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143. シズカ先生
しおりを挟む「あれは、魔女か?」
アリスの指し示した箒に乗った女性は、いかにも魔女が被っていそうな、大きな三角帽子を被っている。
「アレは、魔女見習いですね!
多分、冬島から魔女のお使いに来ているのでしょう」と、ドジっ子先生が答えてくれた。
「魔女って、始まりの魔女と、何か関係があるんですか?」
俺は、ドジっ子先生に聞いてみる。
「始まりの魔女?
この世界の創成に関わったと言われている、伝説の魔女の事ですか?
冬島にいるのは、普通の魔女さん達ですよ」
どうやら、始まりの魔女とは全く関係のない魔女のようだ。
「サイト君って、そういえば、始まりの魔女さんの弟子だったんだよね?」
と、突然、アンちゃんが聞いてきた。
「あの……僕はサトウ·アレンですよ。
前前世が、ゴトウ·サイトだったかもしれませんが、僕にはその頃の記憶が無いんです!」
「あ……あ……
そうだった……つい、雰囲気が、サイト君に似てるから……」
アンちゃんは、しどろもどろに答える。
多分、アンちゃんは俺の事をいつもサイト君と呼んでいるので、俺がゴトウ·サイトだった時の記憶が無くなっているという設定を忘れてしまうのだ。
姫は元々、俺の事をマスターと呼んでたし、ブリトニーもご主人様と呼んでいた。
アンちゃんだけが、俺の事を「サイト君」と、名前で呼んでいたので、その癖が抜けないのだろう。
「それ、私も聞いた事ありますよ!
400年前に実在した大魔王ゴトウ·サイトは、始まりの魔女の弟子だったという話ですよね!
でも実際、始まりの魔女は、何千年も目撃されてないので、大魔王ゴトウ·サイトの法螺話じゃないかと言われてる奴ですよね!」
アチャ……
ドジっ子先生は、地雷を踏んでしまった。
急激に、体が重くなる。
アンちゃんが、慌てて街の人達に被害が及ばないように、俺が見た事の無い大盾スキルを使って、街の人達を防御する。
「エッ! エッ! エッ!」
ドジっ子先生は、姫の変貌に驚いている。
姫の真っ赤な髪が、怒髪天のように舞い上がり、体から禍々しい赤黒い闘気を発しているのだ。
「マスターに謝りなさい!」
姫は、先生にも容赦ない。
しかし、流石はエリートが集まるサリス魔法学校の教師である。
姫の闘気をモロに浴びているのに、立っている。
「エッ? 何を謝ったらいいの?」
ゴオォォォォォ……
今までにない展開だ。
ドジっ子先生が、姫に普通に質問したきた。
姫は、あまりの怒りに、闘気から音まで発している。
「マスターは、始まりの魔女のお弟子様なのです!」
「エッ! マスターって、アレン君だったけ?
でも、弟子っていったて、アレン君って何歳?」
ドジっ子先生は、姫の凄まじい殺気を受けているというのに、マイペースに、俺に質問してきた。
「ええっと……3月で、5歳になりました……」
「そしたら、おかしいよね!
始まりの魔女の目撃情報は、もう何千年も無いんだよ!
400年前の大魔王ゴトウ·サイトが弟子だと言ってたのも怪しいのに!」
ドジっ子先生は、どれだけ強心臓なのだ……
ここで、被せてくるとは……
俺には自殺志願者としか思えない。
俺の身内以外の生徒達は、皆、地面とキスしているというのに……
「サイト君~! もう僕のスキルも持ちそうにないよ~!」
アンちゃんの大盾スキルも、もう限界のようだ。
「姫、 止めるんだ!」
無駄だと思うが、一応止めてみる。
「この女が謝るまで、辞めないのです!」
だよね……
最近の姫は、俺の言う事を、全ては聞いてくれないのだ。
「駄目ですよ! 先生に向かって、そんな態度をとるのは!」
と、ドジっ子先生が、言った瞬間。
姫の周りに、薄い膜が張られた。
『ん?! 姫の殺気が消えた?』
姫の近くにいた為、アンちゃんの大盾スキルで守れなかった生徒達も、姫のプレッシャーから解放されている。
『こ……これは……聖級結界か?
聖級結界は、始まりの魔女とゴトウ族しか使えない筈じゃあ……
というか、サリス魔法国家では、聖級結界は普通なのか?
そういえば、聖級移転も、先程目撃したばかりだし……』
姫は、俺の動揺を感じとってか、殺気を発するのを止めたようだ。
そして、
パリン!!
『聖級結界』を、愛刀である草薙剣で、切ってみせた。
「エッ! 私の『聖級結界』を、斬っちゃうの!?」
ドジっ子先生が、今更、姫に驚いている。
どれだけ天然なのだ……
「当然なのです!
『聖級結界』は、マスターが、始まりの魔女様から授けられたスキルなのです!
それを破るくらい、マスターの奴隷である私には、簡単な事なのです!」
と、姫は、エッヘンと、胸を張る。
俺の奴隷とか、いちいち言わなくても良いのに……
「ちょっとビックリしましたが、『聖級結界』を斬る事ができる実力がある貴方が言うなら、信じるしかないでしょう!
それから、私の名前は、シズカです!
『この女』じゃないですからね!
シズカ先生と呼んで下さい!」
どうやら、瓶底メガネのシズカ先生は、姫に、『この女』と言われた事を、相当 気にしていたようである。
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