136 / 177
136. ハツカの回想
しおりを挟む私は今、何故か懐かしい匂いがする同じ歳ぐらいの少年の肩に、ココノエ様と一緒に乗せられて、空を飛んでいる。
本当に、何が起こってるのだろう。
たまに、大きな声で独り言をいう少年。
多分、神と交信してるのかもしれない。
ココノエ様に至っては、完全に、この少年のことを神と疑っていないようだし。
だけれども、ハツカには、どうしてもこの黒髪の少年の事を神だとは思えないのである。
懐かしく優しい、何か。
記憶を無くす前に感じた事のある、温かくて、心が休まる何かなのである。
まあ、それが何なのか、どうしても思い出せないのだけど。
ーーー
そして、そのまま少年にカララム王都まで連れて来られると、話がポンポン進む。
いつの間にか、話が全て纏まってたように。
全てが、少年の思い通りに進んでるみたいに。
少年は、カララム王と対等に話し、次々に話を纏めていく。
そして、少年を助けるように、綺麗な金髪碧眼の女の人が、アシストしていくのだ。
その金髪碧眼の女の人は、少年のお母さんらしいが、全くもって似てなかったりする。だって、お母さん似だったら、もっと格好良い筈だから。
だけれども、ハツカは、今のそれほど格好良くなく、ほどほどの顔の少年の方が好きだったりするのは内緒の話である。
そしてどうやら、ココノエ様は、カララム王国の人質になってしまうらしい。
普通は、王子や王女とかが、戦争責任として人質に取られる事が多いという話なのだが、ココノエ様は、そもそもアンガス教の巫女姫で、結婚もしてないし、子供が1人も居ないのだ。
だから、自分が奴隷商人から救って来た子供達を、まるで自分の子供のように育ててたのである。
そんな経緯もあり、ココノエ様が、カララム王国の人質になる事が決定して、アンガス神聖国が、ココノエ様を取り戻そうと、またまた戦争が起きるかもと思ったが、そうはならないようであった。
そう。黒髪の少年のアンガス山脈を割るという奇跡を、その目で見た10万の兵士が、そもそも戦意喪失してしまっているのだ。
それに、アンガス神聖国からも、目に見えて、アンガス山脈が半分の高さになってしまってるのが見えているし。
そんな事を、簡単にしてしまえる化物?神?が居るカララム王国に、誰が逆らおうというのか?
そもそもが、信心深い宗教国家なので、黒髪の少年を神と崇める新宗教まで起こってるとか。
まあ、自由平等を謳うだけで何もしてくれない神より、力があって、慈悲深い、身近な神を求めてしまうのが人間というものかもしれない。
だって、結局、アンガス神聖国は戦争を起こしたというのに、神(ヨナン)の一言で、ココノエ様を人質に取っただけで、実質、賠償も何もないのだから。
しかも、戦場での、ココノエ様と私の心温まるやり取りを見て、感動し、全てを許してしまう優しい神様だと、アンガス神聖国の兵士達は目撃し、その事を、国に戻ってから人々に伝えたりしてるので、ますます、新宗教の信者が増えてたりしてるそうだ。
そして、私事なのだが、どうやらココノエ様と一緒に、ココノエ様のお付きの者として、カララム王国学園に入学しないといけなくなるらしい。
神に屈服したココノエ様なのだが、それでもその力は巨大なのだ。
その力を抑えつけていられるのは、神であるヨナン・グラスホッパー伯爵しか居ないという事で、ココノエ様は60歳だというのに、この春、カララム王国学園のコナン・グラスホッパー様が居る2年生のクラスに編入する事となったのだ。
そして私は、何故か1年生に編入する事になっている。
普通、ココノエ様のお付なので、2年生に編入しなければならないと思うのだが、私の年齢的に、絶対に1年生だからと押し切られてしまった。
何で、私の年齢が分かるのだろう。自分の年齢も名前も覚えてないというのに。不思議だ。
だって、昔、鑑定スキル持ちに調べてもらった時も、名前も年齢も結局、分からなかったのに。
多分、神であるヨナン・グラスホッパー様には、分かるのだろう。神の力は人智を越えるというし。実際、人智を越える力を持ってるし。
そして、春になるまでは、神であるヨナン・グラスホッパー伯爵様のカララム王都の御屋敷に、ココノエ様と、私は住まわせて貰える事となったのだ。
「ココノエ様。本当に、私はこの家に住んでいいのでしょうか!」
私は、物凄い御屋敷に恐縮しまくる。
だって、御屋敷自体が、何故か観光地になってるみたいで、ひっきりなしに見に来てる人が居るし……
そして、豪華な殿様バッタの模様が彫り込まれたアイアンの門が開くと、
「「お帰りなさいませ! お嬢様方!」」
と、何故か、ココノエ様と私は歓迎されてしまったのだ。
お嬢様?私が?本物のお姫様であるココノエ様なら分かるが、私は、元奴隷だというのに、背中がむず痒過ぎる。
でもって、御屋敷に入れば、まさに居たせり尽くせり。どう考えても他国の人質への対応ではない。
案内された私の部屋だという部屋も、豪華過ぎるし、何故か、私の体型にあったオシャレな洋服が、ずらっと、クローゼットに最初から用意されてるし。
一体、何千の洋服があるのだろう……1年365日なので、普通に計算しても、全ての洋服が着れない計算になるのは、気のせいだろうか?
それに、何故か、執事やメイドの対応も、ココノエ様より、私への対応の方が良いように思えるし。
それが、本当に気になって、執事長のセバスチャンさんに聞いてみたら、いつの間にか私は、この御屋敷の主人である、ヨナン・グラスホッパー様の養子になってたようで、名前も、苗字持ちのハツカ・ナナ・グラスホッパーになったとか。
本当に、何が何だか分からない。普通、私の了承も取らずに、養子にするものなのか?
ココノエ様に文句を言ってみたら、元敵国の人間である私が、学園に入って虐められないようにする為の、ヨナン・グラスホッパー様の気遣いだと聞いて、少し怒ってしまっていた自分を、恥じてしまった。
本当に、なんと気遣いできる人なのだろう。
人としても尊敬出来る人なのだが、何故か、懐かしい気持ちがする、優しい人。
ヨナン・グラスホッパー様は、カララム王国学園の寮ぐらしという事で、カララム王都に来てから一度も会えて居ないのだが、もし、もう一度会えたら、必ず御礼を言おう。
「こんな、元奴隷である私を、気遣ってくれてありがとうございます!」と、
そして、ヨナン様に対して、何故か懐かしい気持ちがするので、「もしかしたら、私が記憶が無くなる前に、どこかで会った事がありますか?」とも、聞いてみるのだ。
それを、ハツカ・ナナ・グラスホッパーと生まれ変わった、最初のミッションとするのだ。
15
お気に入りに追加
2,899
あなたにおすすめの小説
職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました
飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。
令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。
しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。
『骨から始まる異世界転生』の続き。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
秘宝を集めし領主~異世界から始める領地再建~
りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とした平凡なサラリーマン・タカミが目を覚ますと、そこは荒廃した異世界リューザリアの小さな領地「アルテリア領」だった。突然、底辺貴族アルテリア家の跡取りとして転生した彼は、何もかもが荒れ果てた領地と困窮する領民たちを目の当たりにし、彼らのために立ち上がることを決意する。
頼れるのは前世で得た知識と、伝説の秘宝の力。仲間と共に試練を乗り越え、秘宝を集めながら荒廃した領地を再建していくタカミ。やがて貴族社会の権力争いにも巻き込まれ、孤立無援となりながらも、領主として成長し、リューザリアで成り上がりを目指す。新しい世界で、タカミは仲間と共に領地を守り抜き、繁栄を築けるのか?
異世界での冒険と成長が交錯するファンタジーストーリー、ここに開幕!
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる