上 下
82 / 177

82. 陣地選び

しおりを挟む
 
 野営訓練当日。

 案の定、集合場所であるイーグル辺境伯領主城に間に合わなかったDクラスの2班が、野営訓練本番を前に失格となった。

 戦争の開戦前に、集合場所に遅れるなど言語道断。
 貴族は、王に命令されたら、我先にと戦場に赴くのが当たり前。
 その時にこそ、その貴族の力が試されるのだ。兵の練度、兵の統率力、経済力などなど。

 もう、荷馬車が借りれない時点で、既に戦いは終わってたのである。
 班決めの時点で、荷馬車が借りれそうな班に入れてもらうとか、金策とか、何とかしておく事が重要だったのだ。

 本当の戦争の時、荷馬車が借りれなくて遅れたなんて言ったら、打ち首もの。爵位剥奪も十分に有り得る。

 実際、グラスホッパー騎士爵家は、規定の兵士の人数を集められなくて、懲罰的に1万の敵に、たった15人で突撃させられ、エドソン達は全滅。爵位も剥奪されたし……。

 その辺の厳しさを、ヨナンは死に戻り前に経験して、人一倍分かっているのだ。

「それではルールを説明する! 場所はヤヤヤム高地! 開戦時刻は、明日の早朝6時!期間は3日間!
 陣地は、15箇所! 自分達の陣地は、この地図に書いてる場所を早い者勝ちで決めろ!
 そして、最終的に、陣地を多く制圧した班か優勝だ!」

 Sクラスの担任グロリア先生が説明する。
 因みに、ヨナン達は既に、全ての陣地の下見を終わらせている。しかも、ヤヤヤム高地の至る所にトラップも設置済み。
 負ける要素など、何もない。

「それでは、今回、野営訓練の場所を貸してくれたイーグル辺境伯から有難い言葉を頂く!」

 グロリア先生が振ると、なんか、いつもよりゴツイ毛皮のコートを着たイーグル辺境伯が、生徒の前に出てくる。

「ガッハッハッハッハッ! よく来た!カララム王国学園の若人共よ!
 今日から3日間! 熱い闘争を期待してるぞ!
 そして、うちの婿殿、ヨナン・グラスホッパーを倒してみせい!
 まあ、無理じゃと思うがな! ガッハッハッハッハッハッ!」

 完全に、ヨナンは、カレンの旦那という事になっている。
 添い寝した時点で、既成事実が出来上がってしまったという事なのかもしれない。
 というか、イーグル辺境伯の中では、俺の班VSカララム王国学園1年生の構図になってるみたいである。

「では、野営訓練スタート!」

 グロリア先生の号令により、野営訓練の自分達の陣地を決める為の陣地取りが始まる。
 もう、陣地取りする前から、陣地取りするって本末転倒の気もするが、陣地は15箇所。
 既に2班が脱落してるので、2つの陣地が余ってる計算になる。
 それを最初に確保するのか、しないかの駆け引きもあったりするのだ。
 まあ、俺達の班は確保しないんだけどね。
 戦力を分散させるのは得策じゃないし。

 でもって、現在、瞬足Lv.3を持ってるマリン・チータが走りだす。
 予定通りに、俺達が陣地にする予定の陣地を確保する為だ。
 基本、明日の開戦前までは戦闘行為禁止なので、班の中の誰か1人が陣地を確保したら、他の班は奪えないのである。

『ヤバい速さですね! 馬より早いって、もう人間辞めてますよね!』

 鑑定スキルが、俺だけに話し掛けてくる。
 そう、今回の野営訓練の為に、俺は、鑑定スキルの念話を女子達にも解禁したのである。

「ああ。今回の特訓で、走力だけでなく体力も付いたらしいからな。
 起伏が激しい高地でもヘッチャラらしい。
 話によると、王都からイーグル辺境伯領まで、1日で到着する事ができるらしいぞ!」

『やっぱり、もう人間じゃないじゃないですか?』

「お前、それ本人に絶対言うなよ!」

『僕、嘘言えない設定なんですけど?』

「だったら、その事について、話さなければいいだけだろ!」

 ーーー

 俺達は、マリンに遅れる事、2時間掛けて予定の陣地に到着した。

 場所は、一番不利と思われる何も無い平地にある陣地。唯一ヤヤヤム高地で、周りが見渡せる陣地である。
 何故、こんな所の陣地にしたかというと、敵が攻めてきても何もないから直ぐに気付くし、しかも、平地にトラップ掛け放題。

 因みに、陣地の周りの平地には何千ものトラップを既に設置済みで、昨日とかも、下見にきた他の班の生徒が犠牲者になってたりしている。

 これも、会場であるヤヤヤム高地に早く着けたお陰。
 誰にも見られず、トラップを仕掛けられたし、直接手を下さないトラップなどの攻撃なら、開戦前でも有りなのだ。

 所謂、地の利を活かす戦いという事である。
 戦争の戦術として、自分が戦い易い場所で戦うのは定石だしね!

 基本、この野営訓練は、本当の戦争と同じなので、戦争で有りの事は、大体有りなのである。

「じゃあ、始めるか!」

 俺は、一気に、陣地の要塞化を始める。
 建物はオールミスリルアダマンタイト合金で覆い、3階建て。見晴らしの良い3階からは魔法攻撃が仕掛けられるように魔法攻撃用の狭間が設けられている。

 更に、玄関はこの世界にはない、顔認証の鍵が設置されており、ウチの班員じゃなければ誰も入れない。

 ハッキリ言って、難攻不落。
 誰も、ミスリルアダマンタイトを傷付けられないしね!

 しかも、敢えて、建物の回りには低めの石壁で覆っている。これは敵をおびき寄せる為。石壁をよじ登り下に飛び降りると、そこは落とし穴。一度落ちたら決して自力では脱出できない仕組みになっている。

 でもって、不幸にもそこを抜けたら、地雷地帯。普通に足が吹き飛ぶ程度の火力なので、痛い思いをしてもらわないといけない。

 因みに、カララム王国全土から優秀な治癒魔術師がたくさん来てるという事で、足の1本ぐらい無くなってもなんとかなるらしい。

 そして、準備は万端。俺達は、無駄に豪華な陣地でゆっくり休んで、次の日の朝6時。

 静けさの中、号令が鳴るのでもなく、野営訓練が、ひっそりと開戦されたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

骨から始まる異世界転生~裸の勇者はスケルトンから成り上がる。

飼猫タマ
ファンタジー
トラックに轢かれて異世界転生したのに、骨になるまで前世の記憶を思い出せなかった男が、最弱スケルトンから成り上がってハーレム勇者?魔王?を目指す。 『小説家になろう』のR18ミッドナイトノベルズで、日間1位、週間1位、月間1位、四半期1位、年間3位。 完了済では日間、週間、月間、四半期、年間1位をとった作品のR15版です。

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...