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037話

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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「こちらジパングより取り寄せたスズキのムニエルになります」

ウェイターが俺達の前に料理を置く。流石貴族達の御用達とあってどれもこれも美味しい。この店には1つだけ個室があり、テーブルマナーなど分からない俺達はそこを利用していた。…まぁ、個室とだけあって値段もかなり張っていたが。

「これも美味しいねチカお姉ちゃん!」

「そうね。…あらあら、口に付いてるわよ?ほら、じっとして?」

「このお酒も美味。料理とマッチしている」

「量が少ないのが難点だけど、美味しいから許しちゃうっ!」

「あんまりうるさくするなよ?苦情が来るかもしんねーからな!」

「「「「はーい!!!!」」」」

料理を全て食べ終わり、今はデザートを食べている。お酒が少し入った洋菓子みたいなものを食べながら俺はジョブをチェックする。

(…かなりLv.UPしているな。という事はやはり食べる事で経験値が入る仕組みみたいだな)

食べる前にチラッと確認したが、その時よりもジョブLvが格段に上がっていた。そのお陰なのか、料理の素材が何であるかをわかるようになっていた。

「僕のだけみんなと違う。何で?」

「これはお酒が入ってるからねー。レインちゃんはまだ飲んじゃダメなんだよー」

「僕も一口食べてみたいなぁ。ローリィお姉ちゃん、少しちょうだい。僕のもあげるから」

「ダメよレイン。大人になったら食べれるわよ?それまで我慢しなさい」

「えー。我慢出来ないよぉー」

のどかな雰囲気の中、外から何か怒鳴るような声が聞こえる。何事かと思い、そっとドアから覗いてみる。

「何故個室を利用出来ないんだ!?俺を誰だと思っているんだ!!」

「トーケル様、予約無しには個室に入れないと先程から申し上げておりますが…」

「俺はファルマス家の次期当主だぞ!予約をしなくても個室ぐらい使えるだろうが!」

「ですから先に予約をしている方がいらっしゃいますので、申し訳ありませんが今すぐ利用は出来ません」

どうやら店員と揉めているのはあのムカつく貴族のようだ。確か…トーケルだったかな?

…おっと、どうやら覗いてるのがバレたようだ。トーケルと今目が確実にあった。

「…やべっ」

慌ててドアを閉めたが、カツンカツンと近づいている音が聞こえる。そして、ノックも無しにドアが勢いよく開かれる。

「さっき俺様と目が合ったやつはどいつだ!?」

「…あー、俺です」

「…ぅん?貴様どこかで見た覚えがあるな…」

トーケルの目が俺からローリィ達へと動き、チカで止まる。

「…思い出した。貴様はリムンで出会った冒険者ではないか!その冒険者が何故個室を利用しているんだ?」

「いやー…ここの飯は美味いって聞いてまして…。俺達はテーブルマナーとか分かんないんで、他の人達を不快にさせたら悪いかなぁと思いまして個室を利用したんです」

「…ふん、よく身分をわきまえているじゃないか!お前らのような小汚い冒険者が来る店では無いのだが、その謙虚さを認めようではないか!」

…ナチュラルに見下してくるなぁコイツ。ちょっと好きではないタイプだな。

「…はぁ、ありがとうございます」

「それでだ。俺様はこの店の個室で料理を楽しむと決めておるのだ。見たところ、デザートを食べてるようだが外で食べれば良いではないか。さぁ、出て行きたまえ」

「もう少しで食べ終わるので待って頂けませんか?」

「……平民ごときが俺様に口答えするのか?」

「口答えでは無く、お願いなのですが…」

「……どうやら貴様は俺様を知らないようだな?おい、ダーウェント。コイツらを摘み出せ」

暗い紫色のフルプレートの鎧を着た戦士がドアから入ってくる。身長は俺より少し高いくらいだから、多分180ぐらいだろう。

ダーウェントと呼ばれた戦士はそのまま剣に手を添え、無言で訴えてくる。いや、無言では無いな。しっかりと圧を飛ばしている。

敵意という圧に反応するチカ達。それに伴い、ダーウェントよりも濃い圧で応戦する。目には見えない不穏な空気が充満する。

チカ達に抑えるよう小さく合図する。たちまちチカ達の圧は消え去るが、ダーウェントの圧は消えない。むしろ、チカ達の圧に呼応するように大きくなっていた。

(試されてるのか…?それともコイツはチカ達よりも強い?)

俺は1人圧を放っているダーウェントに対し敵意を持って睨みつける。自分では分からないが、ダーウェントが少し震えたので圧は出たのだろう。

「……デザート食べたらすぐ出るんで、勘弁してもらえませんか?」

ダーウェントの肩に手を置くと、少し間を置きトーケルの元へと戻った。そして、何か耳打ちするとそのまま部屋からトーケルを連れて出て行った。外では何か恐ろしいものを見るような目がこちらを注目していたが、気にしないでおく。

「…さ、急いで食べてここから出ようぜ。宿に帰ったらまたこの続きをしよう」

俺の意見にレイン以外は反対せず、さっさと平らげ部屋を後にする。申し訳なさそうにしているウェイターに金を支払いアルテファンスから出る。あいにく、空模様は俺の気持ちと一緒で曇り模様であった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

翌日、俺達は王都のギルドに向かっていた。通行料を免除する為とレインの教師を依頼する為だ。

ギルドに着くとまず俺達を迎えたのは豪勢な扉であった。サガンのギルドはどちらかというと西部劇のような入り口であったが、こっちのはどこぞの城のような入り口であった。

「すいませーん。依頼を頼みたいんですが」

「はいっ!どのような依頼でしょうか?」

活発そうな女性が受付へと来ると、紙を出しながら尋ねてくる。

「子供に勉強を教えれる人を探してる。出来れば元教師とかが良いかな」

「…はいはい。報酬はどうされますか?」

「相場はどれくらいですか?」

「そうですねぇ…。期間にもよりますが、大体1日800Gだと思います」

「それじゃ1週間ほどで。複数居た場合は全員を試したいのでそのまま保留でお願いします」

「かしこまりました。支払いはどうされますか?今払うのでしたら、前金で5人分貰う予定ですが」

「なら今払っておきます」

「かしこまりました。では仲介料込みで3万Gになります」

「ー-はい」

「ちょうどお預かりしますね。では、依頼の方は張り出しておきます」

「お願いします。…あ、それと依頼も受けたいんですが、掲示板は何処あります?」

「掲示板は入り口の左奥にあります。ギルドカードを台に掲示してくれれば、掲示板の上にあるランプが光りますのでそちらに向かってください」

「ありがとうございます」

女性の案内通りに進むと、大きく広い掲示板が見えた。その掲示板の前に台座が4つほど置かれており並んでいる冒険者がギルドカードをかざしていた。

「…普通にかざすだけで良いのか?」

指輪をかざすと受付嬢の言う通り掲示板の上にあるランプが点灯した。そこに行き依頼書を眺める。

「…ぜぇーんぶ討伐系だな」
「そのようですね…。魔物が多いんでしょうか?」
「ナナお姉ちゃん、これなんて言うの?」
「これは依頼掲示板。ボク達はこの中から依頼を受ける」

…うーん、どれもこれもめんどくさそうだなぁ。あ、そうだ!!!

「なぁ、チカ達も別に依頼を受けるか?レインの収納袋買うとか言ってただろ?」

「え?…まぁ、確かにそう言いましたけど…」

「チカ達だけで出来そうな依頼を受ければいいんじゃねーか?そうすれば早く金も溜まるだろ?」

「それはそうですけど…」

「レインは俺が見とくし、チカ達も俺の為にマンドラゴラ取りに行けただろ?大丈夫だって!」

「うーん…。戦力的には大丈夫なんですが、交渉などが上手く出来るかわかりませんわ…」

「社会勉強だと思ってやってみなよ」

「アルス様がそう言うのであれば…」

俺がさっき思いついたのは、俺達が1つの依頼を受けるのではなくてバラバラに受けるという事であった。ぶっちゃけ、俺達個人の力は一騎当千だし1個ずつこなすよりも効率が良いのでは?と思ったからだ。それに、バラバラでも依頼を成功すればお金が沢山稼げるしね。……所持金が減りっぱなしっていうのもなんか嫌だし。

それにチカ達の『人工知能』についても役立つ筈だ。あくまでもパーティ戦は俺の指示に従って貰うが、応援などで向かった際、何を優先すべきかを学ぶ必要があると思うからだ。理想的には個々で判断して貰い、俺の指示に従う事なく行動して欲しい。もし、俺が死んだ場合使えなくなるというパターンは困るからな。……死ぬ予定は無いけどさ。

俺の曖昧な説得に、腑に落ちないながらもチカは了承し依頼をみんなで見ている。俺はレインとともに酒場でジュースを飲みながら待つ事にした。

「お待たせしました。とりあえず、この依頼を受けようと思います」

「どれどれ?……うん、いいんじゃないか?募集人数もちょうどだし、王都の近くだから帰りも楽チンだろうな」

「アルスお兄ちゃん、これなんて読むの?」

「これはな『暴れ牛』って読むんだ」

「暴れ牛…?ミノタウルスみたいなの?」

「…ごめん、それは分かんない。けど、ミノタウルスって書いてないから違うと思うよ?」

…ミノタウルスか。アレって確か迷宮や洞窟内でよく遭遇してたっけ?無駄に体力あるくせに経験値旨く無いんだよなぁ…。

「そうだな。兄ちゃんの言う通りこれはミノタウルスじゃねーぜ?普通の牛の倍近くの大きさで、気性がクソ荒い魔物の事さ」

依頼書を覗き込んでいると、ガタイのいい戦士が割り込んできた。

「……あんた誰?」

「初めましてだな。オレはゴードンっていうんだ。兄ちゃん達の事はよーく知ってるぜ?」

「……よく知ってる?」

「ああ。兄ちゃん達がやべー武器を持ってるとか、実力がかなりあるって事をな」

「……何の事すかね?」

「とぼけんなって。兄ちゃんの話はよーく覚えてるぜ?何せオレが装備出来なかったからなぁ」

…コイツ何言ってんだ?誰かと間違えてるんじゃねーか?

「…いや、マジで分かんないんですけど」

「あぁん?なんだよ、ガンテツから聞いてねーのか?」

ガンテツ?なんでガンテツさんの名前が出てくるんだ??

「え?どういう事すか?」

「マジで聞いてねーのかよ…。オレはガンテツの知り合いさ。兄ちゃんの武器を持ってガンテツがオレの所に来てよ、『ゴードン!この武器でこの鉱石を割ってくれ!』って言ってさ、そんくらいならお安い御用だと思って持とうとしたんだがよ、その武器を持てなかったのさ。……聞いた事ない?」

「……ああっ!そういや、ガンテツさんから聞いた覚えがある!」

「そうか、思い出したか!それがオレって訳さ。ガンテツから王都に兄ちゃん達が向かってるって聞いてよ、しばらく探していたのさ」

「え?なんか用でもあったんすか?」

「いいや?ただ、オレが装備出来ない武器を持つ奴に興味が湧いただけさ。……うん、兄ちゃんは普通に俺より強いわ」

ゴードンさんは、俺達を見ながら一人で頷いていた。

「そんな簡単に分かるんすか?」

「オレぐらいになれば見ただけで分かるさ。まぁ、駆け出しや低ランカーは分かんねーと思うがな」

…その理屈だとダーウェントとか呼ばれてた奴は高ランカーって事になるよな。まぁ貴族に仕えてるなら強いのは当たり前だろうけど。
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