上 下
8 / 177

8. トップバリュー男爵領

しおりを挟む
 
 次の日、早速、エドソンから荷馬車と馬を借りたヨナンは、朝からトップバリュー男爵領の領都に向かっている。

 エドソンに熊の置物と、寄木細工のカラクリ箱を見せて、トップバリュー男爵領の領都に売りに行きたいと話したら、鑑定スキルが言ってたように、喜んで荷馬車と馬を貸してくれた。

 勿論、寄木細工のカラクリの事は伏せて、ただの模様が素敵な箱という事にしている。
 カラクリの事を教えてしまったら、必ず金にがめついエリザベスが嗅ぎ付けて、売上の分け前を寄越せと言ってくるに違いないから。

 まあ、荷馬車と、馬を借りる話をエドソンから取り付けた後、エリザベスに、荷馬車と、馬のレンタル料を払えと難癖つけられたけどね。

 そもそも、お小遣い貰ってないから無理な話なんだけど。

 今回だけは、エドソンが払ってくれる事になったけど、次回からは、必ず、1万マーブル徴収すると言われてしまった。どんだけがめついのだろう。
 というか、俺が作った寄木細工の箱が売れると算段して、勝手に1万ぐらいは払えると計算したのかもしれない。
 結構、俺の寄木細工をマジマジ見てたし。

「金にがめついエリザベスから見ても、一応、寄木細工のカラクリ箱は売れると思ったって事だよな?」

 ヨナンは、鑑定スキルに話し掛ける。
 まあ、人からみたらただの独り言だけど。

『ですね。相当精巧な寄木細工になってますから、カラクリが無くても普通に売れる筈です。
 ですが、エリザベスが思ってる10倍の値段になるでしょうね。
 ご主人様、凝りに凝って、相当複雑に寄木を動かさないと、隠し空間が開かない仕組みにしちゃいましたからね。
 しかも、あれだけ鉱物使っちゃいけないと注意したのに、隠し空間を鉄で覆っていたでしょ!』

 ヨナンが鑑定スキルにバレないように、内緒にしていた仕組みを看破される。
 伊達に、鑑定スキルLv.2ではないようだ。

「だって、大事な宝物を隠すカラクリ箱だぜ! 簡単に取り出せたら不味いだろ?
 例え泥棒に盗まれても、絶対に中身を取り出せないようにしただけだし」

『確かに、ご主人様の錬成した鉄はミスリルより硬いですからね。しかも、溶かして中身を取ろうとしたら、中身まで溶けちゃいますし、寄木の複雑なカラクリを知ってないと絶対に開けれません!』

 何故か、鑑定スキルがドヤ顔で話す。
 まあ、ただのスキルなので、顔が本当にドヤ顔してるか分かんないんだけど。

「で、鑑定スキルから見て売れると思うか?」

『売れます! 10万マーブルは固いです。下手な金庫より頑丈ですし!』

 何でも知ってる鑑定スキルが、絶対売れると太鼓判を押してくれた。

 ーーー

 トップバリュー男爵領の領都トップバリューは城塞都市である。
 城塞都市に入るには、3000マーブルの通行料が居るのだが、エドソンに借りたグラスホッパー家と分かる印籠を見せれば、通行料が免除されるとの事だった。所謂、貴族の特権という奴だ。

 まあ、15歳になって成人したら、グラスホッパー家から出るつもりだから、後2年間だけの特権だけど。

『ご主人様、得しちゃいましたね!』

 鑑定スキルが、嬉しそうに話し掛けてくる。
 もう、完全に友達感覚である。

「ああ。まさかエリザベスが、エドソンに文句の1つも言わずに、俺に印籠を渡させたのは驚いたけどな」

『それは、自分の取り分を多くする為ですよ!
 流石に、ご主人様が1つも製品を売れなかったら、ご主人様から荷馬車と、馬のレンタル料がせしめられなくなりますからね。ご主人様も、無いお金は払えないですもん!』

「成程な……所で、俺はどこに男爵芋と、熊の置物を売りに行けばいいんだ?
 全く、トップバリューの土地勘無いんだけど?」

『熊の置物は置いといて、寄木細工のカラクリ箱は、トップバリュー男爵が経営する、トップバリュー商会に売りにいきましょう!
 トップバリュー商会は、贅沢品から小豆一つまで、何でも扱う総合商会ですからね!
 ご主人様の作った寄木細工のカラクリ箱の本当の価値が分かるのは、トップバリュー商会だけだと思われます!』

「成程」

『ほら見えてきましたよ! あの街の中心にある一際大きくて、一際豪華な店が、トップバリュー商会です!』

 鑑定スキルは、自分のデータベースに乗ってるのか断言する。

「本当に、あんなデカい店に入るのかよ?
 というか、俺みたいな子供が、本当に入っていいのか?門前払いされたらどうするんだよ」

『ご主人様は、腐っても貴族の子息なんです!
 そのエドソンから持たされた印籠を見せれば、お店には絶対に入れますから!』

「そうだった。俺は一応、貴族の息子だった。実際は、農奴みたいに芋堀りばかりしてるんだけど……」

 ヨナンは、あまりにトップバリュー商会の煌びやかさにビビって、完全に尻込みしてしまっている。

『ご主人様、そんな事は、言わなければ誰も分かりませんから! 黙ってればいいんです!』

「だな……だけれども、緊張してきて喉が乾いてきた」

『ご主人様。深呼吸して、そのまま荷馬車を店の前に付け下さい』

「オイ。本当に店の前に横付けしちゃっていいのかよ! こんなショボイ荷馬車なのに……」

『例えショボイ荷馬車に乗ってても、ご主人様は正真正銘の貴族の子息ですから、ビッ!として、店の前で荷馬車に乗ったまま、待ってればいいんですよ。
 ずっと、店の前に荷馬車を停めてたら、店の人が来ますから、その時、グラスホッパー家の印籠を見せて、男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱を売りに来たと言えばいいんです!』

「本当に、そんなに偉そうにしてていいのかよ!というか、俺は1人で買い物に行った事も、人とマトモに話をした事もないんだぞ……。
 いきなり商談とか、全てをすっとばしてるだろ!」

『ご主人様、ここまで来て、今更遅いですよ。ほら、店の中から係の人が出てきましたよ!』

「エッ! どうするんだよ! 俺、なんて言ったらいいか分かんないよ!どうしたらいいんだ?……本当に、どうしよう……」

 ヨナンは、冷や汗をかいて、しどろもどろになる。

『ご主人様、まず、口チャック! 今のご主人様、ブツブツ独り言をずっと言ってるヤバい人ですから!
 取り敢えず、僕の言葉をなぞって話して下さい!』

「なぞればいいんだな」

『だから、喋らない!』

 ヨナンが鑑定スキルとわちゃわちゃ話してると、怪訝な顔をした店の定員が、ヨナンが乗ってる荷馬車の前まで来て話し出す。

「お客様、困ります。店の正面に荷馬車を停められては。直ぐに移動してもらえますか?」

「ええと……その……」

 ここ数年間、エドソンとしかマトモに会話した事ないヨナンは、見ず知らずの他人に久しぶりに話し掛けられて、メチャクチャ慌てる。

『私は、グラスホッパー騎士爵家の者だ』

 ヨナンがどもってると、鑑定スキルがすぐさま助け船を出す。

「あっ! そうそう。私は、グラスホッパー騎士爵家の者だ」

「グラスホッパー騎士爵家?」

 どうやら、隣の領地の貴族だというのに、トップバリュー商会の店員は、グラスホッパー騎士爵家の事を知らないようである。
 まあ、数年前に騎士爵になったばかりの新興貴族なので、仕方が無い事だけど。

『ご主人様! 早くグラスホッパー家の印籠を見せて下さい! 印籠見せれば、貴族だと分かりますから!』

「ご主人様! 早くグラスホッパー家の印籠を見せて下さい!印籠見せれば、貴族だと分かりますから!」

『それは、言わなくていいですから!』

「それは、言わなくていいですから!」

「ええと……貴方は何を言ってるんですか?」

 店員は、怪しい言動を連発するヨナンの事を、メチャクチャ怪訝な顔をして見ている。

『印籠!印籠!』

「印籠!印籠! アッ!印籠な!」

 ヨナンは、やっと気付き、急いで懐からグラスホッパー家の印籠を取りだす。

「アッ。貴方は貴族のご子息様でいらっしゃいましたか」

 印籠を確認すると、店員の態度が、パッ! と変わる。
 やっとこさ、話が通じたようだ。

「そうだ。俺はグラスホッパー家四男のヨナン・グラスホッパーである。
 今日は、熊の置物を売りに、ここの商会に来たのだが?」

 相手が慇懃な態度になった事で落ち着いたヨナンも、やっとこさ、貴族らしい態度で話す事ができた。

『ご主人様! 熊の置物じゃなくて、男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱でしょ!』

「あっそうだった! 男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱を持ってきたんだった!」

 やはり、毎日農奴なような生活をしてるせいか、貴族みたいな喋り方は無理だった。

 ーーー

 面白かったら、お気に入りにいれてね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スキル【特許権】で高位魔法や便利魔法を独占! ~俺の考案した魔法を使いたいなら、特許使用料をステータスポイントでお支払いください~

木塚麻弥
ファンタジー
とある高校のクラス全員が異世界の神によって召喚された。 クラスメイト達が神から【剣技(極)】や【高速魔力回復】といった固有スキルを受け取る中、九条 祐真に与えられたスキルは【特許権】。スキルを与えた神ですら内容をよく理解していないモノだった。 「やっぱり、ユーマは連れていけない」 「俺たちが魔王を倒してくるのを待ってて」 「このお城なら安全だって神様も言ってる」 オタクな祐真は、異世界での無双に憧れていたのだが……。 彼はただひとり、召喚された古城に取り残されてしまう。 それを少し不憫に思った神は、祐真に追加のスキルを与えた。 【ガイドライン】という、今はほとんど使われないスキル。 しかし【特許権】と【ガイドライン】の組み合わせにより、祐真はこの世界で無双するための力を得た。 「静寂破りて雷鳴響く、開闢より幾星霜、其の天楼に雷を蓄積せし巍然たる大精霊よ。我の敵を塵芥のひとつも残さず殲滅せよ、雷哮──って言うのが、最上級雷魔法の詠唱だよ」 中二病を拗らせていた祐真には、この世界で有効な魔法の詠唱を考案する知識があった。 「……すまん、詠唱のメモをもらって良い?」 「はいコレ、どーぞ。それから初めにも言ったけど、この詠唱で魔法を発動させて魔物を倒すとレベルアップの時にステータスポイントを5%もらうからね」 「たった5%だろ? 全然いいよ。ありがとな、ユーマ!」 たった5%。されど5%。 祐真は自ら魔物を倒さずとも、勝手に強くなるためのステータスポイントが手に入り続ける。 彼がこの異世界で無双するようになるまで、さほど時間はかからない。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

処理中です...