上 下
53 / 177

53. イーグル領の大森林

しおりを挟む
 
「大森林で狩りって、紅葉狩りとか、イチゴ狩りみたいなフルーツ狩りに行くんじゃないのか?」

 ヨナンは、グラスホッパー領の大森林で魔物など見た事ないので、不思議に思う。
 まあ、奥まで行けば魔物が居るかもと言われているが、ヨナンは未だに大森林で魔物は疎か、動物も見た事がないのである。

「ヨナン。ウチの領地の大森林では魔物が出てこないが、イーグル辺境伯領では、凶暴な魔物がウジャウジャ出てくる魔境と言われていて、たくさんの冒険者も活動してるらしいぞ!
 俺も、今度の夏休みにでも遠征して、学費と生活費を、短期間で荒稼ぎしに行こうと思ってたくらいだからな!」

 セントが、イーグル辺境伯領の大森林についてレクチャーしてくれる。

「そうよ! 大森林のお陰で、イーグル辺境伯領の冒険者ギルドは、カララム王都と一二を争うぐらいに大きいのよ!
 私も、冒険者として、大森林で腕を上げたし!」

 カレンが付け加える。

 そして、カレンに呼応するように、ずっとヨナンの傍にいたエリスが語り始める。

「私もエリザベスと会ったのは、この大森林だった。確かあれは、エリザベスが13歳の夏休みにお母さんの実家であるイーグル辺境伯領に遊びに来てた時、エリザベスは、僅か13歳で、オークを殴り殺していた。
 そして、当時、イーグル辺境伯領でS級冒険者をしてた私に果敢に話し掛けてきて、『私とパーティーを組まない?私とアナタが組んだら、きっと最強のパーティーになるわよ!』と、まだ、冒険者にすらなってないエリザベスが言ってきたんです」

「そ……そうなんだ……」

 エリスが言葉に抑揚をつけずに、クールビューティーの顔で、いきなり語り始めると、ちょっとビビる。

「ん?孤高のS級冒険者、氷の微笑のエリスが唯一所属してたのって、あの伝説のS級パーティー『熊の鉄槌』じゃないの?
 て?! えっ? もしかして、何故か魔法使いなのに、前衛に出て、素手で魔物を叩き殺す、『熊の鉄槌』の団長、ゴリラパンチのエリザベスって、エリザベス叔母様だったの!」

「そう」

 カレンの質問に、エリスは短く答える。

「というか、今の話って、伝説のS級パーティー『熊の鉄槌』の誕生秘話じゃないの!」

 何故か、カレンは滅茶苦茶感動してる。
 どうやら、カレンは、伝説のS級冒険者パーティー『熊の鉄槌』の猛烈なファンだったようだ。

「そして、あそこで酒樽を抱えて、ベロベロに酔っ払っているのが、学生になって王都で冒険者になったエリザベスに、酒の大飲み勝負で負けて軍門に下った、当時王都No.1冒険者パーティー『ハンマーシャーク』の元団長、大金槌鬼の異名を持つゴンザレス」

「ええー!あのオジサン、タダの酒好きドワーフじゃなかったの!」

 カレンが、ちょっと引いている。

「それより俺は、学生がドワーフの親父と酒の飲み比べしてた方が、気になる所なんだけど!」

「それが、エリザベスが14歳の時」

 エリスが、ヨナンの疑問を聞いて、更に付け加える。

「14歳って、まだ、未成年じゃねーかよ!」

『エリザベスさんって、今の感じと全く違って、相当なお転婆さんだったんですね!』

 鑑定スキルが、冷静に感想を述べる。

「お転婆のドが超えてるだろ! というか、とっとと行くぞ!
 ここで喋ってたら、直ぐに日が暮れちまうよ!」

 ーーー

 以外と語り始めると止まらなエリスを静止し、ヨナン達は大森林に向かう。

「本当に、結構、冒険者が居るんだな?」

 ヨナンは、ちょっとウキウキする。ここに来て、やっと異世界転生者ぽく、冒険者ぽい事をやれるのだ。
 まあ、最近では、鑑定スキルに見せられた日本での記憶が徐々に頭に定着してきたのか、完全に自分の記憶のようになってきてるのだ。
 まあ、元々、自分の記憶なのだけど。

「アッ、魔物発見!」

 シュン!

 魔物を見つけたエリスが、弓矢で魔物を仕留める。

「流石、エリス様!」

 憧れのエリスの攻撃を見て、カレンが感動してる。

「アッ! また、発見!」

 シュン!

「お見事!」

「アッ!また!」

 シュン!

「凄いです!」

「アッ! またまた!」

 シュン!

「凄いです……」

「また!」

 シュン!

「……」

「また、いました!」

 シュン!

「……」

「アノ……エリスさん?カレンにも、攻撃させてやってね……完全に拗ねちゃってますから」

 ヨナンが気を利かせて、エリスを制止させる。

「しかし、主様を守るのが騎士の役目ですし?」

 エリスは、何が悪いのかと、クールビューティーに答える。

「イヤイヤイヤ。折角、狩りに来たんだから、俺達も、一応、狩りしたいじゃん!
 俺って、一度も魔物を狩った事ないし」

「あ! もしかして、ご主人様は魔物を狩ってみたかったのですか? それなら」

 シュン!

 エリスは、魔物の急所を外し、ピクピク半殺しの状態にして、

「主様! さあ、どうぞ! ここら辺をザクッ!と一突きすれば絶命しますので」

 魔物の心臓の辺りを指差す。

「イヤイヤイヤイヤ。俺がやりたいのは姫プレイじゃないし!これが姫プレイと言うのかもわかんないし!」

「う~ん……中々、主様は注文が多いですね……」

 何を悩む事があるのか、エリスはクールビューティーな顔をして真剣に悩み出す。

「あの……何もしなくていいのでは?」

 カレンとかエリスとか、有名人と行動してた為か、大人しくしてたセントが、思わず助け舟を出す。

「アッ! なるほど。確かに主様は強いですから、私が頑張らなくても良かったんですね!」

「そう!それ!俺、本気出すと、結構強いから!」

 ちょっとだけ、過保護のエリスを分からせようと思い、ヨナンは、魔法の鞄の中から聖剣ムラサメを取り出す。

『ご主人様! 何、出してるんですか!
 それは、この世界で使ってはいけない代物ですよ!』

 鑑定スキルが慌てる。

「大丈夫だって! ただ素振りしてみせるだけだって!」

 とか、軽い気持ちで素振りすると、

 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダーーン!!

 ただの素振りが、雷、火、風、氷の神級魔法の渦巻きを発生させ、その斬撃波が、ヨナンが素振りをした方向一直線に森を消滅させ、たまたま線上100キロ先にいた伝説の魔物レッドドラゴンに命中し、絶命させてしまったのだった。多分……。

「主様。レッドドラゴンを倒したみたいですよ!」

 エリスが、ヨナンに伝える。

「えっ? 見えるの?」

「はい。私は近くのものはみえませんけど、遠くのものは良く見えますので!」

 と、エリスは、ヨナンと鼻と鼻がぶつかりそうな距離で報告してきたのだった。

 エリスの老眼恐るべし。

 ーーー

 面白かったら、感想下さい!
   作者の励みになるかもしれません✧٩(ˊωˋ*)و✧
しおりを挟む
感想 191

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...