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109. 世界樹の雫

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「ヨナンよ。今のは一体なんじゃ?世界樹の雫とか聞こえた気がしたのじゃが?」

 ヨナンの額に、冷や汗が垂れる。
 大森林に、世界樹がある事がバレたらダメなのだ。
 しかも、王室になんかにバレたら、下手すると大森林を直轄領にするとか言いかねない。

「き……気のせいじゃないですか?」

 ヨナンは、必死に誤魔化す。

「気のせいではない。確かに、お主は世界樹の雫と言っておった」

「ただのポーションですよ」

「ワシは確実に、デススパイダーにトドメを刺したが」

「じゃあ、なんだったんでしょうね……」

 ヨナンは、必死にとぼける。
 だって、とぼけるしか手がないんだもん。

『ご主人様……流石にとぼけるのは無理があるんじゃないですか?
 ご主人様、ハッキリ、世界樹の雫と言ってしまってますし。デススパイダーも生き返っちゃってますし』

「お前が、世界樹の雫を使えって言ったんだろ!」

『ご主人様が、地球のお母さんに顔向けできないとか言うからじゃないですか!』

「だって、俺、もう地球の母ちゃんに、親孝行出来ないんだぞ!
 せめて、母ちゃんの言いつけくらい守りたいだろうがよ!」

『だったらいいじゃないですか!』

「そう。いいんだよ! 俺はこの世界でエドソンや兄ちゃん達を守れなかった事を、今でも後悔してるんだから!
 あの時、やれる事を全部やってたのかって!
 だから、俺は家族の為なら、やれる事はなんだってやるって決めてんだ!
 後で後悔するくらいなら、全部やっちまったほうがいいんだよ!」

 ヨナンは、やけっぱちになって思いをぶちまける。

「で、やはり、デススパイダーに使ったのは、世界樹の雫で間違いないのじゃな?」

 でも、そんな俺の目を、アレクサンダー君は、じっとりと見つめて聞いてくるのだ。
 ちょっと、顔が真剣すぎて怖い。

「ああ。そうですよ! 俺が使ったのは世界樹の雫!
 母ちゃんの言いつけを守って、俺は絶対に蜘蛛は殺さないの!
 だって蜘蛛は、家のゴキブリを退治してくれるんだからね!」

 ヨナンは開き直る。

『ご主人様、このデススパイダーは、家のゴキブリを退治してくれませんよ。
 だって、この子、カララムダンジョンに住んでるんですから』

 鑑定スキルが、どうでもいいツッコミを入れてくる。

「だったら、家に連れて帰ればいいんだろ!」

『流石に、この子を家に連れ帰るのはちょっと、不味いんじゃないですか?』

 鑑定スキルが、もっともな事を言う。
 だって、デススパイダー結構大きいし、間近で見ると怖いし。
 街に連れてったら、きっと大騒ぎになっちゃうし。

「いや、連れて帰る! このつぶらな瞳を見てたら、可愛く見えてきたし」

『つぶらなって……僕には、真っ赤な8つの目に恐怖心しか湧かないですけど……』

「おい。そのデススパイダーを、お主のペットにするのは、全く構わないが、ワシは、そのデススパイダーを生き返らせた世界樹の雫について聞いておるのじゃが?」

 どうやら、アレクサンダー君は、ヨナンが、必死に話を逸らそうとしてるのに気付いてるようだ。

「ですよね……やっぱり世界樹の雫、気になりますよね。
 だけど、これは貰い物だったんですよね……」

 そう。こればっかりは、アレクサンダー君に教えられないのだ。
 だって、知ったら絶対に、世界樹の雫を取りに行くっていうの目に見えてるし。

「世界樹を見つけて、手に入れたのであろう?」

「いえいえ、僕、世界樹なんか見つけてませんから!」

 ヨナンの目が、有り得ないぐらいキョロキョロ動き回り、挙動不審になってしまう。
 基本、嘘が付けない正直者なのだ。

「やはり、大森林で見つけたのだな! お主、夏休み中に、里帰りでグラスホッパー男爵家に行っておったと言ってたもんな!」

 アレクサンダー君の読みは鋭い。
 というか、何で分かるんだ?

「絶対に、大森林に、ハイエルフの里も、世界樹も有りませんから!」

「なるほど……やはり伝承通り、大森林にハイエルフの里があったんじゃな……昔、大森林を捜索させたんじゃが、誰1人として戻って来なかったのは、つまり世界樹を守るハイエルフに全滅させられたと……」

「いや! 違いますから! 全滅させたのはレッドドラゴンですからね!」

『何、ご主人様、言っちゃってるんですか!』

 鑑定スキルが、慌てて俺を責めてくる。

「だってよ、ハイエルフの人達が濡れ衣被せられるの黙って見てろってのかよ!」

『そこは、正義感出す所じゃないでしょ!
 これで、アレクサンダー君に、大森林に世界樹が有るってバレちゃったでしょ!』

「もう、別にいいだろ!陛下が大森林に世界樹が有ると知っても、陛下は世界樹の元に辿り着けないんだから!
 きっと、レッドドラゴンが、世界樹に近づいたら、陛下を消し炭にすると思うしな!」

 もう、こうなったらハッタリをかますしかない。レッドドラゴンの威光を傘にして。

「なるほどの……。流石に、ワシでもレッドドラゴンが居たら近づけんのう……」

 傍若無人のアレクサンダー君も、流石にレッドドラゴンは怖いらしい。

「言っときますけど、世界樹が生えてるハイエルフの里には、女神ナルナーの神殿がありますから、何か悪さすると、女神ナルナーにも祟られますよ!」

「なんと、世界樹のハイエルフの里には、最高神、女神ナルナー様の神殿が有るじゃと!」

 レッドドラゴンと、女神ナルナーの威光の重ね技!どうやら、アレクサンダー君は、相当驚いてるようだ。

「そうです! 女神ナルナー様は言ってました! 世界樹を傷つけたら天罰を下すと!
 まあ、その前に、レッドドラゴンにカララム王国が滅ぼされると思いますけどね!」

 ヨナンは、女神ナルナーとレッドドラゴンのネームバリューを最大限に使って、アレクサンダー君に牽制する。
 流石に、一国の王様でも、レッドドラゴンや、女神ナルナーの天罰は怖いと思うしね!

「なるほどの……。そしたら、ワシも近づけんのう。じゃが、お主は世界樹の雫を持っておるのだろ?
 頼むから、世界樹の雫を、一滴、ワシにくれんかのう?」

 やはりと言うか、秦の始皇帝しかり、権力者という生き物は不老不死を求める習性があるようだ。

「上げれませんよ! それから、絶対に、女神ナルナー様に祟られますから!
 多分ですけど、世界樹の雫を飲んで不老不死になってしまったら、ハイエルフやレッドドラゴンみたいに、一生、世界樹の守護をしないといけなくなると思いますし!」

 ヨナンは、適当な理由をつけて、アレクサンダー君に、世界樹の雫を渡さなくてもいいように画策する。

『ですね! このデススパイダーも、新たに、世界樹の守護者という称号が付与されてますね!』

 ここで、まさかの新事実が、鑑定スキルによって明かされた。

 世界樹の雫を飲むと、一生、世界樹を守護しなくてはいけなくなるという、俺の適当な与太話は、まさかの真実であったようだった。
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