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35. 商魂逞しいお母さん
しおりを挟む「エリザベスって、公爵令嬢だったんだな……」
ヨナンは、まさか公爵令嬢が、ただの冒険者であったエドソンと結婚してた事に、心底驚く。
「エドソンは、強かったし、とても優しくて頼りになったから」
何故か、エリザベスが惚気ける。
「お母さんって、お姫様だったの?」
シスも、羨望の眼差しでエリザベスを見てる。
「ええそうよ! それより、ヨナン君。早く、荷馬車にカナワン伯爵家お墨付きと書いちゃいなさい!
そしたら、石焼き芋が、600マーブルじゃなくて、700マーブルに売れるようになるから!」
エリザベスは、公爵令嬢の癖して、商魂逞しい。
まあ、何年もの間、グラスホッパー騎士爵領で貧乏を味わったからかもしれないけど。
「もう、これで、グラスホッパー騎士爵家は、イーグル辺境伯の寄子になったという事か?」
「そうよ!」
「トップバリュー男爵家にちょっかい掛けられても、イーグル辺境伯の名前を出していいのか?」
「問題ないわね! そして、もう、私がグラスホッパー騎士爵家に嫁いでるとバレちゃったから、グリズリー公爵家の名前も出しちゃっていいんじゃない?」
エリザベスは、アッケラカンと答える。
『ご主人様! やりましたね! これで、グラスホッパー騎士爵家が、トップバリュー男爵家の策略に嵌り、戦争に駆り出される未来は無くなりましたよ!』
鑑定スキルが、ヨナンにだけ念話で伝える。
「だな! 本当に良かった……」
ヨナンは、思わず安心して涙を流す。
「何?ヨナン君、何で泣き出してるの?」
「いや、何でもないから……」
ヨナンは、涙を拭い誤魔化す。
「鑑定ちゃん。ヨナン君と何の話をしてたの?」
『秘密です! 例え、エリザベスさんにも言えない事もありますので!』
「鑑定ちゃん、いやらしいんだ!」
『いやらしいとか言わないで下さい! 僕は、ご主人様が第一なんですから、ご主人様が不利になる事は、絶対に話しません!』
「ヨナン君と鑑定ちゃんの絆は、物凄く強いんだね!」
『そうです! 僕とご主人様は、一心同体てすから! シスちゃんよりも、ご主人様は、僕の事が好きな筈です!』
「鑑定スキル……お前、何言ってんだ?」
『ですよね? ご主人様!』
「ですよね?って、確かに、お前を一番信用してるけど、お前は、スキルじゃねーか?
好き嫌いって、お前、男でも女でもないし」
『気持ちは、女です!』
「気持ちは女って……お前、一人称、そもそも僕じゃねえかよ!」
『何言ってるんですか! 僕は、ボクっ娘ですよ! ご主人様、そんなジャンル知ってるでしょ!』
「まあ、知ってるけど、ボクっ娘って……お前、いつから女設定になったんだよ!」
『どうでしょう?自我が目覚めてから、数年経った頃でしょうか?
ご主人様が、ボロボロになってる時、助けたくて、助けたくて、でも、ご主人様に呼ばれなくて、どうする事も出来なくて、タダひたすら、ご主人様のユニークスキルを鑑定してた時に、自分が女だと気付きましたね!』
「そ……そうなんだ……なんか、重いんだけど……」
『重くなんかありませんよ! 僕、そもそもスキルだから、体重ありませんし!』
「そういう事言ってる訳じゃないんだけど?」
『分かってますよ! 今のは鑑定スキルジョークです!』
ついに、鑑定スキルがジョークを言うようになってしまった。
そんな話をしつつ、グラスホッパー領に帰ると、第一回グラスホッパー商会会議が始まる。
「ヨナン君! 私は、新たな公爵芋を使ったオシャレなお菓子を作る事を提案するわ!
それから、カナワン城塞都市に、グラスホッパー商会の支店を開きましょう!」
いきなり、エリザベスが提案する。
「私も、紅茶に合うようなオシャレなお菓子が食べたいです!」
シスも、エリザベスに同意する。
「例えば、スィートポテトのような?」
ヨナンは、取り敢えず、思いついた芋のお菓子を言ってみる。
「何、ヨナン君。そのお菓子は?」
「えーと……この世界にスゥイートポテトは無いのか?」
『ご主人様! そもそも、この世界にはサツマイモが無かったので、スゥイートポテトは存在しません!』
鑑定スキルが、スグに、この世界にスゥイートポテトがない事を教えてくれる。
「じゃあ、説明するの面倒臭いから、作ってみせるぞ!」
ヨナンが、料理道具を持つと、猛スピードでスゥイートポテトが出来上がる。
「やっぱり、ヨナン君の大工スキルは凄いわね……」
「ああ。俺が持つ物は、何でも大工道具と認識されるらしいからな。多分、俺は、何か得物さえ持っていたら、何でもその道の達人になれるらしい」
ヨナンは、スゥイートポテトと、いつの間にか入れていた紅茶を、エリザベスとコナンとシスに差し出す。
「うん。これは甘くて上品な味ね!
これは、上流階級の貴族にも売れるわよ!」
エリザベスが、スゥイートポテトに太鼓判を出す。
「甘くてうめー!」
「うん。紅茶に合うよ!」
どうやら、満場一致で、スゥイートポテトは、グラスホッパー商会の新商品になったようだ。
「じゃあ、次は、カナワン城塞都市にグラスホッパー商会の支店を出店する件ね!」
エリザベスが、勝手に仕切り出す。
「カナワン城塞都市に出店するのは構わないが、そもそもグラスホッパー商会の従業員って、この4人だけだろ?
カナワン城塞都市に、支店開いても、人が居なきゃ開店できんだろ?」
ヨナンが指摘する。
「その件に関しては、先ず昨日、グラスホッパー領に住む住民全員を、グラスホッパー商会に入社させました!
足りない従業員は、カナワン城塞都市で従業員の募集を掛ければいいと思います!」
エリザベスが提案する。というか独断で動いていた。
「えぇぇー! 俺に黙って、勝手にグラスホッパー領の住民達を、全員、社員にしたのかよ!」
「ええそうよ! グラスホッパー領の住民は、全員貧困層だから、安定した給料を払うと言ったら、すぐに飛びついたわ!
実際、グラスホッパー商会が立ち上がる数日前から、グラスホッパー騎士爵家で雇ってたんだけどね!」
「まあ、それはいいとして、カナワン城塞都市での土地の買収や、許可とかどうするんだよ?」
「それは私が明日、カナワン伯爵と交渉するわ!大体のビジョンは立ててるから、大船に乗った気で居て大丈夫よ!」
「なんか、エリザベスが居たら、俺、いらなくね?」
「ヨナン君には、新たな土地の伐採と、スゥイートポテトの量産。それから、公爵芋の焼き芋を売る荷馬車の量産をお願いするわ!
これから、全国に打って出る為にも、流通の足は必要だしね!」
エリザベスが、次々と、グラスホッパー商会の改革を進めた。
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