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186. 寮対抗格闘技大会(8)
しおりを挟む「オラオラオラオラオラオラ!」
クロフォードの空中からの魔法攻撃が続く。
空中浮遊できないネム王子は、地上で魔法攻撃を受け続ける事しか出来ない。
たまに隙を見て斬撃波を放つが、機動力に勝るクロフォードに、難無く躱されてしまうのだ。
だからといって、ネム王子が窮地に立たされている訳でもない。
ネム王子は、腐っても勇者の末裔なのだ。
高過ぎる防御力のお陰で、クロフォードの魔法攻撃が全く効いていない様子である。
「ハッハッハッハッ! 『犬の肉球』で、盾職をやっていたのが、今日、初めて役に立ったよ!」
ネム王子は、クロフォードの激しい魔法攻撃を盾で受け止めながら、歯を輝かせて爽やかに笑う。
確かに、『犬の肉球』では、俺とアリスとジュリのせいで、殆ど、盾職らしい盾職の仕事をやって居ない。
本来、俺とアリスは、魔法使いなのだが、如何せん、『神道異界流』の家に生まれてしまった為、何故か二人とも前衛職をやっているのだ。
『犬の肉球』幼少組は、前衛職4人によるバランスの悪い歪なパーティーなのである。
何故か、一番前に居ないといけない筈の盾職のネム王子が後衛になってしまうという、おかしな状態になっていたりする。
まあ、簡単に言うと、『神道異界流』は、最も剣士が活躍した幕末に流行った『神道無念流』がルーツなので、超実戦的でイケイケなのだ。
そもそも、幕末の志士に盾職の概念など全く無い。
刀一つで攻撃も防御もこなすのが、当たり前であり普通なのであった。
まあ、幕末の剣士がイケイケだったと言っても、『神道無念流』の免許皆伝で練兵館の塾頭まで務めた桂小五郎は、逃げの小五郎と言われて、刀を抜く事が殆ど無かったと言われているが、逆に同じ『神道無念流』の使い手で、新撰組、随一の剣の使い手と言われた永倉新八などは、かの有名な池田屋の変でも、20人の勤王志士に対して、近藤勇と沖田総司と藤堂平助と共に、最初に斬り込みをかけた最初の4人の中の1人であり、沖田総司と藤堂平助は、途中で離脱したが、永倉新八は、近藤勇と共に最後まで戦い抜いた程の凄腕であったと言われている。
因みに、我武者羅な性格であったので、我武者羅と、永倉新八の『新』の字を掛けて、ガムシンというアダ名があった程だ。
そんな『神道無念流』にルーツを持つ、『神道異界流』なので、アリスもジュリも俺も、我武者羅に刀や拳を振るう事を良しとしている。
勿論、シャンティ先生やケンセイに命令されているのだが……。
そんな訳で、ネム王子は今日、初めて盾職らしい仕事をしている訳だ。
クロフォードは、たまに放たれるネム王子の斬撃波を華麗に躱しながら、空中から魔法攻撃を続ける。
しかし、このままでは決着はつきそうにない。
ネム王子の防御は鉄壁だ。
何せ、代々、凄腕の盾職を輩出し続けている『犬の肉球』の盾職なのである。
ネム王子のお爺さんである、度々、話に出てくる盾爺も、その時代の最高の盾職だったみたいだし、『犬の肉球』設立メンバーの1人だった、アンちゃんのお父さんドラクエルさんなど、現在でも世界第一位の盾職と言われているのだ。
クロフォードも、何度か巨大魔法を放っているが、そのどれもが、ネム王子の鉄壁の盾により完璧に弾かれてしまっている。
クロフォードが、ネム王子にダメージを与える為には、最早、盾以外の所に攻撃を与えるしか方法は無いだろう。
しかし、ネム王子には全く隙が無い。
盾を構えるフォームに、全く隙が見当たらないのだ。
ネム王子の盾職の先生は、言わずと知れたシャンティ先生である。
シャンティ先生は、現在世界第二位の盾職のアンちゃんや、盾爺などを育てた、盾職育成のスペシャリストなのだ。
ネム王子も、先輩達同様に、シャンティ先生に徹底的に鍛え上げられている。
盾の構えから、盾職の戦術、盾に纏わす闘気の質まで、様々な細かい事を叩き込まれているのだ。
シャンティ先生は、ネム王子にとても厳しい。
それは、シャンティ先生が、パーティーの中で、盾職がどれだけ重要か解っているからだ。
いわゆる大手ギルドには、絶対に盾職のスペシャリストがいると言われている。
ボス戦などの時は、倒すのに数日間もかかる強敵がザラにいるのだ。
盾職がいないとやってられない。
盾職が居ないと、全員ぶっ続けで敵と戦い続けなければいけなくなってしまう。
剣士や格闘家は体力の限界が有るし、魔法使いはMPが尽きる。
そんな時、強力な盾職が一人いれば、戦い中に休息できるのである。
『犬の肉球』の場合は、軍師であるシャンティ先生が、パーティー全体のHP、MP、管理をしながら、絶妙なタイミングでパーティーメンバーを順番に休ませたりする。
パーティーメンバーに盾職がいなければ、そんな事も出来ない。
話が少し逸れてしまっていたが、どうやら痺れを切らしたクロフォードが、地上に下りて来た。
「埒が明かない。剣で勝負だ!」
クロフォードは剣を抜き、ネム王子に提案する。
「いいでしょう!」
ネム王子も剣を抜き、何故か盾まで置いてしまった。
剣の勝負で、盾まで置く必要など無いと思うが、置いてしまったものは仕方が無い。
「フフフフフ、馬鹿な奴だ。
俺は実を言うと、魔法より剣の方が得意なんだよ!
盾を持たない盾職など、俺の敵で無い!」
クロフォードは、してやったりという顔をして、不敵に笑う。
「そうですか。僕も実を言うと、盾職が特に得意という訳では無いので、全然問題有りませんよ。
何でもそれなりに出来るタイプなので、剣の勝負でも、魔法の勝負でも、拳の勝負でも、何でも構いませんよ」
ネム王子は歯を輝かせ、爽やかに言葉を返す。
「勝手に言ってろ!」
クロフォードはよっぽど剣の腕に自信があるのか、闘気を纏い、ネム王子の懐に無謀にも飛び込んできた。
馬鹿な奴だ……。
ネム王子は、本当に何でも得意なのだ。
剣の腕も、『神道異界流』免許皆伝の腕前である。
『神道異界流』の免許皆伝とは、即ち、巷では、剣の達人と言われる域に達しているという事なのだ。
ネム王子は その場から動かず、クロフォードの斬撃を下段から払い上げ、胴が空いた所に、横から、スパンッ! と、斬り裂いた。
「グフッ!」
クロフォードは、口から大量の血を噴き出し、そのまま地面に倒れる。
まあ、こうなる事は必然だろう。
ある程度の腕前なら、剣を持って対峙した時点で、相手の力量くらいは解るというものだ。
しかし、クロフォードは、ネム王子の剣の実力を、全くもって気付かなかったのだ。
「悪いね。君に恨みは無いが、トンプソン先輩を殺した報復だよ!」
ネム王子は歯を輝かせ、真っ二つの骸になったクロフォードに、爽やかに語った。
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