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第4章 王宮学園--長期休暇編--
第087話
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「お待たせしました!イール3つでーす!あと、こちら『ボアの燻製』でぇーす!」
店員さんがイールをそれぞれの前に置く。
あの後お店はすぐに見つかった。……見つかったというより、ミリィが通行人に『近くに美味しいお酒が呑めるお店を知らない?』と聞き回っていた。4人程尋ね、そのうち3人が同じ店名をあげたのでそこに行くことになった。そのお店の名前は『メガイラ』。タイリークでは有名な酒場らしいのだが、店構えは凄く暗い感じだ。店内はロウソクの火だけで灯されており、他に人がいるか分からない暗いの明るさだった。
店内の暗さとは対照的に、働いている店員さんの性格は明るく、不気味という雰囲気は全く無い。どうやってこのか細い灯りの中を歩いているのかが気になるが、慣れというものなのだろう。実際に、先程イールを届けたであろう店員が『後ろ通るねー』と言っているのが聞こえた。
「へぇー……これが『イール』なのねぇ…」
ジョッキに並々と注がれたイールを見ながらマクネアさんが呟く。丸テーブルには太く大きいロウソクが中央に置かれており、その灯りだけで顔が見えるほど明るい。
「お嬢様育ちには下賎な飲み物だったかしらぁ?」
「そんな事ないわ。イールという飲み物は聞いた事あったけど、見るのは初めてなの。こんな大きなグラスも存在するのね」
「普段はどんなお酒を呑むんですか?」
「果実を発酵させたお酒が殆どね。どんな味がするのかが楽しみっ!」
「口に合えばいいですけど……。それじゃ乾杯しますか」
「そうね…。それじゃ、今日はお疲れ様でした。それと…ミリィさん、初めまして。これからもよろしくね」
「……ふんっ!」
「か、カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
カチャンとジョッキ同士をぶつけ、イールを喉に流す。冷たいイールがスーッと胃に落ちていき、感情を含んだ声が自然と出る。
「クゥーーーッ!……美味いなぁ…」
「ほんとっ!初めて呑んだけど、凄く喉越しが爽やかね!」
「気に入りました?」
「ええ!とっても!…でも、こんな大きなグラスじゃパーティーでは出てこないわね…」
「ハンッ!優雅な催しには不釣り合いって事ですかぁ??」
「……ミリィ。さっきから態度が悪いぞ。せっかくの呑みなんだから、楽しんで行こうぜ?」
「っ!?な、何よ!!アイツの味方をするっていうの!?」
「味方とかそんなんじゃ無くて……。なんでそんな攻撃的なのかは分かんねーけど、俺的には仲良くなって楽しんで欲しいんだけど…」
「なっ?!」
「あー……ミリィさん…ちょっといいかしら?」
マクネアさんがミリィを手招きし、耳元で何か囁く。
「…………い?」
「…けど…」
「………よ。………?」
「………………ね」
何か俺を見ながら2人は喋っている。2人の距離が近い事で口元が闇に隠れており何を話しているのかが全く分からない。
喋る相手も居ないので、グビグビと酒が進む。メニューを見ながら食べたいものを探し、テーブルに置いてあるベルを鳴らす。『チリンチリン』と鳴らすと、暗闇から元気な声が届き、店員さんがやって来る。
「ご注文ですかー?」
「えと……イールのお代わりと『メガイラ特製キッシュ』を2人前お願いします」
「はぁーい!…メガイラキッシュなんですけど、とぉーっても辛いキッシュになってまして……大丈夫ですか?」
「え?か、辛いんですか?……ちょっと待ってくださいね」
辛いと聞いて、コソコソと未だに話している2人に声をかける。
「おーい、2人とも。キッシュを頼もうと思ってるんだけど、とっても辛いんだってさ。辛くても大丈夫?」
「…別に良いわよ?」
「あたし辛いの平気ー!」
「…えと、1人前は辛くないヤツに変更って出来ます?」
「はい!大丈夫ですよー!」
「じゃあ、その辛いのと辛くないのでお願いします」
「かしこまりましたぁー!」
「ミリィ達、呑み物は?」
「同じのでいいー!」
「私もイールで良いわ」
「んじゃ追加でイールを2つで…」
「はぁーい!ではイール3つとメガイラキッシュ2人前ですねー!」
注文を受け取った店員さんは空になったジョッキを下げ、闇へと消えていく。
「………一先ずは休戦しましょうか」
「…そうね。でもあたしは譲る気無いからね?」
「もちろん私だってそのつもりよ?」
ミリィ達は何やら会話した後ガッチリと握手をしていた。会話の内容は聞こえなかったが、仲良くなったという事だろう。
「お待たせしましたぁー!」
タイミング良くイールが届き、ミリィはジョッキに残っているイールを一気に飲み干し、マクネアさんは1/3程残して新しいのと交換した。
「イールってのは冷えてると呑みやすいけど、少し温くなったらあまり美味しく無いわね…」
「そうねぇ…。温くなる前に呑むのが普通なんだけど、長話しちゃったもんね」
……お?なんか砕けた雰囲気になってるな。うんうん!酒の場はこうでなくっちゃな!
「マクネア…さんは他にどんなお酒を呑むの?」
「呼び捨てで良いわよ?」
「そっ。ならあたしも呼び捨てで良いわ。……それで?マクネアはどんなのを呑むの?」
「そうねぇ……。さっきも言ったけど果実酒が殆どかしら?たまに、他の国から仕入れたお酒を呑む程度ね」
「他の国?…それってドワーフとかエルフとかからも?」
「そうよ。エルフの貴族達とのパーティーの時は殆どが向こうのお酒ね。凄く口当たりが良くて呑みやすいの」
「へぇー……。ドワーフのお酒は?」
「ドワーフのお酒は……何というか凄く強いわね。一口呑んだら喉が灼けつく感じね」
「ふぅん……。あたしはドワーフのお酒呑んでみたいなぁ」
「それなら屋敷にとってあるお酒があるわよ?確か……『髭乙女の大吟醸』という銘柄だったわ」
マクネアさん達の会話を聞きながらメニューに目を通す。酒の欄には色々と種類があり、メニューの分け方も『甘め』『スッキリ』『キレキレ』などと味で細かく分けてあった。
「……おっ。なぁなぁ、その『髭乙女の大吟醸』ってのがあるみたいだぞ?」
『まろやか』の欄に、話題に上がった酒の名前があった。
「……ちょっと。盗み聞きって最低じゃない?」
「いや…聞こうと思って聞いたわけじゃねーよ…。聞こえたんだから仕方ねぇだろ??」
「ねぇアルス。それはボトルであるのかしら?」
「んー……グラスってしか書いてないですね。呑み終わったら頼んでみます?」
「ミリィ、せっかくだから呑んでみない?」
「マクネアも呑む?」
「ミリィが呑むならね」
「じゃあアルス、店員が来たら注文してね」
「はいよ。……食べ物はどうする?」
「ん。メニュー頂戴?」
マクネアさんにメニューを渡し、2人はメニューを覗き込む。
「……ミリィは魚とか大丈夫?」
「大好きよ。沢山食べても太らないしね」
「ならこの『お造り』ってのにしない?」
「あー…これってナマモノなんでしょ?大丈夫なの??」
「大丈夫よ。タイリークには鮮度が良いものが輸入されているからね」
楽しそうにメニューを眺めている2人を見ていると、妙な疎外感を覚える。
(……あれ??今思ったけど、これって中々のイベントじゃね?…性格は置いておいて、ミリィはクッッッソ可愛いだし、マクネアさんも引けを取らないぐらい綺麗だし……。もしかして…俺今リア充??…つか同伴して酒呑むとか…前世だったら料金がとんでもない事になりそうだな…)
薄暗い店内の中、楽しそうにメニューを決めているミリィ達を見る。ロウソクの灯りだけというのがとても淫靡なものに感じる。灯りが揺れる度にミリィ達を妖しく照らし、その時に見える口元がとてもエロい。
(…ははっ。相当キてるなこれは…)
「ミリィはこういうお店に来たら何を食べるの?」
「んー…とりあえず名前でビビッと来たら頼むかなぁ?行きつけのお店はあたし好みの料理を勝手に出してくれるし」
「その行きつけのお店ってのはカイジャにあるの?」
「うん!マクネアもカイジャに用がある時は教えてよ。連れて行ってあげる!」
「ふふっ…。それは凄く楽しみね」
「凄く気が利くマスターがいるの。どっかの誰かさんと違ってね」
「あら?それは魅力的な男性ね。学んで欲しいものだわ」
「ねぇー………」
(……何喋ってんだろ?たまーに見える表情的に喧嘩はしてなさそうだけど……。つーか、すげぇ寂しいな…。ジルバさんでも誘えばよかったか?)
女性同士楽しそうに喋っている傍ら、男1人なので会話できる相手もいない。暇過ぎて指遊びをしていると、店員さんが注文の品を持ってきた。
「お待たせしましたぁー!こちらが当店特製のキッシュでーす!こっちが辛いので、これが辛くないヤツです!」
辛くないキッシュを自分の前にそっと置き、注文をする。
「すいません、注文いいですか?」
「はぁーい!」
「えと……髭乙女の大吟醸を3つ。……ミリィ、注文決めた?」
「うん。…えと、このお造りを3人前とチーズの盛り合わせ。あと、髭乙女に合う料理って何がありますか?」
「そうですねぇ……。お魚との相性は抜群です!あと山の幸とかも良いですね」
「山の幸??」
「はい。今日はドワーフの国から仕入れた『山菜の素揚げ』がいいですよぉ。ホクホクしてて、すっごいお酒が進むんです!」
「それじゃそれを3人前!」
「かしこまりましたぁ!注文は以上ですかぁ?」
「マクネアは他にいる?」
「んー…とりあえず食べ終わってから注文しようかしら?」
「じゃ、以上でお願いしまぁす!」
店員さんはペコリと頭を下げてからその場を後にする。取り皿とフォークをミリィ達に渡すと、ミリィが驚いた表情を浮かべた。
「ア、アルスが出来る男になってる!」
「はぁ?」
「見ない間にアルスが取り皿を取ってくれるなんて……」
「いや……普通だろ。つか、そんくらいしてるはずだぞ?」
「えー?あたしの時にはしなかったよね?」
「そうなの?私とご飯を食べた時には取り分けてくれたわよ?」
「ちょっ……それ抜け駆けじゃない?」
「だってミリィと会う前だから仕方ないじゃない?」
「むむ……。でももうダメだからね?」
「何の話してんの?」
「「内緒」」
……息が揃ってますねぇ!…ま、仲良くなったって証拠だな。
料理も来たし、会話出来るチャンスが転がってきたので、そのまま3人で仲良く話をする。話の話題と言えば、俺が王都に行ってからのカイジャでの出来事や、俺が学園で働く事になった経緯ぐらいだった。
ミリィからの話で面白かったのがハインの話だ。バドワールさんとハインは、俺が王都に行った後、ダダ村に向かったそうだ。そこでガガと薬草栽培の契約を結んだらしく、畑を貸す代わりに食料になる種を時期ごとに蒔いているらしい。それで、薬草栽培について研究するのと、食物についてアドバイスをする役目としてハインが住み込みでダダ村にいるらしい。
「ハインが最近こっちに顔を出したんだけど、日焼けしてて可愛くなってたわよ?」
「おいおい…可愛くなったって言い方はハインに失礼だろ?」
「……………」
ミリィはギルド経由でガガとも仲良くなったらしく、色々と相談に乗っているみたいだ。その相談内容なのだが、移住者募集やたまに討伐依頼を申請するぐらいらしい。あと、ビッグニュースなのがどうやらガガは今現在恋をしているらしい。その相談にミリィは乗っているらしく、相手の名前は明かさなかったが頑張ってほしいと言っていた。
「へぇー!ガガはそんな事言っていたのか…。ま、妹ちゃんの世話とかも考えたら早く結婚した方が良いよなぁ…」
「……ねぇミリィ。そのハインって人は…」
「うん…。マクネアが思っている通りだよ。ガガさんも『片思いはツライ』って言ってるのよね…」
「……なるほどね。鈍感ってのもここまで行くとタチが悪いわね…」
「そうねぇ……。しかも性別をまだ勘違いしてるし…」
「??」
そんな会話をしながら、酒と飯をドンドン消化し話も色々と盛り上がる。……あ、ちなみにだけど『髭乙女の大吟醸』は呑みやすかったよ!女性も呑みやすい口当たりだった!
「---プハァッ!マクネアは結構イケる口なのねぇ!」
「ミリィこそ。…でも久し振りにここまで呑んでいるわ」
「んじゃ次はこれ呑もうよぉ!」
俺には耐性があるとして……。ミリィとマクネアさんはかなりのペースで呑んでいる。ロウソクの灯りなのかは分からないが、赤くなっているように見える。……つーか、コイツらかなりの酒豪だな。手当たり次第呑んでるくせに、平然としてやがる……。
「ちょっと俺トイレ行ってくる…」
俺も呑み過ぎたのか膀胱が悲鳴を上げた。店員さんにトイレの場所を聞くと外にあるらしく、場所を聞いてからトイレへと移動する。
「………ふぅー………。今何時だ?」
懐中時計で確認すると時刻は21時。えーと?呑み始めたのが17時過ぎくらいからだから………結構呑んでんなぁ!!
用を済ませ、ちょうど外にいるので煙草を取り出す。一応、周囲を確認して邪魔にならない物陰で火を付ける。
「……フーーーーッ……」
空を見上げると大きな月が見えた。だが星はそこまで見えない。それもそのはず。周囲は明かりが灯っており、人々が楽しく酒を呑んでいるからである。
「……どこも呑みってのは共通してんだなぁ…」
ガヤガヤと笑い声や話し声が響き渡り、人が多いという事が伺える。店先に椅子が出ており、屈強な男達が大声を出して呑み合っているのが見えた。
「……戻るか」
臭いを消してから店へと戻ると、バチンッ---という音と女性の声が聞こえたのであった。
「お待たせしました!イール3つでーす!あと、こちら『ボアの燻製』でぇーす!」
店員さんがイールをそれぞれの前に置く。
あの後お店はすぐに見つかった。……見つかったというより、ミリィが通行人に『近くに美味しいお酒が呑めるお店を知らない?』と聞き回っていた。4人程尋ね、そのうち3人が同じ店名をあげたのでそこに行くことになった。そのお店の名前は『メガイラ』。タイリークでは有名な酒場らしいのだが、店構えは凄く暗い感じだ。店内はロウソクの火だけで灯されており、他に人がいるか分からない暗いの明るさだった。
店内の暗さとは対照的に、働いている店員さんの性格は明るく、不気味という雰囲気は全く無い。どうやってこのか細い灯りの中を歩いているのかが気になるが、慣れというものなのだろう。実際に、先程イールを届けたであろう店員が『後ろ通るねー』と言っているのが聞こえた。
「へぇー……これが『イール』なのねぇ…」
ジョッキに並々と注がれたイールを見ながらマクネアさんが呟く。丸テーブルには太く大きいロウソクが中央に置かれており、その灯りだけで顔が見えるほど明るい。
「お嬢様育ちには下賎な飲み物だったかしらぁ?」
「そんな事ないわ。イールという飲み物は聞いた事あったけど、見るのは初めてなの。こんな大きなグラスも存在するのね」
「普段はどんなお酒を呑むんですか?」
「果実を発酵させたお酒が殆どね。どんな味がするのかが楽しみっ!」
「口に合えばいいですけど……。それじゃ乾杯しますか」
「そうね…。それじゃ、今日はお疲れ様でした。それと…ミリィさん、初めまして。これからもよろしくね」
「……ふんっ!」
「か、カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
カチャンとジョッキ同士をぶつけ、イールを喉に流す。冷たいイールがスーッと胃に落ちていき、感情を含んだ声が自然と出る。
「クゥーーーッ!……美味いなぁ…」
「ほんとっ!初めて呑んだけど、凄く喉越しが爽やかね!」
「気に入りました?」
「ええ!とっても!…でも、こんな大きなグラスじゃパーティーでは出てこないわね…」
「ハンッ!優雅な催しには不釣り合いって事ですかぁ??」
「……ミリィ。さっきから態度が悪いぞ。せっかくの呑みなんだから、楽しんで行こうぜ?」
「っ!?な、何よ!!アイツの味方をするっていうの!?」
「味方とかそんなんじゃ無くて……。なんでそんな攻撃的なのかは分かんねーけど、俺的には仲良くなって楽しんで欲しいんだけど…」
「なっ?!」
「あー……ミリィさん…ちょっといいかしら?」
マクネアさんがミリィを手招きし、耳元で何か囁く。
「…………い?」
「…けど…」
「………よ。………?」
「………………ね」
何か俺を見ながら2人は喋っている。2人の距離が近い事で口元が闇に隠れており何を話しているのかが全く分からない。
喋る相手も居ないので、グビグビと酒が進む。メニューを見ながら食べたいものを探し、テーブルに置いてあるベルを鳴らす。『チリンチリン』と鳴らすと、暗闇から元気な声が届き、店員さんがやって来る。
「ご注文ですかー?」
「えと……イールのお代わりと『メガイラ特製キッシュ』を2人前お願いします」
「はぁーい!…メガイラキッシュなんですけど、とぉーっても辛いキッシュになってまして……大丈夫ですか?」
「え?か、辛いんですか?……ちょっと待ってくださいね」
辛いと聞いて、コソコソと未だに話している2人に声をかける。
「おーい、2人とも。キッシュを頼もうと思ってるんだけど、とっても辛いんだってさ。辛くても大丈夫?」
「…別に良いわよ?」
「あたし辛いの平気ー!」
「…えと、1人前は辛くないヤツに変更って出来ます?」
「はい!大丈夫ですよー!」
「じゃあ、その辛いのと辛くないのでお願いします」
「かしこまりましたぁー!」
「ミリィ達、呑み物は?」
「同じのでいいー!」
「私もイールで良いわ」
「んじゃ追加でイールを2つで…」
「はぁーい!ではイール3つとメガイラキッシュ2人前ですねー!」
注文を受け取った店員さんは空になったジョッキを下げ、闇へと消えていく。
「………一先ずは休戦しましょうか」
「…そうね。でもあたしは譲る気無いからね?」
「もちろん私だってそのつもりよ?」
ミリィ達は何やら会話した後ガッチリと握手をしていた。会話の内容は聞こえなかったが、仲良くなったという事だろう。
「お待たせしましたぁー!」
タイミング良くイールが届き、ミリィはジョッキに残っているイールを一気に飲み干し、マクネアさんは1/3程残して新しいのと交換した。
「イールってのは冷えてると呑みやすいけど、少し温くなったらあまり美味しく無いわね…」
「そうねぇ…。温くなる前に呑むのが普通なんだけど、長話しちゃったもんね」
……お?なんか砕けた雰囲気になってるな。うんうん!酒の場はこうでなくっちゃな!
「マクネア…さんは他にどんなお酒を呑むの?」
「呼び捨てで良いわよ?」
「そっ。ならあたしも呼び捨てで良いわ。……それで?マクネアはどんなのを呑むの?」
「そうねぇ……。さっきも言ったけど果実酒が殆どかしら?たまに、他の国から仕入れたお酒を呑む程度ね」
「他の国?…それってドワーフとかエルフとかからも?」
「そうよ。エルフの貴族達とのパーティーの時は殆どが向こうのお酒ね。凄く口当たりが良くて呑みやすいの」
「へぇー……。ドワーフのお酒は?」
「ドワーフのお酒は……何というか凄く強いわね。一口呑んだら喉が灼けつく感じね」
「ふぅん……。あたしはドワーフのお酒呑んでみたいなぁ」
「それなら屋敷にとってあるお酒があるわよ?確か……『髭乙女の大吟醸』という銘柄だったわ」
マクネアさん達の会話を聞きながらメニューに目を通す。酒の欄には色々と種類があり、メニューの分け方も『甘め』『スッキリ』『キレキレ』などと味で細かく分けてあった。
「……おっ。なぁなぁ、その『髭乙女の大吟醸』ってのがあるみたいだぞ?」
『まろやか』の欄に、話題に上がった酒の名前があった。
「……ちょっと。盗み聞きって最低じゃない?」
「いや…聞こうと思って聞いたわけじゃねーよ…。聞こえたんだから仕方ねぇだろ??」
「ねぇアルス。それはボトルであるのかしら?」
「んー……グラスってしか書いてないですね。呑み終わったら頼んでみます?」
「ミリィ、せっかくだから呑んでみない?」
「マクネアも呑む?」
「ミリィが呑むならね」
「じゃあアルス、店員が来たら注文してね」
「はいよ。……食べ物はどうする?」
「ん。メニュー頂戴?」
マクネアさんにメニューを渡し、2人はメニューを覗き込む。
「……ミリィは魚とか大丈夫?」
「大好きよ。沢山食べても太らないしね」
「ならこの『お造り』ってのにしない?」
「あー…これってナマモノなんでしょ?大丈夫なの??」
「大丈夫よ。タイリークには鮮度が良いものが輸入されているからね」
楽しそうにメニューを眺めている2人を見ていると、妙な疎外感を覚える。
(……あれ??今思ったけど、これって中々のイベントじゃね?…性格は置いておいて、ミリィはクッッッソ可愛いだし、マクネアさんも引けを取らないぐらい綺麗だし……。もしかして…俺今リア充??…つか同伴して酒呑むとか…前世だったら料金がとんでもない事になりそうだな…)
薄暗い店内の中、楽しそうにメニューを決めているミリィ達を見る。ロウソクの灯りだけというのがとても淫靡なものに感じる。灯りが揺れる度にミリィ達を妖しく照らし、その時に見える口元がとてもエロい。
(…ははっ。相当キてるなこれは…)
「ミリィはこういうお店に来たら何を食べるの?」
「んー…とりあえず名前でビビッと来たら頼むかなぁ?行きつけのお店はあたし好みの料理を勝手に出してくれるし」
「その行きつけのお店ってのはカイジャにあるの?」
「うん!マクネアもカイジャに用がある時は教えてよ。連れて行ってあげる!」
「ふふっ…。それは凄く楽しみね」
「凄く気が利くマスターがいるの。どっかの誰かさんと違ってね」
「あら?それは魅力的な男性ね。学んで欲しいものだわ」
「ねぇー………」
(……何喋ってんだろ?たまーに見える表情的に喧嘩はしてなさそうだけど……。つーか、すげぇ寂しいな…。ジルバさんでも誘えばよかったか?)
女性同士楽しそうに喋っている傍ら、男1人なので会話できる相手もいない。暇過ぎて指遊びをしていると、店員さんが注文の品を持ってきた。
「お待たせしましたぁー!こちらが当店特製のキッシュでーす!こっちが辛いので、これが辛くないヤツです!」
辛くないキッシュを自分の前にそっと置き、注文をする。
「すいません、注文いいですか?」
「はぁーい!」
「えと……髭乙女の大吟醸を3つ。……ミリィ、注文決めた?」
「うん。…えと、このお造りを3人前とチーズの盛り合わせ。あと、髭乙女に合う料理って何がありますか?」
「そうですねぇ……。お魚との相性は抜群です!あと山の幸とかも良いですね」
「山の幸??」
「はい。今日はドワーフの国から仕入れた『山菜の素揚げ』がいいですよぉ。ホクホクしてて、すっごいお酒が進むんです!」
「それじゃそれを3人前!」
「かしこまりましたぁ!注文は以上ですかぁ?」
「マクネアは他にいる?」
「んー…とりあえず食べ終わってから注文しようかしら?」
「じゃ、以上でお願いしまぁす!」
店員さんはペコリと頭を下げてからその場を後にする。取り皿とフォークをミリィ達に渡すと、ミリィが驚いた表情を浮かべた。
「ア、アルスが出来る男になってる!」
「はぁ?」
「見ない間にアルスが取り皿を取ってくれるなんて……」
「いや……普通だろ。つか、そんくらいしてるはずだぞ?」
「えー?あたしの時にはしなかったよね?」
「そうなの?私とご飯を食べた時には取り分けてくれたわよ?」
「ちょっ……それ抜け駆けじゃない?」
「だってミリィと会う前だから仕方ないじゃない?」
「むむ……。でももうダメだからね?」
「何の話してんの?」
「「内緒」」
……息が揃ってますねぇ!…ま、仲良くなったって証拠だな。
料理も来たし、会話出来るチャンスが転がってきたので、そのまま3人で仲良く話をする。話の話題と言えば、俺が王都に行ってからのカイジャでの出来事や、俺が学園で働く事になった経緯ぐらいだった。
ミリィからの話で面白かったのがハインの話だ。バドワールさんとハインは、俺が王都に行った後、ダダ村に向かったそうだ。そこでガガと薬草栽培の契約を結んだらしく、畑を貸す代わりに食料になる種を時期ごとに蒔いているらしい。それで、薬草栽培について研究するのと、食物についてアドバイスをする役目としてハインが住み込みでダダ村にいるらしい。
「ハインが最近こっちに顔を出したんだけど、日焼けしてて可愛くなってたわよ?」
「おいおい…可愛くなったって言い方はハインに失礼だろ?」
「……………」
ミリィはギルド経由でガガとも仲良くなったらしく、色々と相談に乗っているみたいだ。その相談内容なのだが、移住者募集やたまに討伐依頼を申請するぐらいらしい。あと、ビッグニュースなのがどうやらガガは今現在恋をしているらしい。その相談にミリィは乗っているらしく、相手の名前は明かさなかったが頑張ってほしいと言っていた。
「へぇー!ガガはそんな事言っていたのか…。ま、妹ちゃんの世話とかも考えたら早く結婚した方が良いよなぁ…」
「……ねぇミリィ。そのハインって人は…」
「うん…。マクネアが思っている通りだよ。ガガさんも『片思いはツライ』って言ってるのよね…」
「……なるほどね。鈍感ってのもここまで行くとタチが悪いわね…」
「そうねぇ……。しかも性別をまだ勘違いしてるし…」
「??」
そんな会話をしながら、酒と飯をドンドン消化し話も色々と盛り上がる。……あ、ちなみにだけど『髭乙女の大吟醸』は呑みやすかったよ!女性も呑みやすい口当たりだった!
「---プハァッ!マクネアは結構イケる口なのねぇ!」
「ミリィこそ。…でも久し振りにここまで呑んでいるわ」
「んじゃ次はこれ呑もうよぉ!」
俺には耐性があるとして……。ミリィとマクネアさんはかなりのペースで呑んでいる。ロウソクの灯りなのかは分からないが、赤くなっているように見える。……つーか、コイツらかなりの酒豪だな。手当たり次第呑んでるくせに、平然としてやがる……。
「ちょっと俺トイレ行ってくる…」
俺も呑み過ぎたのか膀胱が悲鳴を上げた。店員さんにトイレの場所を聞くと外にあるらしく、場所を聞いてからトイレへと移動する。
「………ふぅー………。今何時だ?」
懐中時計で確認すると時刻は21時。えーと?呑み始めたのが17時過ぎくらいからだから………結構呑んでんなぁ!!
用を済ませ、ちょうど外にいるので煙草を取り出す。一応、周囲を確認して邪魔にならない物陰で火を付ける。
「……フーーーーッ……」
空を見上げると大きな月が見えた。だが星はそこまで見えない。それもそのはず。周囲は明かりが灯っており、人々が楽しく酒を呑んでいるからである。
「……どこも呑みってのは共通してんだなぁ…」
ガヤガヤと笑い声や話し声が響き渡り、人が多いという事が伺える。店先に椅子が出ており、屈強な男達が大声を出して呑み合っているのが見えた。
「……戻るか」
臭いを消してから店へと戻ると、バチンッ---という音と女性の声が聞こえたのであった。
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