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067話
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「…………どうする?入る??」
ソニアが不安そうに尋ねてくる。
「入るしか無いよな…。ゆっくりと入るぞ…」
人1人が通れそうな隙間から顔を覗かせ、警戒しながら扉の向こう側へと入っていく。
「…ソニア、その扉は絶対閉めるなよ?」
振り返らずにソニアに忠告する。
「え?……なんで?あっ………」
ガチャン--、と扉が閉まる音が聞こえ慌てて振り返る。閉まった扉は、そこに存在していなかったかのように消えていった。
「え?…なんで消えちゃったの??」
目の前から扉が消えた事にソニアは素直な感想を漏らす。その状況に、閃くものが走り振り返る。
扉が消えると同時に真っ暗だった空間が突如明るくなる。
「あぁ……これはヤベェやつ…」
「やべぇ??何がヤバイのさ?」
ゆっくりと前方を指差し、ソニアに伝える。少し間を置いて後ろでソニアが狼狽しているのを感じ取った。
「…あぁ…アレは………」
「あーもー!!お約束だって分かってたけど!!実際に体験すると本気で嫌だわ!!このパターン!!」
突如、前方より何かが飛来する。右腕でソレを弾き飛ばすと、地面に大剣が落ちていった。
「……歓迎スルゾ、地上ノ愚者共ヨ…」
前方から、ヒビ割れて耳障りな声が届く。声の主はゆっくりと立ち上がり、俺達を一瞥する。
「ソニア、今から言う事を絶対に守れ。俺がどんなに手こずろうとも此処から絶対に出るな。出たら死ぬと思え」
「あぁ……」
「しっかりしろ!!いいか?此処は丁度凹みの部分だ。目の前に多重魔法を掛ける。お前が出ない限り、絶対に安全な領域を作り上げる。課金アイテムも使うし、最高級のアイテムも使う!」
ソニアは俺の話を聞いているのか分からない状況だ。目は虚ろい、口は開ききっている。ヘナヘナと地面に座り込み、反応が全く無い。
「チッ!おい!!聞いてんのか!!」
ソニアの頬を強く叩く。痛みが伝わったのか目の焦点が俺を向く。
「いいか?もう一度言うぞ。絶対に何があろうと此処から一歩も動くな、出ようとするな!分かったか!?」
「………」
出ない声の代わりに激しく頷く。やや心配は残るが、ひとまず魔法をかけなければ!
「--『慈愛神の加護』、『英雄の守護』、『戦女神の加護』、『全能神の守護』、『海神の両翼』、『四神の守護』」
掛け終わるとリストからアイテムを取り出す。
「『魔法強化』、『魔法最強化』、『反魔法壁』、『反打撃壁』、『自動回復』、『天使の雫』、『明けの明星』、『女神の愛』、………『復活の泉』『救心の自動人形』」
ソニアを沢山の魔法とアイテムが包む。最後のアイテムは『もし』を想定して蘇生アイテムを準備している。
「これで大丈夫…なはず」
課金アイテムも使ってるし、ちゃんと機能すれば問題無いはず!!
「……それじゃ行くけど、絶対にそこから出るなよ」
最後のダメ押しをし、前方へと歩を進める。
「……見間違いじゃないよなぁ…。絶対アイツじゃん…」
前方で仁王立ちしているとてつもなく大きなモノを再確認する。巨大な姿で、トボトボと向かってくる俺を睨んでいる。
「……これ…1人で倒せるかな…」
ある程度の距離が詰まると、仁王立ちしているモノの背後から武器が飛び出てくる。どうやら、ここで立ち止まった方が良さそうだ。
「……此処ニ愚者ガ来タノハ久方振リダナ…。名ヲ聞コウカ…」
「……アルスだ。お前の名前は?」
「我ガ名ハ『アスラ』。コノ『六道・修羅ノ洞窟』ノ主デアル!」
……やっぱりな。目の前のモノの名前を聞いて確信した。俺が知っている魔物の名前だったと。
---『アスラ』。『Destiny』が1回目の大型アップデート後に出てきたボスの名前だ。6本の腕を持ちその他には武器を持っている。仏教の『阿修羅』に似ているような風貌だが、中身は全然違う。
余談であるが、このアスラを最初に出した時運営はネットでかなり叩かれまくった。『放置ゲーなのにレイドボス出してどうするんだ!』、『MMOじゃねーだろ!運営狂ったか?』などと罵詈雑言の嵐だった。結局、レイドボスという括りを辞めダンジョン探索中にボスと遭遇すると討伐チケットを配布という形に落ち着いた。
さて、この『アスラ』であるが第1回目という事もあり難易度は鬼畜であった。敵の攻撃パターンは固定なのだが、全体攻撃7割、個別攻撃2割、完全回復1割とトチ狂ったバランスであった。
特に厄介だったのが戦闘開始時に使用してくる強制的なデバフ攻撃だった。アップデート後に課金アイテムとしてステータスアップが売っていた理由はコレだったのかと、負けた後に気付いた。
そして、このアスラというボス。今となればそこまで強い相手では無い。ただし、それはチカ達が居た場合だ。1人でボス攻略なんぞ見た事もないしやった事もない。最初の頃と比べ、俺自身がかなり強くなっているとはいえ不安しか残らない。何故ならゲームとは違い、この世界は現実なのだから。
「あぁ…嫌だなぁ…………」
「デハ、カカッテクルガヨイ!!」
先程と同じ様に剣が飛んでくる。それが開戦の合図となりアスラは距離を取る。
「--『六道・餓鬼』」
俺の体が目に見えない何かが貪り尽くす様な感覚を受ける。この攻撃を体験した事で、『ああ、俺本当にアスラと戦ってるんだな』という実感が湧いた。
アスラが使用したスキルは、先程言ったデバフ攻撃である。ただ、この世界はターン制なのかが不明瞭なのでさっさと課金アイテムを使うことにする。
「『護法善神』」
神々の加護を受けデバフを解除する。また、このアイテムは戦闘終了まで永続する効果がある。アスラは稀にデバフ攻撃をしてくるので、とても重宝するアイテムだ。
「『梵天ノ雷』、『六道・畜生』」
休息を取る暇もない。アスラは次々とスキルを使い攻撃してくる。
「ぬおっ?!『全能神の雷』、『浄化の光』」
アスラの攻撃を相殺するようにスキルを発動する。願わくばダメージが貫通しろと思ったが、アスラには届いていないようだった。
「ここにいたらマズイな。とりあえず、ソニアから離れよう」
適度に魔法を飛ばしながら、ソニアとの距離を取る。誘導は成功し、アスラの視線は俺だけを向いている。
「『白虎爪拳』!」
素早くアスラの足元に移動し、打撃系のスキルを発動する。
「……フンッ」
アスラにダメージを与える事なく、蹴りを受けてしまう。反動で弾き飛ばされ壁へぶつかる。
「クッ…」
「『悔恨ノ矢』」
壁に向かってアスラが数多の矢を放ってくる。矢の波を必死に回避し、再び足元に潜り込む。
「『玄武掌』」
掌をアスラの足に当て力を込める。本来なら正拳突きのように腰を深く落とした方がダメージが入るのだが、反撃が来るため上手く使えない。だが、それでもダメージは入ったようだ。攻撃が当たるとアスラはタタラを踏み、2歩後退する。
「ムゥ…」
左右から剣が振り下ろされる。後ろに飛び回避をするが、それを分かっていたかのように矢が飛んでくる。スキルで弾き返し、再び潜り込み攻撃する。
---何度行ったのだろうか。ヒットアンドアウェイを繰り返し行っていると、突如アスラの動きが止まる。
「……ヤハリコノ体デハ小回リガ効カナイナ。ドレ、少シ本気ヲダソウカ」
「なっ?!」
予想外の出来事に動きが止まる。何故なら目の前の巨大なアスラが段々と小さくなっていくからだ。こんな事『Destiny』では無かったはず…。
「フゥ……ヤハリコノ体ノ方ガ動キヤスイナ」
巨大な姿は2mまで縮み、軽快に剣を振るう。
「サテ、続キト行コウカ!」
アスラは一瞬で俺との距離を詰める。その勢いのまま体当たりをし弾き飛ばす。
「ガッ!!」
攻撃を受けHPが削れるのが分かった。体が軽くなると言えばいいか、何かがゴッソリ失われた感覚がした。
「クソッ!『朱雀掌』」
牽制も含めたスキルを放ち、距離を作る。その隙に回復アイテムを使用し全回復する。そして、続けざまバフ効果のアイテムを使用し反撃に出る。
「『気功掌』、『爆烈拳』」
遠距離攻撃を放ち、それと同時にアスラの懐に潜り込み拳を叩き込む。
「グアッ!!」
アスラの弱点は打撃系のスキルであり、2倍のダメージが入る。しかし近接系の場合、距離を詰めてしまうのでカウンターを喰らう事が多い。
「--フンッ!!」
剣が上と横から向かって来る。慌てて回避し、再び距離が広がる。
(…やっぱりあの手が邪魔だな。部位破壊を優先すべきか)
必死に記憶を遡る。アスラの攻略手順、攻撃パターンを思い出しているとその状態が隙だらけだったのか、アスラが技を繰り出してきた。
「余所見ヲスルトハ余裕ダナ…。『梵天』『夜叉』」
「げっ……」
アスラの言葉で完全に思い出した。そして、今アスラが召喚したのが、最悪のパターンだという事を。
---『梵天』。アスラが召喚する中でも1番厄介な敵。無属性の全体強攻撃や魔法、挙げ句の果てには全回復を多用してくる迷惑極まりない敵だ。状態異常も効きづらく、ほぼ出されたら詰みに近い敵だ。対抗手段としては、『僧正』というジョブを保有し如来菩薩を召喚する手か、課金召喚アイテムを使うしか無い。
次に出てきたのが『夜叉』。コイツはHPも防御力もかなり低い。しかし、攻撃力に特化しており殆どの攻撃が会心扱いだ。また、オーバーキルしても必ずHPが1残り狂乱化する。次のターンには『夜叉の一撃』という即死の特攻をしてくる。この攻撃は防御力無視の一撃で、残りHPが低いキャラを狙ってくる最後の足掻きだ。手段としては回避率を異常に上げておくか、課金アイテムを使用し足止めしておくしかない。夜叉は状態異常攻撃に弱く、削りきる前に麻痺、或いは猛毒にしておくのが安全な戦い方だ。
ただ、あくまでも上記の手順は『多人数戦』であり、ソロでの攻略法では無い。ゲームと違う所といえば、ターン制では無いと言うところだけだろうか。だが、これこそがアルスにとっての勝利の鍵となる部分だ。
(先ずは全体に状態異常からだな。確かアスラは2%、梵天は4%の確率で麻痺になったはず。夜叉は睡眠以外は80%で掛かるから、一度掛けておくべきか)
「『雷神の怒り』!」
ジョブを素早く変更し、召喚魔法を唱える。アスラ達の頭上に『雷神・トール』が出現し雷を落とす。だが、アスラ達は神属性。神の攻撃はあまり通じない。
(梵天が麻痺してくれればかなり助かる…!ジョブの補正効果で10%ぐらいにはなっているはず…)
「グヌゥ…!」
アルスの祈りが神に届いたようだ。雷を受けたアスラ達は攻撃を繰り出す事が出来なかった。そして、雷に打たれたままの状態で硬直しており、麻痺状態になったと確信した。
「よっしゃ!!!」
喜びも束の間、続けて攻撃を繰り出す。
「--召喚、『如来菩薩』『帝釈天』『破壊神』」
ジョブ『大僧正』のスキルを使い、神々を召喚する。召喚時、2/3の体力を如来菩薩達に奪われる。『神々の召喚』は使用者のHPを生贄に行われる。最大で80%を生贄にしなければ召喚出来ない神もいるので、
HP管理をしっかりしなければ即ゲームオーバーだ。
回復アイテムを使い全回復し、『自動全回復』のスキルを使用し短期決戦を狙うことにした。
「『僧正の祈り』『南無阿弥陀仏』『般若心経』」
如来菩薩達へ祈りを捧げると各パラメーターが向上する。
「行け!敵を殲滅せよ!」
俺の号令に従い、如来菩薩達がアスラ達へと攻撃する。---『神vs神』。ゲームのような世界でしか見る事の出来ない熾烈な戦いが火蓋を切って落とされる。
大地は揺れ空気は焦げる中、神々は各々が敵を排除するまで手を緩めない。麻痺状態から素早く復帰したアスラが自身を回復し、帝釈天へと挑む。復帰出来ない梵天を如来菩薩が封じ込め、破壊神が暴虐の限りを尽くす。麻痺状態から抜け出せない夜叉を俺は相手にし、魔法を叩き込む。時々、状態異常攻撃を使いながら夜叉のHPを削っていく。
アイテムを惜しみなく使い、夜叉のHPを削っていると、突如風貌が変化し動き出そうとする。
これは狂乱化前のサインである。ただ、夜叉は猛毒・暗闇・混乱状態になっており、後は麻痺させれば猛毒のダメージで死ぬのは確定であった。
「『雷神の怒り』!………………………あれ?」
最後の最後で俺は致命的なミスをしてしまった。それは、ジョブを変更し忘れていたという事だ。『大僧正』というジョブには『雷神の怒り』は登録されていない。慌ててジョブを変更するが一足遅かった。
赤褐色に染まった夜叉が激昂し、何故か外に出ているソニアへと突撃する。
「しまった!!!」
如来菩薩達のHP管理は万全であった。だが、万全であったが故に『夜叉の一撃』はHPの少ない者へと牙を向けた。
「クッソ!!!ソニアーーーー!!!!」
ソニアが不安そうに尋ねてくる。
「入るしか無いよな…。ゆっくりと入るぞ…」
人1人が通れそうな隙間から顔を覗かせ、警戒しながら扉の向こう側へと入っていく。
「…ソニア、その扉は絶対閉めるなよ?」
振り返らずにソニアに忠告する。
「え?……なんで?あっ………」
ガチャン--、と扉が閉まる音が聞こえ慌てて振り返る。閉まった扉は、そこに存在していなかったかのように消えていった。
「え?…なんで消えちゃったの??」
目の前から扉が消えた事にソニアは素直な感想を漏らす。その状況に、閃くものが走り振り返る。
扉が消えると同時に真っ暗だった空間が突如明るくなる。
「あぁ……これはヤベェやつ…」
「やべぇ??何がヤバイのさ?」
ゆっくりと前方を指差し、ソニアに伝える。少し間を置いて後ろでソニアが狼狽しているのを感じ取った。
「…あぁ…アレは………」
「あーもー!!お約束だって分かってたけど!!実際に体験すると本気で嫌だわ!!このパターン!!」
突如、前方より何かが飛来する。右腕でソレを弾き飛ばすと、地面に大剣が落ちていった。
「……歓迎スルゾ、地上ノ愚者共ヨ…」
前方から、ヒビ割れて耳障りな声が届く。声の主はゆっくりと立ち上がり、俺達を一瞥する。
「ソニア、今から言う事を絶対に守れ。俺がどんなに手こずろうとも此処から絶対に出るな。出たら死ぬと思え」
「あぁ……」
「しっかりしろ!!いいか?此処は丁度凹みの部分だ。目の前に多重魔法を掛ける。お前が出ない限り、絶対に安全な領域を作り上げる。課金アイテムも使うし、最高級のアイテムも使う!」
ソニアは俺の話を聞いているのか分からない状況だ。目は虚ろい、口は開ききっている。ヘナヘナと地面に座り込み、反応が全く無い。
「チッ!おい!!聞いてんのか!!」
ソニアの頬を強く叩く。痛みが伝わったのか目の焦点が俺を向く。
「いいか?もう一度言うぞ。絶対に何があろうと此処から一歩も動くな、出ようとするな!分かったか!?」
「………」
出ない声の代わりに激しく頷く。やや心配は残るが、ひとまず魔法をかけなければ!
「--『慈愛神の加護』、『英雄の守護』、『戦女神の加護』、『全能神の守護』、『海神の両翼』、『四神の守護』」
掛け終わるとリストからアイテムを取り出す。
「『魔法強化』、『魔法最強化』、『反魔法壁』、『反打撃壁』、『自動回復』、『天使の雫』、『明けの明星』、『女神の愛』、………『復活の泉』『救心の自動人形』」
ソニアを沢山の魔法とアイテムが包む。最後のアイテムは『もし』を想定して蘇生アイテムを準備している。
「これで大丈夫…なはず」
課金アイテムも使ってるし、ちゃんと機能すれば問題無いはず!!
「……それじゃ行くけど、絶対にそこから出るなよ」
最後のダメ押しをし、前方へと歩を進める。
「……見間違いじゃないよなぁ…。絶対アイツじゃん…」
前方で仁王立ちしているとてつもなく大きなモノを再確認する。巨大な姿で、トボトボと向かってくる俺を睨んでいる。
「……これ…1人で倒せるかな…」
ある程度の距離が詰まると、仁王立ちしているモノの背後から武器が飛び出てくる。どうやら、ここで立ち止まった方が良さそうだ。
「……此処ニ愚者ガ来タノハ久方振リダナ…。名ヲ聞コウカ…」
「……アルスだ。お前の名前は?」
「我ガ名ハ『アスラ』。コノ『六道・修羅ノ洞窟』ノ主デアル!」
……やっぱりな。目の前のモノの名前を聞いて確信した。俺が知っている魔物の名前だったと。
---『アスラ』。『Destiny』が1回目の大型アップデート後に出てきたボスの名前だ。6本の腕を持ちその他には武器を持っている。仏教の『阿修羅』に似ているような風貌だが、中身は全然違う。
余談であるが、このアスラを最初に出した時運営はネットでかなり叩かれまくった。『放置ゲーなのにレイドボス出してどうするんだ!』、『MMOじゃねーだろ!運営狂ったか?』などと罵詈雑言の嵐だった。結局、レイドボスという括りを辞めダンジョン探索中にボスと遭遇すると討伐チケットを配布という形に落ち着いた。
さて、この『アスラ』であるが第1回目という事もあり難易度は鬼畜であった。敵の攻撃パターンは固定なのだが、全体攻撃7割、個別攻撃2割、完全回復1割とトチ狂ったバランスであった。
特に厄介だったのが戦闘開始時に使用してくる強制的なデバフ攻撃だった。アップデート後に課金アイテムとしてステータスアップが売っていた理由はコレだったのかと、負けた後に気付いた。
そして、このアスラというボス。今となればそこまで強い相手では無い。ただし、それはチカ達が居た場合だ。1人でボス攻略なんぞ見た事もないしやった事もない。最初の頃と比べ、俺自身がかなり強くなっているとはいえ不安しか残らない。何故ならゲームとは違い、この世界は現実なのだから。
「あぁ…嫌だなぁ…………」
「デハ、カカッテクルガヨイ!!」
先程と同じ様に剣が飛んでくる。それが開戦の合図となりアスラは距離を取る。
「--『六道・餓鬼』」
俺の体が目に見えない何かが貪り尽くす様な感覚を受ける。この攻撃を体験した事で、『ああ、俺本当にアスラと戦ってるんだな』という実感が湧いた。
アスラが使用したスキルは、先程言ったデバフ攻撃である。ただ、この世界はターン制なのかが不明瞭なのでさっさと課金アイテムを使うことにする。
「『護法善神』」
神々の加護を受けデバフを解除する。また、このアイテムは戦闘終了まで永続する効果がある。アスラは稀にデバフ攻撃をしてくるので、とても重宝するアイテムだ。
「『梵天ノ雷』、『六道・畜生』」
休息を取る暇もない。アスラは次々とスキルを使い攻撃してくる。
「ぬおっ?!『全能神の雷』、『浄化の光』」
アスラの攻撃を相殺するようにスキルを発動する。願わくばダメージが貫通しろと思ったが、アスラには届いていないようだった。
「ここにいたらマズイな。とりあえず、ソニアから離れよう」
適度に魔法を飛ばしながら、ソニアとの距離を取る。誘導は成功し、アスラの視線は俺だけを向いている。
「『白虎爪拳』!」
素早くアスラの足元に移動し、打撃系のスキルを発動する。
「……フンッ」
アスラにダメージを与える事なく、蹴りを受けてしまう。反動で弾き飛ばされ壁へぶつかる。
「クッ…」
「『悔恨ノ矢』」
壁に向かってアスラが数多の矢を放ってくる。矢の波を必死に回避し、再び足元に潜り込む。
「『玄武掌』」
掌をアスラの足に当て力を込める。本来なら正拳突きのように腰を深く落とした方がダメージが入るのだが、反撃が来るため上手く使えない。だが、それでもダメージは入ったようだ。攻撃が当たるとアスラはタタラを踏み、2歩後退する。
「ムゥ…」
左右から剣が振り下ろされる。後ろに飛び回避をするが、それを分かっていたかのように矢が飛んでくる。スキルで弾き返し、再び潜り込み攻撃する。
---何度行ったのだろうか。ヒットアンドアウェイを繰り返し行っていると、突如アスラの動きが止まる。
「……ヤハリコノ体デハ小回リガ効カナイナ。ドレ、少シ本気ヲダソウカ」
「なっ?!」
予想外の出来事に動きが止まる。何故なら目の前の巨大なアスラが段々と小さくなっていくからだ。こんな事『Destiny』では無かったはず…。
「フゥ……ヤハリコノ体ノ方ガ動キヤスイナ」
巨大な姿は2mまで縮み、軽快に剣を振るう。
「サテ、続キト行コウカ!」
アスラは一瞬で俺との距離を詰める。その勢いのまま体当たりをし弾き飛ばす。
「ガッ!!」
攻撃を受けHPが削れるのが分かった。体が軽くなると言えばいいか、何かがゴッソリ失われた感覚がした。
「クソッ!『朱雀掌』」
牽制も含めたスキルを放ち、距離を作る。その隙に回復アイテムを使用し全回復する。そして、続けざまバフ効果のアイテムを使用し反撃に出る。
「『気功掌』、『爆烈拳』」
遠距離攻撃を放ち、それと同時にアスラの懐に潜り込み拳を叩き込む。
「グアッ!!」
アスラの弱点は打撃系のスキルであり、2倍のダメージが入る。しかし近接系の場合、距離を詰めてしまうのでカウンターを喰らう事が多い。
「--フンッ!!」
剣が上と横から向かって来る。慌てて回避し、再び距離が広がる。
(…やっぱりあの手が邪魔だな。部位破壊を優先すべきか)
必死に記憶を遡る。アスラの攻略手順、攻撃パターンを思い出しているとその状態が隙だらけだったのか、アスラが技を繰り出してきた。
「余所見ヲスルトハ余裕ダナ…。『梵天』『夜叉』」
「げっ……」
アスラの言葉で完全に思い出した。そして、今アスラが召喚したのが、最悪のパターンだという事を。
---『梵天』。アスラが召喚する中でも1番厄介な敵。無属性の全体強攻撃や魔法、挙げ句の果てには全回復を多用してくる迷惑極まりない敵だ。状態異常も効きづらく、ほぼ出されたら詰みに近い敵だ。対抗手段としては、『僧正』というジョブを保有し如来菩薩を召喚する手か、課金召喚アイテムを使うしか無い。
次に出てきたのが『夜叉』。コイツはHPも防御力もかなり低い。しかし、攻撃力に特化しており殆どの攻撃が会心扱いだ。また、オーバーキルしても必ずHPが1残り狂乱化する。次のターンには『夜叉の一撃』という即死の特攻をしてくる。この攻撃は防御力無視の一撃で、残りHPが低いキャラを狙ってくる最後の足掻きだ。手段としては回避率を異常に上げておくか、課金アイテムを使用し足止めしておくしかない。夜叉は状態異常攻撃に弱く、削りきる前に麻痺、或いは猛毒にしておくのが安全な戦い方だ。
ただ、あくまでも上記の手順は『多人数戦』であり、ソロでの攻略法では無い。ゲームと違う所といえば、ターン制では無いと言うところだけだろうか。だが、これこそがアルスにとっての勝利の鍵となる部分だ。
(先ずは全体に状態異常からだな。確かアスラは2%、梵天は4%の確率で麻痺になったはず。夜叉は睡眠以外は80%で掛かるから、一度掛けておくべきか)
「『雷神の怒り』!」
ジョブを素早く変更し、召喚魔法を唱える。アスラ達の頭上に『雷神・トール』が出現し雷を落とす。だが、アスラ達は神属性。神の攻撃はあまり通じない。
(梵天が麻痺してくれればかなり助かる…!ジョブの補正効果で10%ぐらいにはなっているはず…)
「グヌゥ…!」
アルスの祈りが神に届いたようだ。雷を受けたアスラ達は攻撃を繰り出す事が出来なかった。そして、雷に打たれたままの状態で硬直しており、麻痺状態になったと確信した。
「よっしゃ!!!」
喜びも束の間、続けて攻撃を繰り出す。
「--召喚、『如来菩薩』『帝釈天』『破壊神』」
ジョブ『大僧正』のスキルを使い、神々を召喚する。召喚時、2/3の体力を如来菩薩達に奪われる。『神々の召喚』は使用者のHPを生贄に行われる。最大で80%を生贄にしなければ召喚出来ない神もいるので、
HP管理をしっかりしなければ即ゲームオーバーだ。
回復アイテムを使い全回復し、『自動全回復』のスキルを使用し短期決戦を狙うことにした。
「『僧正の祈り』『南無阿弥陀仏』『般若心経』」
如来菩薩達へ祈りを捧げると各パラメーターが向上する。
「行け!敵を殲滅せよ!」
俺の号令に従い、如来菩薩達がアスラ達へと攻撃する。---『神vs神』。ゲームのような世界でしか見る事の出来ない熾烈な戦いが火蓋を切って落とされる。
大地は揺れ空気は焦げる中、神々は各々が敵を排除するまで手を緩めない。麻痺状態から素早く復帰したアスラが自身を回復し、帝釈天へと挑む。復帰出来ない梵天を如来菩薩が封じ込め、破壊神が暴虐の限りを尽くす。麻痺状態から抜け出せない夜叉を俺は相手にし、魔法を叩き込む。時々、状態異常攻撃を使いながら夜叉のHPを削っていく。
アイテムを惜しみなく使い、夜叉のHPを削っていると、突如風貌が変化し動き出そうとする。
これは狂乱化前のサインである。ただ、夜叉は猛毒・暗闇・混乱状態になっており、後は麻痺させれば猛毒のダメージで死ぬのは確定であった。
「『雷神の怒り』!………………………あれ?」
最後の最後で俺は致命的なミスをしてしまった。それは、ジョブを変更し忘れていたという事だ。『大僧正』というジョブには『雷神の怒り』は登録されていない。慌ててジョブを変更するが一足遅かった。
赤褐色に染まった夜叉が激昂し、何故か外に出ているソニアへと突撃する。
「しまった!!!」
如来菩薩達のHP管理は万全であった。だが、万全であったが故に『夜叉の一撃』はHPの少ない者へと牙を向けた。
「クッソ!!!ソニアーーーー!!!!」
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全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
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