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98. 世界樹
しおりを挟む「なんなのよーー!ここは!」
失神から目覚めたリサリサが、奇声をあげる。
大森林の結界の中に入ると、そこは別世界。
見上げると、首が痛くなりそうなほどの、デカい世界樹。
その周りに、エルフの集落があるという感じだ。
『ご主人様、気付いてますか? ここに居るエルフって、全員、ハイエルフですよ!
しかも、エリスさんまで結界内に入ったら、ハイエルフに変わってますよ!』
鑑定スキルが、俺に話しながらエリスのステータスを表示する。
名前: エリス
種族: ハイエルフ
称号: 氷の微笑、必中娘、世界樹の巫女
スキル: 氷魔法Lv.2、弓Lv.3
ユニークスキル: 身体強化Lv.2、命中Lv.2、隠蔽Lv.5
力: 1200
HP: 1500
MP: 6000
器用: 200
「なんか、物凄く強くなってるな……しかも、世界樹の巫女とか、なんか新しい称号まで付いてるんだけど……」
俺は、とんでもなくなった、エリスのステータスに驚愕する。
だって、世界樹の巫女とか、この世界の根源に関わる、重要な使命を帯びる役割みたいだし。
『しかも、隠蔽Lv.5……。僕の鑑定スキルLv.3じゃ、決して分かりませんよ!
多分、この世界樹を隠す隠蔽魔法も、エリスさんの仕業で間違いないですね。
じゃなければ、僕の鑑定スキルLv.3で看破出来てた筈ですから!』
なんか、鑑定スキルは、大森林に掛けられてた隠蔽魔法を看破出来なかった事が、余っ程悔しかったのか、一生懸命言い訳をしている。
「それにしても、こんな近くに世界樹があったなんて……」
そうなのだ。もう結構、大森林を開発してるので、グラスホッパー男爵領から、世界樹までの距離は、歩きで2時間ほどなのだ。
ハッキリ言うと、元トップバリュー領より近かったりするし。
「世界樹は、この世界を形成する根源。決して傷付けてはいけない」
なんか突然、エリスが端折って説明しだす。
今更ながら、ぶっきらぼうなエリスの喋り方が、巫女と言えば巫女らしく思えて来てしまう。
『どうやら、世界樹の生命エネルギーで、この世界全体を形成してるようですね。
しかも、世界樹の葉は、死んだ人を生き返らす効用があるみたいです。
でもって、世界樹の木で作ったベッドで寝ると熟睡出来るみたいですよ!』
「ベッドのくだり必要か?」
なんか、鑑定スキルが、相当、世界樹がある事を看破出来なかった事が悔しかったのか、どうでも良い豆知識をぶっ込んでくる。
『必要ですよ!人生の3分の1は、睡眠なんですから! 熟睡できるベッドなんか、幾ら払ってでも、王族や貴族がこぞって欲しがります! しかも、世界樹の雫を飲むと不老不死になれちゃうんですよ!』
またまた、不老不死とか新事実。
鑑定スキルが、ここぞとばかりに、知識をひけらかす。
「確かに、不老不死とか、死んだ人を生き返らせるとか、それを知ったら世界中の奴らが世界樹を狙ってくるな……」
不老不死は、短命な種族の憧れ。
長寿種のエルフなんかは、そんなに不老不死に憧れを持ってなさそうだけど。
『だから、それを阻止する為に、エリスさん達、ハイエルフの一族が、阻害魔法で世界樹を隠し、レッドドラゴンが世界樹に近づく者達を抹殺してるんじゃないですか?』
どうやら、ハイエルフとレッドドラゴンは、世界樹を外敵から護る為の暗殺者で間違いないようだ。
グラスホッパー領に隣接する大森林が、別名、帰らずの森と言われる原因となったのは、こいつらのせいで間違いない。
「成程……だったら、もうこれ以上、大森林の開発って、やっちゃいけないんじゃないのか?」
『ですね。今でさえ、グラスホッパー男爵領から世界樹まで歩きで2時間ですから、これ以上開発してしまっては、徒歩5分とかになっちゃいますよ!』
「だな。世界樹の存在がカララム王国だけじゃなく、他国にまでその存在が知られてしまったら、きっと、世界樹を求める戦争が起こってしまうな……。
そうすると、大森林と接っしていて、世界樹から一番近い距離にあるグラスホッパー男爵領が、一番の戦火を被るんじゃないのか?!」
『間違いなく、グラスホッパー男爵領は、火の海ですね!』
「不味いじゃん!」
『不味いですよ! もうこれ以上は、絶対に大森林の開発なんかしちゃいけないですよ!』
結構、鑑定スキルが、スキルの癖に焦っている。
なんやかんや、鑑定スキルも、俺同様にグラスホッパー領を守りたいのかもしれない。
まあ、鑑定スキルは、グラスホッパー領の大森林で自我に目覚めたから、グラスホッパー領が、故郷と言えば故郷と言えるしね。
「分かってくれたか。我はやっと安堵できたぞ。ソナタがこれ以上、大森林を開発してしまうと、我はソナタと戦う羽目になる所だったからな……我とて、絶対に敵わない相手とは戦いたくはなかったのでな……」
なんか、レッドドラゴンが、滅茶苦茶安堵してる。
実際は、俺を倒すなんて簡単なんだけど。ただ、何も持ってない時に戦えば簡単に勝てると思うし。
俺は、何か道具を持った時は最強だが、何も持ってなかったら、普通の奴より弱いしね。
まあ、その辺の事は、絶対に誰にも言わないけど。
「話は纏まりましたね。それでは」
エリスは、どこからともなく包丁を取り出し、スパン!と、レッドドラゴンの生えかけの尻尾を切ってしまった。
「うぎゃあぁぁぁーー!」
レッドドラゴンは、突然の事に悲鳴をあげる。
「それでは主様、帰りましょうか」
なんか、エリスが訳の分からない事を言っている。
「あの?エリスさん……何でレッドドラゴンさんの尻尾を切ったんだ?」
俺は、恐る恐るエリスに質問してみる。
「エッ? 主様は、レッドドラゴンの尻尾の補充にいらしたのではなかったのですか?」
エリスは、不思議そうに首を捻る。
「あの……俺、ここにレッドドラゴン居る事知らなかったし……。
そもそも、レッドドラゴンの尻尾が欲しいなんて、一言もいってないぞ?」
「え? そうでしたか?私は、てっきり、レッドドラゴンの尻尾が減って来たので、私の故郷でレッドドラゴンの尻尾の補充しにいらっしゃったと思ってました」
クールビューティのエリスは、真顔で答える。
「ヨナン。この子にいくら正論言っても無駄よ。 この子、本物の天然だから。本気で勘違いしてると思うわよ」
エリスと長い付き合いであろうリサリサが、エリスを擁護?する。
「まあ、貰えるものは貰っとくけど……レッドドラゴンさんは大丈夫か?」
「大丈夫な訳なかろうが! またしても、我の尻尾を切りおって!」
レッドドラゴンが、涙目でエリスに怒っている。
どうやら前回も、エリスが、レッドドラゴンの尻尾を切って持ってきていたようだ。
「蜥蜴だから、大丈夫でしょ?」
「蜥蜴言うな! また生えてくるが、痛いもんは痛いんじゃ!」
なんか、最強種であるレッドドラゴンでも、天然のエリスにかかったら型なしであるようだった。
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