思案する。しかし、それは後回しにし他に聞き出そうとする。
「それじゃ次だ。……ヤツは何を依代にした?どこぞの国王か?」
テミスは過去の記憶を頼りに答えやすいよう質問をする。
「………」
今度は首を縦に振り、テミスは更に質問を続ける。
「………なるほど。ならば今回の依代はキルリア国の王という事かい」
「……」
ウェウェテオトルはこの質問に頷きはしなかったが、テミスはそれしかないと理解している。この質問をしたのはあくまでも確認の為だ。
「それで他に仲間は?……テペヨロトルやミク夫妻、ナナワツィンも何処かに居るのか?」
「………」
「頷くぐらいしろや」
テミスは無言を貫こうとするウェウェテオトルの顎を砕く。この行為によりウェウェテオトルは完全に喋る事は出来なくなった。
「おっと…すまないねぇ。喋らせられる様に回復してあげたいが、それは出来ないんだよ」
悪びれる様子もなくテミスは質問を続ける。
「それじゃ次だ。ヤツは何を企んでいる?大量の贄か?それとも復活の血か?」
「………」
「ヤツはクロノスによって殺された筈だ。だが、お前がいるという事はヤツもいる筈だ。お前らは全てにおいて繋がっているからな」
テミスの問いにウェウェテオトルは答えない。大量の涎と血が混じり合った液体を口から垂らしながらも目だけはギラギラと隙を窺っている。
「………そんなに左手が気になるのか?」
「ッ?!」
テミスはウェウェテオトルの視線を探りながら投げ掛ける。その言葉に一瞬だけウェウェテオトルの目が泳ぐのが分かり、何を企んでいるのかを理解する。
「……あー、なるほどね。お前らが求めているのは強者の部位か」
「………」
「黙ってても無駄だよ。……という事はヤツはまだ完全に復活はしてないという事か」
テミスは今までのウェウェテオトルの会話を思い出し、過去の記憶と照らし合わせ理解する。
「となると……あと4人。どうやらお前らのお仲間が何処かにいるようだな」
テミスは実は馬鹿ではない。頭の回転は早く、むしろ全ての答えを直感的に導き出す事ができる。だが、それは『めんどうだから』という事で、実際にはクロノスよりも物事がよく見えている。
「ッ……!!」
テミスはわざと考える様な仕草をする。その隙を狙いウェウェテオトルはテミスの左手を引っ掻こうとする。
「……バカだねぇ」
テミスはウェウェテオトルの右手を止めると、曲げてはいけない方向へと腕ごと曲げる。
「ゴアッ!!」
テミスは腕を折ると、そのまま握力で手首の骨を砕く。念の為右手も同じように折り、ウェウェテオトルを無力化する。
「今のお前の行動で確信できた。……という事でお前にはもう用はない」
「ま、まふぇ!!!」
テミスはウェウェテオトルの首をゆっくりと握りしめると、ジワジワと力を入れていく。
「……あ、そうだ。一つだけ聞かせろ」
テミスは足をジタバタと動かしているウェウェテオトルを冷たい眼差しで見つめる。
「…………彼女を……。彼女を殺したのは何故だ?」
「ひ、ひひゃん!!」
「……知らないなら用はない。じゃあな」
「----!!」
テミスはウェウェテオトルの首を全力で握ると、骨が砕けるのを実感する。ジタバタと暴れていた足が力無く宙へとぶら下がり、ウェウェテオトルは事切れた。
「………」
ウェウェテオトルの死骸を乱暴に地面へと叩きつけると、テミスは首と胴体を分離させる。捻りながら首を引っ張った事で、血が噴水の如く噴き出す。
「……ハッ。老兵は死なず消え去るのみだぞ?ウェウェテオトル…」
ウェウェテオトルの死骸を弔いの炎で焼く。弔いとは言っても冥府の炎であり、そこに慈悲は無い。
「…智将なる者が浅はかな行動を取ったもんだ。転移なりすればまだ戦えたというのに…」
テミスはウェウェテオトルとの戦いを振り返る。正直言って自分の戦い方は悪い物であった。被弾覚悟で隙を見せ、こちらのペースに持って行こうなど、過去の戦いの時であれば自殺行為であった。しかし、それはウェウェテオトルにも言えた。ウェウェテオトルにしては珍しく、回避ではなく護りを優先した。その出来事はテミスにとって僥倖であったのだ。
「………まぁ内容はどうあれ最後に残った者が勝利者なんだよね」
冥府の炎により消し炭となった死骸を風魔法で散布する。風に乗り消え去る消し炭を見ながらテミスはすぐに情報整理を行う。
「…さて。ウェウェテオトルがいるという事は他にも居るという事だ。何処にいるのかは分からないが……クロノスには話していた方がいいかもねぇ…」
流石にピュートン側には居ないとは思うが、一応警戒する事に越した事はない。テミスはピュートン側へと跳躍しようとしたが、王都の門に見慣れない人物がいる事に気付く。
「ん?」
空中で姿勢を切り替え、門の方へと移動する。テミスが勢いよく門の前に着地すると、その者達は深々と頭を下げる。
「あんた達は敵かい?」
テミスがこう問いかけたのには理由がある。何故ならば片方の異形の者が両手を挙げ敵意が無いことを示していたからだ。
「いえ。私達は閻魔様の命によりこちらへと援軍に来た鬼でございます」
「閻魔………あぁ、髭もじゃの」
「ええ。その髭もじゃです」
「………星熊」
鬼と名乗った異形の者は頭を上げずにテミスの問いに答える。
「その閻魔の手先が援軍とはどういう事だい?」
「私達はクロノス様の要請に応じた迄です。本来は閻魔様が直接---
「顔を上げて喋りな。敵で無いなら良いんだよ」
テミスは鬼へと優しく話しかけ、顔を上げるのを確認した後、再度質問をする。
「クロノスが呼び出したと言ってたけど……その理由は知っているのかい?」
「……いえ。私共も後で話すとだけ」
「そうかい…」
「ただ……」
「ただ?」
「気になることがあると仰っておりました。それと転々と回るとも」
「…………あぁ。何かクロノスが臭いがどうのこうのとか言っていたね。……という事はクロノスはこの事に気付いていた?」
「さぁ?私には分かりかねます」
「……それで?閻魔が寄越すぐらいだから、あんた達は強いんだろうね?」
「はい。こちらの世界ではどのような強さかは分かりませんが、私達は酒呑童子様の配下でございます」
「しゅてんどうじ……………………あぁ、あの呑んだくれか」
「はい」
「星熊!!」
「なるほどね……。配下ってのは直属って事かい?」
「私達の向こうでの呼び名は『酒呑童子の四天王』と呼ばれております。直属と言われれば直属ではございます」
「ふぅん……なら実力は申し分ないって事だ。なら後の2人は?四天王って言うくらいだからあと2人はいるんだろ?」
「はい。今は王都の城壁に守護を掛けて貰っています。テミス様側は大丈夫だとしても反対側は心配ですから」
「中々頭が切れるね…」
「ありがとうございます」
テミスと星熊が会話をしていると、ピュートンと虎熊達が戻ってきた。
「お帰り虎熊、熊」
「聞いてくれよ星熊。熊と向こう側に行った時なんだけど---
「お帰りピュートン。強いヤツは居たかい?」
「ガルルルッ…」
テミスの問い掛けにピュートンは首を振り返事を返す。
「こんな顔の奴らは居たかい?」
テミスはピュートンの頭に人差し指を当てると記憶を共有する。しかし、ピュートンは同じ様に首を振るだけだった。
「……そうかい。なら何処かに隠れているって事だろうね」
テミスの記憶違いで無ければ、残るは4人。ウェウェテオトルは単体ではそこまで怖くは無いが、テペヨロトルは少し面倒だ。そして一番厄介なのがミク夫妻。2人は常に一緒に行動し、攻撃と防御を完璧に分けている。流石のテミスと言えども夫妻相手には余裕で負ける。こちらとしてもその事は共有しておかなければとテミスは考える。
「---んでよ?熊が『時間かかるから後ろ見とけ』って言うからよ、結構警戒してたんだわ。したらよ、空からデッケェ足が一本ニュッって出て来て地面に落ちたんだわ。したらよー、クッソヤベェ地震が起きて俺が立ってた場所が割れたんだよ」
「それはそれは大変でしたね」
「敵かと思ってよー、戦闘態勢に入ったら熊が変な声出すんだよ。『守護の結界が張られた』とかよ。俺は熊がしたもんだと思ってたんだが、熊が信じられないって言ってるんだよ。『王都全域に結界を張るなど私には出来ない』ってさ」
「…………虎熊。王都内に敵が居る可能性は?」
「んにゃ、中までは入ってない。可能性としてはあるだろうけど、俺らが外を回っている間は誰も居らんかったぞ」
「未確認という事ですか?」
「ああ。別に中を確認しても良かったが…………星熊の時みたいになるかもしんねぇからな」
「金熊、アナタは姿を変える事が出来ましたよね?」
「出来るが……中に入るのは御免被る。土地勘が全く無いし、避難した人間共がウジャウジャ居るだろう?私の戦い方には確実に犠牲が出る」
「星熊。たまには自分でしたらどうだ?」
「熊。それをしても良いのですか?」
「………すまない。金熊よりも犠牲が出てしまう」
「私も自分の力量ぐらいは把握してますよ。あと性格もね」
「…生真面目過ぎるのも問題だよな。もうちょっと適度に出来ねぇのか?」
「……………」
虎熊の問い掛けに星熊は薄い笑みで返す。
「…話は戻るが、クロノス様から貰った記憶には広範囲に渡って結界を張れる人間は居るのか?」
熊が星熊へと問う。星熊はしばらく考えた後に首を振って否定する。
「…居るとすればアルスという人物かスサノオと言う人物、それと各国の王ぐらいでしょう。しかし、クロノス様の記憶によるとアルス様以外はその様な事をしたという記憶はありません」
「あー…………その結界ってのは何でも弾くヤツかい?」
星熊達が話している内容を耳にしたテミスが、会話へと割り込んでくる。
「熊。その様な結界なのですか?」
「多分虎熊でも破壊出来ないぐらいの結界。試してないが、恐らく私の術でも通用しないだろう」
「…それってもしかしたらあたしかも知れない」
「……どういう事です?」
「あたしが戦ってたのは知ってるだろ?」
「ええ。クロノス様が仰ってましたが、巻き添えになると思い近寄りませんでした」
「まぁそれは正しい判断だ。…んで、ちょっぴり魔物を殺すのが面倒だったから一気にしようと思ってね。その時に王都の方から悲鳴が聞こえたもんだから、慌てて守護の結界を張ったってわけさ」
「……なるほど。テミス様のお力であれば熊が驚くのは当たり前でしょう」
「……テミス様。あの術はどうやってやったのか聞いてもよろしいだろうか?」
「ん?……ただ知ってる魔法を掛けただけなんだが…」
「熊。今は状況が状況です。それについては後日にでも回してください」
「……テミス様。申し訳ない」
「気にしないでいいよ。あたしも上手く説明できないからさ…」
何となく変な雰囲気が漂い、テミスは何か話題を振らなければと頭を回転させる。
「テミス様。この後はどうすれば良いでしょうか?」
話題を考えていると星熊がテミスへと喋りかける。だが、それにテミスが答える前に熊が口を開く。
「星熊。先も言ったが、王都の中に入った方が良いのでは?」
「熊の言う通りだ。外は俺らで何とかなるが、中に入り込んでたら不味いんじゃねぇか?」
「しかし……」
「虎熊達が言うのも分かるけど、私達は潜入向きじゃないだろ?それに変化を上手く使えるのは私だけだ」
星熊達はこの後の指針は定まっている様だが、肝心な部分が決めれなかった。金熊は変化--擬態とも言える--が上手に出来るが、鬼の性質上、上手く立ち回る事が出来ない。星熊が上手に出来れば大丈夫だろうが、彼は罪人に対しては容赦が無い。その罪とは微々な物でも罪と見なす。例にあげると悪口やスキンシップでの暴力だ。一応、善行が悪行よりも優っていれば大丈夫だが、人とは知らずのうちに悪口などと言った軽い罪を重ねている。魔物に襲われ、王都へとぎゅうぎゅう詰めにされた商人や貴族達が今頃兵士へと悪口を飛ばしているだろう。その中に星熊達が潜入するとなると、火を見るよりも明らかだ。
「……ん?待てよ星熊。潜入…つーか、中に入るのをテミス様に頼むってのはどうだ?」
虎熊が『名案を思い付いた』と言わんばかりの表情で星熊へと告げる。
「………」
「ダ、ダメか?」
星熊は無表情で虎熊を見つめる。そして、少し思案を巡らせた後に口を開く。
「悪くない……悪くない考えです」
「だろぉ?」
「しかし、それはテミス様の許可が無ければ出来ません」
「……そういうのは星熊に任せた!」
星熊が虎熊へと面倒臭そうな目を向けた後、テミスへと話をしようとする。しかし、テミスは星熊達の話を理解しており手で制す。
「話は分かった。あたしが王都の中を調べれば良いんだね?」
「よろしいのですか?」
「ハッ。変化だの何だのは分からんけど、あたしならアルスの召喚獣だと知っている奴らもいる。それにアンタ達みたいに善と悪への処罰はしないからね」
「話が早くて助かります」
「まぁ……中に奴らが居たとしたらアンタ達じゃ無理かもしれないからね」
「…奴らとは?」
「あぁ、こっちの話。あたしやクロノスと同系列の奴らが居るかも知れないんだよ。あくまでも可能性の話だけどね」
「……なるほど。それは私達では無理かも知れませんね」
「いやいや星熊。俺らだったら戦えるだろ!」
「違うんですよ虎熊。テミス様が仰ることは、私達では難しいという話です」
「はぁ?……どういうことだ?」
「簡単な話、被害を抑えれるかどうかの話です。虎熊は見ていないようですが、テミス様の戦い振りは熾烈な物です。それに守護の結界の力量も熊よりも上。……戦うだけなら余裕でしょうが、被害は確実に出る事でしょう」
「……なるほど。戦闘だけなら大丈夫だが、周囲の被害が……という事か」
「ええ、恐らくそうだと思います」
「…いや、別にそんなことはこれっぽっちも思ってもいなかったんだけどさ…。ま、アンタ達の実力なら外の守りは任せれるだろう?」
「ええ。人間達は中に居るでしょうから」
「なら外の魔物はアンタ達に任せる。あたしは中に入って状況を見ながら動くよ」
そう言うとテミスは首の骨を鳴らし門へと足を進める。
「あ、そうだ。ピュートンも置いていくから好きに遊ばしてやって頂戴。こっちの言葉は通じるからさ」
「さすがテミス様の眷属ですね」
「それと、クロノスが戻ってきたらあたしは中に居るって伝えてくれないかい?」
「承知しました」
「じゃピュートン。皆のお手伝いをちゃーんとするんだよ?」
「グルルァ!!」
テミスはそう星熊へと伝えると手をヒラヒラさせながら門を潜っていく。
「……さて。では私達は陣を敷いて警戒をしましょうか」
「陣を敷くって……範囲が広すぎやしねぇか?」
「対空はピュートン様に任せましょう。私達は陸を薙ぎ払えば良いのですから」
「………なるほどねぇ。星熊が人間が中に居るって言ったのはそう言う意味かい」
「ん?金熊、どういうことだ?」
「加減しなくて良いって事だよ。中に全員入っているなら外に居るのは敵のみって事だろ?」
「????」
「…金熊。虎熊はおつむが足りないからあまり難しい言い方はしない方が良い」
「……はぁ。虎熊、とりあえずアンタは何も考えないで敵だと認識したモノは全力で屠って行きな」
「!! なるほど!そういう意味か!」
「……たまにまともな事言う癖に、こういう時は頭が回らないんだよなぁ…」
金熊のぼやきに星熊は苦笑しつつも皆へと指示を出す。各々、星熊の指示に従い四方へと展開し、王都の守りを固めるのであった。
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