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135. ヨナン視点

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 ヨナンは、空を歩き、アンガス兵の前まで来ると、予定通りに、アンガス山脈を斬り裂いてみせた。

 そして、ドヤ顔で、

「アンガス神聖国女王ココノエよ! 前に出て来い!」

 と、言ってやったのだ。

『ご主人様! 格好良く決まってますよ! よっ!大統領!』

 ヨナンの事が大好き過ぎる鑑定スキルは、ヨナンの一世一代の見せ場に、完全に太鼓持ち状態になってしまっている。

 そして、ヨナンに言われたアンガス女王ココノエは、ブルブル震えながらも、ヨナンに従うようである。
 9つあるフワフワの尻尾が、萎れてしまってるので、相当、ヨナンにビビってるようだ。
 まあ、山脈斬ったのを見せつけられたら、誰でもそうなるか……

 そして、ココノエが、兵士も誰も居ない場所まで歩いて来たので、
 空中に居ても喋りにくいと思い、地上に降り立つ事にした。

 一応、ココノエは若く見えるが、ヨナンより歳上なのは確実なので、礼を持って迎えようとしたのである。

『ココノエさん。少女のように見えますが、既に60際を越えてますね!』

 鑑定スキルが、一々、ココノエ豆知識を教えてくれる。

『まあ、因みに、魔力総量が多い種族は、長寿種が多いんですけど、ココノエさんの場合は、突然変異種ですね!
 獣族は普通、魔力総量が少ないんですけど、狐耳族は、たまにココノエさんのように魔力総量が多い突然変異種が生まれるようです!
 見分け方は、尻尾の多さ。魔力が多い者ほど、尻尾が沢山生えて、しかも毛並みも良くなりフカフカモフモフになるみたいです!』

 ヨナンは、よくある設定だな。と思いながらも、とっととやるべき事をやってしまおうとする。

 誰しも、好んで人殺しなんかやりたくないのだ。
 話なんかしようものなら、思わず、情が湧いて、ココノエを殺せなくなってしまうかもしれないし。

「お前の命を引き換えに、カララム王国に攻めて来た事を許してやる」

 ヨナンは、無慈悲にココノエに言い放ってやる。

 相手は、戦争を仕掛けてきたのだ。それなのに何の報いを受けずに許す事など、絶対に出来ない事である。
 そんな事は、誰も許さないし、そもそも、相手は悪意を持って攻めて来たのだから。

 まあ、アンガス神聖国も、自分達が信じる正義の為に攻めて来たのかもしれないが、そんなの押し付けの正義であって、それにより人が犠牲になって死んでしまう事など、絶対に、あってはならない事なのである。

 たまたま、ヨナンがイグノーブル城塞都市を補修してたので、カララム王国側の人的被害は皆無だったけど、
 もし、ヨナンが補修してなかったら、今頃、イグノーブル城塞都市は陥落していて、イーグル辺境伯も、経営するグラスホッパー商会の従業員も全て死んでた可能性だってあったのだ。

 本当に、人を裁くなんて嫌な役回りだ。
 どう考えても、大人の偉い人がする役回りだろうが。

 こんな事を、いたいけな14歳に押し付けるなんて、本当に、アレクサンダー君の野郎、帰ったら覚えてろよと!とか、思いながら、アンガス女王ココノエを見ると、

「ありがとうございます!」

 なんか、アンガス女王ココノエに、涙ながらに感謝の言葉を述べられてしまった。

 ちょっと怖いんだけど……

『宗教に心酔してしまう人って、思い込みが激しい人が多いですから、多分、ココノエさん、ご主人様の事を神か何かと、勘違いしてしまったかもしれませんよ!
 ほら、旧約聖書とかで、モーゼがエジプト脱出の時、海を割った話とか有るじゃないですか!
 ご主人様が、山を割ったのも、神の奇跡に見えたかもしれませんよ!』

「だろうな……」

 だって、ココノエさん。俺に向かって両手を拡げ、どうぞ、斬って下さいと言わんばかりだし。その顔は、何故か、満足感に満ち溢れてるし。

 とか思って、心底辟易してると、

「待って下さい! ココノエ様じゃなくて、私を代わりに斬って下さいませ!」

 黒目黒髪の見覚えのある少女が、ココノエの前に出て、ヨナンの前に仁王立ちして来たのだ。

 ヨナンは、その少女を見て、思わず言葉を失ってしまう。

『ご主人様! 大変ですよ!この見覚えがある女の子、ご主人様の1歳年下の妹ナナさんで間違いありませんよ!』

 ヨナン以上に、鑑定スキルが慌てふためいている。

 だって、グラスホッパー商会の全力を持って、カララム王国国内で、ナナの捜索をしていたのだ。
 そして、死に戻り前、アスカと、トップバリュー男爵に囚われていた事も考慮して、実を言うと、サラス帝国も探らせていたのだ。

 それなのに、いくら探しても見つからなかったナナが、まさか、アンガス神聖国との戦争で見つかるとは、誰も想像つかないし、
 しかも、何故か、今、ヨナンが殺そうとしてたココノエを救おうとしてるし。

「ハツカ! なりません! これは私の罪なのです!」

「絶対に、私はどきません! ココノエ様は、私の命の恩人です!
 ココノエ様は、記憶を亡くしてしまった私に優しくしてくれました!
 この命は、ココノエ様の為に使いたいんです!」

 なんか、ナナは、ココノエに命を救われたらしい。しかも、記憶を無くして、現在、ハツカと名乗ってるようだ。

 まあ、目の前に実の兄がいるというのに、まさか忘れてしまったのかと思ってショックを受けてたけど、少し安堵した。

「ハツカ! それでは、示しがつきません!
 アンガス神聖国女王、そしてアンガス教の教皇である私が命を差し出さなければ、事は収まらないのです!」

「だとしても、絶対に、私はどきません!
 この人が、例え神であったとしても、私はココノエ様を、この命に替えて守ってみせるんです!」

 ナナの決意は固い。
 どれだけ、アンガス女王ココノエに心酔してるのだろう。ちょっと兄として、自分よりココノエを慕ってる事に、なんだか悲しい気持ちになってしまう。

「神よ! どうかこの娘を許して下さいませ! 全くもって悪気はないのです! ただ、私を助けたいばかりに、バカな事を言ってるだけなんです!」

 ココノエは、必死にヨナンに許しを乞うてくる。
 ていうか、俺は、ココノエの中で、ヤッパリ神になってたようだ……。

「神様! ココノエ様じゃなくて、私を殺して下さい!」

 ナナも決して引かない。
 どうやら、芯の強い女の子に育ってるようである。
 というか、実の大事な妹を、殺せるかよ!
 神と喧嘩してでも、自分の命の恩人であるココノエを助けようとするとは、ナナは、本当に立派だ。本当に、自慢の妹である。

『ご主人様、どうするんですか? 』

 ここまで、戦争中という事も有り、必死に我慢して聞いてたが、実の妹に、「私を殺して下さい!」とまで言わせてしまった事に、ヨナンは深く傷付き、自身が許せなくなってしまう。

「な……な……お前を、殺せる訳、ないじゃないか……」

 ヨナンは、必死に我慢してたのだが、感情がとうとう抑えきれなくなり、ナナを思わず引き寄せ、強く抱き締めてしまう。

 涙が止まらない。だって、ずっとナナを探して来たのだから。
 ナナの事を忘れた事なんて、一時もないのだから。

 どんなに楽しい事があったとしても、どうしてもナナの事が頭によぎり、楽しみ切れなかった自分がいた。

 ナナが今も苦しんでるかもしれないのに、果たして、自分だけが楽しんでしまっていいのかと。自分だけ、幸せになってしまっていいのかと。

 だけど、ナナは生きていた。
 どうやらアンガス女王に助けられ、ナナも幸せに生きていてくれていたのだ。
 そんな、ナナの命の大恩人であるココノエを、どうして殺す事ができるというのか?

 俺に、ナナの命の恩人を殺す事なんて、出来る筈ないじゃないか……

 ヨナンは、責任感に押し潰されそうになる。
 だが、戦争には、必ず落とし所が必要なのだ。
 アンガス神聖国は、絶対に、戦争を始めた報いを受けなければならないのである。

 そして、そんな落とし所として考えたのが、戦争責任者であるアンガス神聖国女王ココノエ1人を処刑して、後は全て不問とするという考えであったのだ。
 それなのに……

『ご主人様は、真面目ですね。こんな、何年間も探し続けたナナさんとの感動の対面の場面だというのに、カララム王国とアンガス神聖国との戦争の落とし所を、どうしようか悩むなんて……』

 鑑定スキルが、相変わらず、俺の心を見透かしている。そして、いつものように、俺の後押ししてくれるのだ。

『そんなの、ご主人様がやりたいようにやれば、良いんですよ!
 ご主人様が、本気を出せば、どうとでもなるんですから!
 なんか、やり過ぎちゃって、とんでもない事になってしまったとしても、この優秀過ぎる僕が居るんです!
 なんとでも、僕がフォローしてあげますから! ここは、ご主人様のやりたいようにやっちゃって下さい!』

 鑑定スキルが、ヨナンを強く後押ししてくれる。
 そう、鑑定スキルは、ヨナンが絶体絶命の時、いつだって助けてくれるのだ。

 死に戻りする時も、渋る俺を後押ししてくれた。
 後押しの内容が、スグに自死しろというのは、ちょっとおかしな話だけど。

 だけれども、俺が重大な失敗したとしても、鑑定スキルが、必死に考えて、絶対になんとかしてくれるのは分かってしまう。
 だって、鑑定スキルは、俺の一番の頼りになる相棒なのだから。

「じゃあ、俺の考え通りにするよ!」

 ヨナンは、鑑定スキルの後押しを受け決断する。
 俺の好きなように行動しよう。
 そして、後の事は、全て鑑定スキルに任せようと。

『そうです! 僕の大好きなご主人様は、好きなように生きればいいんですよ!
 ちょっと、エドソンさんや、エドソンさんの家族への恩返しとか、無理してた所もありましたから!
 もう既に、ご主人様は、エドソンさんに受けた恩なんか、全て、利子付けて返し終わってるんですからね! エドソンさんには、たくさんタダ酒飲ましてあげてますし!』

 鑑定スキルの言葉を聞いて、ヨナンは、完全に決断する事が出来た。
 俺の考えは、誰にも覆させない。
 例え、カララム国王アレキサンダー・カララムの命令だとしても。

 アレキサンダー君にも、相当、恩を売ってるから、そろそろ1つくらい返してくれてもいいと思うし。

 てな訳で、取り敢えず、ナナとココノエを攫って、カララム王都の自分の家に連れ帰ってみたのであった。

『ご主人様! 流石に、好きなようにやってもいいと言いましたけど、何も言わずに、一国の女王と女の子を攫うなんて!
  せめて、何か、一言ぐらい言ってから、行動して下さいよ!
 アンガス神聖国の兵士達、どうしていいのかと、ポカンと、してましたよ!』

 鑑定スキルが、カララム王都に帰る道すがら、小言を言ってくる。

「お前が、好きなようにやれって言ったんだろ! でもって、お前が、なんでも俺の失敗をフォローしてくれるって言っただろうが!
 言ったからには、なんとかしやがれ!」

『本当に、世話が焼けるご主人様です……』

 鑑定スキルが、この後、後処理に追われ、不眠不休で働いたのは、言うまでもない話だった。
 まあ、スキルなので、元々、寝る必要など無かったのだけど。

 ーーー

 やっと、ナナとの再会シーンまで書けました。
 そんな作者を労って、感想、イイネ!くれたら嬉しいです。
 とっても、作者の励みになります。
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