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第5章 王宮学園 -後期-
第168話 -波乱の前触れ 6-
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「陛下。まずは根回しはどこまで進んでおるのじゃ?」
深々と椅子に座りながらミネルヴァ様が陛下に問う。
「ドルドもシュピーも終わっている。シュピーは全面的に協力してくれるそうだ」
「ドルドは?」
「表向きは支持だろうが……金が動けば寝返るだろう」
「そこが甘いと言うのじゃ。完全に味方にせねば根回しの意味が無いじゃろうて」
「……まぁミネルヴァの言う通りだ。詰めが甘かったのは私の責任だな」
「それで?ドルドは不透明だとして…キルリアには?」
「書簡を送れるはずが無いだろう?ここぞとばかりに出向いてくるぞ?」
「…まぁそうじゃろうな。マクネア、お前はどう思う?」
「……私は---
マクネアさん達が大人の会話をしている最中、俺は1人色々と考えていた。
(……ちょっとイラっとしたけど、別に後継者になっても良いんだった。でも、その為には色々と下準備が必要だってあの時に『あい君』から言われてたんだよなぁ…)
シュピー共和国での話を思い出し、方向性を探る。
(でも『あい君』曰く、『ひと騒動起こしてからが非常に楽』って言ってたし……そのひと騒動が分かんないんだよなぁ。まぁ騒動っつーから、貴族会議の時にでも起きるかと思ってたけど………………つーか、いつバレてたんだろ?この手紙の内容からしてこれがひと騒動だよね?)
手紙を取り、再び目を通す。手紙には前回と似たような言葉が並べられていたが、気になる単語もいくつか書かれていた。それは、俺がシュピー共和国との親善大使になった事。俺が天使級の召喚獣と契約した事。俺がアーサーやアリスさんを指導している事。その他諸々、俺がアルゼリアルで行なっている事が全て書かれていた。まぁ間者を忍ばせているんだろうけど、『我が国の秘匿技術がアルゼリアルに流失するのは大変遺憾である。よって直ちにアルスをキルリア国へと返還せよ。この要望を受け入れられない場合は実力行使を取らせてもらう』と最後の方に書かれていた。
『いや、俺お前の持ち物じゃねーし』とイラッとしたが、内容的に遂に宣戦布告をしたと馬鹿な俺でも理解出来た。だからミネルヴァ様がキレ気味で陛下に文句を言っているのだろう。………まぁ根回しが必要って言ってても陛下も宣戦布告されるなんて思わなかっただろうね。だって同盟結んでるんでしょ?そりゃ仕方無いよ。
とまぁ、陛下のフォローはそこまでにしておいて、俺はどう進めるべきかを『あい君』と相談する。………あ、フォローしたのは建前だからね?本音は『使えねぇなコイツ』って思ってるから。だって一国の王だよ?最悪の事を常に想定して行動しなきゃダメだろ。そんなんじゃすぐ国が滅びるぞ?………ゲーム知識からの意見だけどさ。
(………所で『あい君』。俺はこのままキルリアに出向いて後継者になろうと思うんだけど、どう思う?)
『あい君』へと問い掛けると、すぐに返事が返ってきた。
(その方向で良いかと。色々と計画は立てていましたが、向こうから誘いがあったのならばそれに便乗しましょう)
(……ちなみに、計画ってのはアレ?)
(ええ。無血でなんて無理なので。ヒースクリス様を利用しようと考えていましたが、後回しにしても良さそうです)
(………なぁ?それが本当に正しいのか?俺的にはスゲェ嫌なんだけどさ……。他に手はない?)
(ある事はあります。しかし、それではアルゼリアルにもシュピー共和国にも迷惑と時間がかかります)
(……そっか。なら、それしか無いのか)
(ポジティブに考えればこの誘いがチャンスですね。このまま返事を先延ばしにすれば口火を切られる事は間違いありません)
(なら、出向く事にするか。向こうでの動きを逐一教えてくれよ?)
(その為にはまず情報を集めて下さい。出来ればヒースクリス様から)
(りょーかい。ならそれは後回しにしとく。まずはこっちから片付けるか)
『あい君』との相談も終え、未だ話し合いを続けている陛下達の輪に無理矢理入る。
「横からすみません。ちょっと良いですか?」
「なんだね?何か良い案を考えついたのかね?」
「良い案というか………まぁぶっ飛んだ話になるというか……」
「ぶっ飛んだ?……何のことを言っておるのじゃ?」
「?! アルス、もしかして?」
俺の発言に陛下とミネルヴァ様は首を傾げながら尋ねる。マクネアさんは気付いたのか、目を少し丸くしていた。
「……えーと……色々と話は端折るんですが……とりあえず俺はキルリア国を受け継いで来ます」
「「…………ハァ?!」」
陛下とミネルヴァ様は口を大きく開け、マクネアさんは額に手を当てていた。
「ど、どどどどういう事だね?」
珍しく慌てたように陛下が尋ね返す。
「そのまんまの意味です。……ぶっちゃけ横槍がウザいってのもありますけど、キルリア国にはちょっとキナ臭いニオイがプンプンするんですよねー…」
もちろんそれは俺は何なのか知らない。けれども、俺の脳内には『あい君特製会話の台本』が流れており、それをただ声にしているだけだ。抑揚まで付けてあるので、『あい君』はもしかしたら演劇作家も出来るのかも知れない。
「キナ臭い……とは?」
陛下が片眉を上げながら質問する。
「色々と怪しい動きをしてるみたいですねー。………えーと…すみませんが、ジルバさんを呼んでくれませんか?……え?なんで?」
台本を朗読していると、突如ジルバさんの名前が出て来た。あまりの突然さについ疑問を声にしてしまう。
「何でって……私達が知りたいのだが…」
「あ、えーと……と、とりあえずジルバさんを呼んでくれませんか?話はそれからしようと思います」
台本が書き直され、『とりあえずジルバさんを呼べ』と表示される。…きっと『あい君』は舌打ちしてるんだろうなぁ。
「…………………なぜジルバを呼ぶのか…と聞いても良いかね?」
ミネルヴァ様が目を細めながら尋ねる。
「……役者が揃わないと話が進まないでしょう?キルリア国に関してはジルバさんが詳しいはず」
「……………ミネルヴァ」
「………フゥー……隠し事は出来んという事じゃな。マクネア、ジルを呼んでくれまいか?」
「分かりました」
マクネアさんが魔水晶に手を伸ばした時、脳内に文字が流れる。
「…『その必要はありません。ソルトさん、ジルバさんに来るよう伝えてくれませんか?』」
その文字を声にした後、すぐさま脳内地図を開く。すると天井裏に『ソルト』という文字が存在していた。
「? 何を言ってるんだ?アルス」
陛下が首を傾げながら俺へと問うが、同時にミネルヴァ様が深い溜息を吐き、天井へと声を掛ける。
「……ソルト、ジルを連れて来てくれ。今の状況をアルスが知りたがっているとも伝えておくれ」
「…………………」
脳内地図からソルトさんの反応が消える。どうやら陛下はソルトさんがいる事は知らず、ミネルヴァ様は知っていたようだ。
「……ミネルヴァよ。どういう事だ?なぜソルトがここに?」
陛下が訝しげにミネルヴァ様に問い質す。
「……それは揃ってから教えよう。じゃが、1つだけ言っておく。………ルイ、お前はまだまだ視野が狭い。儂がしている役目を本来ならばルイがせねばならぬ。意味は分かるな?」
「……………ああ、そういう事か。………すまない」
何やら2人の中で話が完結しているようだが、俺にはチンプンカンプンだ。
「お爺様、ジルが至急来るとの事です」
通信を終えたマクネアさんがミネルヴァ様へと伝える。
「……分かった。ではジルが来るまで、ちぃとアルスに質問をしてもよいか?」
「何でしょう?」
「いつこの事に気付いた?」
ミネルヴァ様が目を細め、俺を力強く睨みつける。
「『気付いた……というものではありません。ただ、俺はジルバさんから後継者になれと言われていました。そして、マクネアさんもジルバさんが怪しいと思いケビンを使って調べていました』」
「……まぁマクネアは知らんかったから仕方がないが……それ以外に聞いた内容は?」
「『陛下とミネルヴァ様には初めて言いますが、俺はヴァルの使命を受けて教会について調査をしています。ムラサメ家が教会に関与しているのはご存知ですよね?』」
「関与?……どういう意味じゃ?」
「『ご存知無いと。……ではこれは別件になりますね。ひとまずそれは置いておいて、ムラサメ家はキルリア国と唯一貿易を結んでいますよね?』」
「そうじゃ。代々キルリア国と密に関わっておる。………それだけなのか?」
「『他にも色々とありますが、ジルバさんが来てから話した方が早いでしょう。……あと、俺は何が起きているのかをただ想像しているだけです。気付いたとかでも無く、疑問に思ったことが解決されず、それが蓄積しどういう状況になっているか…をこの機会に知っておこうと思いまして』」
「……じゃから関係者を呼ぼうと?しかし、何故そこに儂が入っていると?」
「『推測ですが、ジルバさんの行動は流石に1人で動けるものでは無いと考えます。自由に動けるように強固な後ろ盾が必要ですし、それは自分より下の地位の者では後ろ盾にはなりません。………となると、考えられるのは俺をよく知っている人物でジルバさんとも交流がある人物では無いかと。………まぁ、そうなると限られる訳ですが、最初から疑っていたマクネアさんは違う。だとするとドーラさんとバドワールさん、陛下、ミネルヴァ様の4人に絞られます。その中で地位が高いと言えばミネルヴァ様か陛下になる。……まぁ情報が少な過ぎるので勘ですけどね』」
「………つまり決定的なものは無いが、関与しているのでは無いか……という事か?」
「『そうなりますね。……ただ、今回は良い機会だと思ったからです。何が起きていて、何を起こそうとしているのか。何をしでかそうとしているのかをハッキリさせたいと思いましてね。情報不足のまま行動するのは愚者がする事ですから』」
『あい君』の台本通りスラスラと喋るが、マジで理解が追いついていない。……ちょっと『あい君』!ご主人様置いて話を進めないでくれる?こういうのは前もって教えてくれなきゃ大変なんだよ!
俺の脳はショート寸前だが、まだ何とか機能している。俺の容量がパンクする前に、ジルバさんが詳しく教えてくれれば何とかなるかも知れん。
俺が話し終えたあと、部屋は静寂が包んでいた。そして、その静寂を破るかのように、扉がノックされ外から声が聞こえる。
「陛下。ジルバ様がお見えです」
「………入れてくれ」
扉がゆっくりと開き、外からジルバさんとソルトさんが入室する。
「…………陛下。私をお呼びだそうで?」
「ジル。ソルトから聞いておろう?アルスが真実を知りたいそうじゃ」
「………………」
ジルバさんが俺をチラリと横目で見ると頭を下げてからミネルヴァ様の隣に座る。
「……ミネルヴァ様。真実とはどの様な内容で?」
「アルスの事に関してじゃな。……キルリア国の後継者について……ジルが知っていることを全て話してくれ」
「………………分かりました」
その様な会話をしていると目の前に紅茶が置かれる。ふと横を見ると、朗らかな笑みを浮かべているソルトさんが全員の前に紅茶を置いていった。
「………………では、まず初めに。現在のキルリア国とアルゼリアル王国との話をしよう」
そう口火を切ってから、ジルバさんは時に考えながら、時に迷いながらも口を開くのであった。
深々と椅子に座りながらミネルヴァ様が陛下に問う。
「ドルドもシュピーも終わっている。シュピーは全面的に協力してくれるそうだ」
「ドルドは?」
「表向きは支持だろうが……金が動けば寝返るだろう」
「そこが甘いと言うのじゃ。完全に味方にせねば根回しの意味が無いじゃろうて」
「……まぁミネルヴァの言う通りだ。詰めが甘かったのは私の責任だな」
「それで?ドルドは不透明だとして…キルリアには?」
「書簡を送れるはずが無いだろう?ここぞとばかりに出向いてくるぞ?」
「…まぁそうじゃろうな。マクネア、お前はどう思う?」
「……私は---
マクネアさん達が大人の会話をしている最中、俺は1人色々と考えていた。
(……ちょっとイラっとしたけど、別に後継者になっても良いんだった。でも、その為には色々と下準備が必要だってあの時に『あい君』から言われてたんだよなぁ…)
シュピー共和国での話を思い出し、方向性を探る。
(でも『あい君』曰く、『ひと騒動起こしてからが非常に楽』って言ってたし……そのひと騒動が分かんないんだよなぁ。まぁ騒動っつーから、貴族会議の時にでも起きるかと思ってたけど………………つーか、いつバレてたんだろ?この手紙の内容からしてこれがひと騒動だよね?)
手紙を取り、再び目を通す。手紙には前回と似たような言葉が並べられていたが、気になる単語もいくつか書かれていた。それは、俺がシュピー共和国との親善大使になった事。俺が天使級の召喚獣と契約した事。俺がアーサーやアリスさんを指導している事。その他諸々、俺がアルゼリアルで行なっている事が全て書かれていた。まぁ間者を忍ばせているんだろうけど、『我が国の秘匿技術がアルゼリアルに流失するのは大変遺憾である。よって直ちにアルスをキルリア国へと返還せよ。この要望を受け入れられない場合は実力行使を取らせてもらう』と最後の方に書かれていた。
『いや、俺お前の持ち物じゃねーし』とイラッとしたが、内容的に遂に宣戦布告をしたと馬鹿な俺でも理解出来た。だからミネルヴァ様がキレ気味で陛下に文句を言っているのだろう。………まぁ根回しが必要って言ってても陛下も宣戦布告されるなんて思わなかっただろうね。だって同盟結んでるんでしょ?そりゃ仕方無いよ。
とまぁ、陛下のフォローはそこまでにしておいて、俺はどう進めるべきかを『あい君』と相談する。………あ、フォローしたのは建前だからね?本音は『使えねぇなコイツ』って思ってるから。だって一国の王だよ?最悪の事を常に想定して行動しなきゃダメだろ。そんなんじゃすぐ国が滅びるぞ?………ゲーム知識からの意見だけどさ。
(………所で『あい君』。俺はこのままキルリアに出向いて後継者になろうと思うんだけど、どう思う?)
『あい君』へと問い掛けると、すぐに返事が返ってきた。
(その方向で良いかと。色々と計画は立てていましたが、向こうから誘いがあったのならばそれに便乗しましょう)
(……ちなみに、計画ってのはアレ?)
(ええ。無血でなんて無理なので。ヒースクリス様を利用しようと考えていましたが、後回しにしても良さそうです)
(………なぁ?それが本当に正しいのか?俺的にはスゲェ嫌なんだけどさ……。他に手はない?)
(ある事はあります。しかし、それではアルゼリアルにもシュピー共和国にも迷惑と時間がかかります)
(……そっか。なら、それしか無いのか)
(ポジティブに考えればこの誘いがチャンスですね。このまま返事を先延ばしにすれば口火を切られる事は間違いありません)
(なら、出向く事にするか。向こうでの動きを逐一教えてくれよ?)
(その為にはまず情報を集めて下さい。出来ればヒースクリス様から)
(りょーかい。ならそれは後回しにしとく。まずはこっちから片付けるか)
『あい君』との相談も終え、未だ話し合いを続けている陛下達の輪に無理矢理入る。
「横からすみません。ちょっと良いですか?」
「なんだね?何か良い案を考えついたのかね?」
「良い案というか………まぁぶっ飛んだ話になるというか……」
「ぶっ飛んだ?……何のことを言っておるのじゃ?」
「?! アルス、もしかして?」
俺の発言に陛下とミネルヴァ様は首を傾げながら尋ねる。マクネアさんは気付いたのか、目を少し丸くしていた。
「……えーと……色々と話は端折るんですが……とりあえず俺はキルリア国を受け継いで来ます」
「「…………ハァ?!」」
陛下とミネルヴァ様は口を大きく開け、マクネアさんは額に手を当てていた。
「ど、どどどどういう事だね?」
珍しく慌てたように陛下が尋ね返す。
「そのまんまの意味です。……ぶっちゃけ横槍がウザいってのもありますけど、キルリア国にはちょっとキナ臭いニオイがプンプンするんですよねー…」
もちろんそれは俺は何なのか知らない。けれども、俺の脳内には『あい君特製会話の台本』が流れており、それをただ声にしているだけだ。抑揚まで付けてあるので、『あい君』はもしかしたら演劇作家も出来るのかも知れない。
「キナ臭い……とは?」
陛下が片眉を上げながら質問する。
「色々と怪しい動きをしてるみたいですねー。………えーと…すみませんが、ジルバさんを呼んでくれませんか?……え?なんで?」
台本を朗読していると、突如ジルバさんの名前が出て来た。あまりの突然さについ疑問を声にしてしまう。
「何でって……私達が知りたいのだが…」
「あ、えーと……と、とりあえずジルバさんを呼んでくれませんか?話はそれからしようと思います」
台本が書き直され、『とりあえずジルバさんを呼べ』と表示される。…きっと『あい君』は舌打ちしてるんだろうなぁ。
「…………………なぜジルバを呼ぶのか…と聞いても良いかね?」
ミネルヴァ様が目を細めながら尋ねる。
「……役者が揃わないと話が進まないでしょう?キルリア国に関してはジルバさんが詳しいはず」
「……………ミネルヴァ」
「………フゥー……隠し事は出来んという事じゃな。マクネア、ジルを呼んでくれまいか?」
「分かりました」
マクネアさんが魔水晶に手を伸ばした時、脳内に文字が流れる。
「…『その必要はありません。ソルトさん、ジルバさんに来るよう伝えてくれませんか?』」
その文字を声にした後、すぐさま脳内地図を開く。すると天井裏に『ソルト』という文字が存在していた。
「? 何を言ってるんだ?アルス」
陛下が首を傾げながら俺へと問うが、同時にミネルヴァ様が深い溜息を吐き、天井へと声を掛ける。
「……ソルト、ジルを連れて来てくれ。今の状況をアルスが知りたがっているとも伝えておくれ」
「…………………」
脳内地図からソルトさんの反応が消える。どうやら陛下はソルトさんがいる事は知らず、ミネルヴァ様は知っていたようだ。
「……ミネルヴァよ。どういう事だ?なぜソルトがここに?」
陛下が訝しげにミネルヴァ様に問い質す。
「……それは揃ってから教えよう。じゃが、1つだけ言っておく。………ルイ、お前はまだまだ視野が狭い。儂がしている役目を本来ならばルイがせねばならぬ。意味は分かるな?」
「……………ああ、そういう事か。………すまない」
何やら2人の中で話が完結しているようだが、俺にはチンプンカンプンだ。
「お爺様、ジルが至急来るとの事です」
通信を終えたマクネアさんがミネルヴァ様へと伝える。
「……分かった。ではジルが来るまで、ちぃとアルスに質問をしてもよいか?」
「何でしょう?」
「いつこの事に気付いた?」
ミネルヴァ様が目を細め、俺を力強く睨みつける。
「『気付いた……というものではありません。ただ、俺はジルバさんから後継者になれと言われていました。そして、マクネアさんもジルバさんが怪しいと思いケビンを使って調べていました』」
「……まぁマクネアは知らんかったから仕方がないが……それ以外に聞いた内容は?」
「『陛下とミネルヴァ様には初めて言いますが、俺はヴァルの使命を受けて教会について調査をしています。ムラサメ家が教会に関与しているのはご存知ですよね?』」
「関与?……どういう意味じゃ?」
「『ご存知無いと。……ではこれは別件になりますね。ひとまずそれは置いておいて、ムラサメ家はキルリア国と唯一貿易を結んでいますよね?』」
「そうじゃ。代々キルリア国と密に関わっておる。………それだけなのか?」
「『他にも色々とありますが、ジルバさんが来てから話した方が早いでしょう。……あと、俺は何が起きているのかをただ想像しているだけです。気付いたとかでも無く、疑問に思ったことが解決されず、それが蓄積しどういう状況になっているか…をこの機会に知っておこうと思いまして』」
「……じゃから関係者を呼ぼうと?しかし、何故そこに儂が入っていると?」
「『推測ですが、ジルバさんの行動は流石に1人で動けるものでは無いと考えます。自由に動けるように強固な後ろ盾が必要ですし、それは自分より下の地位の者では後ろ盾にはなりません。………となると、考えられるのは俺をよく知っている人物でジルバさんとも交流がある人物では無いかと。………まぁ、そうなると限られる訳ですが、最初から疑っていたマクネアさんは違う。だとするとドーラさんとバドワールさん、陛下、ミネルヴァ様の4人に絞られます。その中で地位が高いと言えばミネルヴァ様か陛下になる。……まぁ情報が少な過ぎるので勘ですけどね』」
「………つまり決定的なものは無いが、関与しているのでは無いか……という事か?」
「『そうなりますね。……ただ、今回は良い機会だと思ったからです。何が起きていて、何を起こそうとしているのか。何をしでかそうとしているのかをハッキリさせたいと思いましてね。情報不足のまま行動するのは愚者がする事ですから』」
『あい君』の台本通りスラスラと喋るが、マジで理解が追いついていない。……ちょっと『あい君』!ご主人様置いて話を進めないでくれる?こういうのは前もって教えてくれなきゃ大変なんだよ!
俺の脳はショート寸前だが、まだ何とか機能している。俺の容量がパンクする前に、ジルバさんが詳しく教えてくれれば何とかなるかも知れん。
俺が話し終えたあと、部屋は静寂が包んでいた。そして、その静寂を破るかのように、扉がノックされ外から声が聞こえる。
「陛下。ジルバ様がお見えです」
「………入れてくれ」
扉がゆっくりと開き、外からジルバさんとソルトさんが入室する。
「…………陛下。私をお呼びだそうで?」
「ジル。ソルトから聞いておろう?アルスが真実を知りたいそうじゃ」
「………………」
ジルバさんが俺をチラリと横目で見ると頭を下げてからミネルヴァ様の隣に座る。
「……ミネルヴァ様。真実とはどの様な内容で?」
「アルスの事に関してじゃな。……キルリア国の後継者について……ジルが知っていることを全て話してくれ」
「………………分かりました」
その様な会話をしていると目の前に紅茶が置かれる。ふと横を見ると、朗らかな笑みを浮かべているソルトさんが全員の前に紅茶を置いていった。
「………………では、まず初めに。現在のキルリア国とアルゼリアル王国との話をしよう」
そう口火を切ってから、ジルバさんは時に考えながら、時に迷いながらも口を開くのであった。
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